第46話 秋の叙勲式
フィッシャー領からギルドの転移陣を使って、途中寄り道しながらもようやく王都アージェントに到着した。
「ここが王都か。街がとてつもなくデカイ。うわあ何だの建物は。ちょっと近くに行ってみようぜ、アゾート」
ダンには少し黙っていてほしい。俺たちが田舎者だってバレるじゃないか。
「まずはアウレウス伯爵に到着の挨拶をしとかないとな。それからここ王都ではセレーネとネオン以外は俺の護衛騎士として行動をともにしてもらうが、よろしく頼むな」
「「「了解!」」」
「セレーネはフェルーム騎士団と合流するまでは一緒にいよう。ネオンは、・・・どっちでも好きにしてくれ」
セレーネは今回子爵位に昇格するフェルーム家の次期当主として、当主とともに叙勲式に出席する必要がある。ネオンは出席する必要はないのでどっちでもいいのだ
「そうね、それまではよろしくね」
「好きにしてくれと言われても、僕の座る席は最初から決まっているけどね」
「答えを聞かなくてもわかった。大人しくしてるんだぞ」
俺がそういうと、ネオンが得意のどや顔でセレーネを挑発し、セレーネはネオンを睨みつけながら、魔力をあふれ出している。
なんでこの姉妹は、いつもこんなに仲が悪いのか。たまには仲良くしろよ。
俺たちは貴族街にあるアウレウス伯爵邸にやってきた。
他のみんなには別室で待機していてもらい、俺とフリュが応接室で伯爵と面会していた。
「わかった。当日はアウレウス騎士団を貸してやる」
「ありがとうございます。お父様」
伯爵が快諾してくれた。
さっそく俺はもう一つの相談ごとを伯爵に始めた。魔法協会の件だ。
俺の話が進むにつれ、伯爵の表情は次第に厳しいものになり、俺が説明を終えてもしばらく沈黙が続いた。
「魔法協会を遺跡に立ち入らせない、遺物を回収させないか。そなたの要望には残念ながら応えられない」
やはり難しいか。
「そなたは魔法協会がなぜ遺跡にこだわっているか、知っているか」
「いえ、古代文明の研究目的としか・・・」
「だろうな。それは表向きの理由で、本当の目的は遺物の中にある魔導結晶なのだ」
「魔導結晶?」
「普通の魔石とは異なり、使用者の魔力をも増幅させるため、軍事物資として利用されている。これを魔法協会が遺物から回収し、有力貴族に横流ししているのだ。魔法協会にとっては大事な収入源であり、貴族家にとっては勢力争いに不可欠な物資なのだよ」
「魔導結晶を回収された遺物はどうなるのですか」
「どうなるかわからん。そもそも遺物が何の役に立つのか、分かってないからな」
「魔導結晶を回収するのはやめた方がいいと思います」
俺は古代魔法文明が現在より遥かに高度な文明であったこと、遺物には秘められた力があること、魔導結晶が枯渇した場合どんな影響があるかわからないことを、必死に伝えた。
「話はわかった。もしかしてそなたは遺物の能力を引き出すことができるのか」
「どの遺物でもというわけではありませんが、一つだけ手に入れたものがあります」
「本当かそれは!」
「はい。固有魔法・超高速知覚解放というもので、脳や肉体の反応速度を飛躍的に上昇させる常時展開型の無属性魔法です」
伯爵の目の色が変わった。
「その話は誰かに言ったのか」
「仲間以外には誰にも言ってません」
「ではこれからも誰にも話してはならん。特に反対派閥のやつらには伏せておきたい」
「わかりました」
「今、魔法協会を牛耳っているのは反対派閥のシュトレイマン公爵派なのだよ。そして魔導結晶を自派閥優先に横流しをしていて、派閥間の軍事バランスが傾きかけていたところだ。今すぐ魔法協会の動きを止めることはできないが、少し時間をくれないか」
