ヘリ―のご来航
勇者は指名手配されていた。
暗殺者ギルドを通じ、貴族の学園に留学中の姫リナを殺害しようとした罪である。
罪名罰条は隣国王族に対する殺人未遂――
どこからどうみても第一級の犯罪であった。
その姫――リナと学園の警備の活躍によって暗殺自体は未然に防ぐことができたものの、国王はその件で聖ピーチ魔王国に大きな借りができてしまった。怒らない訳が無い。
さらに言えば、暗殺者ギルドの面々は学際魔法《CAPEX》を使って全員生け捕りになっており、その生きた証人がいる以上言い逃れすることができなかったのだ。
さすがに勇者は第一王子であるとはいえ、勇者が暗殺者ギルドと結託するという話は醜聞が悪すぎ、庇い立てすることなく勇者を聖ピーチ魔王国に売った。
つまり――。勇者を指名手配犯にしてサウスフィールド王都から追放したのである。
少なくとも、国王からの命令ではそうであった。
だが、そんな劣勢の状態でも勇者を支援する貴族はいないことはない。しかし、国王に目を付けられるほど大規模な支援をすることはできない。下手をすると国家転覆罪などと言われ、国王から睨まれてしまえばお終いだ。さすがに勇者の母であるアインズ伯爵家であっても表立っての支援はできなかった。
できる支援といえば――、せいぜいが王都であるキョ―の都でその日が暮らしができるお金と隠れ家の提供くらいであろう。
そう、サウスフィールドから追放されたはずの勇者は、実はキョ―の都で潜伏していたのである。
(く……、どうしてこんなことに……)
そうであっても、勇者は今では御所どころか貴族の学園にすら侵入することができない。
できることと言ったら、王都の隠れ家で震えることくらいか。
(なにか――、もっとでかい功績をあげるか、社会を転覆させて俺が国王になるような事象でも起きないと――)
この時点で勇者はもう、とても勇者とは思えない思考をしていた。
だがそこに都合のよい事件は起きる。
起死回生の、勇者が返り咲くことが可能になるかもしれないイベントだ。
漆黒の大船団が空を飛び、サウスフィールド王都の上空に現れたのだ。
ぶおん
ぶおん
ぶおん
タケによって作られた、ヘリコプターの羽が激しく回転する音がキョ―の都を轟かす。
それは、全てを巻き込み粉砕するような勢いである。
清々しく晴れ渡る朝日を受けてご来光とともに現れたその船の名前――その名を駆逐級飛空艦、奇城 茨魏魏ヶ島と言った――
◆ ◆ ◆ ◆
「あんなの、どうしろと言うのだ!」
サウスフィールド王国のキョーの街では、いきなり出現したクロフネの存在に大騒動が起き上がっていた。
なにしろそのクロフネは空を飛んでいるのだ。
全身まっ黒のボディに、白と赤のハイライトが入った空飛ぶ巨大船――
対地から攻撃する手段はすがすがしい程に、ない。
魔法を使うにしても距離がある。
それにあれほどの物質が魔法の力で空を飛んでいるのだ。魔法防御もそれになりにあるだろう。それを突破するような能力が今の人類には存在しなかった。
一方、クロフネ側からは攻撃する手段はいくらでもあるだろう。
魔法で打ち下ろせばよい。
そもそも魔法ですらなくてもよい。岩でも落とせば良いのだ。
落下先にいた人間は夢を抱いて轢死することだろう。
「岩で死んだ」は、有名なRPGの死亡シチュエーションとしても有名だ。
なにしろ、どんなに小さな岩であっても、地面に届くときには猛烈な勢いがつく。
その速度はなんと v=gt (g=9.8m/sec^2) である。
運動エネルギーは (1/2)mv^2 だ。
殺傷能力は十分にあった。
庶民たちは不安げな表情でその空のクロフネを見上げている。
それは、国を守るべき騎士団も同じだった。
「卑怯だぞ! そんな空を飛ぶなんて! 降りてこぉぉぉぉぉぃ!」
そんな中、勇者はクロフネに向かって叫んだ。
隠れ家から屋根に昇り、多くの観衆に見られるようにして――
(ここで目立てば再起の目はまだあるはず!)
勇者は戦場を選ばない。
遠距離攻撃をするために勇者は呪文を唱える。
炎闇中級魔術、火炎弾である。
しかしさすがの炎闇とはいえ、いかにも距離があるその攻撃はヘロヘロと炎をまとって飛んでいくが、やがてその炎も小さくなり消えた。
魔法防御されたのだ。
「おのれ――」
そして勇者は見た。
クロフネの一か所が怪しく光り、返礼とばかり青い稲妻が勇者を攻めるところを――
(む! いかん!)
勇者が避けたその瞬間、隠れ家に光が着弾し、隠れ家を含めた周囲の家々は一瞬のうちに大破してしまう。
青い稲妻が隠れ家を焼き尽くすのだ――
「こ、これほどとは……」
騎士団の面々はその圧倒的な戦力差におそれ慄いた。
駆逐級飛空艦、奇城 茨魏魏ヶ島は本気になれば、キョーの都など一瞬にして真っ赤な火の海にしてしまうことだろう――




