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各国の状況――



 魔王ベル、サウスフィールド王国の軍門に下る――



 その方は人類各国に向けて広く伝わった。

 魔王ベルという大物の魔族の前に各国の反応はさまざまだ。


 魔王ベルは人類の敵であり、地元の勇者の、そして異世界の勇者であってさえも手を焼く存在である。


 そのような魔族が、一介の国であるサウスフィールド王国にそう簡単に下るものだろうか?

 各国の多くがその報告に懐疑的であった。

 そのため、その反応はどうしても無視が多くなる。


 しかし、そうも言ってはいられれない国がある。

 それはサウスフィールド王国の周辺国である。

 サウスフィールドの周辺国には、北に聖ピーチ魔王国、西にアメジスト王国がある。

 ちなみに、南は海で東は魔族領だ。


 市民の間では影響もないため大きな反応はないが、首脳陣においては大騒ぎの状況となっていた。






◆◆◆聖ピーチ魔王国の場合:



 聖ピーチ魔王国の姫であり、聖女として国を取り仕切るピーチ姫は子飼いである魔王リナからの情報を受け取りながら、宰相たちと会談を続けていた。


「ふむ。魔王ベルがサウスフィールドに下ったか……」


「予想通りの展開ですね。ピーチ姫さま」


「となれば、こちらもそうそうに下った方が良いのか?」


「そうですな、折を見て同様に考える必要があるかもしれませんなぁ――」


 魔王ベルの報道は主国であるパラチオン王国にも届いており、そろそろ看過できない状態となっている。それは主に締め付けの強化として現れていた。例えば魔王リナや聖女ピーチを寄こせといった人質を取るような内容や、ゴブリンを擬人化して美少女化するための方法を寄こせといった内容である。

 魔王リナのような暴力発生装置を渡せばパラチオンから一瞬で蹂躙されるだろうし、聖女を渡せば国の運営が成り立たない、そして、ゴブリンの擬人化方法など渡したらパラチオン王国がゴブリンの美少女だらけになって国がめちゃくちゃになることは明らかだ。

 そうして、主国の要求を突っぱねれば突っぱねるほど、その関係は冷ややかなものとなっていく。

 特に要求もせずに貿易を続けるだけでその利益は計り知れないというのに、パラチオン王国は欲を欠きすぎたのだ。


 魔王リナがサウスフィールドに入っているのも、その下準備という側面もあった。

 また、魔王リナがサウスフィールドに入れているのはパラチオン王国の目をサウスフィールド側に向けるという目もある。


 その理由は――


「それで暗部。魔族領の侵攻の方はどうなっている?」ピーチ姫は尋ねた。


「はっ。いまのところ魔王ベルから借り受けた軍勢1,2000オージスと共に順調です。魔族領内の魔王ベルの支配地域とはすでに隣接。現在は《色欲之魔王たる》魔王エディプスの領域を侵攻しているところであります」


 その理由は、聖ピーチ魔王国が自身の冒険者たちや、魔王ベルの軍勢を使って魔族領に大侵攻を掛けていることを悟られないようにするためである。

 従来からも魔族領には侵攻していたが、今回の侵攻はほぼ全力を掛けた大きなものとなっていた。この侵攻が明るみになるとパラチオン王国からの戦利品等の分け前を寄こせといった要求はさらに高くなることだろう。それを避けるためだ。


 なぜこの時期に大侵攻をしているのか?

 《暴食之魔王たる》魔王ベルがサウスフィールドの軍門に下るのと大きな関係がある。


「それで? あとどのくらいで全ての魔王リナをのぞいた魔王がサウスフィールドの元に集まると予想できる?」


「おそらくは――、3年後くらいかと――」


 この予想は宰相のものだ。

 魔王ラララが貴族の学園を卒業することを見計らって、ということだろう。

 だが、魔王ベルが暗躍し始めたことを考えると、それがどれくらい前倒しになるかは不明だ。


 全ての魔王がサウスフィールドに終結した場合、おそらく魔王間でも停戦協定が組まれることだろう。そうすればこれ以上魔族領を切り取ることができなくなる。


 逆に言えば、停戦協定が組まれた後は侵略される恐れもなくなるのだ。

 それであるならば少しの危険を冒してでも今のうちに領土を広げるしかないだろう。


「それがいつになるか――。魔王ベルには魔王との間でうまく諜報して欲しいものだが……」


(中身が擬人化したゴブリンだからなぁ……)


 どうにも人選を間違えたような気がしないでもない、ピーチ姫であった。




◆◆◆アメジスト王国の場合:



 南方にあるサウスフィールド王国が、ラララ魔伯国と命名した大陸について調査に行ったアメジスト海軍であったが、返ってきたときにはその艦船はボロボロの様相を呈しており、とても国の船とは言えないものであった。

