第6話 新入生歓迎ダンジョン(1)
新入生歓迎ダンジョンの日の早朝。
部員は既に全員ギルドに集結し、大挙してテーブル席に陣取っていた。そしてその周りをギルド冒険者たちが興味深そうに眺めている。
「なんだなんだ。なにが始まるんだ?」
「いつものあれだよ。貴族の坊っちゃん嬢ちゃんたちのダンジョン攻略だって」
「あー、毎年やってるあれか。でも所詮おままごとみてえなもんだろ」
「ばか!でかい声で言うな、聞こえるぞ」
「そうだぞ。彼らは魔術師として臨時で俺達のパーティーに加わってくれるかもしれない、大事な人材なんだ。言葉に気を付けろ」
「おっといけねえ、そうだった」
そんな感じでギルドの冒険者たちも興味津々で様子を見守るなか、部長のウォルフからパーティー編成の発表が行われた。
「今年の新入部員は10名なので、これを2名ずつ5班に振り分ける。そこに部の先輩が加わり5人で1パーティーの編成とする。また役割のバランスをみて足りないメンバーはギルド冒険者に依頼して、臨時で仲間に加わってもらった。それでは発表する」
ウォルフは、パーティーメンバーが記載された紙をテーブルへ広げて、読み上げていった。
A:前衛アゾート、キース、臨時冒険者
後衛マール、サーシャ
B:前衛カイン、ロジャーズ、ウォルフ
後衛ミルモ、バーン
C:前衛ダン、ネオン、臨時冒険者
後衛アズマイヤ、セレーネ
以下省略
ネオンが俺の脇腹をつついて小声で聞いてきた。
「ロジャーズ、ミルモ、バーン、アズマイヤって誰だっけ?」
「ロジャーズはセレーネに付きまとっている上級クラスの新入部員。あとの3人は部の先輩だよ。アズマイヤさんは3年生で回復役だな」
「なるほどなるほど。というかこの編成酷くない?私がどうしてアゾートと離れてセレン姉様と同じ組なの?」
「俺はセレーネがお前と同じ組にいてくれて、すごく安心しているんだが」
「部長に抗議してくる」
そう言い残して、ネオンは部長の方に行ってしまった。バカは放っておくことにして、パーティーAに加わった臨時冒険者と挨拶をしておこう。
サーシャ、キース、俺、マールの順番に簡単に挨拶をすると、臨時冒険者の人も自己紹介を始めた。
「ランクB冒険者のワルトファールスターク・バルトーカ・モホロビチッチだ。よろしく頼む」
長い名前だな。外国の貴族か。
「よろしくお願いします、モホロビチッチさん。失礼ですが外国の貴族でしょうか」
「いやただの平民だが? この近くの村の出身だ。だから名字呼びなど堅苦しいことは抜きで、気安く名前で呼んでくれ」
冒険者らしいがっしりとした体格で、背中に大剣と大盾を背負っている前衛盾職が、柔和な表情で俺に右手を差し出してきた。
「わかりました、ワルト・・・さん」
「ワルトファールスタークだ」
「はあ」
気安く呼びたくても、名前が長くて覚えられないんだよ。
気を取り直して、受注するクエストを相談することにした。
受付嬢が候補になりそうなクエストを既にいくつか見繕ってくれている。
多くが魔獣討伐や財宝探し等の定番クエストであったが、その中に一つ気になるクエストがあった。
「エッシャー洞窟の古代魔法遺跡発掘」
エッシャー洞窟は古代魔法文明の遺跡としてかなり有名であり、調査自体はとっくに終了し、今は観光名所になっている。
「この依頼書によると「最近エッシャー洞窟の中に新たな通路が発見されたので、遺跡研究者の護衛を冒険者ギルドに依頼してきたもの」のようね」
サーシャによると、天然の洞窟なので罠などの危険性は比較的低く、洞窟に生息する魔獣の討伐が主体のようだ。
「もし先輩たちが良ければ、俺は古代の魔法文明に興味があるのでこれを受注したいのですが」
俺がそう訊ねるとキースが、
「どのクエストを選ぶかは新入生が決めればいいよ。マールはどうかな?」
