ASMR
「ねぇハンスくーん。これ、気持ちいぃ?」
(ここ、俺の自宅だよな……)
どうも! 俺ことハンスだぜ。
そんなこんなで貴族学園の放課後、そろそろ日の光も落ちようというなか。
俺はなぜかラララにひざまくらをされていた。
その理由とは――
「ハンスくーん。ちゃんとお風呂入ったら顔とかちゃんと洗っている? 耳の裏とか? 私がチェックしてあげるんだから――」
だそうである。
だが、それだけが目的なのだろうか。
ラララの手には細長い棒きれがある。
名状しがたい細長い棒切れのは、先端が曲がっておりまるでバールのようなものであった。
その細さはまるで小さいのではあるが。
いわゆるひとつの――、耳かきであった。
その耳かきは無駄に高価なミスリルでできており、ラララの魔力を受けて癒しを示すゲーミングな鈍い緑色を仄かに放っている。
ぐい、ぐい、ぐい。
ラララはその魔力を使い、俺の耳の周りをあるときは強く、あるときは弱く、リズミカルに耳かきの先をぐりぐりと押し当ててきた。
「まずは耳の周りをゆーくり、解しましょうねぇーー」
いわゆる耳つぼマッサージだ。
耳の周りの刺激により、だんだんと気持ち良さが大きくなってくる。
膝枕の膝の柔らかみが頬を撫でる。
その暖かい温もりを感じながら、俺は耳かきによりラララの魔力に包み込まれ、さらには木の実である苦扁桃のような香ばしい香りによって、鼻孔がくすぐられる。
その気持ちよさに目を細めていると、突然、大きな魔力の塊が耳の中に流し込まれた。
(あッ、あッ、あッ)
情けない俺の反応に、くすりとラララの笑い声が聞こえる。
ごり。
ごり。
ごり。
大きな音が耳の中で響く。
これは――。耳かきで耳の垢を取っているのか……。
「ハンスくんの耳中は乾いているから、結構大きな耳垢が取り易いね。でも細かいのは逆にガサガサで取りにくいかもぉ?」
ごりゅ。
ごりゅ。
ごりゅ。
実際は小さな音なのだろうが、俺の耳の中で発せられる音のために非常に大きく感じられる。
やがてその耳かきが引き抜かれると耳が爽快な気分になった気がした。
「ほら、いーっぱい白いの出たねぇ。こんなに大きいよハンスくん。こんなのが入っていたなんて、ハンスくんはいつから耳かきをしていなかったの?」
(確かに大きな)
ラララが見せに来たナゾの白色の塊――耳あかは確かに大きかった。
こんなものが耳の中に入っていたのか。
「なぁ、こんなことしなくても、魔法一発で綺麗にできないのか? 例えばヒーリングとか?」
神聖魔法――初級治癒魔法ヒーリング。
ヒトであれば神官や巫女が使うのが一般的な神聖魔法ではあるが、実際には神力等は必要としない。コツこそあるが純粋な魔力による置換によって誰でも行えるものである。そのため魔王であるラララのような上位の魔族でも習得は可能だ。
もちろん、神であれば基本誰でも使えるものである。そしてラララは主神になったことがあり、俺に至っては実はこの世界の主神であったりする。使えないはずがなかった。
その特徴は――防御や回復に特化しており、攻撃系がないことだ。
「だめだよハンスくん。そんな無粋なこと。それに、こんなに汚い状態で直接ヒーリングなんて耳に入れたら汚い部分まで性徴して大変なことになるわよ」
ほら――
ラララはハンスの耳あかに魔力を込めた。
優しい光――
それは、おそらく治癒魔法<ヒーリング>だろう。
その白い耳あかは魔力を受けて――、うにょうちょと触手のように動き出した。
目の前で動くそれに俺は思わず悲鳴をあげる。
「うわ。なにこれ! こわッ!」
「覚えておいてねハンスくん。そういうことをする時は、衛生系スキルの《クリンリネス》とかを先に掛けた方が良いよ」
「《クリンリネス》。庭師クラスでも確か上位スキルであったなそんなのが……」
