悪党たちの挽歌
「おのれ――、ロングステートの小娘がぁぁ――」
農商ギルドの長は怒りに震えていた。
農商ギルドの息子はロングステートの策によって死んだのである。
いや、殺されたのだ。
原因は電気柵であった。
ティアラの異世界の知識によって作られた電気柵によって、7人が重軽傷、2人が死亡した。
ロングステート公爵家の農舎に、電気柵は農作物を守るように設置されていたのだ。
そう、農商ギルドの面々はロングステート公爵家の畑に対する農薬散布によるメロンを腐らせるだけに飽き足らず、さらなるダメージを与えるためにその農舎を襲撃したのだ。卑怯にもほどがあった。
農商ギルドの長の息子は、その襲撃による愉悦をさらに楽しむために、襲撃者の長として乗り出している。
構図としては、現場にしゃしゃり出てきて現場を荒らすだけ荒らす、よくいる無能な上司と同じだ。
農商ギルドの長としては、そんな汚れ仕事をすることは下々のすることだとも思っていたが、これも経験だと思ってGoサインを出した。出してしまったのだ。
だがあんな結果になるとは――
襲撃側のパーティがいかにこの世界の《罠感知》のスキルを持っていようと、異世界の電気柵の感知はさすがに難しい。魔石から電気を得る部分の個所は検知できようが、その魔石が隠され、魔石から延びる電線だけが見えている状態では科学の知識に乏しい彼らにその発見を試みるのは酷というものだろう。それこそ電気工事士が施工するレベルの知識と技術力が必要だ。ランプレセクタプルとかすげーめんどくさい。
そして案の定、その鉄線を斬ろうとして、彼らは感電した。
本来であれば安全な電気柵は、鳥虫獣害を外部から守るために畑の周囲に設置されるもである。しかし、この世界には電気安全法なるものは存在していないため電気柵は非常に危険な存在だ。恐るべきことに、なんと魔石にはPSEマークすらついていない。それだけで、いかに危険であるかわかることだろう。日本ではとても信じられないような考えられない所業である。日本であれば一発で新聞に載ってしまうことだろう。
しかしここは異世界である。ティアラによって440Vに昇圧された電気柵は、その威力を十分に発揮した。
そのことに怒り狂った農商ギルドの長であるが、しかし、直接ロングステート公爵家に文句を言うことはできなった。
なぜなら、彼らはロングステート公爵家であり、死んだ人間が農商ギルドの人間であることが知られて困るのは、農商ギルド側だったからだ。メロンの襲撃事件も合わせ責任を押し付けられ、逆に多額の賠償金を支払う羽目になるとも限らない。
そして、農商ギルドは窮地にも立っていた。
農業ギルドでは、新たなる流通により大きな打撃を受けることが予想されていたのだ。
そう、かのロングステート公爵家と魔王ベルとの商取引である。
魔王ベル側の生米、そしてロングステート家からの生麦、そして生卵の交換取引が代々的に報じられ貴族間では話題になっている。
交換比率は圧倒的に生米の方が多い。魔族は魔王ベルによって生米を大量に作育しているため、十分な余剰があり大量に放出しても困ることがない。
そんな余剰分の食糧が大量に国内に流通すればどうなるか?
また麦の消費が米に置き換わる代替効果により消費量が下がり、品物がだぶつくことにより麦の価値は低下して、その流通をしている農商ギルドには大きな打撃が与えられることになる。
魔王ベルは自身の城である灰かぶり殿の周囲にさらなる稲作の拡張をしており、来年以降はさらなる増産が可能だという。
ロングステート公爵家配下の農家は魔王ベルに農作物を売るので困らないだろう。
しかし、そんなことになったらロングステート公爵家に敵対する農商ギルドは一体どうなってしまうのか?
魔王ベルとの交渉はロングステート公爵家のティアラ嬢が一手に仕切っており、今まで数々の妨害工作をロングステート公爵家してきたことから、その流通には噛ませて貰えない。
――であるならばどうするか?
そう、魔王との通商を壊せばいい。そうすれば農商ギルドは安泰だ。
農商ギルドにおいては国民がどうなろうと知ったことでなく、ただ農商ギルド組織が繁栄すれば良いのだ。
だが前回と同じ轍を踏むわけにはいかない。
農作物自体には電気柵などといった未知のテクノロジーで対策が取られている。他にどのような手が打たれているか分かったものではない。
そこで白羽の矢が立ったのは勇者であった。
今回の魔王との同盟は、魔王が下に付いたとはいえ反対する貴族の面々もいた。いわゆる攘夷派である。
サウスフィールド王国はこれまで魔族領に隣接する国家である。これまで魔物とのいざこざが多かったのに急に仲良くなれといっても無理な話であろう。
そこで農商ギルドにおいてはそういった攘夷派貴族たちをまとめ、勇者を支援し、軍隊と呼べる程度の人を用意したのである。
もはや反乱と思われても仕方がない行為だ。
だが農商ギルドとしては、存亡の危機に立たされていたのだ。なりふり構ってはいられない。
勇者であればどのような罠があろうとも、生麦生米生卵の全てを焼き尽くすことだろう。
その勇者はそういった支援を受け、サウスフィールド王国の裏の世界でひっそりとその翼を広げていた――
◆ ◆ ◆
魔王ベルにこのままでは絶対に勝てない――
勇者にとって、それは歯を噛みしかない事実である。
過去においては、魔物や魔族が多くの人を殺し、人々は勇者に対し祈りを捧げ、そして死んだ人間の魂が勇者に力を与え、魔王を討つ――。そんなサイクルが出来ていた。
だが、今回魔王は人々を大量に殺してはいない。
むしろ人を助ける側に回っている。
なんだあの「ともだち作戦」とか。バカバカしい。
そこで勇者は思った。
実力が劣っているのであれば新たな「強者」を召喚すれば良いだけだ。
考えられることは一つ。
魔族領などで魔物を大量に狩り、そして自身のレベルを上げることだ。
そうすれば勇者自身が「強者」となり、すべてを捻じ伏せることができるだろう。
だが、勇者は考えた。そんなことは効率が悪いのではないか?
もっと効率の良い方法があるのではと。
勇者は知っている。自分のような現地のまがい物勇者ではなく、異世界から真なる勇者を召喚する≪勇者召喚の儀式≫を――
それを知っているのは彼はかつて勇者を召喚したサウスフィールド王国の第一王子であるからだ。王族の一員であるからには、勇者召喚の術式を教えられていた。
だが、それがいかに困難であるかということも知っている。
勇者の召喚には大量のニンゲンの魂が必要なのだ。
そこで話は戻る。
本来であれば魔王が大量の人を殺し、勇者を召喚するだけの要員を満たしていた。
だから魔王は人を殺さず、間接的に異世界の勇者の召喚を阻んでいたのではないかと。
だから、効率よく異世界の真の勇者を召喚するには――、現地の勇者自体がその先導をすれば良いのではないかと――
第二王子を殺し、国王には動座して頂いき、自分より強い勇者を召喚すれば全てが解決するのだろうと――
こうして勇者は暗い破滅への道へと歩みだすのであった。
電気柵はPSEマークの付いたものを使いましょう。PSEマークが付いていない電気柵は危険です。




