番外編③ エレナ・バートリーとの結婚式?
お待たせしました。
今度はエレナとの結婚式(の前の控え室)のエピソードができましたので、アップします。
全年齢版で許されるであろうギリギリを攻めていきますので、お楽しみください。
ただし「アウト」の判定がでれば削除しますので、その時はご容赦ください。
エレナの結婚式の参列者は、マールの結婚式よりもさらに少人数だった。
新郎側の出席者は俺の両親のロエル・マミー夫妻、嫁のセレーネ女王、俺の後見人のアージェント顧問の4人が全ての式に出席することになっていて、これに秘書としてフリュとジューンのどちらかが随行する。ちなみに今日の秘書当番はフリュだ。
この5人のコアメンバーに加えて、その時々で出席可能な親族が参加することになるが、今日はマールの結婚式にクロリーネとリーズが参列した関係で、この二人が引き続きエレナの結婚式にも参列する。
一方、エレナ側の出席者も親族のみであり、エレナの両親とバートリー家当主の婆さん、エレナの後見人であるリシア&ドルム・フィッシャー夫妻、そして元フィッシャー辺境伯夫人のエメラダとその長男のライアン&ミリー夫妻だ。
人数は少ないがこのメンバーだけを見れば、ブロマイン帝国十数万の兵を血祭りにあげた一騎当千、アージェント王国武闘派の頂点であり、敵の侵攻後が今あったとしてもあっという間に壊滅させられるだろう。
さて結婚式の時間が近づき、参列者も既に会場入りしてテーブル席で式の開始を待ちわびている。だが午前中は50人以上いた参列者も、午後はたった10数名で同じ会場なのにガランとして寂しい。
俺はエレナと二人並んで、舞台裏で式が始まるのを待っているが、エレナの足下ではセレーネがウェディングドレスの最後の手直しをしており、リーズとクロリーネは花嫁の付き人として一緒に入場するため、俺たちのすぐ近くで待機している。
そんな緊張感が漂う舞台裏で、俺はこっそりフリュの隣に移動すると今回の式について確認する。
「会場が寂しすぎるんじゃないか。フィッシャー辺境伯領で行えばもっとたくさんの参列者が出席できたはずなのに、なぜポアソン領なんかで式を挙げたんだ。エレナが可哀そうじゃないか」
「わたくしも最初はそう思ったのですが、エメラダ夫人の強い意向でこのような形になりました」
「エメラダ夫人が? 彼女が何を考えているのか知らないが、結婚することはもう決まっているのだし、無理に式を急ぐ必要もないだろう」
「それはそうなのですが、ただ・・・」
「どうしたんだフリュ、何か言い難そうだな。まさかエメラダ夫人と何か裏取引でもしたのか」
かつてのエメラダ夫人は、あのネオンが毛嫌いするほど嫁いびりがきつい姑であり、橋田寿賀子大先生の世界観を体現したようなオバサンだった。
だがフィッシャー辺境伯と離婚した後は、エレナの後見人兼侍女長としてディオーネ城でつつましく暮らしていた。
その後、俺が南方未開エリアで冒険の日々を送っている間に頭角を現して、いつの間にかアージェント顧問の懐刀となって、俺の後宮の仕切りだけでなく貴族たちの婚姻についても的確にアドバイスする有能さを見せていた。
そんな彼女の本質は、アウレウス宰相と同じ策謀家であり、研究者タイプの俺には彼女が裏で何を考えているのかどうしても読みづらいのだ。
だが、夫人との裏取引をきっぱり否定するフリュ。
「いいえ、そのようなことは決してございません」
「裏取引ではないとすると、結婚式のダブルヘッダーみたいな無茶をしなければならない、ちゃんとした理由があるんだな」
「・・・ございます」
そう答えるフリュの目に、ウソ偽りはなかった。
「だったら教えてくれ」
「ですがこのようなこと、殿方にはお話ししないのが貴族のマナーなのですが・・・」
「殿方には話をしないということは、逆に言えば女性の世界では常識だということか」
「高位貴族の既婚女性なら誰でも知っている話です」
「え? 前世で20年以上も公爵をやってきたけど、俺には全く心当たりがないんたが・・・なんか無性に気になってきた」
「・・・・本当にお聞きになりたいのですか? 後で後悔なさっても知りませんよ」
「そんな風に言われると、余計に聞きたくなるじゃないか。式までまだ少し時間があるしその高位貴族女性の常識というのをこっそり聞かせてくれ」
「仕方がないですね。では耳をお貸しくださいませ」
