表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
417/426

第411話 黒幕

 俺の目の前に突然現れたヒルデ大尉は、顔を真っ赤にしながら、


「私も知らないわよ! おじい様に呼ばれて家に帰ってみたら、急にお兄様からお見合いの話をされて」


「・・・お兄様ってまさか」


 クロム皇帝の方を見ると平然とした顔で、


「一年も一緒にいたのだから、よもや余の紹介など不要だろうが、彼女が余の妹のブリュンヒルデ・メア・ブロマインだ」


「ブリュンヒルデ・メア・ブロマイン・・・。え? ブロマインって、大尉は平民じゃなかったんですか」


「違うわよ。あなたが勝手に勘違いしていただけで、私は自分が平民だなんて一言も言わなかったけど」


「でもボルグ准将がヒルデ大尉は平民だと・・・」


「アーネスト中尉・・・あなたはボルグ准将のことを随分と信用しているのね」


「しまったっ! 俺はまたあいつに騙されたのか」


「うふふふっ、中尉ってほんとバカね」


「じ、じゃあ貴族に殺されたご両親はまさか・・・」


「前ブロマイン帝国皇帝夫妻よ」


「大尉を引き取ってくれた祖父母って」


「ここにいるランドン大公家の老夫妻よ。あの頃は皇位継承権の絡んだ暗殺事件が頻繁に起きていて、私とお姉様は皇位継承権を返上し、お兄様にすべてを任せてエルフの里に逃げていたの。その後お姉様は武装中立国家・魔法王国ソーサルーラに留学し、その後を追うように私も数年後に留学したのよ」


「そうだったのか。でも俺が勘違いしてたのなら教えてくれたって・・・」


「工作員が余計な個人情報を漏らすわけないでしょ」


「そりゃそうだけど、なんで皇女が工作員なんかやってるんだよ!」


「じゃあ国王のあなたはどうなのよ」


「うぐっ・・・た、たしかに」


 俺は1年間も彼女と一緒に居たのに、彼女が皇女であることに全く気づかなかった。


 赤みがかった明るい茶髪に赤茶色の瞳。Type-ランドンの特徴がハッキリでているが、カトレアとエミリーも同系統の色合いだったし、平民だと思い込んでいたのでSubject因子の確認すらしてなかった。


 自分では認めたくないが、やはり俺は鈍感なのかも知れない。


 いや待てよ。


 確かに俺は気づけなかったかも知れないが、全員が騙されていたとは到底思えない。


 だとすれば・・・、


「フリュ、お前は気づいていたんじゃないのか」


 俺が尋ねると、フリュはようやく俺の方を向いて、


「今まで黙っていて申し訳ございませんでした。わたくしの場合、気づいていたというより最初から知っていたという方が正確です」


「最初から知っていた? それってつまりヒルデ大尉の正体のことを・・・」


「いえそれだけではなく、本日のこのお見合いを含めた計画の全てをです」


「このお見合を一年も前から・・・ウソだろ」


「本当のことです・・・」


 そのフリュの言葉に、俺とヒルデ大尉が驚きのあまり思わず顔を見合わせた。そんな俺たち二人を見て、クロム皇帝が高笑いを上げた。


「ハーッハッハッハ! さすがの魔王メルクリウスも余の計略は見抜けなかったようだな」


「クロム皇帝の計略・・・だと?」


「お兄様! 意味が分からないから、ちゃんと順を追って説明して!」


 俺が困惑する一方、ヒルデ大尉は完全に怒り出してクロム皇帝に掴みかかった。


「まったくブリュンヒルデは、工作員のくせにそんなことも分からないのか。よし今回の計略について余が分かりやすく説明してやろう」


 そしてヒルデ大尉をなだめるように、クロム皇帝が話し始めた。





「ブリュンヒルデとの結婚を盟友アルフレッドに断られてしまった余は、妹の婿を誰にしようか途方に暮れた。なぜなら帝国皇帝の義弟となり、ランドン大公家の血統を残す重責を安心して任せられる者など、帝国貴族の中にはいなかったからだ。そこでアージェント王家に相談したところ、紹介されたのがイプシロン王子とそなただったのだ」


