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Subjects Runes ~高速詠唱と現代知識で戦乱の貴族社会をのし上がる~  作者: くまっち
第4章 王国の剣メルクリウスの帰還
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第89話 エピローグ


 今日はボロンブラーク騎士学園の入学式。


 私、リーズ・メルクリウス15歳は、弟の婚約者であるクロリーネ・ジルバリンク侯爵令嬢とともに、今日からこの学園に入学する。


 私たちは大きく深呼吸して、騎士学園の校門をくぐった。





 校舎の前の掲示板にクラス分けの名簿が貼られており、人だかりができている。


 私たちのクラスは、1年生上級クラス。男爵家以上の上位貴族の子弟が入るクラスだ。


「私たちは同じクラスで良かったですね、クロリーネ様」


「そうですわね。わたくしもリーズ様がご一緒で、心強いですわ」


「こんなところにいても皆様の邪魔になるので、講堂に移動しましょうか、クロリーネ様」





 講堂に入ると、既に半数近くの新入生が着席していた。私たち上級クラスの席は一番前だ。


 私はクロリーネ様の手を引っ張って、自分達のクラスの座席に着席する。


 しばらくすると、入学式が始まった。


 入学式は式次第に従って淡々と進む。


 学園長の挨拶で登壇したのは、サルファーだった。


「あれ、サルファー様って卒業後は伯爵になるんじゃなかったのですか」


 クロリーネ様が私に聞く。


「実は、フェルーム家の当主ダリウスがボロンブラーク伯爵に進言して、サルファーはもう少し修行してから伯爵を継ぐことになりました。だから今年は学園長をやるんだと思います」


「そうなんですのね。でもいつも不思議に思っているのですが、どうしてみなさま、ご自分の主君であるサルファー様にそのような蔑ろな態度で接するのでしょうか」


「それはあいつが恋愛脳だからです。あいつ、フリュ様という素敵な婚約者がいましたのに、セレン姉様と結婚したいからって、フリュ様との婚約を全校生徒の目の前で一方的に破棄して、それで戦争まで引き起こしたのです。それがあってから、うちの一族の中ではサルファーは恋愛バカとして、軽く扱われるようになったの」


「そんなことで婚約破棄を・・・ゆ、許せないですわね」


「でしよ。女の敵よ。あ、サルファーの挨拶が終わったみたい。次は生徒会長のセレン姉様の挨拶ね。お姉様はいつ見てもきれいね。それに見て、フリュ様やマール先輩、他にもお兄様の冒険者パーティーのメンバーが揃ってますね」


「アゾート先輩もいますわ。この学園はメルクリウス、フェルーム一族の支配下にあるのですね」


 クロリーネ様に指摘されて初めて気がついたけど、ほとんど顔見知りばかりの生徒会を見ていると、確かにそんな気がする。






 セレン姉様の挨拶が終わると、入学式に参列していた在校生の一部から突然、セレーネコールが起こった。


「な、な、な、なんですのこれは?」


 クロリーネ様があわてふためく間にも、在校生によるおかしな言動が続く。


 生徒会メンバーが一人ずつ紹介されるごとに、それぞれのファンらしき男子生徒からの変なコールが、講堂全体に響き渡る。


「な、な、な、なんですの、あの変なダンスは?」


「ちょっと、いえ、かなりキモいですね。お兄様のちょいキモ状態みたい」


 こうしてみると、生徒会の役員がそれぞれ独自のファンを獲得している。その中でもやはり、セレン姉様、フリュ様、そしてマール先輩の人気が高いみたい。


 特にマール先輩への声援が一番多いように感じる。


 やっぱりマール先輩は、学園の男子からすごく人気があったのだ。





 しかしお兄様の紹介の時、その異変は起こった。


 これまで熱い声援を送っていたキモい男子生徒たちから、一斉に大ブーイングが発生した。


「な、な、な、な、何事?」


「お兄様は学園の男子生徒全員の、嫌われ者みたいですね」


「そんな! アゾート先輩がお可哀想ですわ」


 クロリーネ様が隣で激怒してますが、理由は何となくわかります。


 学園の三大アイドルらしいセレン姉様、フリュ様、マール先輩を一人で独占しているから、というのが理由で間違いないでしょう。


 でもあの三人、あんなお兄様のどこがいいのかな。





 生徒会の紹介も終わり、入学式の式次第が全て終了した。


 はずなのに、再びサルファーが登壇した。


 まだ何か話があるのかな?


