第62話 クエストクリアと報酬
「セレーネ、今日は何日だ」
「1月9日よ。あれから丸1日眠っていたのよ」
「そうか。まだ1日しか経っていないんだな。あの後ジオエルビムはどうなった?」
「揺れはおさまったけど、倒壊した建物もあったから被害は出たと思う。あとは端末を操作した魔法協会の職員は取り調べ中だったから結果は分からないわ」
「今からジオエルビムに戻れないかな」
「え、今から? 今日から学園が始まってるわよ。私はアゾートの看病でここに残ったけど、みんな学校に行ったわよ」
「そうだよね。今から行くのは無理か」
「そうだ、行く必要はない。婿殿」
「ちょっと失礼するよ」
そういって部屋に入ってきたのはアウレウス伯爵とジルバリンク侯爵だった。
「今日はジオエルビムの被害状況の報告と、今後のことについて話し合いに来た。まだ体調がすぐれないと思い、私室まで訪問したことを許してほしい」
セレーネが二人に椅子を用意し、さっそく伯爵から語られたジオエルビムの被害は以下のような状況だった。
・中央塔の暴走は無事おさまり、倒壊した建物は多数に上ったものの、ジオエルビム全体や最初の建物は問題なかった。クレイドルの森ダンジョンとの行き来も可能。
・リスト化された遺物62点のうち、倒壊した建物に巻き込まれたものが28点。
・残り34点のうち、例の調査員が勝手にいじった遺物が他にも4点ほどあり、なんらかの障害が発生している可能性が否定できない。
・遺物以外にも、建物の倒壊により失われた歴史的遺産も多々あり、監察局としては今回の魔法協会の愚挙を重く受け止めている。
「今回の件は、我々魔法協会側に全面的な責任がある。ここにお詫びする」
侯爵が伯爵と俺に頭を下げた。
「頭をおあげください。それで遺物はどういう取扱いになるのですか」
「倒壊した建物を除去し、遺物を掘り起こしていく作業は魔法協会が責任を持って行う。34点の遺物については、魔法協会ではなく監察局が管理することになった。我々は今回の件で信用を失墜したのでな」
「監察局が管理すると、遺物の調査は誰が行うのですか。ここは魔法の研究を行う組織ではないですよね」
「監察局から遺物を借り受けて魔法協会が調査を行うことになる」
「なるほど」
「さっそくだが婿殿。この前説明してもらったクレーン車、グライダー、小型トラックを一つずつ持って行くがよい。これを調査して動かせるようにしてほしい。成功すれば渡した分は婿殿のものにしてよい」
「本当ですか? さっそく試してみます」
「それから今回のキミの活躍に対し、王国から報奨がでるであろう」
「活躍って?」
「古代魔法都市ジオエルビムの発見と一部遺物の起動方法の解明。それに身を呈して中央塔の暴走を阻止したことだ」
「王国から評価してもらえるんだ」
「当たり前だ。考古学上の近年まれにみる功績だからな。魔法協会からも報奨を出させていただく。正式には後日となるが、非常勤特別研究員の待遇と、魔法協会が所有している遺物のうち好きなものを一つ進呈しよう。本当は常勤の主任研究員にしたかったのだが、伯爵がうるさいのでね。協会所有の遺物は王都の本部にリスト化されているので、いつでも見に来るといい。それからギルドに出したクエストもキミたちがクリアだ。ギルドで報奨を受け取りたまえ」
クエストクリア!
夏休み明けから取り組んでいたクエストが、やっといまコンプリートした!
