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第二王子は助かる

「いやぁ、本当に助かったよぉ――。キミは命の恩人だ!」


 第二王子は周囲に泡を吹いて倒れ伏せている狼さんたちの群れを見ながら、ブラックロータスに労いの声を掛けていた。


 第二王子のその目はきらきらしており、いかにも乙女ゲーの王道主人公然としていた。


 ここはサウスフィールドの御所裏にある(もり)の一地域である。


 その(もり)のブラックロータスの自宅を複数の狼さんたちが襲ったのだ。

 正確にはそのブラックロータスの家を訪問しようとした第二王子をも襲っている。


 その狼さんたちの目は血走っており、正気ではない。


 しかも狼さんたちは大型で、薬物を盛られて大型化している。この地域には存在していない生き物だ。まるでブラックロータスや第二王子を襲撃するために、どこかからこの(もり)へ連れてきたとしか思えないものであった。


 そしてその襲ってくる理由を、乙女ゲームのイラストレータ兼メインヒロインのCVの前世を持つブラックロータスは知っていた。


 乙女ゲームの知識では、第一王子の母親が、毒リンゴでブラックロータスを殺すことが出来なかった場合の保険のため、ブラックロータスを保護する7人のドワークもろとも亡き者としようとするための陰謀として狼さんを寄こしたのだ。

 その第一王子の母親は、王族の関係者であるブラックロータスをミラーの魔道具によって知り、新たな政敵となりそうな人物として排除しようとしてきているのだ。


 そこに同様にブラックロータスのことを知った物見遊山な第二王子がやってきて、狼さんたちに襲われ同時に死ぬ―、というのがこのルートの初期の代表的なバットエンドである。



 もちろん回避手段は存在する。

 そこで乙女ゲーがバットエンドで詰んだらさすがに避難轟轟となるだろう。


 そう、ブラックロータスは手にしていた毒リンゴを食べようとして、しかし、7人のドワーフたちと一緒に食べようと包丁で斬りつけ、うさぎさんの形を形成するのだ。

 そして狼さんたちが現れた時、びっくりした拍子にそのウサギ型に剥いた毒リンゴを狼さんたちに投げるのである。





 ぽいぽいぽい。





 ブラックロータスがそのうさぎ型の毒リングを投げると、あら不思議。狼さんたちはつられて毒リンゴを追いかる。その姿はご主人さまにボールを投げられた犬のようである。


 だが犬ころと違うのは、狼さんはその毒リンゴを食べて、泡を吹いて即死するところだろうか。


 たくさんの狼さんたちの口からは血に混じった黒い泡を吐き出して倒れている。

 まるで、トウガラシエキスで著しくからく着味され、黒色に着色された硝酸タリウムを飲んだヒトのような苦しみっぷりだ。


 つまり、毒を持って狼さんたちを制するというのが正しい攻略ルートなのである。


(しかしウサギ型に毒リンゴを剥くって、狼さんが現れなかったら7人のドワーフさんが食って即死とか、非道な状況になっていたよな……)


 あと一歩遅れれば、毒リンゴを食べて7人のドワーフもろともブラックロータスは死亡、第二王子も狼さんにヤられていたことだろう。タイミングは重要な要素であるのだ。


「――それでどうだろう? そんなに美しいのであれば、ぜひとも我が国の学園に通ってはみないかね。もしかすると貴族の男性に玉の輿ができるかもしれないぞ。そうだ! お金は国から出そう。君は我が命の恩人だ。そうだ、きっとそうだ。ぜひともそうするのが良いであろう」


 第二王子はブラックロータスが恩人となってきたことで、こんなことを言ってきた。

 強引すぎるお誘いである。


 これが乙女ゲームであれば多少強引であってもまぁシナリオの強制力かと思ってスルーしてしまうところだが、現実ともなるとかなりの違和感は拭えない。


 この世界ではシナリオの強制力が働く場合がある――、ということは注意しなければならない点だと、ブラックロータスは改めて思った。



(もしかして、この世界には《どくしゃー》とかがいて、この物語のクソシナリオを見て笑っているのかもね)



 そう思わずにはいられないほどの強制力だろう。



 実際としては、第二王子がブラックロータスのことを王族の関係者だと知っているからこそ、強引に貴族の学園に誘おうとしているわけだが。

 第二王子は国王から情報を受けてこの場所にやってきたのだ。そうでもなければこんなところに来る理由がない。


「そうね、それも良いかもしれないわね」


「おぉそうか。それでは手続きにおいてはこちらでしておこう。なぁに問題ない(ブラックロータスのことは国王からして知っているからな。手続きは暗部が頑張ってくれるだろう)」


 そういってブラックロータスの元を第二王子は去っていった。


「次はイケメンの騎士団長が迎えに来てくれて、推しの商人君と次の日学園と出会う訳ね……」


 シナリオの強制力によって、シナリオ通りに事が進行するとなるとブラックロータスは困ったことになると知っている。

 ブラックロータスは男とハッピーエンドを迎えたくなかったのだ。


(だって、最終的に死なないハッピーエンドとなると、私、男と結ばれることになるんだよね。でも私の中身って男だから。これってBL展開なのかしら? でも外見の身体は女だから意外とNLでいける? いやいや……)


 ブラックロータスの前世である中身は男であり、男と寝るなんて結局ホモじゃん。

 

――と、考えるのは自然の流れだろう。



 従ってストーリーのどこかで、シナリオに打ち勝つ必要があると考える。



 しかしストーリー上の変な箇所で逸脱するとすぐに死ぬだろう。

 なにしろ死にゲーの側面を持つこのゲームだ。いつ何時死ぬか分からない。

 そして、シナリオに打ち勝つにしてもアイデアが不足している。なぜなら自身がイラスト提供をした関係上、この作品はアイデア出しもブレーンストーミングで協力して出し合って作っているのだ。

 そのため既存のシナリオネタはすでに思いついていて、逸脱した場合の想定などというのも話あったりしていた。

 したがって、ブラックロータスが簡単に思いつくような逸脱の仕方はすでにシナリオ想定ができており、ほぼ死ぬことが確定している。

 だからシナリオに打ち勝つためには、過去の自分が思い浮かばなかった新たなネタを思い浮かべて実行しなければならない。


 それがどれだけ難しいことか――






 夕暮れの進む御所裏の(もり)は、闇に包まれようとしていた―

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