「イプシロン王子はアージェント王家のサラブレッドで婚約者がいないから理解できる。でもなんで俺?」


「前アージェント国王からの強い推薦だよ。そなたはアージェント王国でも屈指の血統を誇る上に、王国で一二を争うほどの巨万の富を持ち、新たな国まで建国してしまった。だからランドン大公家の権力など特に必要としていないし、今の帝国にはちょうどおあつらえ向きの、人畜無害な種馬という理由だ」


「人畜無害な種馬って・・・ていうか、またあのオッサンが絡んでるのかよ」


「だがそなたはすでに8人の嫁を持つ身。普通に頼んでも確実に断られるだろう」


「そのオッサンのせいで8人も嫁がいるんだけど、まあ普通は断るよな」


「だから余は考えた。絶対に魔王が断れなくするにはどうすればいいか」


「・・・まさか」


「左様。そなたがボルグ准将と共にエルフの里に行くという話を聞いて余はひらめいた。あそこは元々ランドン侯爵家の避難場所であり、余以外の侯爵家全員が身分を隠して暮らしていた。そこでボルグ准将に命じて、そなたとブリュンヒルデを引き合わせて南方未開エリアで行動を共にするよう画策した」


「だからボルグ准将は、急に都合が悪くなったのか。つまり俺の南方未開エリアでの調査自体が、クロム皇帝によって仕組まれたものだったと」


「そう、この1年間丸ごとそなたとブリュンヒルデのお見合いだったのだ。余は7家融和戦略会議の第1回会合が開催されるその裏で、そなたの両親とアージェント顧問、アウレウス宰相の同意を取り付け、フリュオリーネ王妃にこの計画の実行犯になってもらった」


「フリュが実行犯・・・」


 言われて見れば、フリュの行動にはたまに違和感を感じることがあった。


 例えば出発当日の朝、フリュがわざわざ正装してヒルデ大尉たちを出迎えたり、旅の最初の頃はフリュが常に大尉と行動を共にしていた。


 そしてマイトネラ女王の婿をアウレウス家から取ることにこだわり、義父殿やアージェント顧問を巻き込んで必死に動いていたのも、ヒルデ大尉とのお見合いの成功率を少しでも高めるためだったのだ。


 さらに言えば、ミジェロ基地幹部たちからの異例の歓待も、ヒルデ大尉が皇女であることを踏まえれば、当然の対応なのだ。


「ヒルデ大尉もこの計画のことは」


「もちろん今日が初耳よ。お兄様には完全にしてやられたわ・・・」


「そう言うことだ。クククク、ハーッハッハッハ!」


「もう・・・お兄様のバカッ!」




 ヒルデ大尉はまだ怒っているようだが、俺はここまで見事に騙されると逆に怒りもわいてこず、ただただ感心するばかりだった。


 俺はずっと気になっていたことをローレシアに尋ねてみた。


「カトレアたちを急にメンバーに加えたのはどういう意図があったんだ」


「それはもちろん、彼女たちに調査を協力させるのが一番の目的ですが、クロムの計画を見抜かれないようにするためのカムフラージュの意味もございました」


「カムフラージュ・・・やはりそれか」


「あえて女子の数を増やすことで、ブリュンヒルデ様にまつわる計画に気付かせないようにすること、それと彼女たちにも選択肢を与えたかったのです」


「選択肢?」


「彼女たちもいずれは結婚して独立することになりますが、みんな東方諸国の貴族社会には戻れない身の上なのです。ですので帝国内で配偶者を探す必要があったのですが、いっそのことアージェント王国やメルクリウス=シリウス教王国にも目を向けてもらった方がいいのではと思ったのです」


「彼女たちの身に何が起きたのかは俺も聞かせてもらったし、東方諸国に居場所がないことも十分に理解している。それにSubject因子保有者の数は、東方諸国や帝国よりもこちらの方がはるかに多いから、7家融和戦略上はその方がいいと思う」


