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第9話 新魔法の開発

「ネオン。今日の放課後は魔術具を作るぞ」


「えーー・・・」


 ネオンがもの凄く嫌そうな顔をした。


 おそらく学園に入学する前、俺が実家で魔術具の作成している際、ネオンに手伝ってもらった時の事を思い出しているのだろう。


「そんなに嫌がるなよ。古代遺跡で見つけたあの新魔法を早く使えるようにしたいんだ。杖に仕込むと魔法陣を他人に見られてしまうので、指輪型の魔術具にして裏側に魔法陣を仕込んでおこうと思うんだ」


「うへーー。とんでもなく細かい作業になるんじゃないのそれ」


「ああたぶんな。それで工具はカール・シュミット先生の研究室にあるのを使わせてもらえることになった。さあ図書室で関連文献を借りてさっそく向かうぞ」




 嫌がるネオンを連れて図書館に行き文献を見繕う。


「光属性魔法ライトニングの本を借りる必要あるの?」


「よくぞ聞いてくれた。実は・・・」


 ライトニングの魔法を改造すれば攻撃力を高めることができるアイディアを俺は滔々と語り始めた。

 途中でネオンが逃げ出そうとしたので首根っこを捕まえ、説明を聞かせ続けながらシュミット先生の研究室まで強制連行した。



「よく来たねアゾート、ネオン」


 シュミット先生の研究室には、魔術具を作成する工具が揃っている。それを1式お借りしてさっそく作成を開始する。


「まず俺がプロトタイプを作成する。うまくいけば何個か同じものを作ってみよう」


「私は何をすればいいの?」


「ネオンはフーリエ変換をやってくれ」


「なんで?」


「お前さっきの俺の説明を聞いていなかったのか。ライトニングの光をパルス状にして破壊力をあげるためには、スペクトル強度を計算する必要あるだろう」


「そ、そ、そ、それを私にやれと・・・」


「お前計算得意じゃん」


「鬼畜か・・・」




 俺とネオンはそれから3日間研究室にこもり、ようやくプロトタイプが完成した。

 さっそく魔法訓練棟で実験してみる。


 この魔法は他の無属性魔法同様に詠唱はなく、魔法名を宣言するだけで発動する。



  【固有魔法・超高速知覚解放】



 すると周りの動きが緩やかに見えてきた。魔法は成功したのか?


