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番外編① 後宮会議

本作の後日談です。


思い付いたタイミングで不定期に更新しますので、興味のある方は是非ご覧ください。



 ディオーネ城、通称魔王城の最奥の会議室には3人の女性が座っていた。


 そのうちの一人、フリュオリーネ・アウレウス・メルクリウスは、メルクリウス=シリウス教王国の王妃にしてアゾートが娶ることとなる10人の嫁のリーダーである。


 その彼女が会議卓の中央に座り、両側を二人の女性が向かい合うように座る。


 一人は前アージェント国王の腹心にのし上がった、フィッシャー辺境伯の元正妻のエメラダ夫人。そしてもう一人は旧シリウス教国アーヴィン法王庁で神使徒の巫女の地位に就くジューン・テトラトリスである。


 この3人こそが後宮を司る最高権力者であり、世界各地に広がるメルクリウス連邦の支配者となったアゾート・メルクリウス(魔王メルクリウス)の結婚式の順番をこれから決めようとしている。


 すなわち「後宮会議」の第1回正式会合が、ここに開催された。




 議長のフリュオリーネが冒頭あいさつの後、10人の嫁の基本情報を改めて整理した。


「アゾート様の嫁の序列は次のようになってますが、正妻2年目のわたくしと先日挙式したセレーネ女王陛下の二人を除いた8名の挙式の順番が本日の議題でございます。ただし超大国ランドン=アスター帝国の支配者・クロム皇帝の実の妹であらせられるブリュンヒルデ皇女殿下との挙式の日時と場所はすでに決定しておりますので、これを念頭に他の嫁の挙式の順番を議論いただければと存じます」


【メルクリウス連邦】

◇ メルクリウス=シリウス教王国

 1位 セレーネ(女王)【済】

 2位 クレア・ハウスホーファ(大聖女)

 3位 フリュオリーネ(王妃)【済】

 4位 ジューン(神使徒の巫女)

 5位 クロリーネ(第1側妃)

 6位 マール(第2側妃)

 7位 エレナ(第3側妃)


◇ 鬼人族統一国家・メルクリウス帝国

 1位 フィリア(皇妃)


◇ ウンディーネ王国

 1位 マイトネラ(女王)



【ランドン=アスター帝国】

 1位 ブリュンヒルデ(皇女)【日時確定済み】






 最初に発言したのはエメラダ夫人だった。


「まず確認させていただきますが、ブリュンヒルデ皇女殿下は結婚してからも帝国の皇族籍を維持されるため、後宮会議の所管ではなくアウレウス宰相と外交筋の指示に従うということで間違いございませんか」


「はい、アゾート様がランドン大公家へ婿入りするという形をとりますので、その理解で結構です」


「それともう一つ、残り7人の挙式の順番は必ずしも序列順ではないということで間違いないですね」


「はい。それにもう一つ条件を加えるならば、結婚式は一生に一度の晴れ舞台でございますので、合同の結婚式は極力避けたいと考えております」


 フリュオリーネは先日アゾートと二人だけの結婚式をこっそり挙げた時、女性にとって結婚式がいかに特別なものなのかを実感したところであり、全ての嫁にこの幸福な瞬間を経験してほしいと思ったのだった。そんな彼女の意図を組んだエメラダは静かにうなずいて同意した。


「承知しましたフリュオリーネ王妃殿下。それでは序列は忘れて、結婚式を優先すべき個別の事情を整理します。以下の認識でよろしいでしょうか」



【優先すべき個別の事情】


 1位 マイトネラ女王陛下:きわめて希少なType-ネプチューンの純血種であり、既に30歳を超えているため妊娠・出産が急務である。


 2位 マール第2側妃:東方諸国からは既に失われたType-ビスマルク分家の最後の生き残りであり、7家融和戦略上マイトネラ女王陛下と並んで最重要人物。今年20歳を迎えるが出来るだけ多くの子供を残す必要があるため妊娠・出産が急務である。


 エメラダ夫人の挙げた二人については誰も異論はなく、この二人の挙式を最初に行うことがすぐに決まった。だがここからが問題であり、法王庁の利益代表であるジューンが早速攻撃を仕掛ける。


「先ほど序列はひとまず忘れるということになりましたが、さすがに大聖女クレア様を無視するわけにはいきません。法王庁にはマイトネラ女王陛下もいらっしゃるわけですし、この二人を続けて挙式させるのも一案だと存じます。・・・ついでにわたくしも」


 ジューンの本音が少し見えた提案ではあったが、発言自体は一理あり、少なくとも大聖女クレアについてはシリウス教徒たちの信仰対象でもあり、同じく信仰対象の神使徒アゾート様とは早めに結婚式を挙げさせておくべきだということで一致した。


