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あわれな噛ませ暗部たちに寄せる挽歌


 サウスフィールド王国、貴族の学園の中で一人歩く美少女がいる。


 それは元はゴブリンの魔人であり、低身長ではあるが強大な力を有する、《強欲之魔王たる》魔王リナその人であった。


「――ってそこの君! 君ってばあれでしょう? ラララ先輩の彼氏くんでしょう?」



 そんな魔王リナに俺ことハンスは声を掛けられた。



 冴えない用務員のおっさんである俺は、その少女から声を掛けられたことにより始めて気付いたかのようにおどけて見せるべきだろう。もちろん気づいてはいたのだけれどね。


 しかしこちらの≪隠密≫スキルを突破してくるとは中々の実力の持ち主といったところだろうか。

 いや、ゴブリンといっても擬人化したら普通に美少女なんだけど。だけどお子さまなんだよなぁ。うーん。ラララと比較したらどうかなぁ。やっぱりラララの方が可愛いかなぁ。ラララの方が少しだけ大きいし。何がとは言わないが。



「その通り! 吾輩こそはラララ魔伯国の伯爵であるハンス・ハートテイカーですぞ!」


 とりあえず慇懃な姿勢で挨拶してみる。こういうプレイをする時の主語は吾輩だ。

 反応次第では態度を変える必要があるだろうが、いまはまだその時期ではないだろう。


「あー。君ぃ~」


 その魔王リナは俺の背後を指さしして、後ろに何かあるようなジェスチャーをしていた。

 まるで「うしろー。うしろー」とか言いそうな表情である。


「おや? どうしたのですかな?」


 俺の背後には覆面のアヤシイ人影がいる。

 毒に濡れたナイフを持って、今まさに俺に襲いかかろうとしていた。


 当然、そんなのには気づいているのだけれどね。


(どこの暗部のバカなのか……)


 だがその刃が俺に届くことはない。


 俺の周囲にはそれ用にトラップが仕掛けてある。というか、今仕掛けた。

 だから襲い掛かったとしてもそのトラップの鋼鉄のワイヤーに引っかかって叩き落されるのが関の山――のはずだった。


「はい。まずはひとーり!」


 ――と、思っていたのだが魔王リナがいつの間にか取り出した巨大な鉄剣を振るい、トラップのワイヤーごと覆面の人影を真っ二つに切り裂いたのだ。


 用意したトラップワイヤーごとだ。


 ぐちゃ。


 まるで液体をつぶすような音が鈍く響く。


(おぃ、俺のかっこいい活躍シーンを返せ)


 血しぶきが舞い、俺の頬に掛かる。

 その鉄剣は優に魔王リナの三倍はあろうかというシロモノで、それをまるで空気のように扱う彼女の剣撃は、ほぼ音速に迫ろうという速度を有していた。


 おそらく鉄剣は彼女のアイテムボックスから取り出したのだろう。


「ふむ、意外にしぶといな……」残身したまま魔王リナはつぶやいた。


 その剣撃によって吹き飛ばされる覆面の男。

 だが、真っ二つにされたにも関わらず、その陰が二つに分裂すると、俺たちを誘うかのように逃走を始める。


 とてもニンゲンにできるような動きではない。


 ファントム系の亡霊のようにも見えるが、学園には対襲撃用に高度な結界が仕掛けてある。その結界が乗っ取りでもされない限り、亡霊のたぐいは寄せ付けないハズなのだが――



(まさか――、学園の警備結界がハッキングされているのか?)



 彼らはまるでゾンビか何かのように遅く蠢いている――


「他には――1、2、3、……。とにかくたくさんいるね! なにこいつらは――。気味が悪い……。アンデットのたぐいなのかなぁ?」


 魔王リナは算数が苦手なようで、3以上の数字はたくさんらしかった。


「吾輩には分かりませんですぞ! だがしかし、対妖魔防御術式とか学園には敷かれているはずなのに、なんでこんなのが――」


「ふん――。私がここにいる時点で対妖魔防御術式なんて、たかが知れているわよ?」


 確かに魔王リナといえば、魔王を冠しているだけに最高の魔族である。それが引っかからない、または対抗できている時点で術式がまともに機能しないということは明らかだろう。

 そして、そもそもラララという先例も確かにいた。なぜ気づかなかったのか。


 あるいは――、相手側が相当にチートなスキルを持っているのか?


「さぁて、明らかなお誘いのようだが、どうだね? 先輩の彼氏くん。魔物の殲滅としゃれ込もうじゃないか!」


 魔王ラララは問答無用で俺の首根っこを掴んでくるのだった。

 そのまま逃走し始めた彼らを追うつもりだろうか?


