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第55話 敵進軍を阻止せよ、その兵力差35対1


 12月22日(火)晴れ


 ロレッチオ軍はロレッチオ騎士団1500を主軸に、ソルレート騎士団のうち1000と東方領主からの援軍1000を加えた3500の兵力で、フューズ湖の北側を反時計回りに南へ進軍していた。


 その隊列の後方、補給部隊の中にソルレート伯爵の乗った馬車が貨物用に偽装されて、隊列に紛れていた。


 その馬車の中、ソルレート伯爵はロレッチオ男爵と作戦の確認を行っていた。


「明日ベルモール軍と合流後、城塞都市ヴェニアルを拠点に10000の兵力をもってプロメテウス領へ進軍する。おそらく今、ヴェニアル子爵がやつらと戦っているだろうが、難攻不落の要塞だ。プロメテウス軍は攻めあぐねているはずだ。そこを大兵力で一気に叩く」


「それはいいのですが、少し兵力を集め過ぎなのでは。伯爵とベルモール子爵の騎士団だけでヴェニアルから進軍すれば、とっくに戦争は終わっていたのではないですか。まぁ貴重な魔導結晶を頂いたので、文句はありませんが」


「甘いな男爵は。やつらを舐めてかかった結果、全てを失ったこのわしを見ろ。どれだけ慎重にしても確実に勝つためには手段を選ばんのだ。魔導結晶もわしがジルバリンク侯爵に頭を下げて譲ってもらったのだから、大切に使うがいい」


「はぁ、わかりました。では私は前線に戻り、伯爵のご指示どおりまずはベルモール軍との合流を果たします。伯爵は馬車にお隠れになってついてきてください」






 俺たちは罠を設置した場所を見渡せる高台に陣取り、敵の進軍を待っていた。偵察隊からの報告では、遅くとも夕刻前には到着する見込みのようだ。


「時間がだいぶあるので、新兵器の実験をしてみるか」


 暇をもて余していたダンが興味深そうに近寄ってきた。


「今度は何を作ったんだ」


「マールの新兵器」


「え、私の?」


「これだ」


「ただの棒が3本、だよね」


「この2つの棒の先のリングをこっちの長い棒に通して足を拡げて、ここに望遠鏡を取り付けると完成だ」


「おい、そいつはライフルじゃないのか?」


「ええ少佐。パルスレーザーを正確に発射するための簡単な補助装置です。棒の先っちょを魔法作動点にすることで、術者との軸線と望遠鏡から見る視線を一致させ、照準の先にパルスレーザーが当たるようにしました」


「面白そうだな。よし俺がマールに指導してやる」


「少佐はライフルも詳しいんですか」


「専門ではないが、軍では一通りは訓練するんだよ」


「へー、そうなんですね。その前に望遠鏡の向きを微調整します。マール、そこにうつ伏せになってライフルの引き金を引いた状態で、ライトニングをまっすぐ前方に光を細く絞るように発射してくれ。その状態で俺が望遠鏡の向きを微調整する」



 俺もうつ伏せでマールの横に並び、望遠鏡を覗き込み十字部分にマールのCWレーザー光の光点が一致するよう、望遠鏡の角度を微調整した。


「顔が近いよアゾート、くっつき過ぎ。みんなが私たちのことを見てるよ」


「でもこうしないと微調整ができないし、祭壇の調査ではいつもこんな感じじゃないか」


「いつもは二人っきりだからいいの。今はダンや銃装騎兵隊のみんなが見てるから、私だって恥ずかしいのよ」


「そうか。今度から自分でできるよう、後でやり方教えるよ」


「・・・。恥ずかしいけど別に嫌じゃないし、私はこういう作業が苦手だから、これからもアゾートにお願いするね」


「マールがそれでいいのなら」




 調整が完了し少佐のライフル講座が始まった。俺がそのようすを後ろから眺めていると、


「おいアゾート。これから戦いが始まるって時に、マールとベタベタくっつき過ぎだ。お前の嫁に報告しておくぞ」


「嫁って誰のことだよ。それに俺は武器の調整をしているだけであって、昨日から四六時中パーラとイチャついてるお前にだけは、言われたくない」


「これは違う。パーラが俺を守ると言って勝手に後ろにくっついているだけで、イチャついてる訳ではない。なぁアネット」


「くだらない話を私に振るな。私から見ればお前たち二人とも、戦いを前にした騎士としては理想からほど遠い。まあ相手を一人に絞っているぶん、ダンの方が遥かにマシだがな」