「ご理解いただきありがとう存じます。もちろん魔王様が彼女たち全員を娶っていただいてもよろしいのですが、さすがにこれ以上は物理的に無理だと存じますので、7家融和戦略に基づき彼女たちの婚姻を最優先にご検討いただけると助かります」


「そう言うことなら任せてくれ。そうでなくても彼女たちは空母のクルーとして欠かせない人材だし、俺の国に来たいというなら大歓迎だ」





「さて改めて聞こう。ブリュンヒルデを妻に迎えてはくれまいか、魔王メルクリウス」


 そう俺に問いかけるクロム皇帝の顔は真剣そのものだった。


 彼がこんな大掛かりな計画を立ててまで妹を結婚させようとしているのは、帝国の未来を考えてのことなのだろう。


 このランドン=アスター帝国は超大国ゆえに、貴族の数も多く微妙な均衡の上に貴族社会が成り立っている。そして一度それが崩れるとこの前のような大規模な内乱が起きてしまう。


 だから少なくとも現時点では、国内の有力貴族を皇族に迎えて強力な後ろ盾を与えることなどできるはずもなく、クロム皇帝としてはアルフレッドとかイプシロン王子のような国外の王族を頼るしかなかった。


 そして何よりType-ランドンの血統の問題もある。


 ローレシアのお腹にいるのはType-アスターであり、クロム皇帝の実子からType-ランドンが生まれることはない。だからType-ランドンの血を引き継いでいくためには彼の姉妹に頼るしかない。


 とまあ色んな理由が思い浮かぶが、俺の心はもう決まっている。


 この一年間で最も長く一緒にいたのは、間違いなくヒルデ大尉であり、上官と部下という関係ではあっても二人三脚でこの調査を最後までやり遂げたのだ。


 その間、ドワーフ王国でのモノづくり生活や、ウンディーネ王国記録院での文献調査、そして過去の世界での冒険では何度も彼女に助けられた。


 彼女はいつの間にか、俺の中でとても大きな存在になっていて、エルフの里での再会を俺自身がとても楽しみにしていた。




 俺の決心はついているが、ヒルデ大尉はどうなんだろうか。


「ヒルデ大尉は本当にこれでいいんですか」


 すると彼女はじっと俺を見つめて、


「最初にアーネスト中尉を見た時、本当にこの人が魔王メルクリウスなのかと疑っていたの。ボルグ准将の話やアカデミーの学生の噂からは、とんでもない破壊神のイメージしかなかったけど、実物はそれとはかけ離れた、ちょっと頼りない年下の男の子だった」


「破壊神って、セレーネじゃあるまいし・・・」


「うふふふっ。でもドワーフ王国で一緒に空母を作ることになって、彼らをはるかに上回る高度な科学技術を持つあなたにとても感心し、そしてあの巨大空母を完成させた時に一緒に達成感を感じることができて、あなたを見る目が完全に変わったわ」


「あの時は本当に楽しかったですね!」


「ええ、とても楽しかったわ! 鋼鉄のドワーフ艦隊を壊滅させたり、一緒にメテオを放って城門を粉々に打ち砕いたり、ドワーフ空挺部隊との空中戦はまさに電光石火の一撃だったわね。そう、まるで私が魔王になった気分だった」


「あの時は、俺と大尉の息がぴったり合った、最高のコンビネーションでしたね」


「そしてシルフィード王国に到着したその翌日、あなたに買ってもらったのがこのドレス。あなたが似合ってるって言ってくれたから、ちょっと恥ずかしかったけど今日も着てみたの」