「私は特に希望はないので、これでいいです」
他にこのクエストを希望するパーティーがなかったため、俺たちはエッシャー洞窟に向かうことに決まった。
「ダンは「ダンガール迷宮都市」で財宝探しか。俺は「ビスポル火山のダンジョン」で魔獣討伐さ」
カインが剣(模擬剣ではなく本物)を叩き、ニカッと笑った。
「おうよ。ダンジョンと言えば財宝、財宝と言えば迷宮都市。これ以外に選択肢があるのかって、なあネオン」
ダンがネオンに同意を求めるが、ネオンは不服そうにブツブツ言っている。
「なに拗ねてるんだ? パーティーCのメンバーは最高じゃないか。セレーネさんを筆頭に美人しかいねー。お前はいつもクラスの女子たちに囲まれてるからその価値が分からんかもしれんが、年上のお姉さんもいいものだぞ」
ダンのところの臨時冒険者は女性剣士だ。少し大柄だが頼りになるお姉さんといった感じだ。アズマイヤ先輩はほわっとした感じの女子生徒だ。
「ダンはアホだね。普段モテないからって調子にのり過ぎ。アイツそもそも女性に免疫がないから、いざというとき緊張して何か失敗しなければいいんだけど」
マールはいつものように容赦なく的確に、ダンにツッコミを入れる。
うん確かにダンはネオンと肩を組ながら、少し鼻の下を伸ばして調子にのっているように見える。
お前が今肩を組んでいるネオンは実は女で、お前のパーティーメンバーはお前以外全員女だぞ、夢にまでみたハーレム主人公だぞ、と教えてやりたい。
いや、知らぬが仏か。
「それでは今から新入生歓迎ダンジョンを開始する。全員、転移陣に行くぞ」
転移陣は距離に応じて必要な魔力量が異なる。
エッシャー洞窟は比較的近い場所なので、自分達の魔力で賄うことができた。
ワルト何とかさんの分は、部費で購入した魔石を使用した。
エッシャー洞窟への転移陣は、洞窟入り口脇の観光案内所に設置されていた。
そこで護衛対象の研究者たちと合流。
観光客の流れについていく形で洞窟内をどんどん進んでいった。
道すがら研究者たちが遺跡の解説をしてくれて、すごく勉強になった。
「ここからが最近発見された通路への道です」
研究者の一人が脇道を指さした。
そこから先は観光客が進入禁止にエリアなっており、柵の前には守衛が立っている見張っている。
俺たちは研究者たちとともに脇道に入っていき、どんどん進んでいった。
そして脇道の一番奥に到着する。
そこは少し広くなった空間になっており、平たくつるつるした石が床や壁、天井に敷き詰められ、正面の壁には祭壇のようなものが突きだしている。
その祭壇の裏側には下へ降りる階段があった。
「この祭壇の裏の階段が最近発見された通路です」
狭い階段を一列になって降りていく。
階段を降りきったところからは、再び洞窟が続いている。
このあたりはすでに探索が進んでいるらしく、両側の壁には照明の魔術具が一定間隔で設置され、洞窟内を照らしている。
そこからかなり奥まで進んだところで、照明の魔術具もなくなり、あたりが急に暗くなる。
「このあたりからが未踏領域です。魔獣に注意しながらゆっくり進んでください。我々は後方から同行し魔獣除けの結界の魔術具を設置していきます」
「了解しました」
さあ、ここからが本番だ。
パーティーAの司令塔はサーシャで、前衛はキースの指示に従って行動する。ベテラン冒険者のワー何とかさんはイザというときにフォローしてくれるらしい。
俺は一番先頭でランタンをもって前方を照らしながらゆっくりと進む。
右後方にワー何とかさん、左後方にキースが盾と剣を構えて続く。
その後方にはサーシャとマール。さらにその後ろを研究者たちが続く。
地下水が天井から壁伝いに流れ、地面の各所に水たまりができている。
足場が滑りやすくなっており慎重に進んでいく。