「・・・・・」



「よし。撃つ時の姿勢はそれで安定するはずだ。狙い方はもう分かるな」


「この十字部分の真ん中に照準を合わせるのよね、少佐」


「そうだ。ただしこれはレーザーだから、金属の鎧のように光を反射する敵には効果がないぞ。なるべく素肌か布地の服を狙って行けよ」



 そこへ遠方から騎士団が接近しつつあった。


「敵だ。だが罠の場所から少しコースが外れている気がするな。もう少し湖側を通ってほしいのだが」


「では俺が銃装騎兵隊を使って、罠の方まで誘きだしてやる。俺たちがやつらの前に出るから、そのライフルを使ってくれ敵を撹乱させておいてくれ」


「わかった、頼んだよ少佐。マールは的になりそうな敵を適当に探しておいてくれ」






「ソルレート伯爵、馬車の外に出ると危ないですので、中に隠れていてください」


「こんな狭い所に長く座っていると体が痛くてしょうがないのだ。どうせ敵はいないんだから、少しぐらい外の空気を吸っても問題なかろう」


「男爵からも、伯爵をしっかりお守りするよう申し使っておりますので、お止めください」


「うるさい、わしは伯爵だぞ。強力な魔力も魔導結晶も持っておるのだ。そんなに心配ならそなたもわしにバリアーを張って、そばについておればよいではないか」


「了解いたしました・・・」


 ソルレート伯爵は騎士団の進軍を止めさせて、馬車の外に出て気分転換をした。


 伯爵の太った体で馬車に乗り続けるのは腰への負担が大きく、たまに体を伸ばして血行を良くする必要があるのだ。


 体を大きく伸ばしたり屈伸をしたり、体操をしながら伯爵が、


「今日は天気がいいのう。ベルモール子爵はそろそろ、ヴェニアルに到着する頃・・・」



  パーン!



「ぎゃーーっ! 敵だ。あ、足をやられた」


 伯爵の足からは肉が焼け焦げた匂いとともに、傷口からは血が滲み出している。伯爵は余りの激痛に地面を転げ回った。


「おい敵襲だ。伯爵をお守りしろ! 伯爵は早く馬車の中にお逃げください」



  パーン!



 乾いた破裂音が再び鳴り、今度は背中が焼けただれ、伯爵は気を失った。


「おい、伯爵を早く馬車の中へお運びしろ。それから敵が近くに潜んでいるはずだ、探せ!」


「はっ!」





「当たった! 2発とも当たったよ、アゾート」


「初めてなのにすごいじゃないか、マール」


「少佐に言われたとおり、鎧を着ていない人を探していたら、一人だけ布地の服を着たおじさんがいたの。すごく太っていて的として当てやすかったんだよ」


「へー。試し撃ちにピッタリの的がよく居たもんだな」


「えへへ。あ、なんか敵が慌てだした。私のことを探しているのね。まさかこんな遠くにいるとは思わないでしょ」





「正面左に敵およそ130騎。さっきの伯爵への攻撃は、きっと奴らだ」


「やはり敵が潜んでいたか。だが130程度とは中途半端だな。我々と相対するには少なすぎるし囮か。いやそもそもヴェニアルが簡単に堕ちるとも思えないし、本当に敵なのか見定めなければ。警戒しながらあの騎士団を追え」


「はっ!」





「隊長。敵の追撃の足が鈍く、距離が離れていきます」


「やつら俺たちを相当警戒しているようだな。よし全騎、やつらに一発だけ射撃して敵を釣り上げるぞ。 撃て!」



 タン! タタタタッ! タン!