「ネオン、模擬剣で打ち込んでみてくれ」


 ネオンの剣筋がいつもより遅く感じる。

 上段から振り下ろされる剣の先が俺の左肩を捉えようとしている。

 俺は一歩後ろに下がって回避する。


「ん?体が少し重い」


 知覚は高速化されるが、それに体がついていけてないということか。これは練習が必要だな。


 今度はネオンに試してもらう。



  【固有魔法・超高速知覚解放】



 俺がネオンにどんどん剣を打ち込んでいくが、全て見切られ紙一重で交わされていく。


「どうだったネオン?」


「アゾートの動きがゆっくりに見えたけど、水の中で体を動かしているようできついな。練習が必要だと思う」


「同感だ」


 その後何人かに試してもらったが、使えたのがセレーネのみだった。何か使用条件があるのだろうか。




 あと2つ魔術具が必要だとわかったので、シュミット先生の研究室に再びお世話になった。


「ネオン、この前のフーリエ変換できてるか?」


「一応できてるけど」


「助かる。次はこのプロトタイプを参考に、ネオンが魔術具を作ってくれ」


「私は細かい作業が嫌いなんだけど」


 ぶつぶつ文句を言いながらも、ネオンは魔術具の作成を始めた。魔術具作成には土属性魔法が必要なため、ネオンの協力は非常に助かるのだ。

 ネオンにとっては迷惑でしかないのだろうが。


 さて知覚魔法はネオンにまかせて、俺はライトニングの研究に取り組むことにし、まずは魔法陣の解析を始めた。




 3日後、ネオンも魔術具を一つ完成させた。


「疲れた。やっと完成だ」


「よかったな。俺ももうすぐ完成しそうだ」


「ライトニングの?」


「ああ、試してみないと分からないけどな」


「てもよかった。あの計算は結構苦労したよ」


「それなんだがな。魔法陣を解析したら、外からスペクトル強度を指定しなくても、パラメータで設定が可能だったよ」


「つまり私の計算は無駄だったと」


「無駄ではない。いい頭の体操になったはずだ」


 ネオンはライトニングの魔導書を乱暴につかむと、俺の頭に思いっきり「バン」とたたきつけ、怒って研究室を出て行ってしまった。


「ネオンには悪いことをしてしまったな」


 無駄な計算をさせてしまい申し訳なく思った俺は、これ以上ネオンに手伝ってもらうのを諦め、残り一つの魔術具を一人で作成するのだった。




 それ以来ネオンは研究室に来なくなり、俺は一人で研究室に通い続けて残りの魔術具も完成させた。早速、動作確認をしたいため、ネオンたちを探した。


「みんなどこにいるのかな」


 最近は放課後みんなと別行動だったため、みんながどこにいるのかわからない。

 ひとまず部室にいって誰かに聞いてみることにした。部室棟3階の部室に久しぶりに顔を出す。


 扉を開けるとたくさんの部員が集まっていて、テーブルを囲んでお茶会をしていた。

 ネオンをはじめいつものメンバーも全員揃っている。みんなここにいたんだ。


「アゾート遅い」


 ダンが「早く座れよ」と俺をせかす。


「あ、ああ」


 何かのイベントなのか?


「マールお誕生日おめでとう!」


 部員のみんなから祝福とプレゼントをもらうマール。

 そうか今日はマールの誕生日会だったのか。

 完全に忘れていた、やばい!


 あせった俺は、これから実験してもらおうと思っていた魔術具を、さも誕生日プレゼントのようにみせかけてマールに渡した。


「マール誕生日おめでとう。この指輪を受け取ってほしい」


 いきなり指輪を渡されたマールはびっくりして、


「これって・・・」


「これは例の古代遺跡の祭壇でヒントを得て、ライトニングを特別に強化できる新魔法を組み込んだ魔術具だ。マールのために作ってみたんだが試してほしい」


「最近ずっと研究室にこもってたのは、これを作ってたの?」


「まあ、そんな感じだ」


 これだけじゃなく他にもいろいろ作ってたけどな。


 マールは魔術具の指輪をそっと胸に抱きしめ、嬉しそうな表情でうつむいてしまった。


「アゾート。セレーネの前で何をやってるの」


 サーシャがセレーネの隣に立って俺を睨んでいる。これは婚約者を差し置いて、他の女性にプレゼントを渡した事を怒っているのだろう。誕生日プレゼントと見せかけた魔術具の試作品なんだけど。