「魔導結晶の回収が阻止できるのなら、是非お願いします」
ソルレート伯爵は、王都への到着挨拶のためシュトレイマン公爵の館に来ていた。
「おお遅かったな、待ちかねたぞ」
老齢のシュトレイマン公爵は立ち上がって、ソルレート伯爵の到着を歓迎した。
「お久しぶりです公爵。それにジルバリンク侯爵もいらっしゃいましたか」
伯爵はその大きなおなかを揺らしながら、侯爵とも挨拶を交わした。
「ところで大事な話があるとのことでしたが」
ソファーに腰かけた伯爵は、挨拶もそこそこに用件をうかがった。
「魔法協会のことだ」
「侯爵が会長をされているあの」
「そうだ。詳しくは侯爵から話を聞こう」
公爵から流れを引き継ぎ侯爵はさっそく本題に入った。
「有望な古代遺跡につながっている可能性のある神殿を発見したのだが、魔法障壁に阻まれていて中に入れなくて困っているのだ」
「はあ。それで?」
「冒険者ギルドにも依頼して、魔法障壁の突破方法を探させているのだが、一向にらちが明かない」
「まさかそれを私にやれと?」
「いやそうではない。クエストを受けた冒険者のパーティーの中にボロンブラーク騎士学園の生徒で結成されたパーティーがあって、まさに魔法障壁を突破方法を探っているところのようだ。そしてそのパーティーのリーダーが例のアゾート・メルクリウス男爵だ」
「アゾート・メルクリウス! あいつはそんなことにまで手を出しているのか」
「どうした。やつと何かあったのか」
「いえ、あいつのプロメテウス領を少し混乱させてやろうと、嫌がらせをしているところでして」
「なら好都合だ。そのパーティーを妨害してくれないかという相談だったんだ。メルクリウス男爵はボロンブラーク伯爵家とともにアウレウス公爵派に入った新参者だが、公爵の弟のアウレウス伯爵のお気に入り。愛娘を嫁にさせたとも聞いている。そんなやつに有望な古代遺跡を嗅ぎまわられるのは非常にまずい。そなたの甥が学園の生徒にいるだろ。そちらからでもいいので何とかしてくれないか」
「あのアウレウス伯爵が娘を・・・。わかりました。アゾート・メルクリウスの妨害は私がおひきうけしましょう」
翌日。秋の叙勲式が王宮で開かれた。
叙勲の対象者が一堂に勢ぞろいし、アージェント国王から勲章を授与される。
今回新たな爵位を授かったものは11家。
その中にはダリウス・フェルーム子爵とアゾート・メルクリウス男爵の姿もあった。
その11家がまさに今、自らの騎士団を引き連れて王宮の前庭に入場するところだった。
爵位にふさわしい権勢を示すため、各家選りすぐりの騎士たちが行進するその姿はまさに壮観。ブロマイン帝国との小競り合いに最近は劣勢続きであるとはいえ、まだまだアージェント王国の威信を奮い起こさせるに十分な威容であった。
その中でも観衆を特に驚かせたのは、メルクリウス男爵の騎士団の入場の時だ。
中級貴族では通常100騎から精々300騎程度の騎士団を率いるものなのだが、メルクリウス男爵は1000騎もの騎士団を率いてきたのである。
「おい見ろよあの男爵。まだ学生なのに1000騎も騎士団を引き連れて、何者だあれは」
「あの騎士団旗を見てみろ、男爵家の紋章の他にアウレウス家の紋章の旗もあるじゃないか!そんなものを率いているって一体」
「あの男爵の隣にいる令嬢。アウレウス伯爵自慢の才女、フリュオリーネ様じゃないのか」
「本当だ。アウレウス伯爵の娘を嫁にもらったのか、あの男爵は」
俺たちの入場により観衆の歓声が一段と大きくなり、俺と父上は完全に委縮していた。
