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第94話 新入生歓迎ダンジョン・リーズ編(3)


 扉の中のボス部屋はさして広くなく、その中央には多数の頭部を持った巨大な蛇の魔獣が、こちらを一斉に睨みつけて立っていた。


 未踏領域のボスであり名前がまだないので、見た目から仮にヒュドラとしておこう。


 そのヒュドラは俺たちを見るや、いきなり多数の口から毒を放ってきた。



  【固有魔法・護国の絶対防衛圏】



 キンと張りつめた音とともに、俺たちを取り囲んだバリアーが毒の吐瀉物を弾き飛ばす。


「油断するなよお前ら。本当なら今の一撃で大ダメージを食らっているところだぞ。このバリアーは1分間だけあらゆる魔法攻撃、物理攻撃を防ぐことができるが、俺の魔力ではそう何度も展開することはできない。だからアゾート、今のうちにあいつの攻略方法を考えろ」


「すまないなカイン。しかしお前は魔力がなかったんじゃなかったのか」


「俺は魔力がないわけじゃない。この魔法にしか使えないだけなんだ。学園の魔法測定の魔術具にも魔力が反応しないから、魔力がないと思われてたんだよ。もちろんギルドの転移陣にも魔力が使えない」


「そういうことか。とりあえず時間を稼いでくれて助かる。あいつの攻略方法か、そうだな・・・毒の攻撃がやっかいだから、まずはあいつの頭を切り落とさないとな。マールとクロリーネはウィンドカッターの詠唱を始めてくれ。二人の魔法で奴の首を切り落とした後は、俺とカイン、リーズで突撃し、残った首と本体を撃破。新入生たちは危ないからどこかに身を隠しておいてくれ」


 そして、二人の詠唱が終わり魔法が発動可能状態となったころ、バリアーが消えた。


「行くぞ!」



  【風属性魔法・ウィンドカッター】

  【風属性魔法・ウィンドカッター】



 二人の魔法が同時に発動して、無数のカマイタチがヒュドラの全身を切り刻む。


 が、ヒュドラの魔法防御力が恐ろしく高いらしく、魔力で先鋭化した空気の刃がヒュドラの体に通らない。


 あの二人の魔力をもってしても、ダメなのか。


 ならば肉弾戦。


「今度は俺たちの番だ。突撃!」


 俺は剣に力を込めて、全力でヒュドラの首に叩きつける。物理防御力は多少低いようで、剣がヒュドラの首に食い込んだ。だが、俺の力では一撃で切り落とせない。2撃、3撃と振り下ろしやっとのことで、一本を切断する。


 しかし、時間をおくとすぐに根本から新たな首が生えてくる。


 カインは一撃で首を落とせてはいるが、超高速で動けないため、やはり切断してもすぐに再生されてしまう。


 つまり、俺たちが与えるダメージよりも向こうの回復の方が早い、単純に物理攻撃の手数が足りていないのだ。


「クロリーネ、サンダーストームを撃て」


 サンダーストームは、上空に出現する魔方陣から地面に向けて放たれる電撃だ。一定時間持続する高圧電流による攻撃なので、本質は物理攻撃なのだ。


「マールはパルスレーザー、俺とリーズはフレアーだ。合図と同時に一斉に射撃するから、カインはそのタイミングで下がってくれ」




 そして、全員の詠唱が終わったタイミングで剣で合図を出す。


「撃て!」


  【雷属性中級魔法・サンダーストーム】

  【光属性固有魔法・パルスレーザー】

  【火属性中級魔法・フレアー】

  【火属性中級魔法・フレアー】



 雷撃と炎熱、そしてジャイアントパルスレーザーが、ヒュドラに向けて一度に発射される。


 物理よりの魔法攻撃を受けたヒュドラは、大ダメージを受けて一度は地面に伏した。


 だが、魔法の効果が切れると、ヒュドラは受けた体の傷を修復して再び立ち上がってきた。


 攻撃は効いた。だが修復速度がそれを上回っているのだ。しかも首を切り落とした時の修復よりもはるかに早い。


 ということは、先に首を切り落とせばそちらの修復にリソースがとられて、本体の修復速度が遅くなる可能性があるな。だが俺たちの魔力もあまり浪費することはできない。決めるなら確実にいく。


 よし!


