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その庭師はなぜに学園にいられるのだろうか――

 平民である剣士の男は、用務員同士の打ち合わせの後で、颯爽と現れてご高説を垂れた後に颯爽と去っていった男――ハンスに対して悪態をついていた。


「あの男――、偉そうに時々やってきて演説するだけで、実際なにもしてねぇじゃねぇか。なんだってあんな男が学園にのさばって居続けているのだ――」


 彼は平民であるがゆえに貴族の学園に入学してからもお金に苦労しており、各種のアルバイトに精を出しているのだ。

 その中でも特に受けているのは、今受けている学園の清掃員やメンテナンスの仕事である。

 学園に入ることができる人間というのは職員か生徒に限られており、アルバイトをしてもらえる学生というのは、貴重な戦力として学園側からの支払いが良いのだ。

 貴族の学園であるため、ほとんどの学生は貴族や、裕福な商人の子どもである。アルバイトをするような存在ではない。その意味からも彼は貴重だった。


「ははは。あんなバカでも公爵だからねぇ。しかも国王と仲良しな。おかげで園芸費用は潤沢だし、《庭師》スキルで指示するポイントも正確だ。上司としては悪くはないんじゃないかねぇ」


 笑いながら彼の悪態に答えるのは、清掃員20年のベテランであるおばちゃんだった。


「でもあの男、かたっぱしから女に声を掛けているんですよ? しかも貴族令嬢の――、よく学園はあんなのを放置しているのだか。まさか国王と友達だからといって、その権力を使い――」


「なんだ坊や知らないのかい? あのバカは学生時代からそんなんだよ」


「坊やはやめてください。そんな学生時代からって、学園はなぜそんなのを――」


「あたしからみりゃ学生はみんな坊やだよ。そりゃ――、あのバカは女の子をナンパするときは必ず複数の聴衆がいるときにやるし、するときには必ずイケメンの男がやってきてバカをぶん殴って助けるからだよ」


「まさか――。わざとなのか?」


 吊り橋効果――


 そんな言葉を彼は知っていた。


「えぇもちろん。坊やのような1年生はびっくりするだろうけども、2年生にもなったらあのバカにナンパされるのを恋焦がれるようになるのさ。『あぁ、どんな王子さまが私を助けてくれるんだろう――』てね。ほら。笑えるだろう?」


「それ――、笑えるんですかね?」


「おっ。言っている傍から、ほら始まるよ?」



 おばちゃんが指をさす。


 彼とおばちゃんから少し遠くの学園の歩道に、その歩道を歩く一人の少女がいた。

 緑のリボンがまぶしい一年生の女の子だ。

 長い金髪に華奢な身体つきで、健康そうだが抜けるように白い肌の少女である。

 超絶な美少女といって良いだろう。

 そのシアン(KCN)を思わせる青い瞳には何を映しているのだろうか。


「おぅおぅ。かわい娘ちゃーん! 俺と楽しいところに行こうぜぇぇ――」


 そんな美少女に声を掛けるバカがいる。ものすごいキモい声だ。

 そのバカの名前は――、ハンスと言った。


「あ! ハンスくんじゃなない! うんうん楽しいところ行こう! わたし風俗店に行きたい!」







(ぶーーー)



 彼は思わず吹き出した。

 少女は何ということを言い出すのだろうか。


(なんだそりゃ――。よりにもよって風俗店って……)


 わざわざ自ら風俗店に行きたい女性などいるのだろうか。

 彼の疑問をよそに話は進んでいく。


「あぁ、あそこか――」


 あのバカことハンスは、その風俗店に見当がついているようだった。


(一体それはどこなんだ――)


 彼は興奮しつつも耳を澄ます。

 彼は風俗店で艶めかしい姿をする少女の姿を想像した。


 あの少女にご奉仕されたら、どうなってしまうのだろうか。


「そう、あそこよ! 男性ダンサー陣がパンツ1枚で激しく踊るという噂のあの店よ! 最終的にはリンボーダンスまで! この前リナちゃんと一緒に行ったんだからね!」


 思わずずっこけた。


(なに? 男性ダンサー? 激しく踊る? なんなんだそれは?)


