裸の王様――なお、お風呂中
「それで? お嬢さんたちは儂と一緒に風呂に入らないかね? 会談するにしても裸の付き合いというのはとても良いものだと思うのだが?」
国王の冗談か本気か分からないお誘いは、ブラックロータスに軽やかに断られた。
「結構です!」
だが国王の要請だ。
ブラックロータスはともかく、真価である俺ことハンスはここで断るわけにはいかないだろう。
「も、もちろんですとも! 国王さまの為なら吾輩、火の中、お湯の中ですぞ!」
そういいつつ扉のドアノブを持っていたラララを前に伴って扉の中に入っていく。
扉を抜けると、そこは御所の温泉だった。
裸の王様がそこにはいる。
パタン。
小さな音を立てて扉は閉じられた。
ブラックロータスは部屋に残されてしまった。
(どーうすんのよこれ?)
ブラックロータスは呟くが扉の向こうから返事が返ってくることは無い。
ブラックロータスの他に残されたのは魔王ベルと魔王リナだ。
ラララと異なり、ブラックロータスは魔王たちとあまり面識がない。
「とりあえず、向うにラララが言ったから王様と折衝するでしょう? しばらくしたら呼びに来るわよ。きっと――」
魔王ベルだけが、一人冷静であった。
「ところで――」
◆ ◆ ◆ ◆
サウスフィールド御所の温泉場で、俺ことハンスとラララは着衣のままでそのお湯を楽しんでいた。
「わぁハンスくん! これが御所の温泉なのね。昔来たときはなかったから掘ったのかしら?」
パーカッション工法で掘られた源泉は、豊かな湯量を誇っている。
「昔来たって、どのくらい前なんだ?」
「ざっと300年くらい前かしら?」
「そりゃぁ、さすがに温泉も無いんじゃないかな」
「あ! ほらほらー。ハンスくん見てみてー。学生服のスカートが温泉入るとぱーって広がっているよぉ」
ラララはセーラー服の着衣のまま水に濡れており、その布はスケスケで体に密着していた。
しかし、スカートは密着せず広がっており、そのおみ足を拝見することができる。
浴場で欲情――
そんなネタが俺の頭をよぎる。
「ぬおぉぉ。ぬれぬれのラララはかわいいねぇ……」
だが、そんなラララとのいちゃいちゃに対して水を差す人物がいた。
それはサウスフィールド王国の国王その人であった。
ちなみに、国王は全裸である。なぜだろうか。
「おーぃ。いちゃついているところすまんが、何だあれは?」
「はっ? これはこれは国王さま! お日柄もよろしくですぞ!」
「ごきげんようです。国王さま。ハンスくんとお湯をお借りしていまーす」
なぜだろう。
国王の額には青筋が立っており、雰囲気は険悪であった。
「おまえらぁぁぁ! だいたいなんでいきなり《扉》の術式使ってこっちに来ているのだよ? 緊急事態なんだろ?」
「はぁ。そのことで話がしたく緊急で《扉》を使わせていただいたわけで。ともかく、国王さまはなぜにこんな時間にお風呂に入っておられるので?」
「風呂じゃない! 《禊》の儀式と言え。《禊》の儀式と! あんな空飛ぶ船とか来たんだ。国王の立場としては身体でも清めないとやってられないだろう。ちょうど勇者も追放したところだし。《禊》が終わったら緊急会議だ。ハンスも付き合え」
「はい。それは付き合いますが――、服とかが……」
なぜだろう。俺の服はお湯で濡れ濡れになっていた。
「そんなもの、ここは御所なんだから衣装ならいくらでもあるだろうがっ。好きに持っていけばいい」
そんな国王の発言にラララが目を輝かせた。
「国王さまぁ! メイド服! メイド服が良いと思います! あの黒白ゴシックでフリフリなやつ!」
「OKOK。なんでも好きに持っていけ。儂のおすすめはピンクとホワイトだな」
「そんな国王さま。シアンとホワイトもいいかと思います!」
「そうか? ――っと、ラララの魅力にメロメロになっている訳にもいくまい。緊急事態だった。ところで――ラララは知っているかね? あの空に飛んでいる船のことを? 《鑑定》通しても船の名前しかでてこないんだが――」
「え? ベルちゃんの駆逐級飛空艦、奇城 茨魏魏ヶ島のこと?」
「――なるほど。だいたい理解した。おぃハンス! 犯人はお前だろう!」
俺は国王からいきなり犯人呼ばわれしてびっくりする他ない。
この善良な暗部の人間が何の犯人だというのだろうか?