そしてフリュは俺の耳元で、この世界の隠された真実を話し始めたのだった。
俺にとってそれはまさに衝撃であり、その後の人生に大きく影響を及ぼすこととなる。
「理由自体はとても簡単で、エレナさんとマールさんの初夜を同日に終わらせる必要があったからです」
「しょ、初夜だってーっ?!」
「しーっ! あなた声が大きいです。リーズさんたちがこちらを振り返ったではありませんか」
「す、すまん・・・だが理由があまりにも生々し過ぎてつい。でもそれだけじゃ、俺にはハッキリとした理由が理解できないんだが」
「それを今から順を追って説明いたします。まずこのお話の前提ですが、エレナさんがマールさんの警護を昼夜問わず行っていることはご承知ですよね」
「もちろんだ。俺がエレナに命じたことだしな」
「そうですね。ではもう一つだけ事実確認をします。わたくしたちの夜のお務めの時に、魔王親衛隊はどこで何をしていますか」
「な、な、何を白昼堂々そんな話を・・・はしたないぞフリュ」
「しーっ・・・声が大きいです。ですがこの話をしないことには、エレナさんの結婚式をすぐに行わなければならない理由を申し上げることができないのですが・・・」
「マジかよ・・・正直もう嫌な予感しかしないが、こうなったら意地でも理由を聞いてやる。コホン、魔王親衛隊についてだが、夜の時間帯は後宮の中から全員引き払わせ、後宮にバリアーを展開させた上で警護は建物の外の出入り口に限定している。侵入者が既に潜入していた場合の対応は若干手薄になるものの、そこは俺自らが戦うことを前提にそうしている」
「ええ、その通りですね。アゾート様のご認識でほぼ間違いございませんが、たった一つだけ事実相違がございます」
「事実相違だと?」
「実は後宮の中に留まって警護を行っている人間が、たった一人だけいらっしゃいます」
「まさか・・・後宮の中に人がいたのか」
フリュと結婚式を挙げてまだ1週間ほどしか経ってないが、夜の後宮に人がいたことなど全く気が付かなかった。
俺の警戒を掻い潜って後宮の中に潜むことができるなんて、そんな強者が魔王親衛隊にいたっけ?
だがフリュが告げたその名前に、俺の全身を電撃が貫いた。
「セレーネ女王陛下です」
「な、な、な、セレーネが・・・そんなバカな!」
セレーネとフリュ、そしてフィリアの3人にはディオーネ城の敷地内に自分の後宮があり、俺がフリュの所に行く夜は、セレーネは自分の後宮で寝ているはずだった。
ていうかそのためにわざわさ後宮が分かれているのに、フリュの後宮でセレーネが夜間警備なんかしてたら本末転倒、全く意味がないじゃないか。
だが問題なのはここからだ。
「後宮内にいることは分かったが、セレーネはどこを警備していたんだ」
万が一にもあの時の声が聞こえるようなことがあれば、絶対に俺は丸焼きにされてしまう。だが今日まで俺が無事に生き延びているという事実から、セレーネには何も聞こえていなかったという結論に至る。
つまり出入口の宿直室にセレーネは居た、というのがその答えだ。
実に簡単な推理だと思ったのだが、フリュの告げた答えは俺の想像を遥かに超えていた。
「わたくしの寝室に隣接する侍女長の控室です」
「侍女長の控室って・・・思いっきりフリュの寝室の中じゃねえかよ!」
思わず大声が出てしまった俺は、慌てて周りを確認する。するといつの間にか俺のすぐ近くまで近寄っていたクロリーネとリーズの二人が、さっと俺から顔をそむけた。
この反応・・・ひょっとして今までのフリュとの会話を聞かれていたのか。
・・・だとするとマズいな。
そんな嫌な緊張の中、俺の背後から突然セレーネの声が聞こえた。
「悠斗さん、フリュさんとの会話は全部丸聞こえよ」
「うわああっ! せ、セレーネ、違うんだこれは!」
この状況をどう取り繕おうか、頭をフル回転させて言い訳を考えていると、セレーネは笑いながら、
「慌てなくても丸焼きになんかしないわよ」
「・・・ウソ。本当にエクスプロージョンをぶっ放さないの?」
嫉妬深く、ヤキモチを妬くとすぐエクスプロージョンを放つあのセレーネが、俺を丸焼きにしないだと。
ハーレムラブコメを読むのは大好きだけど、自分がハーレム要員にされるのは大嫌いなあのセレーネが、まさか怒ってないなんて天変地異の前触れでは。
だがセレーネはその理由をあっさり教えてくれた。
