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メロンパフェもお忘れなく!

 サウスフィールド王国内ではアメジスト王国と唯一隣接する国境沿いに領地のある公爵家、その名はロングスート公爵家――


 そんなロングステート公爵家の長女として、ティアラは生まれた。


 公爵家というのは家柄としては由緒正しい。人脈もそれなりに大きい部類の家である。そのため幼いころから第二王子と婚約をすることになったのだが、結局のところ第二王子である。

 第一王子が国王になったとき、ロングステート家の家長として第二王子を入れようというという魂胆が見え見えの政略結婚であった。


 もちろん、メリットはある。


 ロングステート公爵家では魔物が多く、食糧の確保がしにくい土地柄であった。そのため、本国から定期的な支援を必要としていたのだ。本国との関係を強くするのに、この政略結婚は最適であった。


 だが、第二王子はこの婚約を好ましいものとは思わなかったらしい。


 事あるごとにティアラのことを「このイモ女」「いも娘」などとけなし続け、そして「真実の愛を見つけた――」などと言い、最終的には婚約破棄をして平民のブラックロータスという少女と結婚してしまう。


 ティアラは国外追放され、国境沿いの街道で盗賊と思われる連中に襲われ、そして――



――――

――



 ――そんなシナリオを私が思い出したのは、初めてこの世界でふかし芋を食べたときだった。

 ティアラは、この世界がいつも楽しんでやっていたBLゲー、西鳩(セイ・ハートオフラインであり、自分は悪役令嬢として異世界転生したのに気づいたのだ。気づいたのは5歳のときだった。


 異世界転生する前のティアラは、単なる普通のOLであり農業関係の経理をしていた。簿記はそれなりにできるが、農業の実地関係はそこまで詳しくはない。

 しかし、それでもこのふかし芋は自然の素材が生きていて、ティアラがいままで生きていた中でもっとも美味しかったのだ。

 多くの農作業を機械で行い、有機肥料をふんだんに使った近代農業ではなく、全てが手作りの、おいしいお芋である。形は不格好ではあるが、これほど美味しいものを食べたのは、ほんとうに久しぶりであった。フィンランドから直輸入したサーモンなみであろう。近大の絞めた直後の本マグロを食べた時以来である。


 聞けばふかし芋はこの世界では飢饉に対する救済植物であり、そのために今ままでロングステート家の食卓には出てこなかったのだ。


(――ということは、市民の間では飢饉が起きているということ?)


 調べたところ飢饉ほどではないが食糧難が続いていることは確かであった。


 異世界転生したティアラはそれを聞いたとき、すぐさま対策に乗り出した。

 その救済植物と言われた芋の大量生産に乗り出したのだ。


 そして新しい芋の食べ方を研究し広める。


 隣のいけ好かないサツマ伯爵にも頭を下げて、サツマ芋なる品種をロングスート公爵領に持ち込んで広めたのも、ティアラの功績だ。


 そして食が安定すると、ティアラは土地の魔物の駆除に乗り出す。

 多額の費用をかけ、冒険者ギルドを通じて討伐系の冒険者を集めた。隣国のアメジスト王国にまで声を掛けた徹底ぶりだ。


 そして魔物を討伐した後は畑を増やし、小説家になろうでおなじみであろうチートな農法を公爵家内どころか国中に無料で広めていった。


 いつしか、サツマとは同盟を結び、公爵家の地位と力が向上し、ティアラは多くの国民から慕われる存在となった。


 芋姫として――


 イモ臭い女の部分が強調され、第二王子からはますます嫌われるような存在になってしまったが、そんなのは関係ない。




(私の夢――、ロングスートから全国へ! 食の安定をお届けしたい!)




 いつしか、ティアラは悪役令嬢であるということを忘れ、領地経営――内政に注力している自分がいた。


(働いてくれている領民への恩返しがしたい! もっとみんなと遊びたい!)