「よし、いい感じに逃げて、罠に誘い込むぞ!」





「な、なんだ今の攻撃は。何か見えたか?」


「いえ何も。ただ先ほど伯爵を狙った攻撃と似たような音が多数聞こえて、同時に騎士たちが倒されていったので同じ敵かと」


「どうやって城塞都市ヴェニアルを抜けてきたか分からぬが、敵であることは間違いないようだ。囮だとすれば、どこかに敵大部隊が潜んでいるはずだ。魔法防御シールドは全開にしておけ。全騎全速力で突撃開始!」


「はっ!」





 高台から敵の動きを見ていた俺たちは、銃装騎兵隊を追いかけるように猛然と駆ける敵騎士団の姿がハッキリと見えてきた。


「よし、うまく罠に誘い込めた」


「白い煙が地面から立ち上ってきた。あれが穀物の粉か」


「そうだ。馬で芝生の上を駆け抜けると、下向きに仕掛けていた刃物が袋を切り裂いて、粉がよく舞い上がるように工夫してある」


「だけど粉を散らせてどうするんだ? 毒の粉を吸い込ませる作戦か」


「いや違う。良く見てみろ、敵のバリアーの中に白い粉が充満して、半球がくっきり見えるだろ。そこに火種を放り込むのさ」


 俺はそう言って、エクスプロージョンの完全詠唱を開始した。




【地の底より召還されし炎龍よ。暗黒の闇を照らし出す熱き溶岩流を母に持ち、1万年の時を経て育まれしその煉獄の業火をもって、この世の全てを焼き尽くせ。 天空の覇者太陽神よ。無限の炎と輝きを生み出せしその根元を、我が眼前に生じせしめ全ての力を解放し、この大地に永遠の滅びをもたらさん。 降臨せよ、降臨せよ。死を司る冥界王よこの地上へと降臨し、天上神の創りし幾年生きる全ての衆生、大洋山河の万物を悉く爆砕し、凡そ全てを無に帰さん】エクスプロージョン




 自分でもわかる。


 身体中に溢れる火属性の赤い魔力が、敵上空の巨大な魔方陣にどんどん吸い込まれていく。


 俺にも超長距離エクスプロージョンが発動できた。


 セレーネほどじゃないけれど、魔法陣の中心に出現した白く光輝く光点は、しかし、敵の強力なバリアーに遮られて、落下とともにみるみる光を失っていく。


 これが魔導結晶の力か。


 バリアーをかろうじて通過した弱々しい光点が、残りの命を燃やし尽くすかのように、最後に小さく発火した。


 その瞬間、バリアー内に立ち込めていた穀物の粉に引火し、大爆発を起こした。



 粉塵爆発だ。



 大地を揺るがす低周波の爆発の振動は感じられるが、爆発音そのものは聞こえない。


 衝撃波が敵バリアーの中に完全に閉じ込められていて、外の俺たちには何一つ届かない。


 逆にバリアーの中では、爆発の衝撃波が中で何度も反射され、何往復か分からないほど敵兵の肉体を蹂躙する。


 まさに地獄だった。


「お、おいアゾート・・・。お前一体何をやったんだよ」


「これは敵のバリアーを逆手に取って、狭いバリアー内に粉塵爆発のエネルギーを全て閉じ込めてしまうという必殺技だ。名前は・・・そうだな『スーパー・キャビティー・ボム』とでも呼んでくれ」





 敵騎兵隊を追っていたロレッチオ男爵は、突然地面から舞い上がる白い粉を不審に思っていた。


「これは穀物の粉。なぜこんなところで粉が舞い上がる」


 後ろを振り返ると、後続の騎士団が白煙の中に完全に包まれて、視界が失われてしまっている。


「敵の罠かもしれん。全員警戒体勢をと・・・」


 その瞬間、男爵の意識が失われた。





 地面に倒れていた男爵が意識を取り戻し、ゆっくりと立ち上がった。


「・・・な、なにが起きた。今攻撃を受けたのか。穀物の粉が邪魔でよく見えなかったが、バリアーの中で爆発が起きたように見えた」


 回りに倒れていた魔導騎士たちを助け起こしながら、やがて爆発の煙と穀物の粉が風に押し流されて、少しずつ視界が回復してきた。そしてあたりの全貌が見えてきたとき、男爵は思わず背筋を凍らせた。


