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第56話 クロスファイアーポイント


 12月23日(水)曇り


 プロメテウス軍とベルモール軍との闘いは、3日目に突入していた。


 ベルモール軍はジリジリと前進を続け、ロレッチオ軍との合流地点まであと少しというところまで来ていた。


 およそ1日遅れの到着ではあるが、ロレッチオ軍が順調に進軍していれば、ちょうど間に合うタイミングだ。


「敵魔導騎士の想定外の強さにはヒヤヒヤさせられたが、やはり我々との兵力差を覆すことができなかったな。我々もかなりの魔導結晶と兵力を損耗したが、何とか当初の作戦どおり目的地に到達できそうだ。ロレッチオ男爵とは連絡がつきそうか」


「それが、ロレッチオ男爵の騎士団とはまだ連絡が取れず、所在も不明」


「そうか。あちらも苦戦しているのだろう。彼らが到着するまで、このまま敵との交戦を継続しよう。ん? あれはなんだ」



 前線に立って戦うベルモール子爵の前に突然現れたのは、騎士学園の制服を着た12名の女子生徒たち。そしてその前には、白銀の髪をした美男美女のカップルの姿が。


「おいおい、なんだアイツらは。まさかここで学園祭でも始めようという訳じゃないよな」


 子爵は軽口を叩きながらも、目は笑っていない。


 魔導結晶を握りしめ、特大のアイスジャベリンを練り上げた。


「これでも喰らえ!」


 空気を切り裂いて飛翔する特大の多数の氷柱が、女子生徒たちに向けて発射された。


 子爵がニヤリと笑った瞬間、白銀の美女が右手を大きく降った。


 その瞬間、刹那の時間で発動した特大のフレアーが氷柱を全て包み込んで蒸発させ、もうもうとした水蒸気へと変化させた。


「な、なんだと・・・」


 そして、背後の女子生徒たちから放たれた銃弾がバリアーを越えて、子爵のまわりの騎士たちを正確に撃ち抜いていった。


「何だあの武器は!」


 乾いた破裂音がなるたびに、次々と倒れていく騎士たち。敵の新兵器になす統べなく立ちすくんでいる子爵を、次なる衝撃が襲った。


「白いカップルが消えた?」


 ついさっきまで前方にいたはずの二人が、視界から消えていた。いや正確には、一瞬ですぐ近くまで接近を許していたことに、気づいていないだけだった。


 イケメンが繰り出す剣がいきなり子爵を襲う。


 動きが速すぎて全くついていけず、子爵に次々にヒットしていく。


 美女もやはり神速で、ファイアーの弾幕を子爵もろともあたりに巻き散らかしている。


「人間の速さじゃない。なんなんだこいつら」


 魔導結晶により強化された防御力がなければ、とっくにうち取られていた。


 子爵を倒すのに時間がかかることを悟ったのか、子爵への攻撃を早々にあきらめた白いカップルは、次の瞬間にはもう、神速で次なるターゲットに襲いかかっていた。


 瞬時に発動するファイアー。


 一撃で仕留めては、全く無駄のない動きで次のターゲットへ襲いかかる二人組。


 そしてみるみるうちに、陣営の奥へ奥へと進んでいく。


 バケモノか、あいつら。


 なんで学生があんなに強いんだ、絶対おかしいだろ。


 とにかく、あいつらを止めなければ。


 あわてて彼らを追いかけようとする子爵に向けて、女子生徒たちの銃弾が子爵に集中する。


「ぐわっ、あの女子生徒の攻撃が、俺の防御力を超えてきやがった。やはりあれはただの魔法じゃないのか」


 女子生徒たちの援護射撃は、子爵の魔力により銃弾のダメージが減少しているとは言え、攻撃を集中させるされれば、さすがの子爵もネオンたちを追うことができない。


「くそっ、誰かあいつらを止めろ!」





 ネオンは敵陣奥へ奥へと進みながら、そのタイミングを待ち構えていた。


「ネオン、そろそろ来る頃じゃないの?」


「たぶんね。大丈夫のつもりだけど、もしもの時はバリアーよろしくね、セレン姉様」