日光が届かないからか植物は生えておらず、魔獣の気配すらない死の世界。俺たちの足音だけが洞窟の壁に反響してこだまする。
研究者たちは淡々と結界魔術具を設置していく。特に何も起こらず、3時間ほど進んだところで昼食をとることにした。
「魔獣出てこなかったね」
「そうだね。警戒しながらだからそんなに距離は進めなかったけど疲れた」
「私は後衛なのでアゾートほどじゃないけど、すごく緊張してるよ」
マールとそんな話をしているとサーシャが、
「今日は洞窟内で宿泊することになるので、午後は野営地としてふさわしいポイントを探しながら進むことになるわ」
「この先がどうなってるかわからないが、少なくともこの場所なら野営地として使えそうだ」
とキース。
「少し休んでから、先を進みましょう」
午後は先頭をキースと交代し、俺は左側の前衛を担当した。
部活で借りた備品の剣と盾を構えてゆっくり進む。
お金がたまったら自分用のを買いそろえようか。
洞窟はやがて長い上り坂になってきた。
足を滑らさないように慎重に歩を進める。
地面も硬い岩場から徐々に土のようになっていき、ところどころぬかるみのようなものもできている。
「そろそろ魔獣が出てきそうな雰囲気だな。警戒を怠るなよ」
キースがそう気を引き締めたとたん、前方から魔獣の群れが現れた。
巨大なムカデのようなものがこちらに近付いてきた。
「あいつは炎魔法が弱点だ、前衛なのに悪いがアゾート魔法頼めるか。それまで2人で前衛を持たせるから、一旦下がれ」
「了解。ただ後衛に下がる必要はない」
「どういうことだ?」
俺は剣をいつもの杖に持ち替えて、ファイアーを詠唱した。
【焼き尽くせ】ファイアー
瞬時に発動したファイアー。
炎がうねりを上げてムカデの群れの先頭に炸裂する。
「なんだと!」
初級魔法だが弱点属性のため、たった一発で前方の3体の巨大ムカデを焼き払った。
そして後続のムカデは炎を嫌い、前進できずにその場でうねうねしている。
【焼き尽くせ】ファイアー
今度は後方のムカデに向けて炎を打ち放った。
後方のムカデが炎上するとともに中段のムカデが前後から炎で挟まれる形になり、じりじり焦げ始めている。
「無詠唱魔法?」
キースが呆然とこちらを見るのに対し、サーシャは感心するような表情をしている。
「私も初めて見たときはびっくりしたわ。でも相変わらず見事ね」
「サーシャは知っていたのか」
「ギルド登録の時にね」
「一体どうやったらこんな魔法が打てるんだ...」
「どうやら詠唱に秘密があるらしいわ」
「詠唱...」
前方の炎が消え、生き残ったムカデが再びこちらに向かい始めた。
ただかなりのダメージを受けたようで、動きは鈍い。
「よし一気に討伐する」
俺は再び剣を握り直してムカデの群れに突入した。
すでに瀕死の個体がほとんどであり、間もなくすべてのムカデを討伐する。
「戦闘終了。パーティーの状態を確認する」
魔法はアゾートのファイアー2発だけで、魔力を温存できた。ケガもなし。
アゾートは引き続き前衛でガンガン魔法を使用していく作戦に決まった。
この後も大型のコウモリや昆虫型の魔獣が立て続けに現れた。俺とサーシャは、作戦通り積極的に魔法を使用していった。
「アゾートはかなり魔力を消費したな。しばらく前衛をサーシャと交代し、後ろから攻撃を頼む。それまでマジックポーションで魔力を回復していろ」
「了解」
さらに進んでいくと、やがて洞窟がウネウネと入り組んだ地形になってきた。柱のような岩も障害物となって先が見通しにくい。
気温や湿度も高くなり、菌類のような植物が地面に茂っている。
ずっと上り坂を上がってきたので地表に近くなってきたのだろうか。足元も徐々にぬかるんできた。
そして見通しの悪い洞窟を左にカーブしたところで、前方一面に泥の沼地が広がり先に進めなくなっていた。
