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王様vs魔王ベル

 サウスフィールドの御所では東からやってきたヘリ―の来航――空を飛ぶ駆逐艦を巡って激論が交わされていた。

 暗部からの情報では、あの空を飛ぶ船のことを駆逐級飛空艦、奇城 茨魏魏ヶ島(いばらぎおにがしまというらしい。

 なんと恐ろしきことにそれは、《暴食之魔王たる》魔王ベルが保有するクロフネであり、天地を揺るがす強大な力を持つという。

 その証拠に地元の勇者が火炎弾で追い払おうとしたものの、反撃された何倍もの青い稲妻により勇者は責め立てられ、鎧袖一触で周囲の家々が炎に包まれてしまったという。


 そんなクロフネから強大な魔力を放ちながら、空を飛び、サウスフィールドの御所に向かう人影があった。

 いや、正確には人影ではない。魔族影といった方がより正確だろうか?


 紫色のドレスを身に纏うその姿は冷酷で美しい。

 その名前を《暴食之魔王たる》魔王ベルという。


「あぁ、おそろしや……」


 その現れた魔王ベルは、御所の中心である王座の間の入り口に舞い降りた。

 キョ―都の人々が語る中、サウスフィールドの御所では王国騎士団の騎士たちが魔王ベルは遠巻きにその姿を見守る。

 その強い魔力によって、王国騎士団の高レベル者であっても魔王ベルには近づくことすらできないでいるのだ。

 王国騎士団のレベルは40を超えるほどであるにも関わらず、魔王ベルははるかにその上をいくようであった。


 舞い降りた魔王ベルは騎士団を一瞥するとつかつかと御所の中を進む。

 その道を妨げるものは、いない。


 その場は王座の間である。

 その先にあるのは王座であり、その王座に座るのはサウスフィールド国王であった。


「よく来たな! 《暴食之魔王たる》魔王ベル!」


 サウスフィールド国王は立ち上がり、両手を広げ魔王ベルの到来を歓喜の表情で迎え入れた。

 対する魔王ベルは王座に続く赤い絨毯の真ん中に立ち、自身の名を告げた。


「ふふ――。よく聞け。我が名は《暴食之魔王たる》魔王ベルである!」


 その声は涼やかなものであったが、しかし威圧を含んでおり騎士団たちはそれに圧倒されていた。

 だが、国王はそれに怯むことなく、こう言い切ったのだ。


「ふふ。よく来たな! そして我がものとなれ! 《暴食之魔王たる》魔王ベル!」


 国王の発言に不穏なものを感じた騎士団長は思わず静止に入ったが国王は止まらない


「貴様――、何様だ!」


「ふふふ。ここに座っていることから分からぬのか! 我こそは――、王様だ!」


 サウスフィールドの国王は――確かに王様だった。

 高らかなその宣言に対し、魔王ベルはジト目であった。


「うむ。貴様が王様だということは認めよう」


「では我がものとなれ! 《暴食之魔王たる》魔王ベル! そうすれば我が国領土の半分をくれてやろう!」


 それは、魔王が勇者に言いたいNo.1のセリフのもじりであった。

 そのセリフに魔王ベルは感動してしまう。――ふりをした。


「す、素晴らしいです!」


 魔王ベルはうなずく。


 だが、騎士団長はその了承言葉に絶望の声のように響いた。


(そのセリフは確かに魔王には効くかもしれないが、一体サウスフィールドのどこにそんな土地があるというのだ――)