 しかし非常にまずい状況であることを悟った俺は、すかさずもう一つの魔術具をポケットから取り出し、セレーネに渡した。


「セレーネもこの指輪を受け取ってほしい」


 俺は知覚魔法の魔術具をセレーネに渡した。


「今完成させたばかりの魔術具なんだ。早く試してもらおうと思ってセレーネを探していたんだよ」


「ありがとう。でも本当にしょうがないわね、アゾートは」


 そういうとセレーネは笑顔で指輪を受け取ってくれた。


「誤解を招く行動には気をつけなさい。そのうち刺されるわよ」


 サーシャが呆れるようにため息をついた。



 やれやれと思って隣を見ると、ネオンが怒りで打ち震えていた。ちょっと恐い。心配したダンがこそっと俺に耳打ちしてきた。


「おいアゾート、ネオンが怒ってるぞ。お前なんかやったのか」


「やらかした気もするが、恐ろしくて聞けない」


「ただごとじゃないぞ、あれ。ちゃんとフォローしておけよ」


「わかったよ・・・」


 俺はネオンの方を振り返り、恐る恐る小声で訊ねた。


「なあ、俺なんかお前の気に障ることしたか」


「何をしたのかもわかってないの?」


「すまん。機嫌直してくれないか」


「フンッ」




 寮に帰ってきたものの、ネオンは口もきいてくれず、まるで針のむしろに座ったようだった。


「あの・・・無駄な計算をさせてしまったことは謝る。そろそろ機嫌を直してほしいのだが」


「・・・・・」


「な、何か欲しいものはあるか?」


「指輪」


「もうあげたじゃん」


「あれ、自分で作ったやつ」


「同じだろ」


「セレン姉様はともかく、マールにまで指輪を作ってあげて。私は自作のだよ」


 そこか。

 やっと何に怒っているのかわかった。


 ここを乗り切るために俺は、ネオンの指輪を指から抜いて、代わりに俺がつけていた指輪をネオンの指にはめた。


「俺とお前のを交換しよう。お前が作ったのは俺がつけて、俺が作ったのをお前がつければ、何の問題もなくなるはずだが」


 俺のあざやかな機転にあっけにとられたネオンは、自分の指に突然はめられた指輪プロトタイプを、ずっと見つめていた。


 いつの間にか怒りのオーラは消えていた。






 その夜、俺は夢を見た。


 5歳の洗礼式の夜、俺がセレーネの婚約者になった日の翌日、俺は父上の部屋に呼ばれていた。


「父上」


「なんだアゾート」


「僕がセレン姉様と婚約すると、ネオンはどうなるのでしょうか」


「ネオンは政略結婚で上位貴族の嫁になるだろう」


「あんな男みたいなやつが上位貴族の嫁になれるのですか」


「政略結婚に容姿など関係ない。2属性の魔力を持つ嫁として引く手あまただろう」


 そうか。ネオンは上位貴族の嫁になるのか。


 物心ついた頃からいつも一緒にいたネオンも、いつかこの家を出ていくことになるのか。

 これまで感じたことのない寂しさが俺の心によぎった。


「お前やはりネオンと婚約をしたかったのか?」


「そういうわけではないのですが、ネオンといずれ別れなければないことに、寂しさを感じたのです」


「そうか。まあ嫁に出すのはまだまだ先の話だ。それまでは気にしなくてもよい」


 そういって父上は笑っていた。


 ネオンはいずれ家を出ていく。


 セレーネは俺が守ってやれるが、ネオンはいつまでも守ってやることはできない。


 それならネオンが自分で自分の身を守れるように強くしてあげよう。幼い俺は決意した。




 俺が7歳のころ、魔法について一つの発見があった。


 炎魔法を発動させる時、なるべく具体的な炎をイメージする。

 しかし「炎」の代わりに「熱エネルギー」をイメージしても魔法が発動した。

 炎の代わりにプラズマの火の玉が現れた。


 つまり、この世界の魔法はファンタジーの不思議な力の側面があるものの、生じた現象は実際の物理法則に基づいたものだということ。

 自然科学の知識が魔法の効果を向上させる可能性があるのだ。



 そのことに気がついた俺は、前世の受験生として得た知識のすべてを、この幼いネオンに全て教え込むことにした。

 ネオンはもともと頭のいい子供であり、現代知識をどんどん吸収していった。






 私は夢を見ているのだろう。

 5歳の洗礼式のころの思い出。


 私はネオン。セレン姉様の妹。


 本当はアゾートの弟になりたかった。

 だって姉様と並んでおしとやかにしているより、アゾートと遊ぶ方が楽しいから。

 なんで女に生まれたんだろう。アゾートの弟に生まれ変わりたい。