「もう一度、俺とカイン、リーズで突撃だ。俺とリーズはゼロ距離ファイアーで首を吹き飛ばす。行くぞ!」






 私は手持ちのマジックポーションを素早く飲んで、お兄様に続いて突撃した。


 超高速知覚解放で限界まで加速した私だが、やはりお兄様のスピードには敵わない。


 流れるような身のこなしと、無駄のない動き。かろうじてとらえることのできる電光石火の攻撃と、至近から射出される強力なプラズマ弾。


 ハッキリ言って、お兄様は強すぎる。


 うちの一族はエクスプロージョンの強さのみを追求する傾向があるが、この狭いダンジョン部屋ではエクスプロージョンなんか使えない。


 この戦いにおいては、セレン姉様より、お父様より、当主ダリウスよりも、お兄様の方が断然強い。


 私の目指すべき強さは、このお兄様の強さだ。



 私もお兄様ほどではないが、がんばってヒュドラの首を焼き切って行く。


 カイン様も一撃でヒュドラの首を切り落とす。まるで木の小枝を切り落とすように、軽々と。



 この人もバケモノね。


 バートリーの血の能力や小さい頃からの鍛練もあるのでしょうけど、時間溯行の時にご先祖様から教えてもらったという、失われたバートリーの秘伝。


 護国の絶対防衛圏の応用技を、自分のものにしたのね。絶対のバリアーを瞬時にピンポイントで展開させていく戦い方に、つい見とれてしまう。


 そんなことを考えていると、お兄様から次の指示が飛んだ。


「クロリーネは極小のエレクトロンバーストの発射準備。俺が剣を振り上げる合図とともに発射だ。カインはクロリーネの魔法発動後、護国の絶対防衛圏でヒュドラごと包み込んでくれ」


 そして再び、お兄様はヒュドラの首を黙々と吹き飛ばしていった。





 私は知覚が加速しているためかなり時間がたったように感じるが、たぶんあれから1分半。ヒュドラの首は全て落ちていた。


 でも再生を始めている首もたくさんあり、終わりが見えない戦いに気を引き締めていると、お兄様が剣を高く振り上げた。


 合図だ!


 私は慌ててヒュドラから離れクロリーネ様の所まで下がる。



  【雷属性上級魔法・エレクトロンバースト】

  【火属性上級魔法・エクスプロージョン】

  【無属性固有魔法・護国の絶対防衛圏】



 なっ! エクスプロージョンをここで撃つの?


 気は確かなの、お兄様!



「全員、地面に顔を伏せろ! 絶対にヒュドラを見るな!」


 私は慌てて地面に顔を伏せて目を固くつぶった。


 魔法が発動したその瞬間、目をつぶっていても明るさを感じるほど強烈な光が、このボス部屋を満たしていた。その光以外は低い地鳴りしか感じない。


 これは去年ネオン姉様が見せたあの技、バリアーの中にエクスプロージョンを閉じ込める、確か【スーパー・キャビティー・ボム】だ。


 それをクロリーネ様のエレクトロンバーストと組み合わせて、このヒュドラにぶつけたんだわ。


 ネオン姉様のさらに上を行くなんて、さすがお兄様です。





 地鳴りが止んだところで俺はすぐにヒュドラの状態を確認した。


 ヒュドラの本体は完全に消滅していて、地面は半球状にキレイにえぐれていた。


 辺りには切り落とした首が再生することなく、散らばっている。



 俺たちは勝ったんだ。


 ヒュドラを確実に倒すため、首をすべて落としてヒュドラの再生力を極力落とした状態で、この狭いボス部屋で出せる俺たちの最大火力をぶつける作戦だった。


 エレクトロンバーストの殺傷力は確認済みだったが、そこに極小だがエクスプロージョンを加えることで、熱エネルギーも加算される。


 また、熱エネルギーで生じるプラズマは導電性を持つため、熱電子流がさらに活発化され大量のマイクロ波を発生。


 さらにバリアーで反射させることで、中の空間をキャビティーにし、すべての破壊エネルギーを閉じ込めて重ね合わせる。


 この二重三重の効果で、ヒュドラの本体は完全に蒸発してこの世からいなくなった。



 ボス部屋の外では新入生たちが騒いでいた。どうやら転移陣が作動して、入り口と繋がったらしい。


 俺たちは全員が無事であることを確認し、転移陣からスタート地点に一気にジャンプした。


 全くの想定外だったが、これでクエストクリアーだ!





