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3 結婚休暇1日目:妻が朝食に来なかった



「おはようございます、若旦那様」

「……おはよう」


 昨日結婚式を挙げた私は、侯爵家を出て、マクマホン侯爵家の別邸に住まいを移した。

 父が侯爵を私に譲った暁には、私とステファニーは本邸で暮らすことになるが、今の私は次期侯爵に過ぎないので、夫婦で別邸住まいなのである。


 そして、この別邸の主人は私だ。

 執事から若旦那様と呼ばれ、若干むず痒い思いをしながら、私は朝食の席に着いた。


 しかし、そこにいるのは執事と侍女侍従達だけで、彼女はいない。


 彼女のことだから、私と違ってしっかり睡眠をとり、朝になったら何事もなかったかのように「ミッチー!」といつもの笑顔で突撃してくるものだと思っていたのだが……。


 蓋を開けてみれば、そこは私一人だけが席に着く、静かな食堂だった。


「……彼女は、まだ?」


 目を泳がせながらも、私はそう尋ねる。


 新婚生活最初の朝に、妻の状況を把握しておらず、侍女達に尋ねる夫……。


 なんとも気まずいその質問に、彼女付きの侍女の一人がおずおずと答える。


「ステファニー様は、お部屋でお食事を取られるそうです」

「……具合でも悪いのか?」

「……………………。はい」


 煮え切らない侍女の様子に、私は胸がモヤモヤするのを感じる。


 なんなんだ彼女は。

 彼女の念願の結婚式を挙げたんだ。その翌日に機嫌を損ねることはないじゃないか。……正確には、初夜からだが。


 私は立ち上がって、彼女の部屋へと向かう。

 そんな私を見て、先程私に彼女の様子を教えたステファニー付きの侍女が、慌てて私を止めようとしてきた。


「お、お待ちください! ステファニー様は、本当にお加減が悪くて、お会いできないと……」

「ならなおさら会いに行かないと。私は夫なのだから」

「……あの、ステファニー様は…………」

「なんだ?」

「自分は本当の妻ではないから、若奥様と呼ばないようにとおっしゃっています……」

「なんだと!?」


 私の叫びに、侍女は驚いて身を固くしてしまう。


「あっ、いや、君は悪くない。急に大声を出してすまない……」

「は、はい」


「――若旦那様」


 刺すようなその鋭い声音に、私は背筋を凍らせる。

 声の主は執事である。


「な、なんだ」

「若旦那様は昨日、若奥様に何をおっしゃったのですか」

「何を、とは」

「その目の下のクマ。寝ていらっしゃらないようですが、若旦那様はいまだ若奥様と、ご夫婦になられておりませんね?」


 はっきり問い詰められて、私はぐっと息を呑む。


 バレているとは思っていたが、こうして聞かれると、なんとも答えづらい。

 新婚早々に喧嘩したなど、私だって恥ずかしいと思っているんだ。こんなはっきり聞かなくてもいいじゃないか。


「若旦那様は女性への対応が誠に不器用ですから、爺やは大変心配です」

「ステファニー様はずっと坊ちゃ……若旦那様をお好きだったのですよ? このタイミングで喧嘩だなんて、若旦那様が何かしでかしたに違いありません!」


 執事だけでなく、メイド長まで私を責めるような目で見てくる。


「……夫婦の仲の問題だ。私一人で話に行ってくる!」


 昨日のことなど、こんなところで相談できるか!


 私は絞り出すようにそう宣言すると、胡乱な顔をした二人と侍女を置いてステファニーの部屋へと向かったのだった。




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