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第5話 カリキュラム2(王国社会、魔法実技)

 今日は午前中が王国社会の講義、午後は魔法実技だ。


 王国社会の講義はアージェント王国の統治構造に関する概要だった。




『王国社会』


〇 国土と領地

 王国は、王家直轄領、公爵領、侯爵領、伯爵領、子爵領、男爵領、騎士爵領まで大小合わせて約300の領地から構成されており、それぞれの領主が直接統治し独立している。

 最も大きい領地は王家直轄領だが、点在しているうえ多数の王族で分割統治しているため、単体としては公爵領が最も大きい領地といえる。


〇 貴族の序列

 貴族は、公爵から伯爵までを上級貴族、子爵と男爵を中級貴族、騎士爵を下級貴族と分類している。また、それぞれの領地の大きさは、この貴族の序列に概ね比例しており、貴族の分類に合わせて大領地、中領地、小領地(騎士領)と呼ばれている。


〇 王族と王位継承権

 王族には王、皇后を頂点に、次期王である王太子、王子、王女がいる。

 公爵と侯爵は王家の血族であり、王位継承権を持つ者もいる。また、現王家直系血族の中には公爵より上位の大公に叙されるものも存在する。

 辺境伯は侯爵と同等の身分と特別の権利を有するが、王位継承権は持たない。


〇 封建制度

 貴族は、王族または自分より上位の貴族に臣従し、税金を上納することと引き換えに領地の分与と保護を受けている。上級貴族は王族に臣従し、中級貴族は王族または上級貴族のいずれかに臣従する。下級貴族も中級貴族以上のいずれかに臣従する。


〇 軍事

 王国には国軍が存在しない。他国との戦争が生じた場合は、一義的に当該領地の騎士団で対処することとなる。

 当該領主は、自力で対処が困難と思われる際、自分が仕える上位の貴族に助力を要請することができ、また、自分の配下の下位貴族へも報奨と引き換えに助力を依頼することができる。

 それでも戦力が不足する場合は、他の貴族に応援を求めることとなるが、個別に交渉する必要があるため社交により関係を深めておく必要がある。

 なお、王族直轄の騎士団は存在するが、あくまで王族の私兵であり国軍ではない。




「ああ、座学は疲れるわ。さあ実技だ、って今日は魔法実技かあ...」


 ダンの嘆き節を聞きながら、いつものメンバーで昼食をとり午後の魔法の実技に向かう。


 魔法訓練所に集まった生徒を前に、実技講師が説明を始める。


「君たちの魔法実技を受け持つ、カール・シュミットだ」


 30代前半ぐらいの男性で明るい茶色の短髪で、緑の瞳が爽やかな先生だ。


「今日は初めに魔力測定を行う。名前を呼ばれたら前にくるように」


 洗礼式の時に使った魔力を測定する水晶のような魔術具を使い、シュミット先生がAクラスから順番に生徒一人ずつ魔力測定を始めた。


 魔力保有者とそうでない生徒では魔力に大きな差がある。

 魔力を持たない生徒が水晶に手をかざしても、属性の色がはっきりせず薄暗く光のみ。


「カイン・バートリー、属性不明、魔力7」


 カインのように属性は不明とされ、個人差は多少あるものの魔力は大体1ケタである。


 そしてAクラスの測定が終わり次はBクラスの順番になった。順番に名前が呼ばれていく。


「ニック・ガートン、前へ」


 ハーディンの取り巻きのニックだ。あの時魔法を全く使わなかったが、魔法は使えるのだろうか。シュミット先生に呼ばれたニックが魔術具である水晶に手を当てると、水晶が青く輝きだした。


