第80話 過去と未来が一つになって(追記版)
第80話もストーリーに影響がない範囲で情報を加えています。
また、本話中盤あたりで、アゾートがダリウスたちを説得して公爵に引き合わせるまでのシーンを、追加いたしました。
お時間あるときにでも、ご一読頂ければ幸いです。
「計画だと? 君は何を言っているのだ」
「あなたが教会の奥にある神具、いや古代の魔術具・タイムリーパーを使ってネオンを時間溯行させ、あなたの計画の一端を担わせようとしたことを言っているんですよ」
「タイムリーパー・・・なぜその名前を知っている。この魔術具のことはメルクリウス家当主しか知らない、セシリアにすらまだ教えていないことなのに」
「地下神殿の祭壇とオーブから情報を得てわかりました」
「オーブ、それに祭壇だと・・・そうか、君がネオンの言っていたアゾート・メルクリウスか」
「そうです」
公爵の目が驚きから、納得の色に変化していく。俺の顔をじっと見つめて、
「そうか。君が望む答えかはわからないが、私が考えていることを話そう」
公爵はタイムリーパーを用いて、ネオンにしようとしたことを話し始めた。
先日バートリー城でネオンと話をした公爵は、先祖から伝わる魔術具の存在を思い出した。タイムリーパーだ。
この時公爵は、少し未来の自分がこの魔術具を使って、先ほどネオンから聞いた話の通りにネオンを時間溯行させ、最終的にセシリアと民衆を救出させるということを、確信したのだという。
そしてネオンが未来に戻ったあと、公爵は教会の地下神殿に入ってこの魔術具の操作方法を確認し、まさに今日これから、タイムリーパーの特殊モードの設定を行い、ネオンを指定の時点に時間溯行させる予定だったようだ。
「しかし何故私がタイムリーパーの設定をして、ネオンを時間溯行させることが君にわかったのかね」
「転移先があるストーリーを持っていて、そこにメルクリウス一族と旧教徒の両方を救う意図が見えたので、公爵が関与していることはすぐにわかりました。ただ、いつの時点でそれを行うのかがわからなかったので、一番可能性の高いこの時点の公爵に、話をしに来たのです」
「なるほど。だがこの計画をやめる必要性が認められん。理由を聞かせて欲しい」
「わかりました。実は、このままタイムリーパーを設定すると、ネオンに取り返しのつかないことが起きてしまいます」
俺はこれまでに得た状況証拠から、これからネオンに起こるであろう悲劇を公爵に伝えた。話が進むに連れて、公爵の顔は次第に暗く陰り、後悔の色が滲みでていた。
「タイムパラドックス・・・理解できないこともいくつかあるが、結果的にネオンが未来に帰れなくなりシリウス教国に残されることはわかった。だがセシリアも民衆も両方を救うには、このやり方しかない。王国軍は既にこのバートリーに来ており、ネオンは既に戦いを始めている」
「・・・もうネオンはここに来てしまっているのか。ということは既にタイムパラドックスは発生してしまっている」
一歩遅かったのか。
もう一度別の時点に時間溯行して、公爵を説得しなおすにしても、今度は俺自身のタイムパラドックスの危険性が増す。どうしたらいい。
いや、公爵はこれから設定を行うと言っていたな。ひょっとしてまだ間に合うか。
「・・・先ほど公爵は、タイムリーパーの設定をこれから行うとおっしゃいましたよね」
「その予定だが」
「つまりまだ特殊モードの設定はしていない。であれば女の服装の方のネオンがここにくる時間を、二人が重ならないように半日後ろにずらして設定してください」
「それで君の言うタイムパラドックス回避モードが発動しなくなるのだな。・・・いやダメだ。我が騎士団の今の戦力では、半日も戦線を維持できない。旧教徒の志願兵たちを全員逃がすのを諦めなくてはならなくなる」
「そこを諦めることはできないのですか」
俺のその言葉に、公爵は激怒した。
「君は何を言っておるのだ。貴族は民衆を守るために存在するということを忘れたのではあるまいな。200年も立つと、貴族の当たり前の義務すらも忘れてしまうのか! 嘆かわしい」
「っ! ・・・失礼致しました」
ノブレス・オブリージュ。
貴族が普段特権を許されているのは、こういう場面で民衆を守るためという考え方だ。
公爵の前で、これ以上民衆の命を軽んじる発言はできない。
しかし困ったな。公爵が言うようなそんな過酷な最前線を半日持たせるなんて、それこそ魔法でもない限りできるわけがない。
・・・魔法?
