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第61話 被験体





 1月8日(火) 晴れ


 遺跡調査の最終日。


 ジオエルビムの探索は、中に入れなかった中央塔や、最初の建物のロックがかかった部屋を除き、すでに調査を終えていた。


 調査期間中俺は、最初の建物の最上部にある「管理室」に連日籠っていた。


 ここには例の端末や用途不明の遺物がいくつか設置されており、管理室っぽいので俺が勝手にそう呼んでいる。


 このうち例の端末だけは作動しており、ここ数日はずっとネオンと二人でこの端末と格闘していた。


「ネオンどう思うこれ」


「やっぱり、この建物と中央塔はつながってると思う。たぶん地下の原子力施設からのエネルギーが中央塔の何かの装置に供給されていると考えた方がつじつまが合うよ」


「だよな。ただそのエネルギーをどうやって中央塔に運んでいるのかが謎だけど」


 古代語が読めないため、あくまでも推測の域を出ないのだが、たまに混じっている日本語の記載をヒントに俺たちは解読を進めていた。


 そこへ魔法協会の調査員が管理室に入ってきた。


「ジルバリンク侯爵とアウレウス伯爵が到着しました。アゾートさん、ネオンさんは下の展望室までお越しください」


「もうそんな時間か、いくぞネオン」


 俺たちは監察局の人に後を任せて、展望台に下りていった。



「監察局の皆さんもアウレウス伯爵がお待ちです。私たちが管理室の扉を閉めていきますので、お急ぎください」


「わかった。あなたたち魔法協会も、ジルバリンク侯爵の対応があるんだから、すぐに来た方がいいぞ」


「わかってます」





「元気そうだな婿殿。調査の方は進んでいるか」


「おかげさまで。この上の階に管理室が見つかり、ジオエルビムの秘密を探る手掛かりを探しているところです」


「それは素晴らしい」


「キミはやはり魔法協会に入るべきだ。主任研究員のポストを今すぐ用意してやるぞ」


「婿殿にチョッカイを出さないでいただきたい、侯爵」


「そ、そんなことより、リストの確認をされた方がいいのでは」


「うむ」


 ジオエルビムの遺物は今後、魔法協会で厳重に管理されることとなったが、監察局がチェックできるように遺物のリストを作成し、公文書として承認することがこの二人の今日の仕事だ。


