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第54話 勇気を出すための

 12月20日(光)曇り


 城塞都市ヴェニアルを占領したプロメテウス連合軍は、ソルレート騎士団の動きを探るため偵察隊を出していた。その結果次第で今後の作戦行動が決まる。


 作戦司令部には、連合軍総司令官の俺と同総参謀長のフリュ、プロメテウス騎士団長の父ロエル、銃装騎兵隊隊長の少佐、サルファー騎士団(ボロンブラーク騎士団と各家の義勇軍の総称)のサルファー、フェルーム騎士団長のダリウスが陣取り、セレーネたちも議論の様子を聞いていた。


「穀物はやはり使い物にならないか」


「はっ! 確認しましたが、全てに毒がまかれておりました」


「焦土作戦で用いる戦法だな。廃棄するしかあるまい」


 ダリウスが諦め顔でそういった。


「捨てるなら俺がもらってもいいですか」


「アゾート、何に使うんだ」


「少し罠に使えないか考えているところです。あとでちょっとネオンを借りてもいいですか」


「かまわん。好きにこき使ってくれ」


「嫌だ! また何か変なものを作らせようとしてるだろ」


 ネオンは抗議の目線を俺に寄越すが、とりあえず無視だ。




「西側城壁の補修工事はどうなっているか」


「はっ! 亡命職人たちも動員して急ピッチで作業を進めているところです。本格的な改修には長期間かかりますが、簡単な応急処置だと3、4日あればなんとか」


「わかった」


「しかし、セレーネのエクスプロージョンはすごかったが、やはり城壁を破壊することはできなかったな」


 ダリウスの言うとおり、城壁上にいた兵士や武器は根こそぎ倒すことができたが、城壁自体には致命的なダメージを与えることができなかった。


「エクスプロージョンは熱を発生させる魔法だから、そのままでは石造りの頑丈な建物は壊せないことが今回ハッキリした。やはり爆発の威力を弾丸に乗せた大砲が、攻城戦に効果を発揮するんだよ」


 俺の分析にフリュが補足説明をした。


「ヴェニアル騎士団が早々と降伏したのは、セレーネさんのエクスプロージョンに脅威を感じたからです。想定外の遠方からあれだけの威力の魔法を撃たれるのなら、常に魔法防御シールドを展開し続けなければなりません。城塞に守られて魔法に対する備えが薄い彼らだからこそ、心が折れるのも早かったのだと思います」


「そうだな。結果論だが、なるべく少ない犠牲者で勝つに越したことはないからな」




 そこへ、偵察隊からの報告が入ってきた。


「ソルレート軍は2方向からこちらへ進行中です。北から推定3500騎、南から推定5000騎規模の騎士団が確認されました。ただし歩兵が多く、進行速度はそれほど早くありません。南からの騎士団はあと2日、北からの騎士団は3日、到着に時間がかかる予想です」


「総勢8500騎、我が軍の兵力の3.5倍か」


「城塞都市ヴェニアルの東には、巨大な湖が広がっており、その湖の北側にはロレッチオ男爵の、南側にはベルモール子爵の領地が広がっている。そして湖の向こう岸がソルレート伯爵領で、さらにその向こう側には1子爵と2男爵の所領がある。今回の進軍はこの6つの家門の騎士団を2個に再編したものみたいだな」