「まて! もしもこれが陽動だったらどうする? ラララが主目的だったりするかもしれませんぞ!」


「あははは。ラララ先輩が主目的だったら、それこそヤらしておけば良いでしょ? なんといっても初代さまよ? 強くない訳が無いから――」


 だが、俺はすでにラララを一度捕まえて押し倒した実績がある。

 そのため非常に不安であったのだ。


「ほらいくよ! 先輩の彼氏くん! 私が敵を撃退するカッコいいシーンをこの目で焼き付けちゃいなさい!」


 引きずるように俺は魔王リナに連れていかれてしまう。


(本当に大丈夫かなぁ……)


 一抹の不安もあるが、敵に一部でも逃げられるのはダメだろうということで、俺は魔王リナと行動を共にすることにした――





 ◆  ◆  ◆  ◆





 結論からいうと、魔王リナとハンスに対する襲撃は、陽動であった。


 ファントムと呼ばれる浮遊型の魔物を使用して敵を幻惑し、目標からできるだけ遠くにハンスを移動させるのが目的だ。


 暗殺者ギルドの長、ヤマザキは思いのほか作戦がうまくいったことにほくそ笑む。


「思いのほかうまくいったな。まさかハンスだけではなく、魔王リナまで釣れるとは。これで大型戦力はいなくなったといって良いだろう」


 思わず高笑いするヤマザキに周囲の部下たちは同調し、さらにヤマザキは悦にいることになる。


「なんてすばらしい。ヤマザキさま。あとはハンスの婚約者とかいう、平民の小娘だけですな」


「あぁ。だが念には念を入れるべきだ。学園魔法の解析の方はどうだ?」


「順調です。≪侵入者排除≫と、≪魔法使用禁止≫についてはなんとか起動ができます」


「よし! すぐさま起動しろ! 小娘を確保するのだ!」


「ハンス達が学園の外に出たタイミングを狙います。3、2、1--、発動! 成功しました!」


「よし襲撃だ! うまく拉致できたら学園の寮に火を放て! ふふふー。ハンスのやろうが発狂するさまが目に浮かぶようだ! ふははは――」


 ヤマザキたちが学園の寮に突撃しようとしたそのとき、このこのとその寮を出ようとする人影を見つけ、思わず手にする銃でその人影を撃った。


 そう、剣と魔法のファンタジー世界において、ヤマザキたちはチート技術である銃を所持していたのだ。


 これこそがヤマザキたちの切り札である。


 しかもそれだけではない。


 彼らは小説家になろうにありがちな、数々のチート技術を保有していたのだ。



・無限チャージライフル:無限にチャージができる。


・オートエイム:自動的に標準を合わせる。


・ホーミング弾:壁をすり抜けて弾を撃てる。


・高速連射:高速で連射する。


・通常加速チート:歩く速度が向上する。


・瞬間回復チート:瞬間的に回復する。


・高速移動チート:高速で移動できる。


・ウォールハック:壁をすり抜ける。


・安置操作:攻撃を避けれる場所を設定する。



 なんと多いチートの数々であろう。

 これだけあればどんな敵であろうとも倒すことができるというものだ。


 かつてヤマザキたちの先祖が勇者であったことから引き継いだその恩恵があるからこそ、ヤマザキたちは暗殺者ギルドなどという物騒な組織で生き続けることができるのだ。



 そして銃は魔法の制限を受けない。



 学園の≪魔法使用禁止≫の術式が効いていたとしてもその制限を一切受けないのだ。

 相手は魔法が使えず、こちらは一方的に殴ることができる。

 物理攻撃を得意とする魔王リナは学園の外に出ており戻ってくることができない。

 たとえ魔王ラララが≪物理攻撃禁止≫といった術式を持っていたとしても効力を発揮することができない。銃の餌食だ。

 なぜなら魔法使用禁止状態だからだ。物理攻撃禁止のスキルは魔法であった。

 そのくせチートな銃攻撃はチートであるが故に無限発射することができる。


 あぁ、なんて素晴らしい職場なのだろう。

 ただただ弾を撃ち蹂躙する。簡単でしょう?