 彼は風俗店で艶めかしい姿をする少女の姿を想像したが、どうやら違うようだった。


「よーし、じゃぁ大量に銅貨を持って突撃しようじゃないか。いざ! 風俗店へ!」


 ハンスは少女を抱き寄せ「少年よ大志を抱け」とばかりに出口を指さした。

 まるで北海道で有名なクラーク博士のようだが、ただし性的な意味である。


「素敵よハンスくん! わたし今度こそ絶対に『ぱおーん』させてやるんだからぁ!」


 少女はどうやらかなり入れ込んでいるようだ。


(ぱ、ぱおーん?)


 その風俗店では、どうやら男性ダンサーが激しくパンツ一丁で踊りまくり、観客がコインをパンツに突っ込むサービスがあるらしい。

 男性ダンサーの腕の見せ所として、いかにパンツにお金を貯め込むか、というものがある。

 そして腕が悪いとパンツがずれてしまい「ぱおーん」という現象が起きてしまうのだ。


 女性陣はそれを見て大いに喜び、さらにお金をツッコむという。


 彼とおばちゃんは、そのバカが美少女を連れ去っていくのを呆然と眺めていた。


「まぁ多少の例外もあるさね……」


 おばちゃんは彼を慰めた。


 だが、彼は見た。

 そのおばちゃんが、ナゾの無料入場チケットを2枚持っているところを――




「ところで――。あれ? 彼は消えた?」


 おばちゃんが興奮気味に彼に話しかけようとしたが、彼はいつの間にか全力で走り去っていた。




 ちなみに「ぱおーん」という現象がいったいどういうものかは暗黒の闇に包まれている。





 ◆    ◆    ◆    ◆





「ぱ、ぱおーんですって! ぱおーんですってよ!」


 ここは聖ピーチ魔王国の一角――

 聖女のピーチ姫は魔王リナからの手紙を握りつぶし、わなわなと震えていた。


「こんな楽しいこと。サウスフィールド王国だけにさせておくわけにはいかないわ! 私たちも作るのよ! この風俗店を!」


「やめてください! ホストに入れ込む聖女とかしゃれになりませんよ! 風評が地に堕ちます!」


 聖女ピーチが今にも国事を発せようとするのを、宰相は全力で止めた。

 宰相は、泣いていた。いろいろな意味で。


「あらあら? 聖女がいる”魔”王国自体ですでに地に落ちているような……」


「あれは『きびだんごう』で懐柔しているという建前があるから良いのです!」


 宰相は真顔だ。


 『きびだんごう』は魔族を束縛する魔法の食材でもなんでもなく、ただ魔王リナの好物であり、単にピーチ姫と友達だから魔王リナは従っているだけというのを知っているのは、国の上層部のごく一部であった。


「しかし『ヘキサゴン詰み』とか、『ピラミッド詰み』とかはまだ分かるんだけど、この『前ストロー詰み』とかはどうやっているのかしら?」


 もちろん男性ダンサー側も簡単に『ぱおーん』しないように対策をしているのだ。

 簡単に『ぱおーん』してしまうと、男性ダンサーの収益にも響くため必死である。




 そのための対策が『詰み』であった。



 パンツのなかでどのような『詰み』をするかはご婦人たちとの共同作業であった。

 ご婦人たちはうまく『詰み』ができるとそれがご婦人方内でのステータスとなり、ご婦人カーストの上位にすら組み込まれることになる。

 その詰み方の一つが、ヘキサゴン詰み、ピラミッド詰み、なのである。さらなる発展形として、スコーン詰み、ち〇こケース詰みなどさまざまな亜種も存在していた。前ストロー詰みとは、その最先端の流行であるケース詰みの一種である。




(しかし『前ストロー』ってそんなに長くしたら、もげちゃわないのかしら?)




 聖女ピーチの想像はたくましく、どこまでも果てしないのであった――


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