「そりゃあるでしょうよハンスくん。《クリンリネス》って要するにお掃除系だもの。錬金術師やメイドさん、料理人にまで必須のスキルね。でも――、それってなんだか味気なくない?」
「まぁ、確かに」
「ということで、もっと味のある方法できれいきれいしましょうね。ハンスくぅん」
そういうと、ラララは俺の頭を手でがっちりと固定する。
さらさらとラララの長い金髪が俺の頭にかかった。
そして手を動かす。
俺の頭の上で強い魔力を感じる。
いったい何をするつもりだろうか。
分かり切っている。耳かきの続きだ――
くちゅッ。
(うわ。なんだ……)
そのとたん、何かジェルのようなものが固いモノとともに耳に侵入してきた。ラララが耳かきを耳中の奥まで突っ込んできたのだ。
ぞわぞわとした感触が全身に広がっていく。
おそらく細かい耳あかまで取るために、ジェルのような液体を耳かきに付けているのだろう。そう気づくのに俺は数秒かかった。
しかし、その液体は一体どこから――
ラララの赤い唇を想像し、俺は男なのに顔が赤くなっていくのを自身でも感じてしまう。
「ちょっと動かないで。動くとあぶないよ――」
ラララの囁く声もいつも以上に大きく感じる。
耳そばからのささやきだ。距離がゼロなのだ。大きく聞こえるのも当然だろう。
「ねぇハンスくん。気持ちい? 気持ちいなら、どんな風に気持ちいいか具体的に言ってみてよ?」
(恥ずかしすぎて言えるかよ……、そんなの……)
くちゅ。
くっちゅッ。
継続的につづく音は耳の中を蹂躙し、耳の中の耳ツボというツボを適度に刺激していった。
それに対して気持ちが高ぶるのは仕方がないことか。
「ハンスくん自身じゃ中々できないだろうけど、耳かきって他人がやると一番奥までツッコめるから良いよね。ほらぁ。耳かきが一番奥まで届いたよ――」
(ん?)
その動きが急に止まる。
なにかコリコリとしたものに耳かきにあたったようだ。
これはまた大きな耳あかか何かだろうか。
「ふふふーー。これはね。鼓膜ね♪」
ラララは悪戯心を出したようだった。
(まさか……)
「ねぇ。ハンスくぅん。ちょっと鼓膜を破ってみる? 痛気持ちいかもよ?」
「(ちょっとそれはやめてくれ――)」
俺は身体を動かすことができない状態のため、なさけない声を出すことしかできない。
「大丈夫よぉ。ハンスくん。私も一度主神になったことだし、神聖魔法が使えるようになったから、膜の再生だってお手のものなんだから。ほらぁ。ほらぁーー」
「(それのどこが大丈夫なんだ……)」
そう言いながら、ラララは鼓膜の周りを刺激してくる。
俺はなるべく動かないように努めるが、刺激を受けるたびに死にかけの魚のようにぴくぴくと痙攣してしまう。どうもラララにとってそれが面白いらしい。
こりッ。こりッ。
くちゅ。くちゅ。
ぽん。
唐突に耳かきが引き抜かれる。
耳の中を圧迫していたアカがごっそりと抜き取られるような感触は、初めてのものであった。
(終わったか……)
どうやら、膜は守られたようだった。
しかし、安堵したのもつかの間――
「はい。ハンスくん。ふーっ、っと」
最後にラララに耳に息を吹きをかけられる。
(尊い――)
俺はその甘い囁きと暖かさに悶え死んだ。
しかし、それでもなお、その拷問のようなそれともご褒美か何か分からない時間は終わらない。
ラララはさらなる試練を告げた。
「さぁ顔を反対にしましょう! こっち向いてよハンスくん! 逆の耳もこれからいーっぱいしちゃうんだからねッ」
その手には緑色の魔力に光るミスリルの耳かきが――
見上げるといつもより楽しそうなラララの青い瞳が俺を見つめていた。
赤い唇が濡れている――
(まぁこんな日もあっていいか……)
俺は考えることを手放した。
そして今日も夜は闇に更けていく――
某地獄配信を見ていて急に書きたくなりました。
本編とはあまり関係ありません。