「ソルレート伯爵が、南北どちらの騎士団にいるのかはわからぬか」


「はっ!残念ながらそこまでは今のところわかっていません」


「わかった。下がって良い」


 伝令を下がらせたダリウスは、さてどうしたものかと一人ゴチながら状況の整理をした。




・ここ城塞都市ヴェニアルに先に到達するのは、ベルモール軍5000。その一日後にはロレッチオ軍3500が到達する。


・ソルレート伯爵を捕らえれば戦争は終わるので最優先で狙っていきたいが、どちらの軍にいるのか、どちらにもいないのか、今はわからない。


・合流後の敵がこの城塞都市を正面から攻略する可能性が高いが、一部部隊が時間をかけてでも山岳越えをしてプロメテウス領を強襲する可能性もある。


・プロメテウス領が手薄な我々にここでの籠城戦の選択肢はない。




「これを踏まえていかがかな、総参謀長どの」


 フリュは先ほどから一言も発せず、ただ地図を見つめ続けていた。


 だが、ダリウスから問いかけられたフリュは、扇子で地図を指し示しながら説明を始めた。


「ダリウスさんのおっしゃるとおり今回、籠城戦は意味がありません。我々の強みはこの城塞都市ヴェニアルを拠点に、伯爵支配エリア内を自由に軍が展開できることです」


 その上でフリュが示した基本的な考え方は以下の通り。




・先に到達するベルモール軍5000に全戦力をぶつける。ただし我々の2倍の戦力なので、攻略には時間がかかる


・ロレッチオ軍の到着がなるべく遅くなるよう、遊撃隊による足止め作戦を実施。アゾートに遊撃隊を率いてもらいたい。


・なるべく犠牲者を少なくするため、伯爵の確保もしくは殺害が先優先。そして敵の心を折って早く降伏させるような戦い方を心がける。


・ただし戦力的に我が方が不利な状況のため、勝つためには敵に容赦はしないこと。



「どれぐらい足止めをすればいい」


「最低でも1日、できれば2日以上足止めいただければ、かなりの余裕ができます」


「わかった。足止めなら俺にいい作戦がある。銃装騎兵隊とそうだな、マールとダン、パーラ、アネットはこちらに来てくれ。本隊はフリュに指揮を任せる」


「アゾート、私たちは?」


 セレーネとネオンがこちらを見ている。


「セレーネはわが軍の主砲だ。負担をかけることになるが、フリュと一緒に敵主力5000をなんとかしてほしい。ネオンは・・・俺の代わりだ。もしもの時に自分がそこにいなかったことを後悔しないために、そちらの戦場のことは全てお前に託す。それで俺は安心して戦えるからな。任せたぞ」


「アゾート・・・」


 寂しそうだったネオンの表情も、今はやる気に満ちていた。


「ただし、ちょっと罠を張るのに手を貸してほしい。この打ち合わせが終わったら、俺と一緒に出発するぞ」


「え・・・なんかすごく嫌な予感がするんだけど」



 ネオンがぶつくさ文句を言っているが、フリュは構わず作戦会議を締めた。


「それでは準備ができ次第、全軍出撃しましょう。我々主力部隊も歩兵が多数いるので進軍速度は敵と同じ。ここから中間地点のベゼル平原を決戦場所に設定いたします。ネオンさんはアゾート様のお手伝いがお済になったら、こちらに合流してくださいね」





「アゾート、少しだけ時間いい?」


 出撃準備が整いロレッチオ軍に向かおうとする俺に、セレーネが話しかけてきた。俺はみんなを少し待たせて、セレーネを連れて人影のない城壁の裏手に入っていった。


「アゾートに聞いてほしいことがあるって、前に私が言ったこと覚えてる」


「生徒会長戦の握手会の時だな。今話せることなのか」


「ううん。まだ言えないんだけど、この戦争が終わったら話す」


「それは」


「わかってる。どうせ死亡フラグって言いたいんでしょ。これはそういうのじゃなくて、自分が勇気を出すためのケジメのようなもの」


「セレーネ・・・」


「私は今の関係が壊れることがとても恐いの。もしアゾートに拒絶されたら、私もう戦えないから」


「何を言われても俺がセレーネを拒絶することなんてありえない」


「それでもダメなの。こういう時ほんとネオンがうらやましいな。あの子みたいに言いたいことが何でも言えればこんなに悩まなかったのに。私はいつもうじうじしてて、自分でも嫌になるのよ」