「だって悠斗さんが私の部屋に来る夜は、フリュさんが隣の部屋で私たちの警護をしてるのよ」
「何だってーっ!」
今明かされた衝撃の真実。
つまりセレーネとフリュの二人が嫁と警備の役割を交互に入れ替わりながら、俺たち3人は毎晩のように同じ部屋の中にいたことになるのだ。
全く信じられん・・・。
「でも、どうしてキミはそんなに平然としてるんだ」
セレーネの感覚だと、そう言うことは絶対許せないはずなのだが、彼女の次の言葉に俺は耳を疑った。
「だって前世でもそうだったじゃない」
「・・・前世ってメルクリウス公爵時代ってこと?」
「そうよ。私も最初はすごく戸惑ったんだけど、この世界のしきたりだとフリュさんから教えられて、夜のお務めの時は必ず隣の控室にフリュさんがいたのよ」
「・・・本当にいたの? 毎晩?」
「いたわよねえ、フリュさん」
「はい。すぐ近くでお二人をお守りしておりました」
「でも俺はそんなこと全然知らなかったんだけど」
「ですので、殿方にはお話するようなことではないと申し上げたのです」
「いや、さすがに一言ぐらいあってもいいのでは」
「そこは昔からの不文律なので」
「不文律?」
「女性の名誉に関わるため、国王と言えどおいそれとは立ち入れないタブーでございます」
「そこまでの話なのか・・・」
「はい。王族や公爵家のお世継ぎを作ることは、妻に選ばれた女性にとって最も大切なお務めであり、最高の栄誉なのです。そしてそれに携われる侍女は、その国の頂点であることを自覚し、誇りを持ってその職務を全う致します。ですので、そこに殿方の出る幕など一切ございません」
「そんなバカな・・・」
前世で20年以上もこの二人と夫婦だったが、今になって知ったこの世界の衝撃の事実。
「でもちょっと待てよ。セリナの場合は侍女長のフリュがいたとして、後妻のフリュの警護は誰がやっていたんだ」
「わたくしの場合、最初は後任の侍女長が担当しておりましたが、ディオーネさんやエルリンが思春期を迎えてからは侍女たちが総出で警備をしておりました。あの二人が間違いを起こさないよう、あなたから遠ざけるために」
「総出って、侍女は何十人もいたはずだが・・・」
「シフトを組んで交代制で対応させておりました」
「バカな! ではなぜ俺は全く気づかなかったんだ」
「それはわたくしのことを一晩中、それはもう真剣に愛してくださっていたからです」
「がくっ・・・」
俺は自分が情けなくなり、どうしようもない脱力感と羞恥心に襲われてしまった。逆にフリュは頬を赤く染めると、俺の胸にそっと身体を寄せて幸せそうに微笑んだ。
さて、これからエレナとの結婚式が始まるというのに、既にHPがゼロになってしまった俺だったが、自分の最初の質問の答えを自分で答えてみた。
「つまりこうだ。王族の警護のため寝室のすぐ近くに戦闘力に秀でた侍女が控えるのがこの世界の通例。だが俺の場合は戦闘力が極めて高い嫁がたくさんいるため、侍女を使わずに嫁同士がその役割を交互に担う体制をとる。マールの場合はそれがエレナだと」
「はい、ご賢察にございます」
「・・・事情は承知した。さすがは後宮会議というか、まさかそんなことまで考慮に入れて結婚式のスケジュールが決められていたとはな」
俺は余計な質問をしてしまったことを後悔しつつも妙に感心してしまい、いつの間にか俺から離れて壁際にうずくまり、耳を塞いでいるエレナに話しかけた。
「エレナにはちょっと刺激が強すぎる話だったかもしれんが、そういうわけでエレナの結婚式はどうしても今日行わなければならないようだ。でも落ち着いたらフィッシャー辺境伯領でお披露目会を企画しような。エレナの友達はその時に呼ぶことにして、今日は親族だけの式で我慢してくれって、大丈夫かエレナ?」
よく見ると顔を真っ赤にしてぐったりしているエレナを、俺は慌てて抱き起した。
「おい、大丈夫かエレナ!」
「・・・はいあなた。エレナは・・・あうあうあう」
どうやらエレナも俺同様、既にHPがゼロになっていたようだ。そしてこのタイミングで祭壇から鐘の音が鳴り響き、結婚式の開始が告げられた。
俺とエレナはフラフラになりながらも、大聖女クレア・ハウスホーファの待つ祭壇に向けて歩き出した。
次回はいよいよマールとエレナとの初夜となります。
ギリギリ行けるところまで行こうと思いますので、ご期待ください。




