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第96話 初めてのシュトレイマン派閥会合


 わたくしは放課後、シュトレイマン派閥のお茶会を主宰することになりましたの。


 食堂のテラス席では1年生から3年生までの令嬢14名が一同に会しています。だけど王都の社交界に比べれば気は楽ですね。王都ではわたくしは性格のキツい悪役令嬢として、色々と噂の絶えない嫌われ者でしたから。


 この学園ではそうならないよう、最初が肝心です。




「本日は皆様お集まりいただき、ありがとうございます。わたくし、クロリーネ・ジルバリンクでございます。入学手続の際には皆様に歓迎いただきましたが、本日はそのお礼を兼ねまして、私のお茶会にご招待させていただきました。皆様、楽しんでいってくださいませ」


 うん、普通に挨拶ができたわね。


 こう言っておけば、後は適当に会話が始まって、わたくしはそれにうなずいていればいいはずです。




 そんなことより、新入生歓迎ダンジョンの時のアゾート先輩を見てからというものの、わたくしの心はとてもまずいことになってます。


 わたくしはアルゴ様の婚約者だというのに、アゾート先輩のことを片時も忘れられなくなってしまいましたの。


 だって先輩は、普段からわたくしに優しく接してくれて、その度にきゅんきゅんさせられてましたのに、あのダンジョンでの先輩は、別の一面をお見せになられました。


 魔獣相手に熱心に魔法の研究をされていたかと思えば、わたくしの魔法を手取り足取り指導していただきました。教え方も分かりやすくて、複合魔法をお考えになられるほどの天才魔導士。



 そして何より、ダンジョンボス戦での先輩のあの強さ! 魔力もスピードも別格です。


 パーティーメンバーに的確に指示するリーダーシップと明晰な頭脳、瞬時の判断力。コンビネーションプレイの企画能力も他に類を見ない優秀さ。



 素敵すぎます。



 もうわたくしどうすればいいのでしょうか。アゾート先輩のことを考えるだけで、胸の鼓動がなりやみません。


 ・・・これが恋・・・なのでしょうか。


 でもそれは許されないの。


 私にはアルゴ様という婚約者がすでにいる身。


 アルゴ様は年下で食べ物の好き嫌いがあったり、子供っぽいところがありますが、根は真面目な男の子。わたくしのこの性格のキツさにも、我慢して付き合っていただいています。さすが先輩の弟です。


 だからアルゴ様のためにも、アゾート先輩への想いは絶対に封印しなくてはなりません。


 そう、わかってはいるのです。でもアゾート先輩のことが・・・。





「あのぉ、クロリーネ様。みんながクロリーネ様のお言葉をお待ちしておりますが」


「へ?」


「アウレウス派閥への反撃作戦を考えておくと、前回の会合でおっしゃられてましたので、みんな期待しているのでございます」


 この方は確か、3年生のローラ・カルディナ子爵令嬢。この学園におけるシュトレイマン派閥の中心人物みたいですね。


 この方に嫌われないように頑張りましょう。


「そ、そ、そうでしたわね。アウレウス派閥への反撃は確かに重要ですわね」


 どうしましょう・・・何も考えてませんでした。


「でもわたくしの作戦は、その、最後にさせていただいてよろしいでしょうか・・・」


 時間を稼いでそのうちに何か考えないと。


 皆様のご機嫌を損ねて、また嫌われものにはなりたくないですから。



「わかりました、それでは私の方から一つ。食堂の座席を元のように身分で差を設けるというのはいかがでしょうか。上位貴族と騎士爵をキチンと区別して、王国貴族社会の仕組みを理解させるのです」


