生麦事件
魔族領近くにあるとある海岸。
そこにはロングステート公爵家がひそかに魔族領の中に作った秘密基地があった。
魔族との密貿易のためである。
魔族領の名産品といえば米であり、最近、《暴食之魔王たる》魔王ベルが住む魔王城の城下町ではさらに大規模で広範囲な水田を作り稲作農業を始めところだ。
そんな魔王領との密貿易のためにロングステート公爵家が用意したものは生麦と生卵であった。
ニワトリと呼ばれる動物からとれる生卵は、大きさゆえに大味となってしまう魔物の卵と違い小ぶりであり、その濃厚な味わいが魔族たちに人気がある。
ロングステート公爵家は輸入したコメをさらに清酒に加工し、それと分からないように流通させる方針でいた。
本来ならばこのような違法な橋を渡らないロングステート公爵家ではあったが、メロンの被害により、大規模に生産していたがために多額の借金を抱えることになり、冒険者ギルドへの支払いも合わせて大きな勝負にでる必要が出てしまっていたのだ。
「ほほう。この生麦、そして生卵……、なかなかよいですな。おいしい素材が生きている。あぁ、これを晩御飯にしたら――」
一つ一つ小麦を調べながら唸るのは、魔王に使える四天王が一人、《中心の卵》ミドルエッグであった。
彼の魔人は体中に卵の殻の装甲で身を包んでおり、防御は完璧である。
その斜形湾曲装甲はすべての剣撃を弾くのだ。
典型的なタンク型の魔人だ。
「これを使えばおいしいハンバーガーの原料となる――、バンズを作ることも可能でしょう」
そのカウンターパートナーはご存知悪役令嬢ティアラである。
「!? ハンバーガーですと! 我が主、ベルさまが望んで止まないという、あの!」
ティアラは頷く。
「これは魔王の息子であるケルヘイロスさまもご存知ですわね」
「うむ。確かにこの取引はケルヘイロス様からの伝手で行われているが――。あい分かった! その調理法の情報料も合わせ高値で買い取ろうではないか」
その魔人の言葉にティアラはようやく安堵した。
これでようやく一息つけると。
今度こそメロン栽培を成功させると。
今回の除草剤を捲かれた分を取り返してやると――
だが、魔人ミドルエッグの次の言葉は、ティアラのその安堵を吹き飛ばしてしまう。
「ではこちらからも情報を教えてやろう。秘密だからな――、今度、魔王ベルは超巨大プロジェクト『ともだち作戦』としてサウスフィールドに開国を迫るつもりだ。うまくやればロングステート公爵家も地位を高められるだろう――」
(な、なんですって――)
それは西鳩オフラインの開国イベントであった。
ティアラは思う。それは学園の卒業間際におきるイベントではなかったか。
そのために力を蓄えてきたというのに、なぜこんなに早く――
ティアラは頭を巡らす。
そんなイベントが早まる理由を知っている人物をティアラは一人知っていた。
シナリオを書き換えることができる存在――
(まさかブラックロータスが異世界転生人で、何かをしているというの?)
世界は薄ら寒い灰色の季節へと突入していく――