 ギルドでは俺たちのクエストクリアーを驚きをもって迎えられた。


 まず序盤付近で未踏エリアが発見されたこと、討伐した魔獣がAランクに相当する強さと認定され、それをCランク以下の学生だけで討伐したことが主な理由だった。


「ようアゾート、またお前たちが活躍したみたいだな」


「おっさんたちか。久しぶりだな」


 以前クレイドルの森ダンジョン攻略でパーティーを組んだこともあるバラン、ノルン、ヨードの三人組だ。


「まあ、お前の冒険者ランクがCという時点でギルドの評価がおかしいんだが、それでもランクAの魔獣を少人数で倒すのはすごいことだよ。胸を張っていいぞ」


 ベテラン冒険者たちに囲まれて騒いでいるうちに、他のパーティーも徐々に帰還してきた。


 これから全員で打ち上げパーティーだ。





 ギルドに帰還した生徒たちから、次々テーブルについていく。俺はネオンを見つけて同じテーブル席に誘った。


「ネオン、何を拗ねてるんだよ」


「だって、また今年もアゾートと別のパーティーだったじゃないか」


「仕方ないだろ。俺とお前はキャラがかぶってるんだよ。同じパーティーにいても無駄じゃないか。嫌ならお前キャラを変えろ」


「今さら無理だよ!」


「それよりネオン、すごかったなエレクトロンバースト。お前の言った通りにやったら、うまくマイクロ波が発生したよ。魔獣がまる焼けになってた」


「あれは、もう一つの人生で私が行った研究結果なんだ。時間をかけていろいろ実験したから今度教えてあげるけど、雷魔法にはもっと驚くべき秘密があるんだよ」


「なんだよ秘密って、教えろよ」


「今度二人だけでデートしてくれたら教えてあげる」


 そう言ってネオンが俺にくっついてきたところで、セレーネが俺とネオンを引き離す。


「ネオン、そこをどきなさい。アゾートを勝手にデートに誘わないで」


 セレーネも無事クエストを終えて帰ってきたようだ。


「セレーネのパーティーはどうだった」


「それが珍しく、上級クラスの男子生徒が活躍したのよ。3年間で初めてのことね」


「セレン姉様のところも? うちのパーティーも同じだったよ。逆に騎士クラスの連中はいいところがなかったね」


「そいつらは、リーズ親衛隊のメンバーだ」


「リーズ親衛隊? なにそれ」


「ネオン親衛隊の男バージョンだよ。1年生上級クラスの男子生徒全員がメンバーらしい。俺は毎日そいつらと昼飯を食ってるからもう知り合いだけど、ひょっとすると今年は1年生上級クラスの男子が全員、ダンジョン部に残ることになるかもな」



 その後、フリュやダン達も続々とギルドへと帰還し、全員無事に新入生歓迎ダンジョンを終えられたようだった。





 私はマール先輩とクロリーネ様の3人で反省会だ。マール先輩がさっそく私に自慢してきた。


「ね。アゾートってカッコよかったでしょ」


「うーん、カッコいいかはわかりませんが、強いのは認めます」


「もう、素直じゃないよね、リーズは」


「でもあの強さは、私が目指すべきものだとは思いました。これでもお兄様を見直したんですよ」


「そっか、そっか。それで、クロリーネはアゾートのことを気に入ってたし、カッコよさが分かるよね」


「・・・・・」


 マール先輩がクロリーネ様に話しかけたが、返事がない。これは・・・。


「おーい、クロリーネさん? もしもーし。クロリーネから返事がないね。さっきからぼーっとしてるけど、疲れたのかな」


「いいえ、クロリーネ様はさっきからずっとお兄様のことを目で追いかけてますね」


「目で追いかけてるって。ガーン・・・アゾートのカッコよさが伝わり過ぎたんだ」


「どうやら、そうみたいですね」


「ひょっとしてライバルを強くしすぎてしまったかな。・・・ちょっとまずいよね、リーズ」


「ええ、これはかなりまずいですね。だってクロリーネ様はアルゴの婚約者ですから。あのちょいキモ兄様に憧れている分には構わないと思ってましたが、あれは本気の目。恋する乙女の完全に腐った本気の目よ」


「ひどっ!」


「クロリーネ様の目を早く覚まさせないと、とても面倒なことになりそうね」


「じゃあ、私がクロリーネに対抗してあげようか。私たちの恋愛同盟がますます重要性を増してきたようね!」


「その通りです、マール先輩。クロリーネ様の危険な恋を阻止するために、マール先輩を利用させて頂きます。頑張りましょう」


「「おうっ!」」

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