 そんな思いで、ついにティアラはキラーコンテンツに手を出した。




 そう、メロンである。




 メロンとは球形で緑色の甘い果物のことである。白い線が無数にはいったメロンのことをマスクメロンといい、伝説のメロンパフェと言った、さらなるデザートに進化を遂げることができる至高の食材であった。


 このメロンが世に広がれば、ロングステート領としてはさらなる発展をし、領民の暮らしもかなり楽になるに違いない。


 世界中を調査してメロンの種子を入手したティアラは、多くの支援を受けながら大規模なメロン畑を構築し、持てる技術の全てを使って量産を始めようとしていた。


 そんな矢先である。


「大変です! ティアラお嬢さま!」


 急に領民の男が息も絶え絶えにロングステート家に駆けこんできた。

 その領民からの訴えを聞き、畑で見たものは――





 除草剤パラコートが散布され、出荷直前のメロン6,600玉が全滅した、その姿であった――







 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆






 とある場所――



 農商ギルドの建物のとある一角で、ぶくぶくと太った男たちが毎日の日課として宴会を行っていた。


 そのテーブルには各種の贅沢な魔物の肉料理が並んでいる。

 鹿(ディア)の魔肉を重箱に入れた死荷重などがその代表例だろうか。



「ふん。ロングステートの連中め。農商ギルドを抜けるような協調性のないヤツは除草剤を撒かれて当然」


「それで、さらにこれから噂を流すわけですね。犯人を予想! 同業者ではないのは確実。もし、こんな同業者がいたらそれこそ廃業レベル! 真犯人はロングステート家の自作自演か! ってね☆」


「あぁそうとも。農商ギルドの人間が農作物流通の分け前を寄こさないことに怒って除草剤をまいてやったなんて、あから過ぎて逆に疑うレベルの話だよな。そんなヤツいるぅ! いるわけねぇよなぁ」


「ぎゃははは――」


「そうそう! 学のある農商ギルドの我々がそんなことやるわけがないではないか! ないでではないか! もしそんなことが特定され捕まったら、廃業を余儀なくされてしまう。多額の賠償金をロングステート家に払うことになってしまうではないか。そんな非懸命なことを我々がするわけがない。ふふふ。我々は賢いのだぁぁぁ」


「あははは! 我々は賢いのだぁぁぁ」


 農商ギルドの幹部たちは事がうまく運んだことに喜びの声をあげる。


「それで――、証拠とかは残してはいないだろうな?」


「隣国アメジストの冒険者たちにやらせました。まず分からないかと」


「ははは。不用意に隣国アメジストの冒険者を入れるなど、まさにバカの所業よのぉ」


 隣国アメジストの冒険者を受け入れたのは、領内の魔物を確実に殲滅するために仕方がないところであったのだが、農商ギルドの幹部たちには愚かな行為としか見えなかったようだ。


 隣国の冒険者ともなれば、どうしても素性調査は甘くなる。


 お金によって何でもしてしまうならず者が、どうしても入ってしまう――

 その隙を農商ギルドの幹部たちは突いたのだった。


「単価の安い連中はこれだからいけない。我々農商ギルドが上前を跳ねた冒険者を使えば、こんなことにはならなかったのになぁ」


「まぁ、お高いですがな――」


「あはははは――。ばーか、ばーか!」


 農商ギルド達は手を叩いて喜ぶ。


「しかし、イモ娘とか呼ばれていたあの女、市民からは主神カーキンさまの再来、美しい女神さま! とかまで言われているそうだぞ? その名をイモ姫さまと――」


「あのイモ女がねぇ。イモを粉にして生地(モンブラン)を作るとか聞いたときは正気か、とか思っていたところだが、最近あのイモ女、社交の場にも出てきているそうじゃないかーー」