 サルファーの後ろにも10名ほどの男子生徒が横一列に並び、みんな胸に変なバッチをつけている。


 AAA?


 そしてサルファーが演説を始めた。


「この学園には、実にけしからん生徒が存在している。フリュオリーネという嫁がいるにも関わらず、セレーネ・フェルームにちょっかいをかけ続けている男、そう、アゾート・メルクリウス男爵だ。さらにこの男は人気急上昇中の学園アイドル、マール・ポアソンもその毒牙にかけようとしているのだ。生徒会プロデューサーという地位を濫用してだ。これが許せるのか? 断じて否だ! そこで我々は一大決心をして、ここに決起した。反アゾート同盟、AAA団の設立をここに宣言する。立て領民よ!」



 いや、私たち全員サルファーの領民じゃないし、何言ってんのコイツ、と私は心の中でツッコミを入れたのだが、さっきまでお兄様にブーイングをしていた男子生徒全員が一斉に起立して、シュプレヒコールを始めた。



 ・・・な、な、なんなのこの学園。


 これが王国を守護する騎士を養成するための学園、ボロンブラーク校なの?


 こんなところに入学して、私たち大丈夫なのだろうか。





 変な入学式も終わり、私たちは自分のクラスに移動する。


 1年生上級クラスは、男女12名ずつ24名で構成され、座席は派閥ごとに別れている。


 私はアウレウス派だから教室の奥、窓側だ。


 爵位の高い順に前から並んでいて、私は新参の男爵家だから一番後ろ。つまり窓側最後列。


 お兄様とほぼ同じ場所か。今はフリュ様が座られてましたっけ。


 そう言えばお兄様はこの座席の位置を「ラノベ主人公席」と呼んで、よくバカにしてましたわね。時々そういう意味不明なことをおっしゃるから、ちょいキモなのに。




 クロリーネ様は、シュトレイマン派で侯爵令嬢なので、教室入り口側の一番前の席。私とはちょうど正反対の位置関係になってしまいました。


 残念です。



 アウレウス派閥の筆頭は、バーナム伯爵令息のアイル。その下は、子爵家令息1・令嬢2、男爵家令息2・令嬢2(私を入れて)の合計8名。


 シュトレイマン派閥の筆頭はもちろんクロリーネ様。侯爵以上の爵位の子弟は普通は王都のアージェント騎士学園に入学するため、クロリーネ様がここに来たのは異例だそうだ。


 フリュ様も公爵家令嬢なのにこの学園に入学しましたが、婚約者がいるなど特別の事情がない限り、こういったことは起こらないらしい。


 中立派の筆頭は、アルバハイム伯爵令嬢のカレン様。長い緑の髪を両サイドに束ねた、少し幼さが残るお嬢様ね。


 中立派と言えば、カイン様は去年身分を隠して在学されていたらしく、今年からはフィッシャー辺境伯家令息として、この学園に通われることになったらしい。


 上級生の女子が大騒ぎしていたようで、さっきもクラスでその話題をしていた女子がいた。


 うーん、これは競争率が高くなりそう。マール先輩と同盟を組んで正解だったかも。





 私の席は運が悪く、前も隣も男子生徒だ。


 オリエンテーションが終わり、お昼休みに食堂に行くタイミングで適当な令嬢に声をかけようとするが、男子生徒たちが邪魔でなかなか声がかけられない。


 おかげで、まだこのクラスで新しい友達ができていない。


 ボッチだ。


 しょうがないからクロリーネ様に声をかけようとするが、今度は派閥の壁に押し返されてしまった。


 悲しい。




 私はしかたなく、一人寂しく食堂へと向かった。ひょっとしたらマール先輩たちがいるかもしれないから。


 食堂はテーブル席とテラス席に別れているが、座る席は特に爵位で別れてはいない。完全に自由席だ。


 別に一人なのでどこでも座れるのだが、初日からボッチ飯はなんだか嫌だな。


 誰かと喋りながら、ご飯が食べたい。


 私は知り合いがいないか、必死で探す。


 するとテーブル席の隅っこで何かから身を隠すようにご飯を食べようとしているお兄様を発見した。


 仕方がないから、お兄様とご飯を食べましょう。


 一人ボッチよりはましだ。






 俺は入学式を終えて、食堂で一段落していた。