「・・・それがなぜアウレウス派閥への反撃になるのですか?」


「つい最近まで、食堂は身分ごとに座る席が決められておりましたが、アウレウス派に乗っ取られた現生徒会が席を自由にしてしまったからです」


「なるほど。であれば、生徒会をシュトレイマン派閥が乗っ取れば変更できますね。来年の生徒会選挙を頑張りましょう」


「それでは遅すぎます」




 ローラ様が次のアイディアを提案する。


「では、生徒会に新しくできた顧問とかプロデューサーといった変な役職をなくしてはどうでしょうか。これでアウレウス派閥のポストが2つ減ります」


「でもそれをすると、同じようにシュトレイマン派閥が持っている二等兵というポストもなくなってしまうのではないでしょうか」


 わたくしが疑問を投げ掛ける。


「クロリーネ様、二等兵だけ残すように頑張るというのはどうでしょう」


「そもそも二等兵とはどういう役職なのですか」


「わたくしにもわかりません。ですが、卒業パーティーで生徒会長の代わりに司会をしていたので、きっと重要ポストなのでしょう」



 本当にそうなのでしょうか。


 わたくしにはよくわからないので、生徒会副会長のパーラ様の意見を聞きましょう。


「パーラ様からは今のお話について何か意見はございますか。あるいはアウレウス派閥への反撃作戦でも構いませんが」


「はい、クロリーネ様。実はわたくしの教室の隣の席がダン様になったのです」


「・・・・・」


「・・・・・」


「・・・それだけですか?」


「はい。わたくし嬉しくって、毎日学園に行くのが楽しみなんですよ」


「その気持ちはとてもわかりますが、それがアウレウス派閥への反撃になるのでしょうか?」


「なぜアウレウス派閥へ反撃する必要があるのですか?」


「・・・それは、わたくしに聞かれてもわかりません」


 パーラ様の言うとおり、なんでわたくしがアウレウス派閥への反撃作戦を考える必要があるのでしょうか。


 しかしローラ様は違うらしい。



「そ、それではフリュオリーネを元の3年上級クラスに戻すよう学園に相談するのはいかがでしょうか」


「それがどうして、アウレウス派閥への反撃になるのですか?」


「生徒会長選挙でわたくしに恥をかかせたフリュオリーネが幸せそうにしているのを邪魔して差し上げるのです。彼女は平民に落ちたはいえ、今でも派閥の中心で影響力を振るっております。元のクラスに戻すことでわたくしが彼女をイビり倒し、結果的にそれがアウレウス派閥へのダメージとなるはずなのです」


「ローラ様。それを言ってしまえば、2年の上級貴族がこぞって騎士クラスBにいるのも変ですよね。ついでに元に戻されてしまうのではないでしょうか」


 わたくしが反論すると、急にパーラ様が立ち上がって、


「そんなことをしたらダン様と席が離れてしまうじゃないの! わたくしは、絶対に認めません」


 パーラ様の目が黒くなると同時に、同じ2年生の令嬢が慌ててパーラ様に同調して、ローラ様を止めた。


「そ、そんなのダメです。パーラ様を怒らせるととても恐ろしいことになるので、ローラ様は不用意な発言をお控えください」


「そ、そ、そうね。この案は取り消します。あ、そうだ。クロリーネ様はどうして、フリュオリーネと毎朝登校なさっているのでしょうか」


 ローラ様が怯えるように話題を変えて、急にわたくしの話になる。


 上級生の皆様の顔が青ざめてますが、パーラ様が怒ると何かあるのでしょうか?