「ニック・ガートン、水属性、魔力40」


 ニックは魔力保有者のようだ。


「次!ダン・アーク」


 ダンが魔術具に手を当てると、ニックと同じ青の光が浮かび上がったが、輝きは強くない。


「水属性、魔力30。次マール・ポアソン」


 ダンは頭を掻きながら戻ってきた。


「魔力30か、ないよりマシ程度だな。やっぱり俺は剣術の方が向いてるな」


 魔力を持っていると魔力防御力が発生するため、普通の騎士に比べて防御面でかなりのアドバンテージがある。マシ程度ではないと思うのだが。


 マールが手を当てると、魔術具が白く輝きだした。


「マール・ポアソン、光属性、魔力60。回復魔法は貴重だな」


「えへへ。でも魔力は平凡だけどね」


 騎士クラス新入生の魔力は平均で50以下と言われている。マールの魔力は高いと思う。


「次、アゾート・フェルーム前へ」


 俺はシュミット先生の方へと進み魔術具へ手をかざした。魔術具には赤と茶色の2色の色が浮かび上がり、それらが強く輝きだした。


「アゾート・フェルーム、火と土の2属性、魔力は・・・」


 シュミット先生が「ほほう」と感心している。


「・・・魔力150」


 周りからは感嘆とどよめきが入り混じった声が聞こえた。


「150? 測り間違いでは」


「そんなバカな。なんであんな奴が。。。」


 どよめきがおさまる様子もなく、シュミット先生は測定を続ける。


「次、ネオン・フェルーム」


 ネオンが魔術具に手をかざすと先ほどと同じように赤と茶色の光が輝いた。シュミット先生があきれたように測定結果を読み上げた。


「ネオンも火と土の2属性、魔力150。どうなってるんだこれは」


「お前らすげーな」


「アゾートもネオンもすごいね」


 ダンとマールをはじめ他のクラスが感心して俺たちを取り囲む中、悔しそうにこちらを睨んでいるものもいた。


 Cクラスも含めての測定は全て終わり、トップは俺とネオンの150で、あとの生徒は80以下で平均45程度の魔力という結果となった。


 シュミット先生が俺たちの方にやってきた。


「フェルーム家って一体どうなってるんだ」


「どうなってるというのは?」


「去年のセレーネに続き、今年もお前たちフェルーム家がトップだ」


「セレーネは去年どうだったんですか?」


「あれは驚いたよ。1属性なのに魔力200を超えていた。言っちゃ悪いが、あれは化け物だ。お前たちの魔力150もすごいことには違いないが2属性なのでありえなくもない数字。しかしセレーネは違う。才能というか今後の伸びしろが想像できない」


「1属性で魔力200はどのくらいすごいのでしょうか」


「そうだな。4属性の優等生レベルと言えばわかるか。去年の上級クラスのトップが、フリュオリーネ・アウレウス、生徒会副会長だな。彼女が4属性保有者で、1年の時の測定値が魔力250だったそうだ」


「ああ、入学式の時に挨拶された、生徒会のあの美人の先輩ですよね」


「そうだ。あれから二人とも魔力が格段に成長したと思うが、セレーネの潜在力を考えるとかなりいい勝負をするのではないかな。ちょうど、2年生の中間・魔力実技テストで直接対決が実現できれは、楽しみだ」