「実はお前ら、あのヘリで来航してきたあの船の正体を知っているんだろう? その目的も――」
「えーっと。あれはベルちゃんの持ち物で人類とトモダチになりたいとか言いながら、『トモダチ作戦』とか仕掛けたみたいですね――」
国王は我が意を見たりとばかりにうなずいた。
ちなみに、国王は全裸のままである。
武術をやっているため、それなりに筋肉は流々であった。
「ほらやっぱり! 正体を知っていて目的も知っている。だいたいハンスのせいで間違いあるまい」
「お見事です! よっ、国王さま!」
ラララが国王を持ち上げようとよいしょしているが、ちょっと待ってほしい。
俺のせいって、やめて欲しいのだが。
「それで? 結論としてヤツラはどうしたいのだ? キョ―の街をそのまま蹂躙したいのであればさすがに断るが――」
さすがに、魔王ベルがそのようなことをしないとは――、いえないだろう。
魔族と人類は昨今でもばちばちに戦いあっているのだ。
よほどのことがない限り和議を結ぶとかは考えられないだろう。
「それが、私とハンスくんとの世界征服宣言を見て、どうも私の征服のお手伝いにきちゃったみたいなんですよね」
「あの映像か……、ということは?」
国王は思案顔である。
「なるほど。ラララのお手伝いに来たのであれば――、うち主体で配下にすることもできるということか?」
あれ? 国王の思考がなんだかぶっ飛んだものになっているのだが?
確かにサウスフィールドが魔王ラララを支配してラララ魔伯国を取り入れたところで、世界征服するにはピースが足りないだろう。
野心家として、魔王全員をサウスフィールド王国の支配に入れ、そして世界を相手しようなどという思想になっても確かにおかしくはないが――
「ベル魔伯国とかですか。いいですわね。国王さまさすがです!」
「だが一戦も構えもせずに魔王ベルを支配下に置くなどとしたら、いくら国王の主体だとしても確実に周囲の反対とか起きるな。我々魔王ベルとの交流をする派閥を開国派とすれば、魔王ベルとあくまで戦おうとする攘夷派と別れて大きな軋轢が発生するかもしれない――」
基本的に魔族と交流するなどというのは、あまり一般的な考えではないだろう。
特に魔王ベルは現時点で、凶悪な所業で人類の敵である存在であるのだ。
魔王ベルを嫌って国を立て直そうとする攘夷派の台頭は十分に考えられるだろう。
その攘夷派を押さえつけるには派手なパフォーマンスが必要となる。
そのパフォーマンスが国王のいう『一戦』であろうが、魔王ベルと武力で一戦でもしたらキョ―の都は一瞬で火の海になるに違いない。
フランスのノートルダム大聖堂が大炎上しがちなのと同じくらい燃えがちである。
そして、物理的や魔法的な方法で戦えばまず間違いなく魔王ベルが勝つだろう。
魔王とまともに戦おうとするのであれば、異世界の勇者が必要だ。
地元の勇者ではレベル的にまったく歯が立たない。
しかし、その異世界の勇者を召喚するのは、サウスフィールド王国ではタブーとされている。
サウスフィールド王国は確かに《異世界召喚術式》の魔法陣を所有しているが、それを王族は頑なに使おうとしない。
王族が現時点で使っていない時点で、使用時に碌なことが起きそうにないことは自明のことであろう――
「――なら、剣にも魔法にも頼らずに一戦して魔王ベルを自分のものにする方法があるなら、国王さまは付き合ってくれますか?」
「ははは。魔王ベルは人が悪いな。いや魔族が悪いというところか? どうせ選択肢はそれしかないのだろう? 付き合ってやろうともさ――」
こうして、国王と魔王ベルの世紀の対決が始まろうとしていた。
なお国王はいまだに全裸である――




