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第93話 新入生歓迎ダンジョン・リーズ編(2)


 ボグオークのあとも、新入生には高難度の魔獣の群れに次々と襲われたが、お兄様とカイン様がどんどん蹴散らしていく。私も二人に遅れをとらないよう、必死について行った。


 お兄様はたぶん、雷属性魔法をいろいろと試しながら戦っているみたい。火属性や土属性の魔法と組み合わせて何かの実験をしているようね。


 カイン様は騎士としては既に完成されているかのようで、動きに無駄がなく常に最善手を打ち続けているような戦い方だ。その型も何十パターン身に着けているのやら。小さいころから長期間にわたり厳しい鍛錬を続けなければ、ここまでにはならないでしょうね。


 私の後ろには後衛部隊が続いていて、クロリーネ様を先頭に新入生がまとまってついて来ている。


 一番後ろはマール先輩で、脱落しそうなあの女子生徒を励ましながら連れてきてくれている。


 私たちはその後も本来のコースに合流することなく、そのまま夜を迎えてしまった。今日は適当な場所で野営だ。





 野営地ではマール先輩と女子生徒が簡単な料理をふるまってくれた。私は料理が苦手なので、余計な手は出さない。


 フェルーム一族は共通して料理が苦手なので、別に私が悪いのではないだろう。その代わり火の番は得意だ。私がいる限り火が消えることはないだろう。どんどん燃やすわよ。


「マールは料理の腕を上げたな。これすごくおいしいよ」


「よかった、気に入ってくれたんだアゾート。それ肉を焼いて塩をふっただけなんだ」


「・・・そ、そうなんだ。し、塩だけでここまで素材のおいしさを引き出すとは、マールは料理の天才だよ。セレーネとネオンにはまず不可能だな」


「え、塩をふるだけだよ?」


「セレーネが作った料理でおいしかったものは、今まで一度もなかったな。というかうちの一族に料理は無理なので、必ず使用人が食事を作るんだよ」


「じゃあ、フリュオリーネさんの料理は?」


「さあ? そもそもフリュが料理を作るイメージすらわかない」


「身分が高すぎて、きっと料理なんかしたことないよね。じゃあ、アゾートにはまた私が何か作ってあげるね」


「ありがとうマール。楽しみにしてるよ」


「よっし!」


「あの、わたくしも何か料理を作って差し上げてもよろしくてよ」


「え、クロリーネって料理ができるのか」


「もちろんですわ。わたくしは侯爵令嬢ですから、小さいころからいろいろと勉強をしてきたのです。料理もたぶんできると思います」


「たぶん・・・作ったことはないのか」


「ございません。でも、わたくしにも塩をふることはできますので、ご心配には及びません」


「・・・ぜひ楽しみにしているよ」




 まずいな。あのクロリーネ様ですら料理ができるのか。これは私の女子力のピンチね。


「お兄様、なぜ私たちフェルーム一族には料理ができないのでしょうか」


「そうだな。今回の時間遡行でいろいろとわかってきたが、おそらくはセシリアさんの遺伝じゃないかと思う。ネオンの話なので誇張されている可能性があるが、セシリアさんはポンコツだったらしい。そしてフェルームの本家に近いほど、そのセシリアさんの血の最も濃い部分が受け継がれている。それが理由だろう」


「ポンコツの血・・・」


 私は急に自分自身が嫌になり、女子力を上げるため料理を学ぶことをあきらめた。


 私は自分が優等生タイプだと思ってたけど、ポンコツの血が混じっていたのか。


 ・・・もう嫌な現実は忘れて、マール先輩の料理を堪能しよう。



 おいしい!






 俺はカインと二人で見張り台に腰かけ、あたりを警戒する。


 夜はパーティーメンバーが交代で見張りを行うのだが、今年は人数が多いので一人当たりの負担が少ない。去年よりかなり楽だ。


 少し落ち着いたところで、カインが真剣な表情で俺に話しかけてきた。


「アゾート、少し俺の話を聞いてくれないか・・・ネオンとの婚約解消のことで相談があるんだ」


「その話か。俺もいつかはキチンとお前と話をしなければと思っていたんだ。・・・カインすまなかったな。結果として俺は、お前からネオンを奪う形になってしまった」


「いや、それは構わないんだ。俺は今でも本気だが、ネオンの本当の気持ちは始めからわかっていたし、悪いのはお前たちの横から割って入った、俺の方だと思っている」


「そうか。・・・じゃあ、お前が聞いてほしいという相談とは何だ?」


「実は先日、ダリウス・フェルーム子爵から、正式に婚約解消の申し出とお詫びがうちにあったんだ。話し合いの結果、フェルーム家との間は円満に解決したんだが、俺の母上が怒ってバートリー本家に帰ってしまったんだ」


