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23 結婚休暇7日目:永遠とも思われる朝食の時間 ※ステフ目線



 朝食の準備が整い、食事が開始されましたが、何を食べても全く味がしません。せっかく大好物のエッグベネディクトなのに、味わうどころか、卵を切るナイフを握る手すら震えてしまいます。



 なにしろ、食事中もずっと、ギンギンに充血した瞳でミッチーが舐めるようにわたくしを見ているのです。



(一体何を見ていますの……そんなに見つめても、何も生まれてきませんわよ……!?)


 若い侍従侍女達が次々に交替しては脱落していく中、心の平穏を保とうとするわたくしに、神は無惨にも新たなる試練を与えてきました。


「あ、あさ、朝日っ、の中で見るステファニーはこんなにもっ、美しかったんだな……ッ」

「ゲホッゴホゴホォオッ!?」

「大丈夫かステファニー!?」


 急に! 食事中に!! 何を言い出すんですのおぉおお!!!!


 ミッチーの斜め上からの不意打ちに、わたくしは口に入れたマフィンを喉に詰まらせてしまいます。

 慌ててミッチーから差し出された水を飲み、喉元を落ち着けました。


「すまない、ステフ。君を見ていると自然と賛辞が思い浮かんでしまうのだが、君が口に物を入れている時は控えよう……」

「そ、それがよろしいと思いますわ」

「うん……。私の愛が君を傷つけるなんてあってはならないことだからな」

「ゲホゲホゲホ」

「ステファニイィイー!?」


 今度は水でむせたわたくしの背を、ミッチーが撫でてくれます。

 わたくしは最後の頼みの綱、老執事の方に『メーデー! メーデー!』と必死の救難信号を送りましたが、老執事は涼しい顔をしてわたくしのグラスに追加の水を注いでいました。ひ、酷いわ!


 永遠のように思われた朝食が終わり、食後のコーヒーが運ばれてきました。


 わたくしは、コーヒーを吹き出さないように、ミッチーの様子に細心の注意を払いながらコーヒーを飲みます。


「ス、ステフ。今日は用事はあるのか」

「い、いえ。その、結婚休暇中ですし」

「そうか。そうだな。そうだよな」


 結婚休暇中なので、夫との用事以外、何も予定がございません……。


「では、後でその、久しぶりにカフェルームで話でもしよう」

「わ、わ、分かりました、わ」

「そ、そうか、分かってくれたか」

「は、はい……」


 あまりにぎこちない会話に、きっと室内にいる全員が『この空気をなんとかして!』と思っていたに違いありませんわ。


「ス、ス、ステファニー」

「はいッ!?」


 しまった、考え事をしていて、背後にミッチーが立っていたことに気が付きませんでしたわ!?

 一体何をするつもりですの、何をされてしまうんですの!?


 震えるわたくしの背後から、大きな体で覆いかぶさるようにしてミッチーはわたくしの前方に手を伸ばします。


「ミッ……」


 思わず目をつぶりましたが、ミッチーは意外なことに、わたくしに触れてきませんでした。

 こくりと耳元で音がして、わたくしはミッチーを振り仰ぎます。


「……?」


 よくよく見ると、ミッチーはわたくしが飲みかけだったコーヒーのカップを手に持っていました。

 どうやら、わたくしの飲んでいたコーヒーを飲み干してしまったようです。


「……?? あの、それはわたくしの……」

「わ、分かっている。その、だな、ステファニー」

「はい」


 一体どうしたというのです。


「かッ……間接キス、だな……ッ?」


 ミッチぃいいいー!!???


 赤い顔をして震えているミッチーは、思わずずれたメガネをくいっと直すと、慌てたように食堂を立ち去っていきました。

 口をハクハクさせているわたくしは、食堂に取り残されたままです。


 一体、今日は何が起こったのでしょうか。


 もう一度侍従侍女達の方をギュンッと振り返りましたが、数を少なくした彼らは、やはりブンブンと顔を横に振っていました。




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