「公爵! 一つだけ方法があります。俺が必ず戦線を半日持たせます。だから、ネオンの時間溯行のタイミングを半日ずらしてください」
公爵に俺のアイディアを伝えると、公爵の目がみるみる驚きに満ちたものに変わり、すぐさま神具の場所に直行した。
そして公爵は俺の指示に従い、タイムリーパーの特殊モードの設定を行った。
「君はとんでもないことを思いつくな。そんな方法があったとは」
「苦肉の策ですがこれしか思いつかないし、これ以上ない作戦だと思います」
「とにかく君の言う通りにセットした。ここからの作戦は全て、未来のメルクリウス家当主である君に一任する。セシリアと旧教徒の民衆たちをよろしく頼む。・・・それから知らぬこととは言え、ネオンには悪いことをした」
「話は後です。それでは俺は一度未来に戻ります」
公爵がタイムリーパーの作動を行うと、当たり一面が目映い光に包まれて、全てを飲み込んでいった。
気がつくと俺は教会の神具の前に立っていた。
「アゾート! もう帰ってきたの?」
「マール、カイン。まだそこにいたのか」
「いたのかって、アゾートが地下に入っていったと思ったら、いつの間にかそこにいたのよ。びっくりするじゃない、もう」
「そうだったのか。だが悪い、ちょっと急いでるんだ。状況はあとで話すよ」
俺はマールとカインをその場に残し、ギルドの転移陣に向かって走り出した。
現代に戻ってやることを終えた俺は、再び教会に戻って来た。
タイムリーパーの一般モードを、俺が現代に帰還した直後の時点に設定しなおし、魔術具に血を捧げた。
そして再び公爵のもとへと、地下に降りて行った。
「公爵、戦力を連れてきました。今すぐ彼らを引き連れて最前線への突撃を開始します」
俺が公爵の前に連れてきたのは、フェルーム家当主ダリウス、エリーネ夫妻とその娘セレーネ、俺の両親ロエルとマミー夫妻に弟妹のリーズとアルゴ、さらにカイレンおじさんやリシアおばさんを含めた分家筋の親戚一同、総勢40名。
タイムリーパーでの時間溯行が可能なほど、メルクリウスの血が濃く残っている、メルクリウス一族の末裔たちだ。
「これが全て我が一族の末裔なのか」
「血の薄くなってしまった親戚もまだたくさんいますが、少なくともここにいる人たちは、確実に公爵の末裔であると言えると思います」
「そうか・・・セシリアの子供たちがこんなにも」
公爵が茫然としているところ、ダリウスが前に出て公爵の手をとった。
「私はこれら一族を率いている、ダリウス・フェルーム子爵と申します。アゾートから話は伺いました。我々はご先祖様たちの無念を打ち払い、必ずや王国の軍勢を全て焼きはらい、灰にしてご覧にいれます」
ダリウスがニヤリと不敵に笑うと、父・ロエルが屈伸運動を始め、フェルームの分家筋たちも指をボキボキ鳴らしたり、肩をグルグル回してそれぞれウォーミングアップを始めた。
「いや挨拶が遅れた、私がメルクリウス公爵だ。まさか我が末裔たちをこの目で見ることができるとは、夢にも思わなかった。我々の手助けに来てくれたことに感謝する。それからネオンを巻き込んですまなかった。許してほしい」
「何、うちの暴走娘の不始末を我々でつけるだけです。それに我々も、まさかご先祖様にこのような形でお会いできるとは夢にも思いませんでした。・・・公爵の子孫は200年後もこうして元気にしてますので、どうぞご安心ください」
そして公爵に別れを告げると、俺たちは急ぎバートリー城外の戦地に向かって走り出した。
実はダリウスたちを説得してここに連れてくるのは、そう難しい話ではなかった。
フェルーム城のダリウスの執務室に勝手に押し掛けた俺は、ダリウスにこう持ちかけたのだ。
「やっとネオンを見つけた! だけど、敵の大軍に囲まれて退却できないんだ。フェルームの親族を至急集めて助けに来て欲しい」
「何だと! よしわかった。で場所は何処だ」
「フィッシャー辺境伯領だよ」
「だとすると敵はブロマイン帝国か。・・・強敵だな」
「特殊な魔術具を使って最前線まで一気に転移するから、フェルームの血が濃い人だけをできるだけ多く集めて、大至急エーデルギルドまで来て。俺はうちの家族とセレーネを連れて待ってるから」
