勝負下着
ブラックロータスにとってラララは親友であり、乙女ゲーム中屈指のお助けキャラであった。
乙女ゲームであったときは彼女がセーブポイントの役割を有しており、イベントが進むにつれていろいろなアイテムをくれるのだ。
今日も今日とてそのラララは同室の寮の部屋から《扉》を抜けて、そして数時間後に戻ってくるといろいろなアイテムを持って来てくれる。
それらの多くは、実は国王からの支給品である。
お助けキャラとしてラララが代わりに運んでくる役を担っているのだ。
直接国王がブラックロータスに手渡してしまうと、いろいろと変な噂が立ってしまうのを考慮してのことであろう。たぶん。
「それでー、今度王子さまとデートに行くときなんて、黒ちゃんこんな服はどうかしら?」
そういってブラックロータスにラララが手渡してきたのは、異世界のJKさんなどにおなじみの体操服であった。
「いやいやいや。それはないだろう」
思わずブラックロータスはツッコミを入れてしまった。
いくらなんちゃってファンタジーではOKだとしても、現実となった世界で体操服デートはないだろうとブラックロータスは思う。
ブラックロータスが現世にイラストレータとしてのりのりでその姿を描いていたことは、この際棚においておくとしてである。
「え? そうかな? こんなに可愛らしいのに? あっ。そうかぁ! 黒ちゃん身体のラインが見えるのがアウトなのかしら? あぁん。可愛いのに……」
首を傾げるラララの姿は可愛らしかったが、『身体のライン』と言ったあたりでちらりと胸のあたりに視線を向けるのをブラックロータスは見逃さない。
そういう、露骨な視線はやめて欲しい。
思わず胸のあたりを押さえてしまうではないか。
「えー。じゃぁ黒ちゃんこれとか……」
そして次に取り出したのはピンク色でふりふりが多数付いたドレスであった。
可愛らしいことは可愛らしく、デートには最適なのだろうが、しかし少しよれていることにブラックロータスは気づく。
「あ。黒ちゃんやっぱりバレちゃった? あまりに可愛かったので、私一回使ってしまったんだよねー」
(なに。女の子が一度使ったドレスだと……)
ブラックロータスの転生前は男性であるため、どうしても男の子の部分が疼いてしまう。
それで興奮するのは変態だろうか?
「あぁ。それでも良いよ。それでも可愛いし」
「え? いいの? 黒ちゃん。でもほら、ここが押し倒されたときにちょっとビリっといっちゃったから、直してから渡すねぇ。明日のデートには間に合わせるからぁ」
(ん? どいうこと?)
(押し倒された? ビリっと行く? 使用済み――。ラララは婚約者。《扉》から帰ってくるたびに服とか持ってくるけど、なぜか肌がつやつやしていて――)
そこまで考えて。
ブラックロータスは、なぜか世界の理について理解してしまった。
使用済みの意味を明確に理解してしまったのだ。
「あ――、やっぱり要らないかな……」
「そう。やっぱり? じゃぁ、今度は下着なんてどうでしょう? 勝負下着よ!」
(おや?)
何が勝負なのか不明だったが、ブラックロータスは疑問に思う。
いままで渡してきたアイテムは西鳩オフラインの作中に描いた記憶があった。しかし、下着とかは生々し過ぎるためアイテムとしては出さなかったハズだ。なぜにそんなものを手渡してくるのだろう?
「下着って、どのような?」
「ふふん。黒ちゃん。実はこれ、ロングステート公爵家さんからディーエルシーとかいう名前のブランドで新しく出された新着下着なんですよ~」
(ディーエルシー? あぁ、DLCのことか。ダウンロードコンテンツの略称。まさか!)
西鳩オフラインは人気のあるコンテンツであり、ときどきDLCという名前の課金アイテムによってその色どりをさらに向上させようという試みがあった。
要はメーカーの小遣い稼ぎである。
そして、ブラックロータス自身が乙女ゲームのDLCとして描いたものに心当たりがあった。確かに下着ではあるのだが、それは――
「ほら! ブーメランパンツ! それが24オージスも! かっこいいぃぃぃ!」
「それ、私に渡されても困るやつじゃん!」
ブラックロータスは思い切り叫んだ。
ブーメランパンツはDLCとして購入しておくと、海などのイベントで上半身裸の攻略対象キャラがその真っ黒なブーメランパンツを履いて勇ましく登場してくるアイテムである。決して自分で推しキャラに手渡しするようなものではない。
主要キャラのCVの人は心を無にして「そいや!」とか掛け声をあげていたのが収録中に考え深いエピソードであった。
あぁ、男だけでなく漢も描ける天才絵師の才能が怖い。ブラックロータスは震えた。
たとえ自身がノンケでその手のものが苦手であっても、得意でないとは限らないという良い例だろう。
俺はNLが好きなんだ! BLじゃないんだ!
心の声はむなしく響く。
そのNLの心を全開にして同人誌を即売会で売っていたら、「裏切り者ッ」とか見ず知らずの女性に言われる悲しさほどないだろう。乙女ゲーのメインイラストレータである自分の才能を恨んだことはない。ところで、ちゃんと日にちは3日目の男性向けだったよね。知ってた?
さらに同じ同人仲間の方から「私が描いたんです。先生にもぜひ見て欲しくて」と言われてもらった本がことごとく耽美であったりとか。ブラックロータスに竿を生やすな、竿を!
ごほん。――と、ともかく。ブラックロータスはブーメランパンツを1オージスだけ貰うと、あとは断固として拒否するのであった。
◆ ◆ ◆ ◆
「せやルー!」
「せやろかルー?」
「せやルなぁー!!」
ラララ魔伯国の魔王城の一地域――
そこにはブーメランパンツを履いたルーミートが複数オージスいた。
彼らは偉大なる魔王、ラララ様から頂いた至高のその作品を身に纏い。悦にいっていたのだ。
その日から真っ黒なブーメランパンツはルーミートたちの間でステータスとなり、そのブーメランパンツを履いたルーミートはエリートルーミートの地位をひた走ることになる――
◆ ◆ ◆ ◆
《暴食之魔王たる》魔王ベルは、自身が住んでいる灰かぶり殿の一角で部下の魔物たちであるオークやオーガーたちを集め、一人悦にいっていた。
「は! さすがはニンゲンの国から密輸したご禁制の品よね――」
ロングステート公爵家が立ち上げたディーエルシーブランド。略してDLC。その最高傑作であるFUNDOSHIを、《暴食之魔王たる》魔王ベルは彼らの身に纏わせていたのだ。
「すばらしいです!」
ひらひらとゆらめくFUNDOSHIは、見えそうで見えない絶対的な領域を醸成していた。
オークたちは自慢げにポージングを行っている。
大胸二頭筋が弾けてるのだ。
汗が、光となって輝いた。
きらーん☆
「これで競争を行わせ、ウィニングライブを行わせたら、いったいどうなってしまうんでしょう! もう本当、すばらしぃです!」
オーガーやオークたちが歌って踊れば、その純白はさらに揺れるに違いない。
もしかしたら、めくれることだって――
「よし、四天王が一人! 《趙高由来》馬鹿野郎! お前にはこのオーガーたちにウィニングライブを教えることを命ずる! 存分に活躍するが良い」
「はッ! ありがたき幸せ!」
魔王ベルの後ろに控えていた四天王が一人である馬鹿野郎は感涙の大粒な青い涙を流すのであった――
「あぁ、女騎士をくっころしたときに踊らせるとかどうかしら? すばらしいです!」
「「くぇー!」」
オーガーたちの鳴く、その魔物みちから聞こえてきた喧噪の声はもう無い――