当初ランクCだったクエストが、攻略不可能という噂がたってランクAまで上昇し、クリアーしてみればまさかの古代魔法文明の都市遺跡の発見に繋がった。
途中にソルレート伯爵との戦争というサブクエストまで挟み、その難易度はギルドの基準では図れないほどのものではないだろうか。
冒険者ランクアップも期待できるな。
「それから、キミはあまり興味がないかもしれんが、中央塔の暴走を引き起こした3人の調査員は全員解雇した。魔法協会の信用に傷をつけ、莫大な損失を与えたため、実家にも相応の損害賠償を請求させてもらった。領地を売り払っても、払える金額ではないがな」
「それはご両親が災難でしたね」
「魔法協会の他の職員に対しても、再発防止の指導は徹底して行う。それから今の魔法協会では古代魔法文明の魔導技術についていけない。だから魔法協会に入って、キミに指導してほしいのだが」
「うおほん!」
「伯爵がうるさいのでここまでにして、キミは特別研究員の資格があるから、クエスト終了したあとでもジオエルビムへの立ち入りは自由だ」
「ありがとうございます」
こうして、今回のエピソードは大団円を迎えたのだった。
だが、謎のまま残ってしまったこともある。
ジオエルビム自体の調査がまだ行われていない。いつの時代の遺跡で、どのような文明を築いていたのか。どんな魔導技術を持っていたのか不明のままだ
俺が最後に見たあの人体実験のような記憶も、あれが何だったのか全くわからない。被験体という言葉が印象に残ったが、他にも何か言っていた気がする。
フィッシャー地下神殿と古代魔法文明、フェルームのご先祖様の関係も謎のままだ。ネオンがタイムスリップしたというのも、謎として残っている。
あとは俺の記憶の欠損か・・・。
侯爵はうちの両親と話があるらしくしばらくプロメテウス城に滞在していたが、伯爵は多忙なようですぐに王都に帰還していった。
一区切りついたところで、学園も新年開けさっそく授業がスタートしている。
体調も特に悪いところがないため、早く学園に復帰したいところだ。
「そういえば、何でセレーネが看病してくれてたんだ。いつもならフリュがやってくれていそうなものだけど」
「それはね。私とフリュさんが相談して役割分担をしたのよ。ほら明日、生徒会長選の投票があるでしょ。フリュさんはその準備があるから学園に戻らなきゃならなくて、それで代わりに私がアゾートの看病をすることになったのよ」
「でも生徒会長候補はセレーネなんだから、フリュに任せっきりで大丈夫なの?」
「実は秘策があるそうで、彼女に全部任せちゃったの。さすがプロメテウス軍総参謀長よね。本当はネオンもここに残るって粘ったんだけど、フリュさんが力ずくで学園に連れていったわ。お義母さまが庭園を凍らせないでってフリュさんに文句を言ってたのは笑ったけど」
「え、フリュがネオンを力ずくで倒したの? 何それ。ちょっと何が起きたのか想像ができないよ」
二人してネオンを簡単に倒すのをやめて欲しい。
ネオンと同じ実力の俺は、二人に全く歯が立たないってことを証明されてるのと同じだから。
「でもセレーネとフリュって、いつの間にか仲良くなったんだな」
「そ、それはね・・・。私たち二人には、これまでいろいろあったけど、このお正月休みの間にじっくり話し合ったのよ」
ネオンのやつが言っていたことは本当だったんだ。あいつ鋭いな。
「セレーネ。俺の体調は悪くないので、明日から学校に行くよ。生徒会長選の投票もあるしね」
「そうね。私が生徒会長候補だし、学園に戻りましょう。でもアゾートはしばらく無理をしないでね。あなたの面倒はしばらく私がみてあげるから」
次の日、城の転移陣を使ってボロンブラーク城に転移した。
セレーネが俺は魔力を使わなくていいからと、俺の腕をぎゅっと抱き締めて、セレーネの魔力で俺をジャンプさせてくれた。
転移後、たまたまボロンブラーク城にいたサルファーが、セレーネが俺の腕を抱きしめているのを見て、怒りを爆発させた。
「おいアゾート! よくも人の家に勝手にジャンプしてきて、朝っぱらから俺のセレーネとのイチャイチャを見せつけてくれたな。主君に対してそこまで挑発するやつも見たことがない」
「いや転移陣をお前と俺の城でつなげてあるから仕方ないし、これはイチャイチャではなく俺の介護だし、そもそもお前は俺の主君ではない」
「ぐぬぬぬ。とっとと学園に戻るがいい。俺には寝取られの趣味はないのだ」
そしてその日の放課後、講堂では1、2年生全員による生徒会長選の投票が行われていた。騎士学園の選挙は記名投票だ。
壇上には生徒会長の候補であるセレーネとニコラが並んで座っていた。その後方にセレーネの側近として俺とフリュが控えている。
今日の選挙戦の振り付けは、先ほどフリュから説明を受けた。俺も知らなかったが、今回のフリュの作戦は地道な労力を経たものだった。
そして、全校生徒が投票を終えて旧生徒会スタッフによる開票の結果、生徒会長選は僅差でニコラが勝利した。
選挙はやはりカネだったか。
あるいは突如持ち上がったアイドル学園構想のせいか。
いずれにせよ投票結果においては、最後の最後にソルレート伯爵側にやられた感じだ。
・・・だが巻き返しはここからだ。
俺とフリュがセレーネの横に立ち、この選挙結果にかかわらず、セレーネの生徒会長就任が行われることを伝えた。
事実上の勝利宣言だ。
当然講堂はどよめきに包まれた。
さっそくシュトレイマン派の上位貴族令嬢が疑問の声をあげた。
「意味がわかりません。あなたたちは今の選挙結果を聞いていなかったのですか。選挙に勝ったのはニコラ様だったじゃないですか。それなのにどうしてあなたたちが勝利宣言を行うのかしら。二コラ様、早く勝利宣言をお願いします」
その発言に、勝利したはずのニコラは全く反応を示さない。ただそこに座っているのみで、セレーネたちへの反論も令嬢への同調も行わない。
そしてフリュがその疑問に答えた。
「お答えします。それはこの冬休みの期間中にニコラさんが、生徒会長の資格を喪失したからです」
「「「えっ?!」」」