さらに悪いことに、泥に混じって無数の毒虫がうごめいてる。
毒虫にファイアーをかけてもぬかるんでいて火属性魔法の効果が低そうだし、仮に毒虫を焼き尽くしたところで、今の装備で沼の中を渡るのは無理。
もう毒虫は無視して、土魔法で沼を埋めてその上を通過する方がよさそうだ。
対処方法を考えていると、毒虫の群れが沼から這い出してきて、ゆっくりとこちらに向かってきた。
「うわ、気持ち悪い」
「俺たちに反応しているようだ。こっちに近付いてくる。これはそっと通り過ぎるのは無理だな」
「だが全て倒しきる手立てが思いつかない」
すぐに結論が出ないため、一旦その場を引き返す。
サーシャを中心に、作戦会議だ。
「まず使用できる魔法の確認ね。使えそうなのは私のアイス系魔法とアゾートのファイアー系魔法。ただ見通しが悪く地形が複雑なため、面攻撃としての効果は限定的ね。かなりの回数の魔法を打つ必要があるわ」
沼がどこまで広がっているか分からないが、下手したらアイスやファイアーを10回ぐらい打つことも想定しておく必要がある。
「沼全体を土魔法で埋めてしまうのはどうだろう」
キースの提案だ。
それは俺も考えたが、サーシャは、
「土魔法は無から土を生成するのではなく、周辺の地面から土を集めてくる魔法よ。沼全体をカバーするだけの土を回りから急に持ってくると、下手したら洞窟が崩れで生き埋めになる可能性もある」
サーシャの説明を聞いてて、一つアイディアが浮かんだ。
「一つ試してみたい魔法がある。うまくいくか分からないし加減が分からないので一か八かの賭けなんだけど」
「どんな魔法だ」
「やはり土属性魔法ウォールを使う」
「だからそれは無理だと。あの沼を埋め尽くす量の土を出すと土砂崩れが」
「土で埋めるんじゃなくて、別の使い方があるんだ」
「どんな?」
「土魔法で、毒虫をまとめて焼き尽くす」
一方、ダンガール迷宮都市に向かったダンとネオンたちパーティーCは、ダンジョンの中層付近の通称「ボスベヤ」と呼ばれる広くなったエリアで、ミノタウロス軍団と遭遇していた。
【焼き尽くせ、無限の炎を、万物を悉く爆砕せよ】エクスプロージョン
上空に浮かび上がった魔方陣から小さな光球がゆっくりと落ち、ミノタウロス軍団のほぼ中央に落下した。
その瞬間、眩い光と轟音を伴って発生した巨大な火球が軍団を包み込む大爆発を起こした。
「魔法防御シールド全開」
アズマイヤ先輩の即座の全力防御がパーティー全体を包み込み、セレーネが作り出した死の抱擁からパーティーメンバーの生命を守る。
爆風で撒き散らされた砂塵がやがておさまり、徐々に視界が取り戻される。そこに現れたのは、無惨に全滅したミノタウロス軍団の死骸であった。
「セレン姉様っ!(怒)」
パーティーメンバーがドン引きする中、一人ネオンだけが額に青筋を立てて、セレーネに詰めよっていた。
「やり過ぎです! 危うく巻き込まれて全滅するところでした」
「てへ」
「大体さっきから姉様ばかり活躍して、私の、見せ場が、全く、あ、り、ま、せ、ん(怒)」
「ネオン、言葉がオネエっぽくなってるわよ(小声)」
「とにかく邪魔!私の活躍を邪魔をしないで!」
「わ、わかったわよ!」
そこへダンの嘆き声が重なった。
「うわあああ!アイテムが!宝箱ごと、木っ端微塵にふき飛んだあ!」
愕然と崩れ去るダン。
「セレーネ。ネオンの言う通り、あなたもう少し加減というものを知った方がいいと思うわ」
いつもほわほわしたアズマイヤにすら怒られるセレーネ。ほわほわした怒り方だったのであまり怖くはないのだが。
助っ人の女戦士は、こんなやつらと一緒にいたらいくら命があっても足りないと、ベテランの勘を働かせていた。
アゾートとマール、ダンとネオンとセレーネ、カインと部長の組み合わせでダンジョン探索です。