 まあいいわ。わたくしへの質問でしたわね。



「ローラ様。わたくしはフリュオリーネ様と登校しているのではありません。アゾート先輩と登校すると、彼女も一緒にくっついてきているだけです」


「そういえば、いつも真ん中にアゾートPがいますね。でもアゾートPはフリュオリーネの婚約者のはず。なぜクロリーネ様が一緒に登校されるのですか」


「そ、それは・・・」


 婚約がこれで3度目のわたくしに対し、お父様からはアルゴ様との婚約はまだ公にしない方がいいと言われています。


 だから将来の義兄として、アゾート先輩がわたくしの保護者になってることも言えないし、どうしましょう。



「アゾート先輩は・・・魔法協会の特別研究員に就任されています。・・・つまりお父様の部下です・・・だから、その・・・登校時にわたくしの護衛をしていただいています」


 ちょっと苦しい言い訳ですが、これしか思いつきませんでした。しかしローラ様は納得の笑みを浮かべて、


「なるほど! ジルバリンク侯爵はアゾートPを高く評価しておられると・・・だから侯爵は、アゾートPをシュトレイマン派へ引き抜こうとしておられるのですね」


「お父様がですか? 確かにアゾート先輩のことで、アウレウス伯爵とよく言い争いをしているとは、おっしゃってましたが」


「それで間違いございません。侯爵はアゾートP、いえアゾート様とクロリーネ様のご婚約を望まれているのです。つまりフリュオリーネからアゾート様を奪えと」


「こ、こ、こ、こ、婚約?!」


「はいそうです。クロリーネ様がわざわざこの学園に通われている理由は、それしか考えられません。であれば我々の作戦はただ一つ。クロリーネ様とアゾート様をくっ付けることです。そうすれば、フリュオリーネへの嫌がらせにもなりますし、婚約解消まで追い落とせるかもしれません」


 ま、まずいですわ。


 話が変な方向に進んでしまって、すでにアゾート先輩の弟と婚約していると言えなくなってしまいましたわ。


 どうしましょう・・・先輩助けて~






 放課後俺は、ニコラと生徒会の雑用をしていた。


「ニコラ。お前まさかAAA団に入ってないよな」


「入ってませんよ。確かにマール派として、彼らの気持ちは痛いほどよくわかりますが、さすがにアゾート様を裏切れません」


「お前マール派だったのか。てっきりセレーネ派だとばかり」


「最初はそうだったのですが、あの魔法少女のコスプレが効きましたね」


「わかる! あれはいろいろとやばかったよな。俺もマール派に入ろうかな・・・いやいや、セレーネ一筋の俺が何を言っているんだ」


「フリュオリーネ派じゃないのですか?」


「フリュは婚約者ではあるが、あの派閥はちょっとな。お前、ドMしかいない派閥に入りたいか?」


「あ~、それは嫌ですね」


「ところでお前、ひょっとしてアネット派も兼ねてないか?」


「ギクッ。アネットもいいとは思いますが、実はサーシャを再評価しているところです。あのコスプレで魅せたクールな中に醸し出される色気がたまりませんね」


「お前はそっち系だったのか。ってあれ? ここは食堂のテラス席だぞ。無駄話をしてたら、来る場所を間違えてしまった・・・あ、クロリーネがいた。ここで何やってるんだ?」


「あ、アゾート先輩っ!」


 クロリーネの他にもたくさんの令嬢たちがいる。どうやらお茶会に紛れ込んだようだ。


「すまん、お茶会か。じゃまだったな」




 俺がそそくさと引き返そうとすると、


「お待ちになって下さいアゾート様。せっかくですので、わたくしたちのお茶会にご参加いただけないでしょうか」


 俺を引き留めたのは、生徒会選挙でフリュとやりあっていた、あの女子生徒だった。


「俺なんかがいたら邪魔になるだけだろ」


「そんなことはありません。是非シュトレイマン派の会合にご参加下さい」


「シュトレイマン派? シュトレイマン公爵っていつも王様の前でアウレウス公爵と睨み合っているじいさんだろ。俺は枯れ専ではないし、じいさんの派閥に入るのはちょっとマニアック過ぎて嫌だな。まだ、フリュオリーネ派でドMに囲まれている方がましだよ」