 突然、ネオンとセレーネは目の前で巨大な魔導防御シールドが発動する魔力を感じた。


 ベルモール子爵が魔導結晶の力を借りて作った、この奥の部隊を包み込む全力のバリアーだ。


 私たちをこれより先には進ませないという、強い意志が感じられる。



「罠にかかった」



 ネオンはニヤリと悪い笑みを浮かべてその場で立ち止まり、エクスプロージョンの完全詠唱をはじめた。


 全ての防御をセレーネに任せて。





 ベルモール子爵は自分が展開できる最高のバリアーで、まずはあいつらの動きを止めることができたことをホッとした。


 あとは数の暴力であいつらを押し潰ぶしてやるだけだ。


 子爵が攻撃命令を出そうとしたその時に、上空に巨大な魔方陣が浮かび上がった。


「あれは、エクスプロージョン。なぜあそこに?」

 

 魔方陣は子爵が展開したバリアーのまさに真上に現れていた。


「あいつらまさか、エクスプロージョンで自爆でもするつもりか・・・。しかしどこまで大きくなるんだ、あの魔方陣。おい、ちょっとまて。とてつもないエクスプロージョンが来るぞ。全員防御!」





 ネオンはエクスプロージョンの規模を増大させながら遠隔魔法の制約を頭に思い浮かべた。


 遠隔魔法は距離が離れるほど威力が低減する。


 では、距離が近くなればどうなるか。


 無論威力はどこまでも増大する。


 自分の防御力を遥かに越えて。


「ネオン、やり過ぎよこれ。バカなの、やめなさい!」


「セレン姉様がいるからこの大きさにしたんだよ。一人ならやるわけないじゃない」


「ぶっつけ本番で何やってるの。あなた、頭のネジを10本ぐらいどこかに忘れてきたんじゃないの」


 二人の言い争いが続く中、すでに発動したエクスプロージョンの、まばゆいばかりの光点が、子爵のバリアーにより魔力を削がれながらも、十分な破壊力を維持しつつバリアーを完全に通り抜け、中にいた兵士たちの頭上で炸裂した。



 まばゆい光しか存在しない。


 地面は激しく振動しているが、爆発音は聞こえない。


 バリアー内で発生した爆発のエネルギーは、光以外は外には漏れず、バリアーの壁に反射したその熱と衝撃波は、中の兵士たちの肉体を何往復にも痛め付けた。


「この魔法、あなたが考えたの?」


「そう、私が考えたんだ。そうね・・・名付けて『スーパー・キャビティー・ボム』とでも呼んでよ」





 ベルモール子爵は慄然とした。


「バリアーを強固に展開したことが、裏目に出たということか」


 超高温のプラズマが長時間バリアー内に閉じ込められたため中の全てが蒸発し、地面にできたクレーターが熱でガラス化していたのだ。


 そしてベルモール騎士団の一部が自陣奥深くまで、もぬけの殻になっていた。


 爆発跡に立つ白いイケメンの目が赤く輝き、まわりの兵士を威圧する。


「ば、バケモノだ。逃げろ!」


 あまりの恐怖に腰を抜かす兵士たち。それでも我先にと蜘蛛の子を散らすように、白いカップルから遠ざかっていく。


 子爵自身もあまりの衝撃に何も言葉を発する事ができず、兵士たちが逃げていくのをただ呆然と見ていた。


 だから、背後で新たな動きがあることを気づかなかった。





 フリュオリーネはネオンの開けた空間を指して叫んだ。


「全軍突撃開始。水属性の魔導騎士は先行してクレーターを氷結魔法で冷却。歩兵は密集して全速力でネオンさんの開けた空間を通過。騎士は歩兵が通過するのを護衛して、他の魔導騎士はバリアーで兵士たちを防御。すみやかに敵陣の反対側に出て、陣形を再編成!」


 その号令とともに、プロメテウス軍は一斉に突撃を開始した。


 ネオンが開けた空間に兵士たちが流れ込んで行った。





 ベルモール子爵が冷静さを取り戻した頃には、しんがりとなるダリウスたち魔導騎士も自陣に入り込んでおり、慌てて追ってくるベルモールの魔導騎士の魔法攻撃を食い止めていた。