「わかった。うちの娘をよくも・・・全員灰にしてくれるわ!」
エーデルギルドに集結した俺たちは、さらに転移して教会の前に来ていた。そこで待っててくれていたマールとカインに宿の手配をお願いしていると、
「おいアゾート、ここの何処が戦場なんだ。ただの寂れた廃墟じゃないか」
ダリウスがイライラした様子で俺を急かす。だが、ここまでみんなを連れてくれば、こっちのもの。後はどうとでもなる。
「みんな聞いてくれ。ここから最後の転移をして、戦場の最前線に向かう。その戦場とは今から200年以上前の過去の世界だ。そこで我々のご先祖様であるメルクリウス公爵の騎士団に加勢する」
「メルクリウス公爵だ? 誰だそれは。お前は男爵だろうが」
「フェルーム家の先祖はもともとメルクリウス公爵家だったんだよ。ダリウスはそんなことも知らなかったのか。当主なのに所詮父上と同じ程度か・・・」
「当主のワシがロエルと同じだと? アゾート貴様。 ・・・そ、そんなことぐらい当主のワシならば、当然知っておったわ」
「さすが当主ダリウスだな。父上はそんなこと全く知らなかったのに」
「バカもん。そ、そうだな・・・確かネオンが去年うちに来たときに、過去に戻ったとかどうとかうるさかったので、時間溯行についてはよく理解しておるわ。そこのダリウスと違ってワシは頭がいいからな。さすがに、公爵うんぬんは知らなかったが」
「ロエル貴様、ワシが時間溯行についてはお前よりも詳しいことを知らずに、勝手なことを言うな」
「まあ二人ともその辺にして、とにかく俺について来れば分かるよ。教会の奥の神具に一人ずつ順番に、血を捧げるだけで過去に戻るよ」
この2人は扱いやすくて楽だな、うししし。
「よし、全員が過去に戻ることができたようだな。それじゃ時間溯行が成功したことを確認するため、一度教会の外に出てみようか」
俺はみんなを引き連れて、一旦教会の外に連れ出した。
「何処だここは、アゾート・・・さっきまでの廃墟と違って、街がきれいで人も多い。本当に過去にもどったのか・・・」
「そうだよ。俺もここに来るまでは、時間溯行なんか信じていなかったけど、実際に体験するとよく理解できるでしょ」
「あ、ああそうだな。するとメルクリウス公爵というのも、本当のことなのか」
「本当のことだ。今からフェルーム一族のご先祖様であるメルクリウス公爵に会う・・・実はこの戦いでメルクリウス一族は滅ぶ。ただし公爵家の娘夫婦だけが生き残ってボロンブラーク領でフェルーム家となる。今日の戦いはそのフェルームの歴史をスタートさせるものでもある。みんな気合いを入れて戦って欲しい」
「そうか。これは俺たち自身の戦いでもあるわけだな。・・・公爵に会おう。アゾート早く案内しろ」
公爵と別れ、バートリーの城門から外に出た俺たちは、全力で最前線まで駆け抜けた。
最前線はどこもかしこも敵だらけ。多勢に無勢の戦線を少数のメルクリウス、バートリーの騎士たちがかろうじて持たせていた。
そんな地獄に、俺たちは駆けつけたのだ。
負傷の公爵に代わって指揮をとる公爵の弟に近づき、
「アゾート・メルクリウスです。ネオンの到着が半日ほど遅れるため、その間の援軍として公爵から派遣されました」
「なんだと! おいまさかこれ、全員我が一族じゃないか。どこにこれだけの戦力が隠されていたんだ、兄上からは何も聞いていないぞ」
「ワシは一族の代表、ダリウス・フェルーム子爵だ。今はそんなことなど、どうでもいい。まずは王国軍と戦うのか先ではないのか。・・・我々がご助力いたす」
「・・・全くそのとおりだ。ご助力に感謝する」
「よし、お前ら全員よく聞け! 我らフェルーム一族のご先祖さまのために、ついに我々の全力を発揮する時がきたのだ。相手は王国軍、相手にとって不足なし。しかも過去の政変を引き起こした狂った新教徒の王と外国の兵士どもだ。敵にかける情けは一切無用! 全員を骨ひとつ残らぬ灰にしてしまって構わない。よしせっかくの機会だ、フェルーム一族の最強が誰なのかこの一戦で決める。持てる全火力をやつらに叩き込め!」
「「「おっしゃー!」」」