「それは大変だったな。しかしネオンなんかのために、どうしてお前の母上が怒るんだ?」


「母上や俺の祖母はネオンのことをすごく気に入っていたんだ。それにネオンとの婚姻をきっかけに、バートリー家の復権まで考えていたんだと思う」


「え・・・そんな話初めて聞いた。それで?」


「俺の祖母は、俺がお前に負けてネオンを手放してしまったことに失望し、俺をボコボコになるまでぶん殴ったんだ」


「・・・すごいなお前のお婆さん。お前をボコボコにするなんて、俺にはまずできない」


「それがバートリーの血だよ。メルクリウス同様に特殊な能力があって、俺たちには通常の人間を超える膂力があるんだよ」


「そうだったのか」


「問題は俺がボコボコにされたことではなくて、長男の嫁のミリーがネオンをいびり倒したから婚約を解消されたということになって、フィッシャー家が今大騒ぎなんだよ」


「それは違うだろう。ネオンは兄嫁のイビりなんかを気にする奴ではないからな」


「それはそうなんだが、父上がそのことでミリーに激怒したんだ。父上はネオンをかなり気に入っていたからな」


「さっきからどうも話がおかしいんだが・・・ネオンって、うちの一族では邪魔者扱いしかされない不憫な子なんだよ。どうしてお前の所だとそんなに大事にされているんだ?」


「ちょっとまて。ネオンって、邪魔者扱いだったのか。あんなにいい子なのに、なんでまた?」


「・・・話を進めないか」


「・・・そうだな。それでミリーが泣き出して実家に帰ってしまい、それが原因で父上と本妻が大喧嘩を始めたんだ。本妻のエメラダも嫁のミリーもどちらもアルバハイム伯爵家から嫁いできてるからな」


「なんか話が複雑になってきたな」


「長男のライアンは当然ミリーや本妻のエメラダの味方につき、次男のホルス、あ、そいつがフィッシャー騎士学園の生徒会長なんだけど、ホルスは父上の味方をして、家族が対立してしまったんだ」


「おいおい、大変じゃないか。なんか橋田壽賀子のドラマみたいになってきたな」


「なんだその、ハシダスガコというのは?」


「いや悪い、俺の独り言だ。話を続けてくれ」


「お、おう、じゃあ話を続けるぞ。それで興奮したホルスが、今度のボロンブラーク騎士学園との交流戦でネオンを取り戻すと息巻いていて、ネオンがだめならセレーネを嫁にすると父上に大見得を切ってしまったんだ」


「なんだとっ、セレーネは絶対に渡さん!」


「父上も調子にのって、ホルスを次期当主にすると言い出したもんだから、ついに辺境伯領の後継者問題にまで発展してしまったんだ。アゾート、俺は一体どうしたらいいんだ」


「・・・それを俺に相談するのか? 重すぎるよ、お前の相談」






 夜の見張りの順番が来た。私はマール先輩とだ。


「マール先輩、カイン様と同じパーティーに入れてくれて、ありがとうございました」


「それ私じゃないよ。パーティーメンバー決めたのはアゾートだよ」


「お兄様が? でもお兄様は私がカイン様を狙ってるって知らないんじゃ。まさかマール先輩、言っちゃいました?」


「私からはそんなこと言わないよ。アゾートはリーズのことを心配してるんだと思う」


「私のことを心配?」


「アゾートが言うには、リーズはボッチだから知らない人がいるパーティーはメンタルがキビシイだろうと。だからクロリーネと同じパーティーにしてやったんだって」


「私、ボッチじゃありません!」


「でも、クラスに友達が一人もいないから、昼休みはいつも俺と食事をしてるんだって言ってたよ」


「くっ! ま、まあ、今のところはランチができるほどの友達はいないんですけど、一応アウレウス派閥の令嬢となら少しくらい話をしたことがあります。まだ打ち解けてないだけで、友達はちゃんといますよ」