 サルファーのやつが変な組織を立ち上げたお陰で、俺はどこへ行っても男子生徒たちから妬みの眼差しで見られる。


 だから、生徒会のメンバーから離れて、食堂の隅っこに逃げてきた。フリュだけはくっついて来たが。


 しかしあいつ学園長のくせに何をやってるんだよ。何がAAA団だよ、まったく。


 俺はサルファーとの醜い争いを、今年も継続することになりそうだ。




 食堂でフリュと二人でランチを食べようとすると、ダンが俺たちを見つけて合流した。


「ダン、今日はパーラと一緒じゃないのか」


「そんなにいつも一緒にいるわけじゃないよ。お前たちと違ってな」


 横を見ると、フリュはずっと俺の左腕をつかんでいる。


「そ、そうだよな。その話はやめよう」


「そんなことよりも、さっきのオリエンテーション。カインのやつがフィッシャー辺境伯の息子だって話、驚いたよな」


「俺も驚いたよ。え、何でお前がって」


「でもあいつが強い理由に納得できたわ。フィッシャー辺境伯家は王国の盾と言われるほど頑強な騎士の家系で、そこの騎士学園の剣術レベルはうちなんかよりはるかに高いんだそうだ」


「そうみたいだな。実は今度フィッシャー騎士学園との交流試合を予定している。どっちの学園が強いのか最強決定戦だ。ダンも出てみるか」


「まじか・・・俺で通用するかわからんが・・・ゴクリ・・・出てみるか」


「そうこなくっちや。当然俺も参加する。ダンにもカインにも、そしてフィッシャー騎士学園にも遅れをとるつもりはないから覚悟しておけよ」


「お、おう。新学期そうそう、随分気合いが入ってるな、お前」





 そこへ、リーズがこちらへと歩いてきた。


「お兄様、こんなところにいらしたのですね。私もご一緒してよろしいでしょうか」


「リーズが俺とランチ? 珍しいな」


「え、ええまあ・・・クロリーネ様は派閥の方と食事に行かれたので」


「じゃあ他の令嬢たちと食事をすればいいのでは」


「ギクッ・・・実はまだ話しかけていなくて。明日は声をかけてみるつもりです。と、とにかく今日だけよっ。一人のランチが嫌だから、仕方なくお兄様とご一緒するだけですから、勘違いしないでよね!」


「お前、クロリーネのツンデレが感染したんじゃないのか、うししし」


「うるさい!」




「ところでさっきから気になってるんだが、お前の後ろにいる連中は一体誰なんだ?」


「え、私の後ろに誰かいるの?」


 リーズが後ろに控える男子生徒たちの群れを見て、大きくビクッとした。


 なんだこいつ、気がついてなかったのか。


「だ、誰よ。あなたたちは?」


「誰ってひどいな、みんなクラスメイトじゃないか。まさか俺の顔も知らないなんて、ないよな」


「・・・あなた、アイル・バーナム様でしたっけ? アウレウス派閥筆頭の?」


「おっしゃー! 顔と名前を覚えてもらったぞ」


「じゃあ、俺はわかる?」


「えーと、どちら様でしたっけ」


「・・・orz」


「じゃあ、俺は俺は!」





 リーズがクラスメイトと思われる12名の男子生徒に囲まれてタジタジになっているのを見て、俺は思わずため息をついた。


「これは当分、リーズには女子の友達ができないな」


「そうだな・・・でもなんかこれ、どこかでみたことのあるシーンだと思わないか」


「・・・ネオン親衛隊! その男子生徒バージョンか」


「だろ。お前の弟妹は、こんなのばっかりだな」


次回から2年生編、

そしてソルレート領への侵攻を描きます。


ご期待ください

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― 新着の感想 ―
[一言] 「クロリーネ様は、シュトレイマン派で侯爵令嬢なので、教室入り口側の一番前の席。」 この席って、入り口から入ってすぐの席っていう事なんかな。一番前の席で真ん中だったらいい席だと思うけど、入っ…
[良い点] リ、リ、リ、リ、リーズがかわいいだと! [一言] 4章完お疲れ様でした。
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