「やられた・・・」


 プロメテウス軍の行き先には自軍の補給部隊。


 それを奪われれば、我が軍は補給がないまま城塞都市ヴェニアルに立ち向かわなければならない。


 しかも魔導結晶を奪われて魔力的に劣勢に立たされた上、逆に強化された敵の魔法攻撃を防御しなければならない。


 いや、強固なバリアーを張ったがために、逆に命取りになることもわかったから、どちらでも同じなのか。


 だが兵数ではまだまだ有利な状況は変わらない。現状最善と思われる指示を兵士たちに告げる。


「我々の目的は、城塞都市ヴェニアル攻略に向けて、ロレッチオ男爵の騎士団と合流することにある。敵がわざわざ道を開けてくれたのだ。背後の敵を攻撃しつつ、このままヴェニアルに向けて進軍せよ」







 陣営が南北すっかり入れ替わってしまったプロメテウス軍とベルモール軍。ベルモール軍がヴェニアルへと進軍する後方を、プロメテウス軍が追いかける形となっている。


 すでに日が落ちて当たりが暗くなりかけたころ、ベルモール騎士団は合流地点である城塞都市ヴェニアルを西にのぞむ平原に到達した。


 フリュオリーネは首脳陣に、最後の作戦指示を行う。


「今から全軍の指揮権をダリウスさんにお渡しします。城塞からの砲撃が始まったら、それに連動して魔法攻撃を開始してください。敵外縁部は歩兵と騎士で囲んで敵の逃げ道をふさぎ、中央付近に魔法攻撃を集中。彼らをゆでガエルの状態にして、降伏を勧告致します」


「指揮権は了解した。任せてくれ。だが城塞からの攻撃といっても誰がやるんだ」


「私の闇魔法ワームホールを使って、城壁に転移します。魔力を大量に使うわりにジャンプできる距離は短いのですが、フェルーム砲兵隊だけならなんとか運べます」


「あの内戦の時、負傷したフォスファーと脱出したあの魔法か。わかった、そちらはよろしく頼む」


「では、お義母様、エリーネさん、セレーネさんの3人は私に掴まってください」



  【闇属性上級魔法・ワームホール】



「・・・消えた。彼女はもうなんでもありだな。よし、わしらも攻撃準備に取りかかるぞ。作戦を全軍に伝達。ネオンはわしと一緒に魔法攻撃だ」


「いいよ。私の攻撃レベルについて来れるかな、お父様」





 ベルモール子爵はロレッチオ軍との合流に焦っていた。


「ロレッチオ軍とはまだ連絡が取れないのか」


「まだです。近くに姿もありません」


「約束の時間はとっくに過ぎているが、彼らも敵の攻撃にあっているのだろう。とにかく合流までしのぐぞ、彼らを待って・・・何の音だこれは」


「城塞からです」


 大きな爆発音がしたかと思うと、何かが飛来してくるような空気を切り裂く音。そして何かが着弾し、同時に騎士団の一部が吹き飛ぶ。


「今度は何の攻撃だ。こいつらと戦っていると、これまでの常識が全く通用しない。頭がおかしくなりそうだ」



 一発の大砲の着弾を合図に、正面の城塞からは砲弾の雨が、背後の敵軍からはエクスプロージョンの雨が、そして歩兵と騎士による波状攻撃が始まった。


 これまでの3日間とは異なり、攻撃の強度が明らかに強い。まさか俺たちは、最初からこの状況に追い込まれるために、誘導されていたのか・・・。


 城塞からの砲撃と魔導騎士によるエクスプロージョン。


 ここは圧倒的火力のクロスファイアーポイントだ。


 しかも逃げ道を敵歩兵と騎士に取り囲まれて、身動きがとれない。


 ロレッチオ軍が参戦すればまだ勝ち目はあったかも知れないが、彼らとの連絡もとれない中、時間とともに一方的に兵力を削られていくだけの状態に追い込まれた我が軍に、もはや打つ手はなかった。


 そこへ、敵からの降伏勧告が伝えられた。





「・・・ここまでだ。降伏しよう」


次回、決着です


ご期待ください

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― 新着の感想 ―
[良い点] カップルってセレーネとネオンの姉妹ですよね? ネオンのことを女子と見破れる人と見破れない人がいるようですね。 [気になる点] 視点変更が頻繁過ぎて最初意味が理解しづらかったので、もう少し…
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