ヤツは四天王の中で最弱と彼らは言いたかった
勇者の手によって魔王ベル討伐の檄文が発せられた。
多くの者は従わなかったが、「もしかして」という淡い期待もあるのだろう。多くの物資や人が勇者の周りに集まってきた。
従わないのは、キョーの都を追われた住民、そして当主を自害に追いやられたサツマ伯爵家、同じく死傷者を出したロングステート公爵家、キョーの都を焼いたことを糾弾する国王派の領民である。
その対比はおよそ4:1程度。いまだ勇者が劣勢である。
しかし、魔王ベルを倒せばその割合は簡単にひっくり変えるだろう、というのが勇者側の試算であった。キョーの都を燃やしたのも、本当は魔王ベルのせいだった、などと適当なことを言えばよい。
勝てば官軍なのである。
刻一刻と決戦の時が迫る中、魔王ベルの居城たる魔王城――灰かぶり殿ではその対策会議が開かれていた。
「ほんとにムカつく! ハンスのヤツ! あんなに勇者を強くしてしまうだなんて! あとで絶対にお仕置きしてやるんだからぁ」
魔王を中心としたその会議には、なぜかブラックロータスの姿がある。
それ以外はいつもの四天王の面々だ。
「えーっと……。彼女は一体……」
馬の娘のような被り物を被り、カモシカのような足を持つ、四天王の一人、馬鹿野郎は、その場違いな人間の少女の存在に訝しむ。
ピンク色のドレスは美しく、魔王ベルに匹敵する美貌の美少女ではあったが、しかし、ただのニンゲンの小娘にしか見えない。
魔王ベルの趣味で貴族の学園から攫ってきたとかであれば、それはそれで魔王らしい行動なので歓迎しよう。などと考えていたが、どうやら魔王ベルによるとそれは違うらしい。
「えーっと。いままで四天王の最後の一人は不在だったでしょう? 彼女をその一人に当てようと思うのよ。どうかしら? 名前は――」
「ブラックロータスです! よろしくお願いします!」
どうかしらも何もなく、魔王ベルがそう言ったのであればそれは四天王たちにとってそれは決定事項であった。
(おぉぉーー。それはつまり――)
「うおぉー。これでついに! ついに、我々はあのセリフが言えるようになったというわけですね!」
説明しよう。
あのセリフとは――
『ヤツは四天王の中でも最弱』のことである。
それは魔族たちにとって、四天王になった暁には言ってみたいセリフのナンバーワンであった。
四天王のうちの一柱、ミドルエッグは実際に言ってみた。
「やつは四天王の中でも最悪!」
その横で恐れを知らぬ黒きネズミの魔人、三つ鬼鼠は、感極まって涙を流して喜んでいる。
ついに、このセリフを僕らは言えるのだと。
その涙は頬を伝わり落ちるほどである。
その姿にブラックロータスはドン引きしていた。
逆に冷静になれたと思えばプラスであったとも言えよう。
「大丈夫なのかしら――、この四天王――」
それは、ブラックロータスの素直な感想であった。
「なに? 魔改造でもされたいの?」
魔王ベルはにこやかに笑ったが、ブラックロータスは可及的速やかに断りを入れた。
「いやいや、それは結構です」
闇堕ちエンドは辞めて欲しかった。
もしかしたら魔王ベルの手により、大阪万博の「いのちの輝き」みたいになってしまうかもしれない。
「まずはそうねぇ。恰好から! 黒ちゃんは可愛いからパピヨンの衣装とかどう? 紫のレオタードに蝶の仮面! 素敵よッ。武装はもちろん最高品質のムチを用意してあげるわ!」
「そんな児童虐待・性的搾取対象物のような恰好はやめてください!」
元が乙女ゲームのメインヒロインなのだから、何を着せても可愛くはなるのだろうが、さすがにそような女児を性的対象物のとして描くような姿はあんまりであろう。
「えーっと。それで――、ブラックロータスはどのような実力を持っているので?」
