めでたく二階級特進しました
サウスフィールド王国王都キョーの都、王宮大広間――
一同に貴族たちが集まるなか、俺は広間の中心に立っていた。
その正面には王座に国王が踏ん反りかえっている。
大広間は他人数で舞踏会ができるほど大きなフロアであり、また論功行賞を行うための場としてもよく利用されている。
そんな場には王座から一直線に赤い絨毯が惹かれ、その中央に俺はいる。
その赤い絨毯に添うように周囲を王国に従う貴族の面々が一列に並んでいる。
「あぁ――、国王さま。助けてください! 吾輩、勇者パーティから追放されましてぇ~」
情けない声で道化のようなポーズを決める俺の一人称は「吾輩」である。
そう「吾輩」なのである!
吾輩って、対貴族用の敬語なのだろうか?
語尾は「~~ですぞぉ」とか言いそうな勢いで、ワインとか持っていれば完璧だろうか。ちーん。
いかにも滑稽。これが貴族としての俺の処世術というものであった。
「おぉ。それは可哀そうに。まさかまさか、我が学友がそんな目にあっているとは――」
国王は悲しそうに言うが目は笑っていない。
「ぶっちゃけますとですな! 吾輩。勇者パーティから追放されますと、そのぉ~。お金がなくなりましてなーー。その~。仕事が欲しいのですぞぉ!」
いかにも悲しそうに俺は国王の様子を伺う。
周囲の貴族たちはその滑稽な様子に薄笑い声を浮かべた。
その笑い声が、嘲笑が、手に取るように聞こえてきそうだ。
「うんうん。その金に困っている姿! 手に取るように分かるぞ。我が学友よ! どうせ学生時代と同じく馬鹿なことをしておるのだろう。女に入れあげているとか、勇者の女に手を出したとか」
「はいさようで! あ、いや! さすがに勇者の女には手を出してはおりませんがッ」
そんな情けない俺にくすくすと声をあげる貴族たち。
(あぁー。なんて情けない姿をさらす俺! 演技がうまくてかっこいい!)
そんな貴族たちは裏腹に、俺は内心で喜んでいた。
これが完全に茶番であることを彼らは知らない。
「我が息子とはいえ、勇者はお前のような男を使えないとは実に情けない! では勇者パーティからの追放されたハンスのために――、お前を2階級特進させ、伯爵の地位に付けてやろうではないか!」
国王が伯爵の地位を俺に渡すと聞いて、周囲からはどよめきがあがった。
さすがに2階級特進ともなると、そんな国王と俺の小芝居を止める男が出てくるのは当然だろうか。
「そ、それはお待ちを――」
汗を掻きながら宰相の男がストップをかける。
「さすがに伯爵というのはありえないかと。いくら国王さまのご友人とはいえ、ものには限度というものがありますぞ! 第一、伯爵ともなれば土地を与えねばなりません。そんな土地が一体どこにあるのでしょうか――」
ちなみに、宰相もこの茶番の一員であり、グルであった。
中々に演技がうまい。
「土地ならばあるではないか――、我が国の南の大陸――。我らが祖先が滅ぼした魔王が住んでいたという土地が――」
「まさか! それは――」
周囲のひそひそとした声のボルテージはどんどんと高まっていく。
「(ひそひそ)まさかそれは、南にあるという大陸、旧南部魔王の地か――」
「(ひそひそ)あぁ、旧南部魔王といえばルーミートやラーミートと言ったか。そんな屈強な魔物が住む前人未踏の秘境だろう?」
「(ひそひそ)ルーミートとラーミートのほかに、キウィフルーツとかいう魔物もいるらしい。なんでもキゥィーとか鳴くとか。いや、ほーほけきょ、だったか?」
「(ひそひそ)あなおそろしや――」
「(ひそひそ)可愛そうに。実質島流しみたいなものじゃないか……」
もはやひそんでいない。
そんながやがやした喧噪を、宰相は止めた。
「静まれ! 静まらんか――」
その一言で大広間は一瞬にして静寂する。
貴族たちは訓練されていた。
俺は無駄に汗を流すふりをしつつ国王に問いかける。
いや、実際に冷や汗を流していた。
ちなみにその冷や汗の正体は――手品である。
「それは――、まさか! 伝説の旧南部魔王国のことですか――」
「そのまさかだ! ハンスにはそこに行ってもらうではないか!」
俺はまるでそれを嫌がるように、国王に訴えかけた。
「そんなぁ! そんな場所に行くにしても旅費がそもそも――」
「うむ。ならば当分、貴族学園の庭師でもやって路銀でも稼ぐが良いだろう。確かハンス、お前のクラスは《庭師》であったか――」
「ははー。吾輩のクラスは《庭師》ですぞ! ですが!」
「えぇい。これは決定事項だ。黙りなさい! 宰相もそれでいいな――」
目力を込めて周囲を見渡す国王に、周りの貴族から反論は上がらない。
確かに二階級特進は破格だ。まるで殉職した軍人のようだ。
だがそれと引き換えに島流しのような真似をされるのだ。
下手に反論して巻き込まれるのは面白くないだろう。
例えば、そんなに気に掛かるなら監視役としてお前も一緒に行けとか。
「まぁ儂もそこまで鬼畜ではない。今回は勇者パーティを追放されて引退するようなもの――。そろそろお前も身を固めてはどうだろうか?」
「は? 吾輩にはそのぉ――」
(あのぉ、それ聞いてないのだけれど……)
突然国王からのアドリブが行われて俺はびっくりする。
引退ついでに貴族の娘と結婚する。
よくあるストーリーではあるが、そんなことがラララに知れたら何が起こるだろうか?