 爆風で体中を損傷した多数の人や馬が、血の海に横たわっており、爆発の熱で発火した遺体がパチパチと音をたてて燃えていた。


 バリアーを無視した謎の攻撃、あるいはバリアーを逆手に取った攻撃の可能性か。


「全軍、至急生存者を救出しこの場を退避。被害状況を把握し、騎士団の建て直しが必要だ。それから敵は謎の攻撃方法を持っている。強力なバリアーは逆に命取りになりかねん。これからは無闇に使用することを禁止する」




 高台から後退していく敵騎士団を見送りながら、俺は先ほど戻ってきたばかりの少佐に意見を聞いた。


「敵軍が後退していったけど、これでどの程度時間を稼げたことになりますかね」


「わからんが警戒心は植えつけられたはずだ。動きは当然鈍くなる。ただ明日は敵さんもかなり慎重に動いてくるから、同じ手は使えないぞ」


「確実に1日以上の時間を稼ぐために、もう一回足止めの攻撃をしておきたい」


「あまり無理はするなよ」





 ロレッチオ男爵は騎士団を一度後退させ、野営地に設置した司令部で部下さらの報告を受けていた。


「伯爵の容態は落ち着きました。治癒魔法師により患部の修復は進みましたが、本格的に回復するまでにはまだ時間がかかるとのことです」


「意識は取り戻したのか」


「いえ、まだです」


「それから先ほどの被害がわかりました。死傷者がおよそ300。この被害が全て騎士なのが痛いですね」


「そんなにか・・・。たった一瞬で、一体何の魔法攻撃を受けたかもわからない。爆発があったことは現場の様子でわかるのだが、魔導結晶を使用していたのでエクスプロージョンではあのようなダメージを受けるとこはない」


「敵の攻撃方法が分からず、兵の中には怯えている者も多数います」


「本当は俺も恐い。伯爵が健在なら作戦変更を具申するところだが、意識不明の今はどうしようもない。まずは予定どおりベルモール子爵の騎士団との合流を果たそう。ヴェニアルの様子もわからないし、友軍との合流が最優先だ」






 二日目の戦いを終えたフリュオリーネたちは、野営地の司令部で、作戦会議をしていた。


「今日の戦いでも、敵の魔導結晶をかなり消耗させられました。ただ予想よりも多くの結晶を持っているようで、アゾート様のご負担をなるべく少なくするために、明日から魔法攻撃の強度を上げていきたいと思います。私とサルファーさんも魔法攻撃参加いたします」


「それよりも、魔導結晶を盗んじゃうのはどうかな。後方の補給部隊まで突破すればいいんでしょ」


「ネオンさんの言うとおりなのですが、補給部隊は特に守りが固く、無理に突破させると兵を損耗するため、強硬突破はできません」


「実はいい手があるんだけど、みんなちょっと耳を貸して」


 ネオンは、みんなを近くに呼び寄せて、小声で説明をはじめた。


 話を聞き終えたダリウスはさすがにネオンを止めた。


「バカなことはやめろネオン。お前の無茶には大概慣れたが、今回のはさすがに許可できん。それにそんな魔法の使い方は聞いたことがない」


「でも理論的には可能なはずだよ」


「おいアゾート、ネオンを止めろ」


「アゾート様は、別動隊でここにはいませんわ」


「そうだったな。ネオンを止められるのはアイツだけだからつい」


「お父様、ネオンはどうせ私たちの言うことなんか聞かないし、私が一緒について行けば、もしもの時にはバリアーが張れるし、失敗してもネオンを連れ戻せます」


「・・・そうだな、セレーネが連れ戻すのなら許可しよう。よし、どうせやるなら徹底的にぶちかまして、敵の心を折ってやれ!」


「「はいっ!」」





「ダリウス、あなた・・・。もう、うちの家族はどうしてこんな戦闘バカばかりなのよ・・・」


次回、ベルモール軍との戦いはクライマックス


ご期待ください

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― 新着の感想 ―
[良い点] 軍が2手に分れているなら各個撃破は基本ですよね。 [気になる点] 1、マールはどれくらいから狙ったのでしょうか?高所からの狙撃だと相手にも視認されないのでしょうか? 2、これはパルスレーザ…
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