 アゾートはやさしくてかっこいい。

 いつも私を守ってくれる。

 おとなになったらアゾートはすごい騎士になるんだろう。

 そして私も騎士としてアゾート横に立ちたい。一緒に戦いたい。




 ずっとそう思ってた。




 洗礼式の日にアゾートが倒れた。


 私もアゾートと同じ火と土の2属性が得られたので、アゾートと同じだよって喜んだけれど、それよりも倒れたアゾートの事が心配だった。


 早く起きてくれないかなー。

 私も同じ属性だったよって教えてあげたら、アゾートは喜んでくれるかな。



 洗礼式のお祝い会でアゾートを待つ間そんなことを考えていたら、お父様たちの話し声が聞こえた。

 アゾートとセレン姉様を婚約させ、私を政略結婚で外に嫁に出す話だ。


 ショックだった。

 将来私はアゾートと離れ離れにされてしまうのか。


 胸がはりさけそうに痛い。



 アゾートが起きて食堂にやってきた。

 さっきまでアゾートに教えてあげようといろいろ考えていたことが、全て頭から消え去っていた。


 アゾートが姉様との婚約の話を聞かされ喜んでいる。

 それを見て、少し涙が出そうだった。


 アゾートが姉様の前に跪き騎士の誓いを立てている。



  『姉様にアゾートを取られる』



 こんな気持ち始めてだった。

 姉様なんかに大切なアゾートを取られたくない。


 恐ろしい未来を打ち消すために、私はとっさにアゾートの前に跪き騎士の誓いをたてた。


 そうしないと、もうアゾートとは一緒にいられなくなると思ったから。


 それからは、アゾートの弟になりたいって思わなくなった。




 私がアゾートと結婚したい。




 あの洗礼式の日を境に、アゾートはつきっきりで私に勉強を教えてくれた。


 こくご、さんすう、りか、しゃかい。


 屋敷の図書室のどの本にものっていない、アゾートだけが知っている不思議な知識。


 それを一日中できる限り教えてもらっている。


 魔法には、あの不思議な呪文の他にも秘密があり、こんな知識が特に役に立つそうだ。


 アゾートが言うには、姉様のことはずっと守っていけるけど、私はいずれ結婚していなくなるので守ってあげられなくなる。


 だからその代わりに、アゾートが持っている知識を全て私に教えてくれるそうだ。


 できるだけ強い魔法を身につけて、自分の身を守っていけるだけの力をつけてほしいのだそうだ。


 それが今の自分にできるただ一つのことだと。



 うれしい。本当にアゾートは優しい。



 勉強している間はアゾートとずっと一緒に居られるから、このまま一生二人で勉強つづけられればいいのにね。



 そういえば「ラスカル」って何だったんだろう。


 美少女って意味だったらうれしいな。





 朝、目が覚めると、隣のベッドではアゾートが眠っていた。いつものことね。


 さっき見た夢のことを思い出すと、恥ずかしくて死にそう。


 なんであんな子供の頃の夢を見たんだろう。


 頭の中から夢の中のシーンを追い出さなくては。


 そういって無理に別のことを考えようとしてるのに、夢の中のシーンがなぜか頭から離れて行ってくれない。


 「うわーっ」と思わず声をあげてしまいそうになる。




 こんなことになったのも、全部この指輪のせい。

 だって突然、私の左手の薬指にこの指輪をはめてくれるんだもん。


 悪いのは全部アゾート。




 「ふん」ってアゾートに悪態をついてみたけれど、本人は気持ち良さそうに眠っているので、私のモヤモヤした気持ちは全く晴れない。


 もう怒った。


 アゾートはもう少し反省すべきだと思う。

 なんで私がこんな目に合わないといけないの?

 不服に思ってアゾートの寝顔を覗き込んでみたが、すやすや眠ったままだ。


 完全に頭に来た。


 こうなったら罰として、キスをして辱めを与えることとする。

 ただし唇にするほどの罪を犯していないため(私が恥ずかしいので)ホッペに触れるだけにとどめておこう。



 そしていつものように刑を執行した後、アゾートの目が覚めるまで、私はずっとアゾートの寝顔を見つめていた。




 目が覚めると、いつものようにネオンが覗き込むようにこちらを見ていた。


「おはようアゾート」


「おはようネオン。また起こしてくれたんだね。その、昨日は指輪のことで怒らせてすまなかった」


 俺はベッドから飛び起きて素早く制服に着替えた。






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