 俺と魔法協会の調査員がジルバリンク侯爵とアウレウス伯爵の質問に答えながら、粛々とリストの確認を進めていく。





「あいつら、この端末をずっと調べているけど、何の成果もあげられてないじゃないか。やっぱり実力もなく伯爵に引き上げられただけのやつだったな」


「そうだな。せっかくジルバリンク侯爵がいらしゃってるんだ。俺たちがここで成果を上げて、あいつに実力がないことを示してやらないとな」


「しかしこの遺物どうやって使うんだ。この表面に何か古代文字が書いてあるが・・・お前読めるか?」


「いや読めない。この表面を押すと文字が変わるな。いろいろと押していけば、知っている文字が表示されるかもしれないぞ」




「ようやくこれで最後か。随分と遺物が発見されたようだな。婿殿はこれを全て調査していくつもりか」


「できればそうしたいのですが」


「だったら是非、魔法協会の主任研究員に」


 その時、建物全体を揺るがす大きな揺れが発生した。


「何事だ?」


「伯爵、窓の外をご覧ください。ジオエルビムの中央塔が光ってます」


「本当だ・・・な、何だこの膨大な魔力は!」


「お、おい。揺れがどんどん大きくなっているぞ。一体何が起こってるんだ」



 そこへ魔法協会の職員が飛び込んできて、


「建物最上階の管理室で異常事態です。遺物が勝手に動き出して、大きな警報音が鳴り出しました」


「もしかすると、この揺れと関係しているのかもしれん。そこへ案内しろ」


 俺たちも伯爵たちとともに、最上階の部屋へと走っていった。




 管理室に到着すると、窓から見えるジオエルビムの中央塔がさっきよりもさらに強く光輝いており、地震により周りの建物も少しずつ崩れ始めていた。


「ジオエルビムが、古代遺跡が壊れていく!」


 管理室ではサイレンが鳴り響き、今まで動作しなかった用途不明の遺物もうっすらと光って起動している。


 何が起こったんだ。


 あたりを見渡していると、さっき俺を呼びに来た魔法協会の調査員が、部屋から逃げ出そうとしているのを発見した。


 あいつら、俺がいない間に端末を勝手にいじったな。


「アウレウス伯爵。あの魔法協会の調査員を捕まえてください。彼らが端末を勝手に操作した可能性があります」


「なんだと! 監察局、早くそいつらを捕まえろ」


「はっ!」


 監察局員に捕らえられた魔法協会の調査員3名は「俺たちが悪いわけじゃない。アゾートがやらかしたのを修復していただけだ」と喚き散らしていた。


 だが誰もその言葉を信じない。


「なぜ勝手に遺物に触れたんだ!」


 アウレウス伯爵が激怒して、魔法協会の職員がシドロモドロの言い訳をしている。


 俺もかなり頭に来ていたが、今はそんなことに構っている暇はない。この状況を何とか抑えなければいけない。




 端末の画面を見ると何かのプログラムが作動している。おそらくこの実行中のプログラムを止めなければならないのだが、そのウインドウをタッチしても反応がない。


 今度は入力エラーと表示されたウインドウにもタッチしたところ、キーワードが再入力できるようになり、さらに別画面が開いて、何かのリストが表示された。


 リストは古代魔法文明の文字で書かれていて全く読めないが、とにかくスクロールダウンしていくと・・・あった。


 日本語で【魔導コア起動/停止】と書かれたメニュー画面。


「あった、これだ!」


 急いで画面に表示された説明文を読む。


 魔導コアとは、我々がジオエルビム中央塔と呼んでいる建物で、膨大な魔力を生み出す発電所のようなものらしい。


 先程の魔法協会の職員の誤操作により、魔導コアの出力が一時的に上昇し過負荷状態になっているようだ。


 この端末からも出力を下げる操作ができるが、沈静化するまで時間を要するらしく、緊急停止を行う場合は、魔導コアを直接操作する必要があるようだ。



 俺は窓の外を見る。


 朽ちた建物が、少しずつ崩落していく。


 古代魔法文明の遺物も同時に失われていく。


「緊急停止させよう」


 俺は端末の説明文のとおりに、この部屋の奥にある転移装置へと駆け寄った。


「私たちもついていく」


 転移装置に入ろうとしたら、セレーネ、ネオン、マール、フリュ、ダン、パーラ、アネットも一緒に乗り込んできた。親衛隊も入ろうとしたが、8人でいっぱいでそれ以上入ることができず、不安そうな目でこちらを見ている。


「一人で何かあった時に困るでしょ」


「そうだなネオン。それにみんなが一緒に来てくれるなら助かる」


 俺は転移装置のスイッチを押すと、転移装置が動作を始めた。


 外で心配そうに見ていた親衛隊や魔法協会職員を問い詰めている伯爵や監察局員の姿がボンヤリとうすくなり、そして消えた。





 俺たちは薄暗い空間に転移した。


 半球形のドームの中央には床から延びた細い円柱が立っており、その上部には白く輝くオーブが取り付けられている。


 あのオーブで魔導コアの制御を行うのか。



 ・・・うわっなんだこれは?!



 オーブに近付こうとしたその瞬間、強烈な頭痛と吐き気が俺を襲った。


 く、苦しい。目が回る。


 見ると他のみんなも苦しそうに床でもがいている。


「皆さんこれは魔力酔いです。早く魔法防御シールドの展開を」


 フリュが大声で叫ぶ。



  【無属性魔法・魔法防御シールド】



 全員が魔法防御シールドを発動させて多重バリアーのような状態にしたことで魔力の奔流を遮り、なんとか気分の悪さはおさまってきた。


「魔導コアの強力な魔力を浴びたから、急性の魔法中毒になったのかもね。ほら、一般人がマジックポーションを飲んだときになるあれよ」


 アネットだ。


 そういえば銃装騎兵隊は、一般人にマジックポーションを飲ませて強制的に体内に魔力を取り込ませていたな。こんなに気分の悪い状態で戦わせていたとは、今更ながら申し訳なかった。


 少佐がげんなりしていたわけだ。みんなの給料を少し上げてあげるか。


「落ち着いたところで、これから緊急停止をするわけだけど、バリアーを張ったままだとオーブに近付けないから一旦バリアーを消す必要があるわね」


「魔力が強い人の方が魔法酔いがマシなので、わたくしかセレーネさんがオーブを操作いたしましょうか」


「いや大丈夫だ、俺がやるよ。緊急停止のキーワードもあるし。ギリギリまで近付いてバリアー解除と同時に俺がオーブまで走るから、みんなはまたバリアーを展開して待ってて」