「俺たちも見学できるのですか」


「もちろんだ。楽しみにしていろ」


 そういうとシュミット先生は俺たちとの会話を終え、生徒全体に向かって次の指示を出した。




「さて魔力測定が終わったので、次は魔力量を向上するための訓練方法の実技に移る」


 シュミット先生の隣に6名の講師が並び、彼ら7名で7属性すべてをカバーする。


「魔力を向上させるには、運動と同じでとにかく魔法を使い続けることだ。ただし、なるべく異なる属性の魔法を使用した方が上昇量が大きくなる。


 だから1属性の生徒よりも多属性の生徒の方が魔力が大きい傾向がある。アゾートやネオンの魔力がみんなよりも大きいのもそういう理由だ。


 しかしだ。


 自分の属性以外の魔法を使うことは当然できない。ではどうするか。

 魔術具を使うのだ。


 騎士学園では実技の時間帯に魔術具を貸与し、それを使えば、お前たちはどの属性魔法も使用できる。

 もちろん正しい詠唱を行う必要があるため、俺を含めてここにいる7名の講師がそれを教える。授業中は耳をすましてよく聞くように」


 シュミット先生の長い説明が終わるとみんなそれぞれ自分と異なる属性魔法の講師のもとに散らばった。

 魔術具の数も限られているため、全体的に均等に分かれている。


 俺はまず雷属性魔法の実技を受けることにした。


 雷属性の初級魔法サンダーは相手に電撃を放つ魔法で、講師が実演して見せた。


「空から地上に落ちる雷をイメージし、このように詠唱する」


  【◎▼××▽◇・・・】


 15秒ほどの詠唱の後、雷撃が上空から地面に向かって発生し、まばゆい光と爆発音が鳴り響いた。


「それではみなさんもやってみましょう。今から配る魔術具の魔法陣部分を握って、雷のイメージを思い浮かべて、私に続いて詠唱を行ってください」


 講師の詠唱を注意深く聞きながら、できるだけ同じような発音になるように詠唱してみる。


 初級魔法とはいえそれなりに呪文が長いため、いきなり魔法が成功することはない。


 何度も繰り返し練習し10数回目のトライの後、ようやく小さな雷撃が発生した。


 魔術具を使って無理やり他属性魔法を使用するので、魔法効率が悪く大量の魔力を消費してしまう。


「うわ、ごっそり持っていかれた」


 魔力が小さいうちはあまり多く練習することはできなさそうだ。


「よし、よくやった。次に自分の属性魔法と雷属性魔法を交互に発動させる練習だ」


 俺は火属性と土属性の初級魔法を放ち、再び雷属性魔法にトライした。


 3周目で魔力が尽きた。


 初日で魔法が発動できたものは少なく、みんなはまだ実習に取り組んでいる。


すでに魔力がなくなった俺はやることがないため、他の生徒の見学をして時間をつぶす。


 ネオンも魔力が尽きたようで、一緒に見学をすることにした。


「ネオンは何属性に行ったんだ?」


「光属性のライトニングだったよ」


「俺は雷属性のサンダーだ。後で情報交換はするとして、とりあえず風属性を見に行くか」


「わかった」


 シュミット先生が担当の風属性魔法。

 その初級魔法ウィンドウはその名のとおり風を起こす魔法で、殺傷力は低いものの魔法効果範囲が広く相手の妨害に使用される。


 マールが風魔法グループにおり、一生懸命に詠唱している。

 苦戦しているようだ。

 講義終了時間まで、風魔法の詠唱に聞き覚えのあるフレーズがないか注意深く聞きながら過ごした。




 放課後になった。


「今日はどうする?」


 ダンが訊ねてきたので、


「今日もギルドに行ってみる。手ごろな魔獣討伐で体を鍛えようかと思う」


「よし俺も行くか。とにかく剣を振りたい。待ってろ魔獣ども」


 結局いつもの5人連れだって、魔獣討伐クエストを受けることにした。


 城下町の近郊の森に生息するのはゴブリンやコボルトといった小型の魔獣である。

 俺は敏捷性を鍛えることにしたので、小型の魔獣討伐はちょうど都合がいい。放課後は当分このクエストをこなしていくことになるだろう。


 ギルドからクエスト報酬をもらい、その足で道具屋に向かってMPポーションを購入し、学生寮に帰宅した。


 風呂で汚れを落とし部屋着に着替え、ネオンと二人で夕食をとりながら今日の魔法の実技について話し合った。


「それでアゾート、雷魔法の詠唱で何かわかった?」


「いや。さすがに1日では無理だよ」


「私には聞こえないから、アゾートに任せるしかないのよね。その代わり、私がなるべくたくさんの詠唱を覚えてくるね」


「わかった。この役割分担しかないしね。それから放課後にもできれば魔法の練習がしたいなあ。あの魔術具を借りられれば、マジックポーションで回復しながら訓練ができるんだが」


「先生に頼んでみるか、ダンジョン部の先輩に聞いてみようよ」


「それができれば、魔獣討伐クエストがない日も無駄にならず、魔力上げができるしね」


 当面の方針が決まり、そのあとは各自自由に過ごした後、就寝した。






 その夜、夢を見た。

 これはまだ俺が6歳のころだったか。

 