「おいアゾート。これはやりすぎじゃないのか。なんで1000騎も借りてくるんだ」
「俺もさっき見てびっくりしたんだ。この騎士団はフリュが借りてきたんだよ」
「はい。お父様に相談したら、これくらいで丁度いいとのことでしたので」
「そ、そうか? まあフリュちゃんが頑張ってくれたことだから全然文句はないけど、ちょっと目立ちすぎてる気がして、少し心配になっただけだよ」
「秋の叙勲式がこんなセレモニーだとは思わなかった。こんなことなら父上のいうとおり自分の騎士団を率いてくればよかったよ」
「お前が学園をサボってクエストなんか進めていたからだ」
「反省してるよ。それよりネオン。お前やっぱりフェルーム家の方に列席した方がいいんじゃないか。ここは学園じゃないんだから、あとでバレたら大変なことになる気がする」
「大丈夫だよ。いずれは嫁として正式にメルクリウス家の一員になるわけだから、ウソはついてないよね」
「完全に真っ赤なウソだろが。もうわかったからせめて後ろの護衛騎士に中に紛れ込んでくれ。これ以上は俺の胃がもたない」
「もう、しょうがないなアゾートは。これは貸しだからね」
「盗人猛々しいな」
騎士団を前庭に待機させ、俺たち叙勲対象者は王宮の中へと入っていった。
メルクリウス男爵家の場合、叙勲されるのは俺だがまだ未成年のため後見人として父上も同席。さらにアウレウス伯爵の指示でフリュも同行させている。
フェルーム子爵家の場合、叙勲されるダリウス夫妻と次期当主のセレーネとなっているのだが、
「おい、ネオン。お前なんで王宮の中まで入ってきてるんだ。早く騎士団のところに戻れ」
「王宮の中に入っちゃったしもう遅いよ」
儀式はすでに進行されていて、ここで場を乱すわけにはいかない。
ぐぬぬぬぬ、ネオンの奴め。これでさっきの貸しは消えたからな。
少し離れた場所にいるセレーネも赤い目をさらに赤く光らせて、ネオンを睨みつけている。
「アゾート・メルクリウス男爵」
名前が呼ばれた俺は、王様の前へ歩み出る。
王様は60代ぐらいの細身の男性で、穏やかな表情をしていた。
一方、列席の王宮貴族たちからは、俺の名前について何かヒソヒソと話が聞こえた。
「メルクリウスだって。そんな名前を名乗るなんてさすが子供男爵だな」
「今は満足しているかもしれないが、成人したら恥ずかしくて後悔することになるな」
「そうだな。僕も14歳のころの自分を振り返って、たまにベッドでもだえ苦しむことがあるよ」
どういうことだ?
メルクリウスという名前はそんなに有名で、何か特別な意味でもあるのか?
しかし余計なことを気にしている暇はない。
俺は王様から勲章を受け取り、静かに跪き臣下の礼をとった。
王様は軽くうなずくと、次は俺の横にいるフリュに声をかけた。
「久しいの、フリュオリーネよ。息災であったか」
フリュは王様と知り合いだったのか。
「はい。陛下におかれましてもご壮健でいらっしゃるようで、これほどの喜びはございません」
フリュも令嬢らしく優美に一礼した。
そうして何事もなく秋の叙勲式は終わった。
だが、列席者の中に心穏やかではないものが一人いた。
(メルクリウス男爵。ふざけた名前を付けただけの子供だと思っていたが、まさか本物だったとは。あの後ろに控える白銀の髪に赤い目の男装の娘。隣のフェルーム子爵家の母娘まで同じ容姿。アウレウス公爵のやつ、弟の娘をメルクリウスの横に随伴させて、我らに対する挑発か。してやられたわ)
叙勲式に列席していたシュトレイマン公爵は、向かいで涼しい顔をしているアウレウス公爵を静かに睨みつけていた。




