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第415話 ヒルデ大尉の卒業記念パーティー②

「あなた、このキーファさんはディオーネさんの生まれ変わりですね。そしてもしかしてエルリンも」


「どうしてそう思ったんだ・・・」


 エルリンたちの正体がフリュにバレてしまったが、一体どこで気づかれた。


「あなたがアルゴさんに前世の過ちを説明されていた際、わたくしの行動を詳しく知りすぎていることに、少し違和感を感じました」


「まさか、そんなことで・・・」


「もちろんそれだけでは気づくことはできませんでしたが、キーファさんが先ほどからあなたに見せる表情と時折見せるクセが、生前のディオーネさんとそっくりだったのでピンときました」


「キーファの表情とクセだと?」


「おそらくこの子たちは、わたくしのマネをしてリーインカーネイションで転生してきたのでしょう。さあおっしゃい、あなたがお父様に余計なことを教えたのでしょ、ディオーネさん」


 フリュに睨まれたキーファは、最初はとぼけて涼しい顔をしていたものの、そのあまりのプレッシャーに顔を青ざめて冷や汗を流し始めた。


 それを見て先に観念したのがエルリンだった。


「ごめんなさい、おかあさま。たしかにわたくしたち二人はリーインカーネイションで生まれ変わったお父様の実の娘です」


「やっぱり! でも、よく今までこのわたくしの目を欺くことができましたね」


「わたくしだけなら一生かくしとおす自信がありましたが、でぃおーねお姉様はポンコツなところがございますので、おかあさまにバレてしまいました」


 エルリンの言う通り、前世のディオーネはその容姿や性格が母親の観月せりなに瓜二つで、フリュに厳しくしつけられてはいたもののドジな所が抜けきれなかった。


 キーファにどんなクセが出ていたのか俺には全く分からなかったが、フリュの鋭さに感心していると突然後ろから大声が聞こえた。


「えっ! その子ディオーネの生まれ変わりなの!」


 振り返ると向こうのテーブルで飲み会をしていたセレーネが飛んで来ると両手でキーファの肩を掴んだ。


 キーファはバツが悪そうにしながらセレーネを見上げて、


「・・・お母様、実はわたくしあなたの娘のディオーネです。黙っていて申し訳ございませんでした」


「ほ、本物なのね・・・ディオーネーっ!」


 セレーネは大喜びしてキーファを両手で抱き抱えるとそのまま自分のテーブルに連れて帰り、嬉しそうに俺の両親に見せびらかした。


 あの様子だとキーファを引き取ると言って聞かないだろうし、エルフの里に一度行ってキーファの両親と話をしないといけないな。


 そんなことを考えていると、フリュがエルリンの耳を思いっきり引っ張っていた。


「いたいっ!」


「あなたにはきちんとお話を聞かせていただきます。こちらに来なさいっ!」


「耳をひっぱらないでくださいませ、お母さまっ! それにわたくしを怒らせると、ごぶりんの嫁になってしまいますわよ」


「そんなこと、フィリアさんとドン宰相に命じて阻止させるに決まってるでしょ。それよりあなたとは今晩じっくりとお話させていただきます。覚悟なさい!」


「いやっ! おかあさまとは話すことなど何一つございません!」


 セレーネ同様、前世の娘に会えた喜びがフリュにもあるのだろうが、それ以上にエルリンやディオーネの転生の目的に察しがついたこと、ほぼ1年間自分を欺き続けた上に前世の自分の行動を包み隠さず俺に告げ口したことに対する怒りがそれを上回ったようだ。


「あなた、わたくしたちはこれで失礼いたします。ブリュンヒルデ様によろしくお伝えくださいませっ!」


「ああ・・・ほどほどにな」


「いやーーっ! おとうさま助けてーっ!」


 顔に笑顔を張り付けながら静かに憤るフリュに耳を引っ張られ、泣きながらホールから連れ出されてしまったエルリン。


 残された俺たちは、ただただエルリンの無事を祈るしかなかった。





 エルリンとディオーネが居なくなってガランとしたテーブルにマイトネラがやってきて、軽く会釈をした彼女はエルリンの席に座った。


「改めて二人に紹介しておくよ。彼女がウンディーネ王国女王のマイトネラで、聖地アーヴィンに住むことになるからよろしく頼むな。それからマイトネラ、こいつらは俺の妹のリーズ王女と第1側妃になる予定のクロリーネ・ジルバリンク公爵令嬢だ。クロリーネは小柄で年齢よりも幼く見えるけど、二人とも今年成人したばかりの18歳だ。仲良くしてやってくれ」


