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都を追われて、ひとり旅 (ただしネコもいます)  作者: 新 星緒


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3/9

追っ手?

 城を出て三日目。ネコはまだついて来る。仕方ないから小さい皿を二枚、水用とエサ用を買ってやった。こいつの賢さは本物で、宿屋や飯屋にいるときはひと声も鳴かずにおとなしくしている。手はまったくかからない。人間と旅をするより余程ラクだ。


 今日も日差しは強い。昼飯をとってからだいぶ経ち、喉が乾く。進んでいるのは街道だがこの辺りは田園地帯らしく、ろくな日陰もない。

 申し訳程度に糸杉が生えているところを見つけ馬から降りると、手綱を木に結んだ。

 細い日陰に入り背嚢を下ろす。口を開けるとすぐにネコが顔を出した。皿に水筒から水を入れてやり、俺も喉に流し込む。

 木の根本に座り、

「ちょっと休憩だ」

 と言えば、水を飲み終えたネコは俺の周りを歩き始めた。すぐに蝶を見つけ、追いかけていく。

「遠くに行くなよ」

 そう言ってから、はたと気づく。別にネコが帰ってこなくても構わないはずだ。


 俺は糸杉にもたれて目をつむった。

 いわれのない罪で責められたとき、俺の言葉を信じてくれるヤツはひとりもいなかった。仲間にも、上司にも。

 俺を囲む蔑んだ目。

 俺はあんな目を向けらるような男じゃない。なのに何で、誰も分かってくれないんだ──。


 馬の蹄の音が聞こえる。二頭。駆けている。目を開き、自分の馬が邪魔にならにいことを確認すると再び目をつむった。

 だがいくらもしないうちに、二頭の馬は俺のそばで止まった。

 なんだと思ったのと同時に

「マテウス・ホーファー」

 と名前を呼ばれる。

 目を開くと、近衛のヒラ隊員がふたり馬上から俺を見下ろしていた。どう見ても友好的な雰囲気ではない。


「貴様、ひとりか」とひとりが訊く。

 貴様? つい先日までは俺のほうが階級が上だったのに、『貴様』だと?

 屈辱に震えながら

「そうだが」

 と声を絞り出す。

「本当か」

「この状況でどうやったら複数に見える」

「荷物を確認する。中身を全て並べろ」

「何だと?」

「さっさとしろ。これは王命だ」

 それなら勅令を見せろよと思ったが、ごねるだけ無駄なのは分かっていた。そんなものがなくとも近衛が『王命だ』の一言を口にすれば、全てはそうなるのだ。俺だって何度となくその魔法の言葉を使ってきた。

 もしかしたらこいつらはネコを探しに来たのかもしれない。城ではおネコ様なんて呼ばれて大切にされていたぐらいだ。しかもあいつは賢いし美ネコだし、王族の誰かが可愛がっていたってこともありうる。

 それともネコもまた、俺をはめる罠だったのだろうか。


 もうどうにでもなれという気持ちで立ち上がり、馬の腰に下げた小さな荷を下ろして中身を出す。全て衣服だ。次に背嚢。こちらにも衣服。タオル。水筒。赴任先の部隊長に渡す書状の入った木箱。それから二枚の皿。


「この皿はなんだ」

「野良猫用」

 そう答えると近衛はバカにしたような笑みを浮かべた。ということは、あいつを探しに来たのではないらしい。

「本当にひとりか」と近衛が呟く。

「何なんだ一体」

 するとふたりは顔を合わせた。

「……第七王女ビアンカ殿下が行方不明だ」

「本当か!」

「てっきりお前が誘拐したのかと思って追って来た。目撃された最後は、お前が城を出た前の日の夜なのだ」

 ひとりがそう言い、もうひとりは懐から水晶の珠を出しそれに向かって

「ホーファー確認。ひとりきりです。姫の姿、痕跡なし。帰還します」と報告をした。

「もし情報を掴んだら即刻連絡をしろ。いいな」

 近衛たちはそう言い捨てると、来た道を戻って行った。


 腸は煮えくり返るように熱い。反吐を吐きそうな気分で道端に広げた荷物を拾う。


 だが──あのビアンカが行方不明なのか。


 彼女は国王の十一人の子の中で、唯一王妃が生んだ子ではない。母親はメイドで、ビアンカを生んだことで王妃に虐げられたため、娘を置いて城を出ていったという。

 そんな彼女は着るものは姉たちのお下がりだし、公式行事以外の催し物に呼ばれることもない。王妃や姉たちにはバカにされてばかりで、侍女たちにまで軽んじられている。


 それでも最近、外国の王子との婚約が決まり輿入れ準備を始めたところのはずだ。それが行方不明とはどういうことなんだ。


「ミャア」


 はっとして顔を上げると、いつの間に戻ってきたのかネコが正面に座り俺を見つめていた。脇の下を掴み、持ち上げる。ぶらりと伸びる長い肢体。

「お前はメスだよな。案外ビアンカだったりして」

 ネコはまん丸な目で俺を見ている。

「呪われてネコになった姫君。だとしても俺について来る理由がないな」


 ビアンカと話したことはある。たった一回だけ。

 無事にみつかってほしいと思う程度には、悪い印象のない姫だった。


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