 子供のころ、初めて詠唱が「聞こえた」時の夢。

 夢の中で俺は、母親と一緒に魔法の練習をしていた。


 


「じゃぁアゾート。焚火のような大きな炎が相手に向かって飛んでいくイメージで、魔法の杖に描かれた魔法陣に触れながらこう唱えるのよ」


  【●※▽× ・・・・】ファイアー


 母親とともに何回も繰り返し練習した魔法だ。

 呪文は古代の魔法言語らしく、あいかわらず意味はさっぱり分からない。

 発音が変だと魔法が発動しないそうで、詠唱の練習が一番時間がかかるのだ。

 子供の俺には少し難しかった。


「繰り返し練習するのが大事。ゆっくりでいいからね」


 俺は炎を具体的にイメージするため、実際にローソクやたいまつ、焚き火など色々な炎を色んな方向から観察し、目をつぶって今見たイメージを脳内に再現させる。


 ずっとやってると熱い。


 そして呪文の暗記。

 つまらない。


 意味のわからない言葉を変わった発音でなるべく正確に唱える練習は、はっきり言って苦行だった。

 はやく終わって遊びに行きたい。

 隣で一緒に練習しているネオンもそわそわしだした。


「じゃあ、最後にもう1回練習したら今日は終わりね」


「「やったー」」


 これで最後なので、頑張ってやってみよう。


 まだ一度も成功したことのない魔法。

 今度こそ成功するように、母親の詠唱を注意深く聞いていた。そう注意深く。注意深く。


 突然めまいがして、目の前が一瞬歪んで見えた。


  ZA,ZAZA---ZA, ZA


 母親が発動したファイアーを見つめながら、詠唱がいつもと少しだけ違って聞こえた。

「じゃーやってみて」

 俺は、今聞こえたとおりに詠唱してみた。


【●※▽×@◎×ΛP×▲・・・・ΓΩ▼G◎yΛKτ∪QΣ€】ファイアー


 するとついに、ほんの小さくだったが指先に小さな魔法の炎が灯った。魔法が発動したのだ。


「やった!」


 俺は褒めてもらおうと母の方を振り返えると、満面の笑みを浮かべていた。


「がんばったわね!」


 俺を抱きしめ頭をなぜながら、母は俺に聞いた。


「どうやったの、アゾート?」


 いつもと少し違って聞こえた呪文のことを、母に自慢げに教えた。


「最後の方に聞き覚えのある言葉があったので、それを発音したら魔法が発動したんだ」


 母は不思議そうな顔をして、


「聞き覚えのある言葉? そんなのあったかな? どこのこと?」


「呪文の最後の方の『yΛKτ∪QΣ€』ってところ。」


「それに似た言葉なんて知らないけれど、なんて聞こえているの?」


  【やきつくせ】


「何それ。聞いたことのない言葉ね」


「え?」


 これ日本語だ。

 だからお母様は聞き取れないんだ。


 他の部分は全然意味がわからないし、全部が日本語ではないかもしれない。

 ただもう一か所だけわかる部分があった。


 呪文の真ん中あたりに【煉獄の業火】と聞こえる部分がある。


 次はこれを試してみたい。




 しかしなぜこの世界の魔法の呪文に日本語が混じっているのか。


 最初に思いつくのはここが未来の地球で、魔法を作った古代文明が日本だった説。

 しかし月が2つ、セレーネとディオーネが浮かんでいる時点でここは地球ではない。


 ここがVRMMORPGの中で、ログアウトできなくなった説。

 しかし、こんなリアルで味覚や嗅覚まで再現できるゲーム機は、少なくとも俺のいた時代には存在していなかった。

 ラノベの読みすぎだな。


 で、とりあえず一番ありそうなのが日本人が古代魔法文明に転生し、呪文に日本語を使用した説。

 俺という転生者がいるので、他に転生者がいてもおかしくはないだろう。




 この時から俺は、魔法と古代文明の研究にとりつかれることとなったのだった。




ここまでがプロローグです。


次回はダンジョン探索開始。


応援よろしくお願いします。

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