「わかりました、アゾート様よろしくお願いします。それではこの辺りでバリアーを一斉に解除します。3、2、1、解除」


 俺は解除と同時にオーブに駆け寄り、白いオーブに手を乗せた。


 キーンとする強烈な頭痛が俺を襲う。


 鼻の奥からは鼻血の鉄の匂いがし、胃から吐瀉物が込み上げてくる。それをぐっと堪えて、緊急停止のキーワードを間違えないように、正確に唱える。



  【まこき ゆいじ んろほち】


  【どあん うしゆ ははへり】


  【うのき てのも いにとぬ】



 オーブの白い光が弱まった。


「止まったのか」


 頭痛や吐き気も徐々におさまってきた。魔力の奔流が安定化したようだ。


 とりあえずはひと安心し、俺はオーブから手を離そうとした。


 が、離れない。


「なんだ、手が動かない」


「どうしたのアゾート、大丈夫なの?」


 心配したみんなが、バリアーを解除して駆け寄ってきたその時、オーブが再び強く輝きだした。


「アゾート!」


 セレーネが、ネオンが、マールが、フリュオリーネが俺にしがみつき、俺をオーブから引き離そうとした。


 先ほどとは別の魔力のうねりが俺たちを包み込む。


「パーラ、アネット! アゾートたちにバリアーを張れないのか」


「さっきからやってるけど、ダメみたい。何かに邪魔されてる」


「ダン様。あぶないから、私たちから離れないで」


「アゾート!」


 白い光がアゾートたち5人を包み込んでいった。






  ZA,ZAZA---ZA, ZA



 またあの現象だ。


 目眩がして視界が乱れる。耳鳴りが頭に響くし、心臓が痛い。


 そうか。セレーネが言っていたように、ひょっとすると俺の失われた記憶の欠片がよみがえるのか。


 ああ、目の前が真っ白に変わっていく・・・。


 そうして俺の意識は、どこか別の場所に飛ばされたような錯覚を感じた。





『ここはどこだ』


 目の前の真っ白な景色はどうやら天井のようで、俺はベッドに寝かされているようだ。


 体を起こそうとしたが動けない。


 見ると手足を縛りつけられていた。


『そこの人、誰か手枷を外してくれ』


 俺は周りにいた白い服を着た男たちにお願いする。しかし、


「なんだこいつ、また意識を取り戻したぞ。麻酔の量が足りないんじゃないのか」


「いや、麻酔の量は十分だ。これ以上投与すると死んでしまう恐れがある」


「じゃあ麻酔なしでやるのか」


『おい、お前たちは何者だ。俺に何をするつもりだ。頼むからやめてくれ』


「おい、被験体が必死に命乞いを始めたぞ。笑えるな」


「かわいそうだから麻酔を打ってやれよ。どうせ死んでも被験体はまだ他にもあるんだから」


「ひでぇやつだな、お前」


「真面目にやれ、お前たち。これは大事な実験だ」


「了解。じゃあ麻酔を投入する」


『やめろーーー!』




「麻酔が効いてきたようだな、大人しくなった・・・それでは術式を開始する・・・被験体Cに★✕◎を投与・・・・・がイエローゾーンに・・・・✕✕▲◻️に・・・・・・・・をメルク・・スの・・・・」





「気がついたアゾート?」


「セレーネ・・・ここは?」


「アゾートの部屋よ」


「俺の? どうやってここへ?」


「魔導コアの緊急停止が成功した後、急にアゾートが白い光に包まれたでしょ。あの後私たちがオーブからアゾートを引き離して白い光も消えたんだけど、アゾートはずっと気を失ったままだったのよ。そこからダンが担いでクレイドルギルドまで運んでくれたのよ。マールも一生懸命キュアをかけてくれて、おかげで早く回復できたのよ」


「そうだったのか、みんなのおかげで助かったよ」


「アゾート、ひょっとしてあのオーブを触ったときに記憶がよみがえったとか?」


「いや・・・・なんだったんだろう、あれは」


「どうしたの?」


「俺の記憶ではない、別の誰かの記憶が俺の頭の中に流れ込んできたんだ。何かの手術を受けているようだった。あるいは人体実験・・・」


「え、何それ。気持ち悪い」


「手術室に拘束されて、何か注射のようなものを打たれたんだけど、そこで記憶が途切れてて、よく意味がわからなかった。あれは誰の記憶だったんだろうか」


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