「そっか。でもアゾートはボッチの気持ちがよくわかるらしいよ。そういうラノベをたくさん読んできたから、詳しいんだって。ところでラノベって何かな?」


「それはお兄様のちょいキモ昔話です。意味が分からないのでほっときましょう」


「でもリーズは、男子のお友達がすごく多いよね。もうその人たちと遊べばいいじゃない。私だってよく考えてみれば、クラスに女子の友達が一人もいないよ」


「え、そうなんですか? マール先輩みたいな社交的な人でもそうなんだ」


「しかも、みんな酷いのよ。うちのクラスの女子グループの入会条件に、私への敵国条項が含まれてるの。だから私だけネオン親衛隊に入れなかったのよ」


「ネオン親衛隊! あの人たちって、そういう組織だったのか」


「だからリーズも、男子生徒たちと友達ということでいいんじゃないかな」


「うーん、あの人たちは友達というのと少し違うのよね」


「どんな風に?」


「彼らは私に抜け駆けをしないことを誓いあった、1年生上級クラス男子の条約機構、リーズ親衛隊なの」


「り、リーズ親衛隊・・・。また変な組織が一つ誕生したのね」





 次の朝、マールの手料理をおいしく堪能した俺たちは、野営地を撤収しさらに先へと進んだ。


 魔獣のレベルもどんどん上がり、新入生たちには自分の身を守るのに専念してもらった。もう新入生のテストどころではなくなったな。


「アゾート先輩。今日もこのまま進むのですか?」


 クロリーネが心配そうに訊ねてきた。


「ギルドから公開されているマップを見る限り、本ルートへの合流地点の方には向かっていると思う。大丈夫じゃないかな。それにここの魔獣は俺の修行に丁度いいんだよ。ボグオークのようなパワー系から、シュトルムウォルフのようなスピード系、ソーサリーアーマーのような魔法防御・物理防御に特化したやつまでそろってるんだ」


「なんだか楽しそうですね、先輩」


「俺が楽しんでたらダメなんだけど、近接魔法と格闘戦のスキル向上にもってこいなんだ。毎日ここに潜ってもいいな」


 そして魔法の研究にも丁度いい。魔獣の属性がいい感じでバラけているため、新しく得た雷属性の魔法を自分のものにするのはもちろん、他属性魔法との組み合わせにより、より高い破壊力のある魔法が作れないかいろいろ試している。


「クロリーネ、マール。昨日は火属性と土属性を組み合わせてみたので、今日は水属性と光属性を雷属性と組み合わせてみたい。連携魔法の実験を手伝ってくれ」


「えーーーっ!」


 俺はマールとクロリーネと、ついでにマールが保護している新入生全員をまとめて引き連れて、魔獣の群れに突撃していった。





 そんなお兄様に呆れながら、私はカイン様と二人で魔獣たちと戦っていた。


「この未踏領域探索のクエストって、どうやったらクリアーになるんですか」


「ギルドから渡されたこのマップは魔術具で、未踏領域に入るとマップが追加されていくんだ。ただ、ダンジョン全体図になってるから、細かい部分がわりと粗くて、昨日みたいに脇道に紛れ込んでも、しばらく気がつかなかったんだよ」


「そうか。それで私たちが未踏領域を探索したことが証明されて報酬が出るんだ」


「そういうこと」


「でもこの先どんどん魔獣が強くなっていくと思うのですが、このまま進んで私たち大丈夫なんでしょうか」


「・・・魔獣はなんとかなると思うが、最後をどうするかだな」


「最後って?」


「クエストの依頼内容どおり、未踏領域をどんどん進んでいけば、やがて到達する未踏領域の終着点・・・ダンジョンボスだ」


「だ、だ、だ、ダンジョンボス!」


「そうだ。ダンジョンボスを俺たちだけで攻略できるかが問題なんだ」


「ひーーーっ!」





 二日目も午後を過ぎて少したったころ、俺たちは大きな扉の前まで来ていた。


「カイン、この扉は何だと思う?」


「ボス部屋だよ」


「ぼすべや?」


「未踏領域の先にあるダンジョンボスの部屋だ。ここをクリアーするとそこにある転移陣が入り口と繋がり、俺たちはもとの場所へと戻れる」


「えっ! そんなゲームみたいなシステムになってるのか、ダンジョンって?」


「げーむ? お前ダンジョン部の部員のくせに、今頃何言ってるんだよ。ダンジョンってそういうものだろ。2年生にもなってまさかダンジョン攻略は初めてなのか?」


「そう言われれば俺って、古代遺跡の探索しかしたことないな・・・ダンジョンって、こういうものだったのか」


「で、どうする? ボスを攻略すれば転移陣で元の場所にジャンプできるが、他の帰還ルートを探すこともできる。だがその場合、今日中に帰れるか保証はできないな」


「ボス部屋を開けたら倒すまで出られなくなるとか、そういう設定はあるのか?」


「ないと思うよ」


「・・・じゃあ、行くか」




 危なくなれば逃げればいい。


 そう思って、俺たちはボス部屋の重い扉を開け放ち、中へと入って行った。

次回後編です。


ご期待ください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 1、リーズがかわいく書けていると思います。私この数話でリーズ押しになりました。 2、マールとクロリーネが並ぶと見た目的になんか別の話になりそうですね。大きなお友達が歓喜しそうです。 [気…
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