禁門の変②
大規模魔法によって、その禁門の入り口は簡単に砕かれた。
破壊したのは勇者である。
意気揚々と現れた勇者に対して顔をしかめたのは国王だ。
「やはり、やはり来てしまったか――」
「さぁ寄こしてもらおうか――。我が魔法陣を――」
勇者は勇者召喚陣のことをすっかり自分のモノだと思い込んでいる。
「さて、それはできるかな――」
俺ことハンスは国王の隣で水晶球を右手に掲げて、勇者に見せつけた。
「お前はハンスか! いつもいつも俺の邪魔ばかりしやがって――」
いやぁ、勇者が勇者パーティから俺を追放しなければこんなことにならなかったんだがねぇ――
追放されなければラララとも出会わなかったか。
そういう意味では勇者さまさまだがな。
「はいはーぃ! いつも勇者の邪魔をするハンスですよー。ということはこの水晶球、どうすると思う?」
「お、お前――、まさか! やめろぉぉぉ!」
俺は目いっぱいの力で水晶球を地面にたたきつける。
そう、俺は水晶球を思い切り叩き割ったのだ。
(ふふふ。勇者召喚魔法陣など、この水晶球の錆にしてくれるわー)
ちなみに、金属ではないので水晶球に錆などできない。
「お、おまぇぇぇ!!!! なんてことをぉぉぉぉ」
「ははははは。俺だって言いたいんだよ。勇者ざまぁ、ってなぁぁぁ――」
するとどうだろう。叩き割った水晶球を中心として勇者召喚用の魔法陣が崩壊し始めたではないか――
その崩壊し始めた魔法陣の光は、その近くにいた勇者の近くに集まっていく――
「おぉ……。力がぁぁぁ、勇者の力が集まってくる――」
その光はどんどんと強くなっていった。
その様子を呆然と国王は眺めている。
「国王! 逃げるぞ!」
俺は国王に声を掛ける。
それでも国王は動かない。
「ジロー! ずらかるぞ!」
「あ、あぁ……」
俺は本作で初めて国王の名を呼んだ。
さすがにこの場にこのままいるのはまずいと気づいたようだ。
ここは地下である。
その地下にある魔法陣が轟音を立てて崩壊し始めている。
壁に亀裂が入り、そこから水が侵入しているのだ。
早く逃げないと溺死するかもしれない。
サウスフィールドの崩壊は、音を立てて始まっていた――
◆ ◆ ◆ ◆
勇者は、その力に酔いしれていた。
自分のウィンドウを見るといままでLv20だったレベルが、Lv80まで上がっているではないか。
それは前人未踏のレベルの高さであると、勇者本人は疑わなかった(※最高レベルは120です)
(これだけのレベルがあればもはや異世界の勇者など関係ない! 俺が! 俺自身が! 魔王ベルを倒すことができる! そうなれば攘夷派として俺がこのサウスフィールド王国を制覇できたも同然だ!)
対勇者側の魔王に与する国王を始めとする面々は、魔王ベルという存在が現れたことによって、サウスフィールド王国を開国する方向へと進ませたのだ。
――であるならば、魔王ベルを倒すことができれば?
それらの意見を覆し、勇者が再び復権することも可能である。少なくとも勇者はそう考えていた。
もし、倒すことができればであるが――
(よし、まずは学園に行って……)
魔王ベルを血祭にあげよう、そう考えていた矢先のことである。
「申し上げます! 魔王ベルを乗せた飛空艦が貴族の学園を飛び出し、魔王領の方向へ向かったとのこと」
味方からの報告をうけ、ともかく禁門から出た勇者は確かにその姿を確認することができた。
駆逐級飛空艦、奇城 茨魏魏ヶ島は東の空に浮かび、さらに高速で移動していた。おそらく自領に帰るのだろう。
「あははははーー! 逃げたぞ! この勇者である俺に恐れをなして魔王ベルが! 魔王ベルが逃げた!!」
勇者は確信した。
(これならば本拠地に向かえば確実に倒せるに違いない!)
こうして世界は、急速に動き始めるのである。
だが、しかし彼は知らない。
勇者に力を与えたことが、ハンスによる意図的なものであったことなどは――