 そして、船員からの事情をアメジスト国内の人間が聴取したあと、なぜか彼らは食中辱で全員死亡してしまう。

 聴取に関わった下っ端の人間も合わせての食中毒であり、まさに大惨事であった。


「くっ。なんということだ。アメジストが誇る海軍の面々が、よりにもよって食中毒で全滅してしまうだなんてぇぇ――」


「(うわぁ。しらじらしいな……)国王陛下におかれましては、今回の損失――、お悔み申し上げます」


 これらの事象は醜聞が悪いものであるため緘口令が敷かれ、外に漏れることなく世間から闇に葬り去られた。

 遺体には戦闘したような刀傷などもあったが、とにかくアメジスト王国が公式に発表した死因は食中毒である。絶対に何か不都合がことがあった訳ではない。


 そんな海軍のどうでも良い話はともかく、アメジスト王国の間でもサウスフィールド王国のあの話題は持ち切りであった。


 アメジスト王国の首脳陣が集まる会議室の中、口火を切ったのは宰相である。


「しかし、《暴食之魔王たる》魔王ベルか。強烈な人材がサウスフィールド王国に来ましたな」


 アメジスト国王が宰相に尋ねる。


「一体何がサウスフィールド王国に起きたのだ? 魔王ベルなんて、魔王の中でも最強の一角ではないか」


「ラララ魔伯国の件、勇者の追放の件、すべて連動していると考えるのが普通でしょうな」


「魔王を配下に収める理由は――、やはり世界征服か?」


「サウスフィールド王国の国王は自身の息子が勇者だったことに劣等感を持ち、ずいぶんと野心家だと聞きます。あるいはそうかもしれませぬ」


「では我が国は危ないのでは?」


「一応はまだ友好国ですからな。今は問題ないでしょう。しかし今後は――」


「敵対か、友好か、か……」


 しかし、魔王ベルとサウスフィールド王国の連合に対して、アメジスト王国だけで一体何ができるというのだろうか?


「うーむ。まずは敵対の方向としては人類側主要国と水面下で話し合うとかか?」


「まずはパイプ作りから進めるべきかと。お金は掛かりますが……」


「友好の方向とすれば現状も続いているロングステート公爵家との交易か。魔王との取引とも考えれば今後は不足する魔石の取引の増大が可能だな――」


 魔石は、この世界では石油に変わる必須のアイテムのうちの一つである。

 暖房や冷房、さらには光源、水道、水洗などに利用される。

 特に海運の推進力としては必須となる。

 魔石はそれなりに長持ちはするが、汎用性が高いため常に不足しがちであった。

 そのため希少であり、冒険者たちが必死に集めるもの頷ける。


「しかし、サウスフィールドの国王はロングステート公爵を指名して魔王ベルとの交易をさせるようにさせたのはなぜだ?」


 魔王ベルがサウスフィールドの軍門に下るにあたり、国王はロングステート公爵家を中心に交易をするように指示を出している。

 その他、サツマ伯爵家に王都警備を強化させるなど、様々な施策を今回の魔王ベルを支配するにあたり打っているようだ。

 ロングステートは以前からも魔族との闇取引があるとの噂があり妥当とも言えるが、交易というのであればもっと魔族領に近いアインズ伯爵家にでもさせた方が良いはずである。この点がアメジスト国王としては不明であった。


「アインズ伯爵家は勇者を排出した家ですから嫌ったのでは?」


 アインズ伯爵家の当主は現在の国王の第二王妃であった。

 その程度の基本知識は、アメジスト王国の首脳陣であれば持っている。

 ロングステート公爵家の令嬢が第二王子が婚約していることも同様だ。


「なるほど。大きくなったところを外戚として取り込むためか。うまくいけばそのまま結婚させて。考えたな――」


「本当に魔王ベルとの交易がうまく行くのであれば王家でも直接取引を始めることでしょう。その露払いの意味もあるかと。王家がいきなり取引をして失敗でもしたら後がないですから」


「逆にうまくいかないパターンの時は勇者を台頭させ、ロングステート公爵家はスケープゴートにするつもりか。ならば――」


 そこで、宰相はにやりと笑った。


「勇者をおだてて木に登らせれば、サウスフィールドをめちゃくちゃにできるな……」


 ちなみに「豚もおだてりゃ木に登る」とはアインズ伯爵領の有名なことわざである。


「なるほど。どちらの勢力も半々くらいに持って行き、争わせ、最後にアメジストが漁夫(ぎょふ)ると。これならば我が国のつけ入る先もあろうというものか」


「表ではロングステート公爵家経由で魔族領の産物を取引し、裏では勇者を支援して対立関係を引き起こす――。アメジスト王国の方策としてはこのようなものがよろしいかと」


「うむ。宰相の言いたいことは良くわかった。どちらの陣営にも友好的に接し、善良な友好国として、感謝される存在になろうではないか」


「それが良いのではないかと」


「うむ。ならば腹黒い国王はいまここに死んだ! 清らかな国王! 友好的な治世! 清楚な国家を我々は目指すことにしよう」


「あぁ、サウスフィールド内の対立の花火が激しいものになると良いですなぁ……」


 こうして、アメジスト王国からは開国派と攘夷派の両陣営に対し、さまざまな『友好的』アプローチが始まるのであった。


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