俺がラララの他に新たな女性と結婚なんてしたら、俺はラララの手によって世界が滅亡しても驚かない自信があった。
「なんだ乗り気ではないのか? そういえば宰相――、お前の娘は年頃で美女の誉れ高いと聞くが――」
「いやいやいや。ご冗談でしょう?」
宰相は滝のような汗を流しながらも断りの言葉を返した。
どうやら、宰相も知らない内容のようだった。
「ははは。宰相でも断るか。では――。他にはいないかね? 引退するハンスに妙齢の娘を差し出したい家は?」
国王は周囲を見渡す。
周囲の貴族たちはみな目を逸らした。
それはそうだろう。大事な娘さんがこんな島流しにされそうな道化に取られたら堪らない。
よく見ると国王は吹き出しそうな顔をしている。
まるで学生時代に戻ったかのように愉悦を感じているようだ。
俺はここぞとばかり、好きな娘がいますアピールをしてみた。
「――いいえ国王様! 吾輩の嫁は自分で見つけてこようと思います。適当に平民の娘でも見繕いましょうぞ!」
ラララは平民の娘と言ってしまって良いかは多少疑問の余地もあるが、魔王であったとしても平民には違いないだろう。少なくともこの国では。
「うむ。それは手間が省けるな。ガッツのない腰抜けの貴族の娘どもよりはよほど余ほど良いか。それではお前が好きなその娘を、卒業後は我が養女の扱いにしてお前の学園庭師就任と同時に学園に放り込むようにしよう。卒業後はお前の奥さんに確定だ! その娘も喜ぶに違いない」
「ちょ、それは――」
貴族達が国王の言葉に再び騒ぐ。
それを国王は一睨みで黙らせた。
「なんだ? 代わりにお前の娘を献上するとでもいうのか? それとも養女とするか? すさがに伯爵の嫁が平民のままではまずかろう」
「いえ、それは――」
やはり周囲の貴族たちはみな目を逸らした。
ここで意見をすることは、俺に娘を差し出す、または、ハンスの一族として取り込まれる意味と同じことだ、と言うことを周囲の貴族たちは素早く理解したのである。
「ふむ。楽しいぞ。楽しいぞハンス! さぁ、皆の者も我が国に新たな伯国ができることを祝うが良い――。名はハンス、お前が適当に考えておけ――」
「では――、ラララ伯国などは如何でしょうか?」
俺は悪乗りした。
ラララの名を関する伯爵国であればラララも異存はないだろう。
「ほほう。南部魔王国の滅んだ魔王の名前を選ぶか! ならばラララ魔伯国とかの方が良くないか? 宰相――。その名で各国に適当に触れ回れ」
「はは――」
周囲から嘲笑とともに、乾いた拍手が俺のもとに舞い降りた。
(伯爵なのに庭師とか――)
(あいつ、島流しされてんのに喜んでいるよ。バカじゃね?)
(でもこれって結局、平民の娘と結婚したいからの国王とハンスの茶番じゃないのか?)
(そうだとしても島流しはねーだろ……)
そんな声が聞こえるようだ。
――だからどうしたというのだろうか。
こちらとしては完全に計画通りである。
ラララが嫁として公に付いてきたのなら完璧だ。
だが、ハンスがラララ魔伯国襲名することについては周辺各国から様々な反応があるのであった――




