表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/43

もう婚約しています(終) ※父上目線



 パタパタと、廊下を駆ける音がする。



 私、ことマルコム=マクマホン侯爵は、その軽快な音を聞きながら、新聞を読んでいた。



「おじさまーーー!」



 足音の主は、ステファニー=スマイル侯爵令嬢。


 スマイル侯爵家の令嬢達は、夏の間だけ、うちのマクマホン侯爵領に遊びに来てくれているのだ。


「なんだい、ステファニー嬢」

「おじさま、あのね! ミッチーを探しているの!」


 10歳になったばかりの彼女は、爛々と目を輝かせながら、うちの不肖の息子を探しているようだ。


「マイケル? うーん、見なかったな」

「ええ〜、絶対こっちの方に来たと思いましたのに」

「そうなのか。なぁミシェル、お前は見たかい?」

「いいえ。こちらには来ていないんじゃないかしら」


 私はそれとなく妻のミシェルに話を振るが、ミシェルはくすくす笑いながら首を振る。


「分かりました、ありがとうございます!」

「元気がいいのね。鬼ごっこの最中?」

「違いますわ! 焼きたてクッキーがあるから、アーンしてあげたくて探していますの!」

「あらあら、じゃあ冷めないうちに見つけないとね」

「はい! では、失礼します」


 綺麗なカーテシーをキメると、ステファニー嬢はまた、年頃に相応の雰囲気に戻ってパタパタと駆けていった。


 コーヒーを飲みながら、私はそっと、新聞を机に置く。


「それで。これで良かったのか?」


 そう、ソファの後ろに向かって言うと、ムッスーと拗ねたような顔をした我が家の長男マイケルが現れた。


「こ、これでいいのです」

「そうなのか? 素直に焼きたてクッキーをアーンして貰えばいいじゃないか」

「いやですよ! そんな子どもみたいな」

「そんなことはないぞ、マイケル。男にとって女性と仲良くすることは、大人になっても非常に大切なことだ」

「ち、父上?」

「なあ、ミシェル」

「そうですわね、あなた。私も後でアーンしてあげますわ」

「ミシェル!」


 慌てる私に、妻は笑うのみだ。完全に掌の上でコロコロされている。


 そんな私たちを見て、マイケルは微妙な顔をしていた。


「あっ! ミッチー、見つけましたわ! ミッチーぃいいいい」

「うわっ、ステファニー!」


 廊下を戻ってきたステファニー嬢は、マイケルを見つけてしまったようだ。

 マイケルの後ろから突撃して、背中に抱きついている。


 マイケルは口では嫌そうにしているが、表情は驚いているだけだし、頬は赤く染まっていて、照れているだけだというのが丸分かりだ。


「は、離れろステフ」

「いやですわ! あのね、ミッチー。わたくし、マクマホン侯爵家のシェフにお願いして、ミッチーのために沢山クッキーを焼きましたの! 一緒に食べましょう!」

「そ、それで今日はしばらく静かだったのか……」

「?」

「べ、別にだな! 気にしてなんかいないぞ。静かで快適だった、なんだ、クッキー作りに夢中だったのか」

「ミッチー」

「久しぶりに本を集中して読めたし、何の問題もないぞ。ふーん、私に飽きた訳じゃなかったのか」

「ミッチー」


 ステファニー嬢がぎゅーっとマイケルの腕を抱き締めると、ようやくマイケルは彼女の方を見た。


「寂しかったんですのね、ミッチー! 大丈夫、今から沢山甘やかしてあげますわ!!」

「え!? いや、そんな訳ないだろう、わた、私は……ッ」

「ツンデレミッチー、可愛いですわぁああああ」


 そしてそのまま不肖のツンデレ息子は、可愛い婚約者に連れていかれてしまった。遠くから、「わ、私は大人だから仲良くしてやる!」「クッキーが食べたいだけだ! ステファニーが作ったからじゃないぞ」「チョ、チョコチップクッキーなのか!? あ、ありがとう……」という声が聞こえる。


「あいつらもう付き合っちゃえよ!!」

「あなた、落ち着いて。もう婚約してますわ」

「……そうだったな」


 ……。


 ……私も妻にアーンしてもらうか。


 そう思い、私はステファニー嬢からおこぼれのクッキーを貰うべく、ソファから立ち上がったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