3 意気込むわたくし ※ステフ目線
皆様こんばんは、まだまだ熱々キュンキュンな日々を過ごしている新妻ステファニーですわ。
今わたくしは、友人のソルティシアとその婚約者であるクラウス卿と共に、仮面舞踏会の会場に向かう最中ですの。
王都の社交用にミッチーに見せずに新調したドレスを纏い、ミルクティー色の髪に淡い水色の瞳、ぷるんぷるんの潤い桃色ルージュをひいたわたくしは、もはや別人です。完璧な変装ですわ!
「ステファニー、あなた本当に本気なのね」
「いや、女性は装いで印象が変わるとはいえ凄いな。これに加えて、仮面に変声飴だろう? 俺じゃステファニーさんだと判別できないと思う……」
馬車の中で、わたくしの姿を見ては感心したように唸る二人に、わたくしは「ふふふん」と得意げに胸を張ります。
「でも、本当にいいのか? もし見つけてもらえなかったらショックなんじゃないか」
「ステファニー、せめて変声飴を食べるのはやめたら?」
心配そうに見てくる二人に、わたくしは頷きます。
「二人の言うことはよく分かりますわ」
「それなら……」
「でもね、ミッチーが要らないと言いましたの」
むむむ、と眉間に皺を寄せたわたくしに、二人は目を瞬きます。
実はわたくしも心配になって、昨日の夜、ミッチーに尋ねたのです。
****
「ミッチー、わたくし、少しなら手加減してあげてもよろしくてよ?」
「ん? 手加減?」
「ええ。変声飴を食べるのをやめるとか」
「私はどちらでも構わないよ。君の好きにしなさい」
「……そんなに自信がありますの?」
怪訝な顔で首を傾げるわたくしから目を逸らしながら、ミッチーはモゴモゴ何か言ったかと思うと、プイッと顔を背けました。
何故か、後ろから見ても分かるくらい、首から上がどんどん夕焼け色に染まっていきます。
「……ミッチー?」
「いや、その。君も思う存分やらないと気が済まないだろう。うん、そうだ。こんなことはこれきりにしたいし、渾身の力で変装してくれ」
「ミッチー」
「わ、私はそうだな。自信ならあるぞ。……自信というか、なんなら君の変装に騙されたいというか……」
「ミッチー」
「だからな、私だって自分でもその、色々と思うところがある訳で」
むっちゅー! とミッチーの唇を奪うと、ようやくぶつぶつ呟いていたミッチーが止まりました。
その代わり、ミッチーはまたしても陵辱された乙女のような顔で震えています。
なんて美味しそうな獲物なのかしら!?
「ミッチー、目が覚めました?」
「な、なっ、なんっ……」
「ミッチー、どうしてしまいましたの? そんなにプルプルされたら、わたくし、胸キュンと好奇心がノンストップですわ。何を隠していますの?」
そこから、涙目でこちらを見るキュートな夫に、わたくしは散々、追求という名目の愛をたっぷり注いだのですが、ミッチーは頑として口を割りませんでした。
「ミッチー!」
「嫌だ! 絶対に言わない!」
全力で逃げる獲物もとい小悪魔な夫に、わたくしは俄然やる気を得てしまったのです。
****
「わたくし、一切手加減いたしませんわ。そして絶対に、ミッチーがわたくしを見分けている方法を探り当ててみせますの!」
そう言って胸を張るわたくしに、ソルティシアとクラウス卿は顔を見合わせています。
その後二人は、「……そう、頑張ってね」「俺達も色々と楽しみにしてるよ」となんだかニヤけていました。
なんなのかしら、今の話の中にそんなにニヤニヤするところがあったかしら?
変な二人だわ。