四天王の一人、ミドルエッグは尋ねる。
「え?!」
「えぇ??」
「「え?!」」
静かな一瞬の間の後、魔王ベルは答えた。
「ほ、ほら! 彼女は異世界転生者だから、きっとほら何か使えるのよ。きっと!」
「えーっと、もしかして異世界転生者というだけで、ノリで四天王にしたとかじゃないですよね! ないですよね! 魔王さま!」
疑いの目を四天王たちはブラックロータスに向けている。
「はははーー。そんなわけないじゃないですかー。ほら黒ちゃん! 何か言って!」
ブラックロータスは魔王ベルに振られてしまった。
いわゆる無茶ぶりである。
(いや、何も持っていないのだけれど――)
だが、ここで何かを言わないとせっかくの生活が全てなくなってしまうだろう。
なんといっても、西鳩オフラインは基本死にゲーである。
現実の世界になってからは尚のこと、何はなくとも死ぬ可能性はあるのだ。
「えーっと、ステータスオープン! えーっと、虹スキルとしてはOBSというのが使えますね」
ブラックロータスは自身のステータスウィンドウを開き、もっとも上にあるスキルの名前を告げた。
そんな、何気ない動作を見て、四天王の面々は戦慄する。
(ひそひそ)おぃおぃ。いまステータス・オープンとか言ったぞ。
(ひそひそ)まさか! ウィンドウシステムにアクセスができるとは!
(ひそひそ)ウィンドウシステム! 魔王さまか勇者しかできない所業のはずだぞ。
(ひそひそ)さすがは異世界転生者。キミが欲しい。彼女は馬は好きだろうか?
謎の会話が繰り広げる中、ブラックロータスはそのOBSというスキル名をじっと眺めていた。
すると、さらに詳細のウィンドウが出てきたではないか。
これはもしかすると使い方も分かるかもしれない。
(ふむふむ、なるほど――。背景を変更することができるか――)
「えーっとですね。それによると自身の周囲を(まるで激辛の焼きそばを食べたかのように)炎に包ませたり、(まるでNiceなボートが横切るような)湖を召喚できたり出来るみたいですね」
「「おぉぉぉー。すごい! 異世界転生者凄すぎる!」」
ブラックロータスのその力は、なんと邪神アマト―をその封印から解き放った時に見られるような強大な力であった。周囲の事象を書き換える程度の能力である。
そのことを知り、その恐るべき魔力に四天王たちは思わず震えあがる。
「それから、あひるさんとか、にんじんさんとかいったオブジェクトを召喚できるみたい」
「「おぉぉ、素敵な素材が生きているぅぅ!」」
あぁ。異世界の食材を使えばどんな素敵な晩御飯が作れることだろうか。
そのことを知り、その恐るべき魔力に四天王たちは思わず舌なめずりをしてしまう。
そして、異世界といえば、うどんか? うどんなのか?
そんな興奮する四天王と比べ、魔王ベルは冷静であった。
「――だが、それだと勇者を倒すまでにはいかないなぁ……」
「「それは確かに…」」
たしかに、あひるさんで勇者を倒すことは難しいだろう。
他にもロケットランチャーやら、エクスカリバーといったオブジェクトを召喚することは可能であるが、それらの重さはまるで存在していないかのように軽く、ブラックロータスとしても勇者にダメージを与えられるとはとても思えない。
「と、ともかく――、初陣はブラックロータスにやってもらいましょう。使い方によっては勇者を倒すことも簡単にできるかもしれない。なぜなら彼女は異世界転生者なのだから――」
期待半分で三つ鬼鼠は言う。
そして初陣でブラックロータスが倒れたとするだろう。
そう、彼はあの言葉を倒れた後に言いたいだけだった。
「ヤツは四天王の中で最弱」と――
(えーっと、これ、どうすれば良いのよ――)
ブラックロータスは頭を抱えた。