「それも気にいらねぇなぁ。しかも男の目を引くような恰好をしているんだって?」


「丈の短い服装で、動くたびに大きな胸が揺れる――、まるで性的対象物のようだぜ」


「そんな女が社交界から消えることは、世のため、人のためだよなぁ」


「女性の社会進出の抹殺! これこそ真のフェミニストさまだろう」


「そうだよなぁ。俺たちはフェミニストさまだぁ! TPOとか考えろっつーんだよ」


「ぎゃははははー。ちげーねー。ちげーねー」


「なぁ、あの女、あと2、3回攻撃してやれば落とせるんじゃないか?」


「なるほど! 借金漬けにして売り飛ばすとかもいいかもしれんなぁー。社会進出ができなくなった女が、仕事のない女が、一体どうなるか? みものですぜぇ」


「あははははーーー」


「前例だって枚挙にいとまがないからな。なにしろ実績がある。この前だって、競馬場にいるレースクィーンとか、胸の大きい女性が社会進出するのは性差別だ! 性的搾取だ! とかいって働き口を皆潰しにしてやりゃぁ。簡単に女の賛同者が釣れる釣れる! もうバグ釣れだぜ」


「あぁ。そうだとも。そしてレースクィーンをやっていた女性連中は全員風呂に沈めてやったぜ! いぇーぃ!」


「いぇーい!」


 むろん、可哀そうな女性たちにその就職口を斡旋したのはこの男である。


「さすがはフェミニストさま! あの件はあなたでしたか!」


「まるで少女のような性的対象物! 女児を性的な対象で描いている。あんな可愛い女の子は、フェミニストとしては許されざる所業だね! そんな彼女らに風呂場で『君らの職場を潰してやったのは俺だって』耳元でささやいてやったときの、あの女どもの絶望的な表情ったらなかった! あの号泣! もう素敵すぎて! 最高ぉぉぉ!」


「それはさぞかし気持ちがいいに違いありませんなぁ! いろんな意味でッ」


「それでもあいつら、観客席で酒とか売り出したのにはまいったよなぁ。ふふふ。――それで、どうしたと思う?」


「おぉぉ。それは聞いておりますぞ! 『女性の定型化された役割に基づく偏見および慣習を冗長している』という議会での名演技! さすがです! フェミニストさま!」


「女性の職業選択の自由なんてフェミニストさまの前にはあるわけがない! 世の中は多様性なんだ! レースクィーン同様、観客席で売り子をやっている彼女らの職を法律できっちり奪っておいたぜ――」


「そして行き場を失った彼女らはみんな仲良く風呂オチだぁぁ」


「さすがはフェミニストさま! そこに痺れるあこがれるぅ!」


「全ては多様性の世界さまさまだぜぇぇ!」


「ぎゃはははは――」


「さぁ、次は何を炎上させてやろうかぁぁぁ。異世界人か? それとも温泉街か?」


「うははははーー。我らフェミニストの前ではみんな死ぬしかないじゃないぃぃ!」




 農商ギルドの狂乱の宴は、さらに真っ黒な闇夜として更けていくのであった。






 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆





 何者かの手によって除草剤を撒いた際に畑にいたとされるその少女は、ティアラが見つけた時にはすでに冷たい身体となっていた。


「おねぇちゃん……。やっぱり私、生きてちゃダメだったのかな――」


 そう言い残して黒と赤の血を口から流して死んだ子供は、ロングステート伯国の孤児であった女の子である。ティアラが従業員として採用した。

 その少女は何者かが畑に来たことに気づき、自らが働いていたその場所で、無残にも立ち上がる除草剤に(むせ)て倒れてしまった。地面に倒れてた少女は(わだち)によって隠される形となっており、その発見が遅れてしまったのだ。


「ごめん、ごめんね……」


 死体を抱きしめながら、ティアラの頬からは涙が雫となって流れ落ちる。


(絶対に、赦さないんだから……)


 ティアラは、ついにその禁断の異世界に力に手を染めることを決める。



 魔石から取り出されるその力のことを、電力といった。


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