「わかった。じゃああとで必ず話を聞かせて」


「ええ。アゾートにはちゃんと伝えておきたい事だから、それまでに私も勇気をつけてくる。そして必ず話すわ。アゾートも覚悟しておいてね」





 12月21日(闇)晴れ


 俺たちはロレッチオ騎士団の予想進行ルートに罠を仕掛けるため、一日かけて毒入りの穀物を運搬し、袋ごと地面に敷き詰めた。


 その上に偽装用の芝生に鋭利な刃物を取り付けたものを多数敷設した。人手が150もあるため、順調に作業が進んだ。


 この刃物には、芝生の上を馬が駆け抜ければ下の穀物の袋を切り裂いて、穀物の粉を舞い上がらせるような工夫がされている。


 少し複雑なのでいつものとおり俺とネオンのゴーレム魔法で作成した。この作業は2人しかできないブラック職場だった。



「・・・もう魔力が空っぽだよ。そろそろ勘弁してよアゾート」


「そうだな。よく頑張ったネオン。マジックポーションでも飲んで、すぐに向こうの戦場に戻った方がいいぞ」


「この鬼畜!」


 あたり一面罠だらけ。俺も魔力が尽きてしまった。


 ネオン親衛隊に囲まれながら次の戦場に向かうネオンを見送り、俺たちは敵の進軍が見やすいよう高台に野営地を敷設した。






 所かわって、ここはベゼル平原。


 ベルモール軍はプロメテウス軍と相対していた。敵およそ2000。


「どういうことだ。なぜ敵がここにいる。城塞都市ヴェニアルはどうしたんだ」


「まさか陥落したのでは」


「これまで一度も陥落したことのない、難攻不落の要塞だぞ。それをこの短時間で落とせるわけないではないか」


「ただ敵が眼前にいるのは事実です。ご命令を」


「そうだったな。よし、予定どおりロレッチオ軍との合流が優先だ。目の前の敵軍を蹴散らして前進だ!」






 敵軍が前進を始めた。先頭の魔導騎士がおそらくベルモール子爵とその一族、それに騎士爵当主たちか。


「敵は魔導結晶を使用しています。魔力が通常よりも高くなっているので、注意してください」


「それじゃあセオリー通り、魔導騎士同士の魔法戦を始めるか。フリュちゃんには通常戦力の騎士の指揮を任せるから、そっちを頼むな」


「お気を付けくださいませ、お義父さま」


「おう任せとけ! よーし喰らえ、わし渾身のエクスプロージョン!」


 ロエルのエクスプロージョンを皮切りに、ファイアー、フレアーなど大小さまざまな火属性魔法が、フェルーム家分家筋の者たちから容赦なく発射された。が、


「うおっ、魔法が弾かれた。あれが魔導結晶の力か」


 ロエルがたじろいでいると、ダリウスが笑いながら近づいてきた。


「プロメテウス城に引っ越してから、すっかり衰えたなロエル。もうご隠居か?」


「ちっ、見てなダリウス。さっきのはまだ本気を出してなかっただけだ。次はわしの50%の力で放つエクスプロージョンだ」


「何が50%だ、150%の間違いだろ。みんなよく見ておけ、これがフェルーム家当主ダリウス様のエクスプロージョンだ。うおりゃーーー!」


「ほんとバカね、あの人たちは。セレーネの火力バカはきっとお父様の遺伝ね」


「私は火力バカなんかじゃないわよ、お母様っ!」





「ベルモール子爵、大丈夫ですか」


「ああ、ソルレート伯爵から頂いた魔導結晶さまさまだよ。しかし、何者なんだあいつらは」


「敵の魔導騎士の大半がフェルーム子爵家の一族のようです。しかし彼らの火属性魔法の威力は強力ですね」


「ああ、とてもつい最近まで騎士爵家だったとは思えないほどの魔力だ。魔導結晶も使わずに我々と互角とは。しかも楽しそうに笑いながら戦ってる奴もいたぞ」


「子爵、エクスプロージョンが来ます。魔法防御シールド展開!」


「見てればわかるよ。くそっ、どいつもこいつも上級魔法をポンポンポンポン打ちやがって。伯爵から聞いていた話と全然違うじゃないか。どこが運だけの成り上がり貴族だよ。メチャクチャ武闘派じゃねぇか」





「よし、敵魔導騎士がいったん後退しました。プロメテウス及びフェルーム騎士団の歩兵部隊は前進を開始してください。それからサルファーさんは、機動性を活かして敵左翼に圧力をかけてください」


「わかったよ、フリュオリーネ」


 サルファーが騎士団を率いて敵左翼に向けて転進していくのを見守りつつ、フリュオリーネはタイミングを計っていた。


 魔導結晶は複数同時に使用すると共鳴して暴走する。だから、予備の結晶は後方の補給部隊に保管させているはず。


 消耗した魔導結晶を取り替える間隔、補給部隊の位置、それと・・・。


 敵魔導騎士が再び前進してくるまで、まだ少し余裕があるわね。今のうちに次の作戦をダリウスさんたちに伝えておきましょう。


 フリュオリーネは、前線で戦っている魔導騎士たちに向けて馬を走らせた。





「ベルモール子爵、魔導結晶の消耗が激しすぎます。ここからは防御に専念して、兵力の数で押し切りましょう」


「そうだな。これ以上の消耗は正直ワリに合わないな。よし全員、魔法攻撃は中止。魔導結晶を防御に切り替えろ。全軍進撃開始、敵を踏みつぶせ」


「はっ!」





「全軍、ベルモール軍の前進に合わせて後退してください。一度兵を引き態勢を整えます」


「全軍、後退!」


 フリュオリーネとサルファーの号令により、プロメテウス軍は後退を開始した。


 一定の距離を保ちつつ戦場は少しずつ北へ北へと上がっていった。


 やがて日没近くになり、両軍とも戦闘を翌日に持ち越すため、互いに距離を離した。


「フリュちゃん、お疲れ。大丈夫だった?」


「ありがとうございます、お義母さま。みなさまのおかげで、敵の魔導結晶をかなり消耗させられたみたいです」


「そう? 私にはよくわからないけど、フリュちゃんがそう言うのなら間違いはないわね」


「明日も同じ作戦で行きますので、また魔力勝負になります。今日は早くお休みください」



次回、アゾート遊撃隊の奇策が炸裂


ご期待ください

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― 新着の感想 ―
[良い点] さすがに圧倒的ですね。 ああ、フェルーム家の他の分家の人たちも出征に出ているんですね。 [気になる点] ベルモール子爵は攻撃をただ受けただけな訳無いと思うんですが、反撃しているシーンとかあ…
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