「アゾート様。今のはアイドルの推しメンの話ではなく、貴族の派閥の話ですよ」


「貴族の派閥? ・・・そう、ちょっとボケてみただけだから! 何でアウレウス派の俺がシュトレイマン派の会合に出るんだよと、そう言いたかったんだ。ただの比喩だよ」


「アゾート様、そんなことおっしゃらずに、クロリーネ様のお隣にお座り下さい。ニコラ様もどうぞ」





 そういって俺は、クロリーネの横に座らされた。


 お誕生日席の真ん中にクロリーネとニコラに挟まれて座る俺。


 目の前には、シュトレイマン派上位貴族の令嬢が全員勢揃いしてこちらを見ている。パーラもいるし。


 アウレウス派の俺が、こんなところに座ってていいのだろうか。居心地が悪すぎるし、もう帰りたい。



 クロリーネを見ると、さっきからずっと黙っていて、こちらを向こうとしない。顔も真っ赤だ。


「クロリーネ、お前顔が真っ赤だそ。体調が悪いならもう家に帰れ。送っていってやろうか」


「ひゃいっ!」


「ん? なんだその返事は。じゃあ帰るか」


 そこへ、あの女子生徒が、


「お待ちくださいアゾート様。今の返事はクロリーネ様がアゾート様とお茶会をしたいとおっしゃられているのです。このまま一緒にいてあげてください。それよりもどうですかクロリーネ様のドレス。いつもの制服もいいですが、このドレス姿もお可愛いでしょう」


「そうだな。さすが侯爵令嬢、どっからどう見ても姫様だな」


「ひ、ひ、姫様だなんて。でも似合ってますか、このドレス?」


「そのピンクブロンドの髪によく合ってるよ。それにクロリーネの残念な体形をうまく隠せてるしな、うししし」


「ふ、ふんだ! わたくしだってあと1、2年もすればマール様ぐらいにはなりますわよ!」


 クロリーネが頬を膨らまして怒っている。やっと普段の調子に戻ってきたようだな。


「無理するな。せめてリーズぐらいを目標にしとけ」


「リーズ様には、アゾート先輩がそのようにおっしゃっていたと、お伝えしておきますね」


「すまんやめてくれ。またアイツに、キモいと言われてしまう」




 そんな俺をクスクス笑うクロリーネを見て、女子生徒が嬉しそうに、


「まあ! すでにクロリーネ様とアゾート様はすごく仲がおよろしいようで。まるで本当の婚約者どうしみたいですね」


「ろ、ろ、ろ、ローラ様! 本当の婚約者みたいだなんてそんなことないですわ!」


「そうだぞ。どちらかと言うと妹みたいなものだな」


「い、妹っ! ま、まあ確かに義妹ではありますが、そんなにハッキリとおっしゃらなくても・・・」




 その時、魔法協会からもらった例の通信機の遺物が、俺の懐で反応した。


 この遺物、ネオンが使い方を解明して、今は俺とネオンとフリュの3人がそれぞれ一つずつ持っているのだ。


 しかしネオンって本当に有能だよな。俺より計算が早いし、リケジョの鑑だよ。


 あの見た目じゃなければ、とてもセシリアさんの血をひいたメルクリウス一族とは思えないな。


 そうそう、通信機が鳴ってたんだった。


『アゾート聞こえる? 大変だよ。大至急プロメテウス城に帰還して。ガルドルージュから重要な報告があったんだ。それからフレイヤーを飛ばせるよう、光属性を一人連れてきて』


『わかった。すぐ行く』


「ということだ。すまんがクロリーネ、俺と付き合ってくれ」


「え、え、え、何事なの?」


 俺はクロリーネの手を引っ張って、寮に向けて走り出した。プロメテウス城の作戦指令室に急いで転移するのだ。


 残されたお茶会のメンバーは唖然としながらも、口々に呟いていた。


「まあ、素敵! 王子にさらわれていく姫様みたい。これはフリュオリーネからアゾート様を奪い取るのも時間の問題ですわね」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公たちは学生で、貴族なのですからこういった話は良いですね。むしろ3章や4章にも必要だったかもしれないですね。 舞台裏ではやっていたでしょう。
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