 サウスフィールドの領地は人が支配しており、魔王に分割できるような土地は存在しない。

 なのに一体どうやって――


 このままではサウスフィールド王国内で領地を巡り、大きな争いとなってしまうだろう。


 いくら魔王からのクロフネによる威圧があったとはいえ、国王は狂ったのか――





 ◆   ◆   ◆





「――であれば私にも爵位は当然にいただけれるのかしら?」


「では――、魔王ベルにはライス魔国防伯爵をくれてやろう。ところで交流はどうする?」


「まずはロングステート公爵家とやろうと考えておりますが――」


「ふむ。あそこはサウスフィールド国内では最も西だから軋轢も少ないか――、よいではないか。よいではないか――」


 驚愕に震える騎士団長の横で、国王と魔王ベルとの会話が淡々と進んでいる。

 致命的に進んでしまっている。


 騎士団長はこのまま話が進んでしまえば無し崩し的に魔族との開国が進んでしまうと考え、強引にその会話に割り込みを図った。


「お、お待ちください! 国王さま!」


「なんだ? 騎士団長は突然――。そうか、次のLvになるための経験値でも知りたいのか? 騎士団長が次のレベルになるために必要な経験値は――」


「違います!」


 騎士団長は叫んだ。

 なぜこんな大事なときに国王はネタに走るのかと訝しむ。


「なんだ違うのか。儂はこれがしたい一心で王族は《鑑定》スキルの取得したというのに――」


 貴重な《鑑定》スキルであるにも関わらず、嫌なスキルの取得理由であった。


「そんなことが許されると思っているのですか? 勝手に魔王ベルに領土の半分をくれてやるなど! いったいこの国のどこに! どこにそんな土地が余っているのです――」


「あはははは――。これは可笑しい」


 国王は騎士団長に対していきなり笑い出した。


(おのれ国王め――、さては魔王ベルに篭絡されて魔力支配でも受けているのか? 絶対に狂っているとしか思えん!)


 騎士団長は魔王ベルの所業に憤る。


「これでもだいぶ譲歩した方だよなぁ? そうだろう魔王ベルよ」


「えぇ、そうですわね。こちらとしては、サウスフィールド全土の約3/4ほどは欲しいと思いますわね」


「ではその通りに、領土の3/4は割譲しようではないか」


「おのれ狂ったか国王! 領土の3/4を魔王に投げ渡すなど! 正気の沙汰ではない!」


 ついに騎士団長は剣を抜いた。

 そんな姿に国王はため息をつく。


「――では言ってやれ。魔王ベルよ。そなたの魔族領にある領土は、儂がいままで保有していたサウスフィールド王国全土の領土のおよそ何倍だ?」


「えぇ、面積でいえば3倍ほどでしょうか? あいにくと森と水田ばかりですが――」


「おぉこれはすばらしい。魔王ベルを伯爵にすることで一気に我々の領土が4倍に増えたぞ。これを喜ばずにいられるというのか? そして渡せる領土の算段もばっちりであろう――」


「くっ……」


 騎士団長はわなわなと震えた。

 それにより抜いてしまった剣も震えている。


「――ところで、魔王ベルよ。お前から見て、うちの騎士団はどうだね?」


「んー。丹力が足らないみたいね。この程度で剣を抜くだなんて――。もう少しレベリングとかしたらどうなのかしら?」


 魔王ベルが初めて騎士団長の方に目を向ける。

 騎士団長はその威圧の力に圧倒され、一歩だけ後ずさってしまった。


「我が国の騎士団長ともあろうものが情けない――。魔王ベルごときに威圧されて後退するなど――。ちょうどいい。魔王ベルよ。我が騎士団の面々をちょっと鍛えてやってはもらえぬか?」


「では別途、我らがサウスフィールド騎士団にはその名に恥じない実力を付けて貰うため、我らから訓練用の使者を出させましょう」


 次々と案が国王と魔王ベルの間で進められていく。

 確かに騎士団が強くなるのはよかろう。

 どうせ、教官というのも魔族なのだろう。

 だが、魔族主体で強くなるのはどうなのだろうか?


「魔族領の何百体か魔物の群れに騎士団を放り込めばそれなりにはなるかと――」


「おいおい。それは大丈夫なのか?」


「ギリギリ勝てるくらいの魔物を選んで持ってきますから大丈夫かと」


(ちょっと待ってくれ――)


 思わずココロの中で騎士団長は叫び声を上げた。

 そんなのはさすがに御免こうむりたいところだが――


「よし。さっそく実行しようではないか。騎士団長! 魔族領に交代で行って実力をあげるとして、準備ができるのに何か月かかる?」


 国王に言われ、剣を収めた騎士団長は考え込んだ。

 さすがにすぐに行きますとも言いずらい。


「1年――、いや半年程度は――」


 しかし、あまり時間が掛かるというのも、騎士団的には沽券に関わるだろう。

 ここはまず、魔王の様子を見てうまく交流ができているのであれば派遣を行い、うまく行かないのであれば断るという戦術を取るとして、その見極めには半年くらい掛かることを想定し、騎士団長は答える。


「よし、それで進めようではないか――」


 こうして、サウスフィールドは魔王ラララを向かえ、新たな局面へと進み始めるのであった。


 それが吉と出るのか、凶と出るのか、知るものはこの時点では誰もいない。







 ◆   ◆   ◆





 一方そのころ――


 そんな重大な決めごとをしている最中、ハンスとラララは「伯爵様とメイド」のいけない関係という謎のプレイを自宅で楽しんでいた。

 ラララは国王から拝領した黒白ゴシックのミニスカメイド服にご満悦である。


「ぐへへー。ラララーー」

「あぁん。伯爵さまぁ」


 ちなみに、ハンスは実際に伯爵である。問題ない。


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