 そしてお互いに自己紹介をしあった三人だったが、クロリーネが浮かない顔で俺に言った。


「アゾート先輩、マイトネラ女王陛下ってとんでもないレベルの美人ですね。プロポーションも完ぺきですし女としての自身が完全に無くなってしまいました」


 やはりクロリーネにもそう見えているのか。


 おそらくだが、ルシウス人はこの世界の人類の始祖であり、完璧な美を体現した種族(少なくとも俺たち転生者以外にはそう見えている)なのだろう。俺はがっくりと肩を落としているクロリーネを元気づけた。


「確かにマイトネラは(普通にしていれば)かなりの美人だと思うけど、俺はクロリーネだって相当なレベルの美女だと思うぞ。そのピンクブロンドの髪だってとても綺麗だし、少し見ない間に随分と大人っぽくなったんだな」


「えっ! 大人っぽくなったって・・・じ、実は胸が大きくなったんです。アゾート先輩はやっぱりわたくしのことをちゃんと見ていてくれていたのですね」


「あ、ああ! それはもちろんだとも・・・」


 胸の大きさなんか全く気づかなかった。


 言われて見れば少し大きくなった気もするが、それでもローレシアより少しマシな程度で、残念なことにカトリーヌにすら負けている。


 ちなみに現時点の胸の大きさランキングは、1位がマイトネラで2位がフリュ、3位がジューンとネオンで5位にセレーネとフィリアが並び、7位がマールで8位はヒルデ大尉だ。


 そこから越えられない深い深い谷が存在し、9位にクロリーネで10位は絶対王者のエレナと続く。


 なお大会参考記録として、エミリーはマイトネラよりも大きい絶対王者(爆乳)であり、カトレアはヒルデ大尉と同じぐらいだ。


 ていうかヒルデ大尉とカトレアって、身長もスリーサイズも髪色も瞳の色まで全て同じ。違うのは顔と声だけ。ローレシアがカムフラージュとしてカトレアを送り込んで来るわけだよ。




 そんなヒルデ大尉もこちらのテーブルにやってきてマイトネラの隣に座った。俺が改めて二人を紹介すると、クロリーネのことを興味深そうに見つめた。


「ふーん、この子があのライデンカナル爆破作戦を成功に導いたメルクリウス軍のエースパイロット、クロリーネ・ジルバリンクなのね。あのマール・ポアソン少尉よりもフレイヤーの操縦技術が上なんて本当に信じられないわね」


「二人とも操縦技術では甲乙がつけがたいんですが、クロリーネは一人で3属性が揃っている上にマールよりも魔力値が高いから、セレーネを運搬するのに適任だったんですよ」


「そっか、属性の関係でマールちゃんではあの破壊神を運河まで運搬するのが不可能だったのね」


「ヒルデ大尉・・・破壊神なんて言葉をセレーネに聞かれたら俺たち二人とも丸焼きにされてしまいます。今は前世の娘との再会ではしゃぎまわってますけど」


「うふふふ、そうね今後は気をつけましょう」


 そんな俺たちの会話を聞いていたクロリーネが不思議そうな顔で、


「アゾート先輩、ブリュンヒルデ皇女殿下って普通の軍人のような印象ですが、帝国の皇族ってみなさんこのような感じなのでしょうか」


 クロリーネがそう言ってランドン家のテーブルを見渡す。


 ランドン大公家は当主のクロム皇帝を筆頭に、身分を隠して工作員をしていた祖父母、そしてあのおっとりした姉のコンスタンツェまで帝国軍に所属していた経験のある武闘派であり、妻のナツ(今はローレシアにチェンジしているが)は帝国史上最強の勇者であり、今はクロムから引き継いで帝国軍元帥に着任している。


 あのテーブルで軍務経験がないのは、愛に生きる男・イプシロン王子のみだ。


「ランドン家は全員軍務経験があるが、クロリーネだって将来はメルクリウス軍の総司令官になってもらおうと考えているし、ヒルデ大尉とは仲良くやっていけると思うよ」


「わたくしが総司令官・・・」


「もちろんアカデミーで学位を取得した後の話になるが、来月から始まる南方未開エリアでの第2期調査ではヒルデ大尉と共同作戦を取ってもらうことも多いと思う。だからまずは帝国軍工作員としてその手腕を発揮されたい。頼むぞクロリーネ・ジルバリンク少尉」


 俺はさっきローレシア元帥からもらっておいた辞令をクロリーネに手渡すと、ヒルデ大尉と立ち上がってクロリーネに敬礼した。


 そしてクロリーネも席から立ち上がって敬礼すると、とてもいい笑顔で俺たちに答えた。


「クロリーネ・ジルバリンク、本日付けで帝国軍特殊作戦部隊工作員に着任し、ヒルデ大尉並びにアーネスト中尉の指揮のもと、フレイヤーパイロットとしての任務を全ういたします!」

次回エピローグです


お楽しみに

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