ダリウスの檄が効いたのか、俺たちが戦線に加わると苦しかった戦況が少しずつ持ち直し、前線自体を少しずつ押し戻し始めていた。
「アルゴ、お前はあまり前に出るな。後方から遠隔魔法に専念しろ。魔法は質とコントロールだ、いいな」
「はい、兄上」
「リーズはもうすぐ騎士学園が始まるから、格闘戦の経験が欲しいところだな。あそこにいるセレーネ・・は参考にならないので、そこにいるバートリーの騎士と組んで集団格闘戦の実地訓練でもやってこい」
「承知いたしました、お兄様」
俺たちは兄弟はこれでいいとして、あそこは随分と盛り上がってるな。
「おいロエル。お前やっぱりプロメテウス城に引っ越してから、衰えたんじゃないか。書類仕事ばかりしてるからだろ」
「書類仕事はお前も同じだろ、ダリウス。ワシの真の実力をその腐った眼でよく見ておくんだな。いくぞワシ最強のエクスプロージョン!」
「でたよ、ロエルのしょんべんエクスプロージョン。あんなの目をつぶってても打ち返せるぜ。ちゃんと見とけよ、ワシのスーパーエビ投げハイジャンプエクスプロージョンの威力を」
「アゾート。あんな脳筋魔導騎士を見本にしてたら、フリュちゃんに嫌われるぞ。おじさんのようにエレガントでカッコいいエクスプロージョンを覚えて行け。フリュちゃんもお前のことを惚れ直すぞ。でも子供を作るのはまだ早いからな」
「余計なことはいいから、黙って戦ってくれよカイレンおじさん」
「そうよ、カイレン。でもフリュちゃんがここにこれなくて本当に残念ね。アゾートが浮気しないように代わりに私がよく見張っておかないと、男はすぐ他の女にフラフラついて行ってしまうから」
「いや、フリュとはまだそういう関係じゃないし、そもそもこんな激しい戦場で他の女に浮気するようなやつはいないし、リシアおばさんは男をなんだと思ってるんだよ」
「アゾートこそ余計なことを言わないの。リシアちゃんはまだ旦那とのことがトラウマになっているんだから。こういう時は黙って女の話を聞いてあげるのが、いい男の条件よ」
「そんなことは本当にどうでもいいから、少しは真面目に戦ってくれよ」
俺たちが参戦してそろそろ半日が経とうとしていた前線では、みんなマジックポーションを飲みながら、必死の防戦が続いていた。
あたりを見渡すと、過去のメルクリウスの騎士と、未来のフェルームの騎士が並んで戦場に立っている。
中には互いに肩を組み合って、ダブルエクスプロージョンを放ったり、完全に打ち解けあっている者たちもいた。
俺たちが参戦したことで、かなり戦いが楽になり、味方の魔導騎士にも大きな損害が出なくなっていた。
だが、俺たちの時間溯行の魔法が切れたら、戦場のバランスは一気に崩れ、戦線は崩壊する。そしてその時刻はもうすぐそこまで迫っていたのだ。
俺の顔色で察したのか、公爵の弟が俺たちの所に来て最後の別れを告げた。
「君たちが来てくれて、本当に助かったよ。もとより玉砕覚悟で望んだこの戦い。当初の目的通り、旧教徒の兵士たちの退却も進み、計画は予定どおり進んだよ」
「しかし、俺たちがいなくなったら皆さんは」
「いや、君たち子孫がこれだけ元気に暮らしていることがわかって、心残りが何もなくなったよ。本当にありがとう」
「アゾート、ワシたちにできるのはここまでだ。それにご先祖様たちの覚悟を尊重するのも子孫たる我々の務めだ。・・・皆さんワシたちもご先祖様に出会えて、そして一緒に戦えて、これ程の幸せはありません。皆さんの勇姿を、我々の子孫へと語り継いでいきたいと思います」
「そうしてくれると何よりだ・・・それでは本当にこれでさらばだ。我が子孫、メルクリウス・フェルーム両家に、栄光あれ!」
その言葉を最後に視界が歪み始め、俺たちは現代へ帰って来たのだった。
教会の前に転移した俺たちは、一人も欠けることなく全員無事に現代へと帰還してきた。
全員が魔力を使い果たしたボロボロの状態だったが、教会の前で俺たちの帰りを待っていてくれたマールが、馬車を手配してくれていて、領都エーデルの宿屋に向けて走り出した。
エーデルの宿に到着するまで、みんな馬車の中で泥のように眠った。