 ジューンは自分の挙式こそ叶わなかったが、満足そうな顔をしているところを見ると、あえてそれを捨て駒として最低限の要求を通す作戦だったようだ。そんなジューンを見てエメラダ夫人も動いた。


「であればマール第2側妃の護衛として常に一緒にいるエレナ第3側妃も挙式させておくべきかと」


 エメラダ夫人の提案に残りの二人が首をかしげる。


「常に一緒にいるからと言って、お二人の領地は随分離れておりますし、挙式をまとめて行う理由が特にございませんが・・・」


 フリュオリーネの疑問にエメラダ夫人がその理由を答える。


「エレナ様はマール第2側妃を護衛するため、日中はおろか夜間も至近距離で警戒しており、二人で同じベッドで眠っているほどです。そんな状況でマール第2側妃だけが正式に挙式されると、エレナ様がどのような状態になるのか想像いただければ、必要性を理解できると存じます」


 ジューンはそれを聞いても状況を理解できなかったが、フリュオリーネは顔が真っ赤になった。


 エメラダ夫人が心配していることが彼女には理解できてしまったからだ。


「わ、分かりましたからそれ以上の発言は不要です。エレナ第3側妃の挙式も認めましょう。ですがエレナのためにバートリー男爵家の領地に赴く時間はございませんよ」


 魔王親衛隊長であるエレナは男爵位を持つ宮廷貴族であるが、リシア&ドルム夫妻が住むフィッシャー辺境伯領との領界エリア近辺を領地として与えられており、第一子が誕生すればここがバートリー伯爵領となる予定だ。


「ありがとう存じます。エレナ様の挙式は簡素なもので結構ですので、マール第2側妃と同日の同じ場所で構いません」


「承知しました。ではそのようにスケジュールを組みましょう」


 ジューンが首をかしげる中、エレナの後見人の一人であるエメラダ夫人はこうして自分の利益を得ることができた。





「ここまでの話し合いで、挙式の順番はこのようになりました。ブリュンヒルデ皇女殿下の挙式は動かせませんので、時間の制約からジューンさんとクロリーネさんの挙式は後回しになりますがよろしいでしょうか」


 ① マール第2側妃(ポアソン領)

 ② エレナ第3側妃(ポアソン領)

 ③ マイトネラ女王陛下(アーヴィン法王庁)

 ④ クレア大聖女猊下(アーヴィン法王庁)

 ⑤ ブリュンヒルデ皇女殿下(エルフの里)



 フリュの発言にジューンが頷くと、


「承知しました。できればわたくしも式を挙げたかったのですが、クレア様が優先ですのでこれで結構です。それにわたくしの結婚式にはアージェント学園の同級生や王家の親戚も呼びたいので、彼らを招待するための時間が欲しいと思っていたところでした」


「アージェント王家を多数呼ぶこととなれば相応の準備期間が必要ですので、焦らずゆっくり準備すればいいと存じます。派閥は異なりますがおそらくクロリーネさんも事情は同じでしょうね」


 そして最後に残ったのはフィリアの挙式だ。フィリアはメルクリウス帝国の皇妃に就任するにあたり既にフリュオリーネの侍女の任を解除された。だがフィリアは絶大な信頼をフリュオリーネに寄せているため、フリュオリーネは彼女の後見人を買って出ていた。


「フィリアさんは、エルフの里でのブリュンヒルデ皇女殿下の挙式を行った後、メルクリウス帝国のゴブリンの巣穴で結婚式を挙げたいと申しておりました」


「え・・・ゴブリンの巣穴でですか」


 フリュオリーネの発言にジューンが絶句した。こういう反応が来ることは分かっていたが、フリュオリーネは一応フィリアの希望を代弁する。


「ご存じの通りフィリアさんはローレシア女帝陛下暗殺の罪で国外追放処分を受けており、彼女の親族が結婚式に参列することはありません。それに彼女はドン宰相をはじめとするホブゴブリン幹部たちや、ゴウキ夫妻とオーガ軍団、ピグマン夫妻とオーク軍団のみんなを結婚式に呼びたいとのことなのです」


「それはわかるのですが、ゴブリンの巣穴の中は匂いがその・・・もし可能であれば屋外で挙式された方がよろしいかと」


「わたくしもあの匂いは少し苦手で・・・ではフィリアさんにそのように提案しておきます。日取りはブリュンヒルデ皇女殿下の次となりますので、ジューンさんはフィリアさんの後の7番目にあなたの新領地である港町トガータで、8番目はクロリーネさんで旧シャルタガール城、現ジルバリンク城で挙式を行うことといたしましょう。異論のある方は挙手願います」


「「異議なし」」


「ではそのように進めさせていただきます。本日はこれにて解散」

次回はマールの結婚式です。お楽しみに。


後日談についての感想や希望があれば是非コメント下さい。また、お気に入り登録やいいねを頂けると作者の励みになりますので、よろしくお願いします。

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