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なんだ、止めて欲しいのか?

 サウスフィールド御所の一室――

 国王の執務室であるこの部屋には国王とその後ろに宰相。それに対し第二王子が相対している。


 やってきた第二王子は目的を告げた。


「王よ! どうか私とティアラとの婚約破棄を認めていただきたく――」


 国王はそれに対し、うむと頷く。


「良かろう。手続きはこちらでしておく。好きにしたまえ。それで?」


 第二王子はどこか困惑したような顔を浮かべた。

 あまりに簡単に国王から認められたことに、もやもやしたものを感じる。


「……。父上。婚約破棄をそんなにあっさり認めて良いのですか?」


「なんだ? 止めて欲しかったのか?」


「いえ、そういう訳では……」


「大方、ロングステート公爵家の娘にも直接婚約破棄でも訴えて、言い負かされてここに来たのであろう? 正式に婚約破棄の手続きを組めとかなんとか。それで? 正規の手続きを踏んで何が悪いのだ?」


「なぜそんなにあっさりしているのです? この婚約は名門であるロングステート公爵家に取り入るべく仕組まれた政略結婚だと聞いていたのですが?」


 第二王子はティアラに対して婚約破棄を言いつけたときにも感じた、あの淡泊な表情を思い出していた。ティアラの冷たい視線――


(彼女には俺が必要なはずだ。なのにどういうことだ?)


 第二王子は『真実の愛』とまで言ってティアラに当たっていた。


 だというのに――


 昔は『いも娘』とか言えばぷんぷんと怒り狂ってその表情が楽しめた。なのに、いまでは何を言おうとも「そう……」といった冷淡な言葉が返るだけ。


 むしゃくしゃしてブラックロータス嬢に手を出しても何も言ってこない。

 暖簾に腕押しの状態で、まったく楽しめない。まったく楽しくないのだ。


「状況は変わったのだよセカンド。お前が望まないのであればそれでいい。ティアラは俺の側室にするか、ティアラには国外退去を命じてハンスのヤツにでもくれてやるか――。盗賊の襲撃とでも偽らせて――」


「な――」


 親とはいえ、あまりに冷酷な国王の所業に第二王子は絶句した。


「昔は経済力の無い、名門と人脈だけのロングステート公爵家だったが、今は違う。サツマ芋といった救済植物、四圃輪栽式農法等を用いた内政――。ティアラは庶民の間には大の人気者だからな。お前が手にしないのであれば力を削ぐためには修道院に放り込むなり、何なりするしかあるまいて」


「そ、そんな……」


「それでどうする? 婚約は破棄するで良いんだったな?」


「う……。あ……。維持で、婚約は維持でお願いします」


 第二王子は思わずティアラを庇ってしまった。

 第二王子にとって、現在のところブラックロータス嬢は単なる当て馬だ。


「なんだつまらん。儂も忙しい。他に用が無ければさっさと帰るが良い」


「は、はい……」


 とぼとぼと返っていく第二王子を国王は悲しそうな瞳で見つめている。


「(それに、そんなこと言っている場合ではないだろうしな……)」


 国王は窓から空を見た。あたり一帯は雲に覆われている。




 風雲は急を告げていた――


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