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一方そのころ、勇者は盛大にざまぁされていた――



 完全に忘れている方も多いと思うが、サウスフィールド王国の第一王子は、勇者である。




 彼はあの庭師ハンスを勇者パーティから追放したことで知られている。


 その勇者は冒険者ギルドの酒場にて、今まさに「ざまぁ」されようとしていた。


「ふふふ。わたくし、勇者パーティを抜けさせていただきますわぁ」


「なぜだ。女魔法使い! お前は我が勇者パーティの攻撃の要だというのに――」


「だから言ったでしょう? 『痛い目を見ればいいのよ』って。ようやく宮廷魔術師会から許可が下りて勇者パーティから抜けられるわ。引継ぎはやっておくから、まだ魔法使いが必要であれば宮廷魔術師会か、魔術師のギルドにでも頼むがいいのよ。でもいるのかしら、ねぇ?」


 勇者は女魔法使いの『痛い目を見ればいいのよ』のセリフに聞き覚えがあった。

 それは、あのいまいましいおっさん、ハンスを勇者パーティから追放した時だ。


「なぜだ。あのおっさんの方が良いとお前はいうのか!」


 女魔法使いは何も知らない勇者を嘲笑(あざわら)った。


「なんだ知らないのぉ? そう。知らないのであれば教えないわ。情報収集の担当もハンスくんの範疇だったからね。情報が足りないのは、追放した貴方の責任ではないかしら?」



(おい、ちょっと待て――)



 勇者がそういうのが速いか、女魔法使いと勇者の間を挟むように立ちはだかる者達がいた。


 それは、聖女の教団にいる武闘家たちであった。

 その中心には、当然のように勇者パーティの一人で”あった”聖女の姿がある。


「なんだお前らは――」


 勇者が武闘家たちにいらだちの声をあげるのを咎めるように、その中心から現れた聖女が勇者に立ち向かう。


「本日はお別れを告げに来ました――」


「聖女ブルータス! おまえもか!」


 どこか見下した表情の聖女ブルータスを、勇者は初めて見た。

 いつも朗らかに笑っているはずの聖女とは違い、それは侮蔑の表情といっても良いだろう。


 なぜそんな顔を勇者に見せるのだろうか?


「私は水神ウィンディーネに仕える聖女として、お別れと共に勇者に神託を告げさせていただきます」


「神託――、一体何を――」


「今こそ我が水神の言葉(のりと)を告げる――。『勇者ざまぁ~』以上です」


(は?? な、何を言っているのだ――)


 返答を聞かずに踵を返す聖女を呆然と見つめる勇者には、一体何が起きているのかさっぱり分からなかった。聖女を勇者が見る目は、まるでゴミを見るようであった。


 勇者は思う。


 勇者パーティからおっさんをただ一人追放しただけで、なぜここまでされなければならいのだろうかと。


 これで勇者パーティで残るのは勇者本人を除けば女騎士ただ一人である。


 振り向いたその先にいた女騎士は、ここが出番とばかり立ち上がる――




(まさか――、お前までもか――)




「やっとわたくしの番ですわね勇者様。わたくしも勇者パーティを抜けさせていただきますわ」


「な、なぜだ。なぜなんだ――。残れよ女騎士!」


「ムリですわね。お父様から召喚令状(あかがみ)が来ておりますもの」


「だからなぜ――」


「これだから勇者は――、まぁいいでしょう。ほとほと愛想が付きましたが、ヒントくらいは差し上げましょうか。国王のひも付きであったあの庭師を勇者パーティから追放したでしょう? 国王は当然かんかんな訳よ? そこまでは分かりまして?」


「?? それがどうしたというのだ。俺は国王の第一王子だぞ? 国王が怒ったところで――」


「これだから――。少しは情報というものを大事にした方が良いわよ。それではごきげんよぉ勇者さま。あー、くこっろとか言わされなくて本当によかったわ」


 一人残された勇者。


 その周りの冒険者たちは勇者と顔を合わせようとしない。

 もともと傲慢な振る舞いが目立つ勇者である。

 冒険者たちにとって、勇者は狂犬と同じにしか見えなかった。


 その狂犬が怒りに震えているのだ。

 近寄ることさえも憚れることだろう。


 さらに言えば、冒険者たちにとって花のある女たちがいない勇者パーティなど見る影もないのだ。

 誰も彼も振り返って見ていた勇者パーティは、女性陣がそこにいてこその勇者パーティだったのだ。



 寒々とした白々しい空気が、勇者を包み込んだ――



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