 だがしかし――、その人影はそんな攻撃によるダメージを一切受けず、平然とその場に立ち尽くしていた。


「まさかーー、お前はあの小娘か?」


 ヤマザキたちは尚も銃で撃ち続けるが、効き目がない。

 その小娘とはもちろん――、魔王ラララのことだ。


「おい! これはどうなっている!!?」


 ドドドドーー


 ばばばばー


 激しい銃撃の音が響く。


 だが、それでも魔王ラララが倒れることはない。


 表示される打撃点の数字はすべて、0


「ばかな……」


 その激しい銃撃の嵐の中であっても、魔王ラララは指をひらひらさせて見せる。


(あれはステータスと同じ、ウィンドウシステムによる操作だ!)


 するとどうだろう。盛大な打撃音と共にヤマザキたちの一人が、死んだ。


 そして、一人また一人と――



「アルファ―! ブラボー! チャーリー! お前らいったいどうしたというのだ! いや、一斉に小娘に飛び掛かれー! 単体近接攻撃であれば一度に行けば何人かは生き残れるはず!」


 ヤマザキたちが一斉に魔王ラララに襲い掛かった。

 それに対し魔王ラララは詠唱を始める。


あわれ(憐れね)あなおもしろ(なんて面白いの)あなたのし(あぁたのしい)、おけ――」


神聖(うんえい)術式だと――。確かに神聖系は魔法妨害の影響は受けないが、しかし回復や防御系しかないはずだ――。そうか――、単に攻撃を受けたあと回復していたから攻撃が効いてないように見えただけだったのか!? ならばその魔力が尽きるまで撃ち続ければ――」


 だが、一斉に斬りかかったヤマザキたちは、魔王ラララに辿り着く前に爆発して死んだ。




 派手なBANという打撃音を残して……




「チートだめ絶対! 神聖(うんえい)術式:アカウントバーン!」


 アカウントバーン――

 説明しよう。アカウントバーン、通称垢BANとはチートなどの不正行為を働いたユーザーのアカウントを消去していなかったことにする、神聖(うんえい)系最大の厄災排除魔法のことである。ユーザーを排除することで『治安を回復する』最強の治癒魔法なのだ。





 ヤマザキたちは秋のBAN祭りによって、その(アカウント)ごと死んだ――








 ◆  ◆  ◆  ◆






(はぁ、はぁ、はぁ……。一体なんだというのだ……)



 暗殺者ギルドの長、ヤマザキはそれでも生きていた。

 子分のヤマザキたちに一斉に魔王ラララを攻撃させている間、自身は必死になって逃走していたのだから。


(はぁ、はぁ、はぁ……。ここまで逃げればもう大丈夫だろう――)


 ギルド長は運よく逃げ延びた。

 学園から遠く離れた位置にギルド長は逃げ込むことに成功したのだ。


 だが、運命とは残酷なものであった。

 世界を司るシステムは、ある無常なことをギルド長にあることを告げる。





システム:「リングの縮小を開始しました――」





(な、なんだと……)


 学祭魔法≪CAPEX≫――


 自身の体力を仮のHPに変換し、仮のHPをゼロにして自身のパーティ以外のすべてを倒すように遊ぶ学祭用の術式である。


システム:「リングに戻れー」


システム:「リングに戻れー」


システム:「リングに戻れー」


システム:「リングに戻れー」


………

……


 システムがしつこいくらいにメッセージを飛ばしてくる。


 ギルド長はチートな技術が使えることから分かる通り、勇者から能力を引き継いでおり、ウィンドウシステムもその中に含まれていた。


 そのメッセージが出続けている限り、ギルド長の体力が減り続ける。メッセージが出るタイミングごとにだ。


 そして体力がゼロになって、気絶したら――どうなるか?


 学祭で遊びだったら問題ない。気絶から回復して「あぁ面白かった」と言いながら学祭の幕をおろして終わるだけだ。


 だが、この状況では――


 気絶した状態でハンスや魔王リナに捕まり、強烈な尋問が行われることだろう。


 ハンスはサウスフィールドの暗部の人間だ。おそらく自殺することも許されない完全な地獄を作るに違いない。


 そう、愛する人を殺そうとしたニンゲンに暗部が容赦などするだろうか?


「く、くそったれ――」


 ギルド長は悪態をつく。


 自身が生き残るにはリングに戻り、あの小娘を倒さなければいけない。


 そして絶望的なことに、そこにはハンスや魔王リナもいるのである――


(くそ……、やつは――やつは幼女の皮を被った運営(ばけもの)だ――)


 結局ギルド長はリングにたどり着くことは叶わず、ついにHPが切れたギルド長は気絶する。



 彼が捕まりハンスによる拷問の激しい赤い雨が振るのに、さして時間は掛からなかった――



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