 そう言ったヒルデ大尉の頬が赤く染まる。


「あの時よりもずっと似合ってますよ、ヒルデ大尉」


「バカね・・・」


「ウンディーネ王国の記録院では、俺たちずっと部屋に閉じこもって文献調査ばかりしてましたね」


「そこで世界の真実に触れて、私の価値観が根底から覆ったわ。そして極めつけはあの」


「「タイムリープ!」」


「過去の世界に戻って、あなたと一緒に冒険をして、そして最後にあんな強敵と戦うことになるなんて」


「簒奪帝シルス・・・」


「結局私は負けちゃったけど、その仕返しをあなたがしてくれた」


「俺はあの時、大尉が本当に死んでしまったのかと思いました」


「それで私のために泣いてくれたのよね」


「・・・え? どうしてそれを」


「実は私、ずっと意識を取り戻していたの。そうとは知らずに中尉は私を大切に抱きかかえてくれて」


「そうだったんですか・・・ちょっと恥ずかしいな」


「でもとても嬉しかったわ」


「ヒルデ大尉・・・」















「あなたが好きよ、アーネスト中尉」















「こほん! 聞こえてますか、魔王メルクリウス!」


「え?」


 気が付くとローレシアが俺の顔を覗き込んでいた。


「あれ・・・俺に何か言いましたか?」


「言いましたかじゃありませんっ! さっきからずっと話しかけているのに、二人で見つめ合ったままで、もういい加減にしてください!」


「「ええっ?!」」


 俺と大尉が同時に声を上げたが、いつの間にか俺たちは二人だけの世界に入り込んでしまっていた。


 みんながいる前でこれはかなり恥ずかしい。


 ヒルデ大尉も顔を真っ赤にしているが、


「仲がいいのはとてもよいことですが、クロムの作戦が少し効きすぎたようですね」


「余の計略を持ってすれば、魔王メルクリウスといえどもこの有様だ」


「くっ・・・」


 悔しいけど、クロム皇帝には完敗だ。


「さて、魔王からはまだ正式な回答を得ていないが、この二人の様子を見ていれば、どんなバカでも答えは自明だろう」


 そしてテーブルから祝福の拍手がわき起こり、俺とヒルデ大尉の結婚が決まった。





「さて魔王メルクリウスよ。ブリュンヒルデと二人だけの世界に浸っている間に、姉の婿となるイプシロン王子が到着しているぞ」


「・・・え、イプシロン王子が」


 クロム皇帝に言われて姉コンスタンツェの隣を見ると、気品あふれるイケメン王子がそこに座っていた。


 王子然とした金髪がサラサラと流れ、精悍で整った顔に澄んだ青い瞳がさわやかだ。


 これは紛れもなくアージェント王家の純血種Type-アージェントである。


 そんなイプシロン王子が俺に話しかけて来た。


「初めまして。キミが噂の魔王メルクリウスか。これまで挨拶にもうかがえずに失礼した」


「い、いえ、こちらこそ・・・」


「でもなぜ僕が挨拶に行けなかったか知っているか」


「・・・い、いえ詳しくは」


「なら教えてあげよう。それは僕がジューンを失った心の傷をうめることができず、ずっと傷心旅行に出かけていたからだよ」


「傷心旅行っ! ・・・それは本当に申し訳ない」


「だが安心してくれたまえ。そのお陰で僕はこうしてコンスタンツェという素晴らしい伴侶に巡り会えた。これもキミが僕からジューンを奪ってくれたからだ。その意味ではキミに感謝しよう」


「いえ、そんなことに感謝されなくても・・・」


「だがこれだけは言っておく。もう僕のものではなくなってしまったが、もしジューンを悲しませるようなことがあれば、僕はキミを絶対に許さない」


「え・・・」


「その時はキミに決闘を申し込むことになるだろう」


「マジで・・・」


「幸い僕たちは、ランドン大公家で義兄弟となった。僕は義兄としてキミの行動を逐一チェックしていく。そしてジューンや他の女性たちに対して不誠実な態度を取ることがあれば、義兄としてしっかり指導していくので、覚悟してくれたまえ」


「ひーーーっ!」


 なんかとんでもないことになってしまった。


 まさかジューンの元婚約者が俺の義兄となるとは。


 ていうかクロム皇帝とイプシロン王子というクセの強い二人の義兄を抱えて、この先俺は無事に生きていけるのだろうか。





「あれ? なんでヒルデ大尉がここにいるのよ」


 隣のセレーネが突然声を上げた。


「観月さん、大尉はさっきからずっとここにいたじゃないか。まさか気づいていなかったのか」


「だってそこって空席だったじゃない。それにここのゴハンが美味しくて、集中して食べていたのよ」


「・・・さ、さすが観月さん、すごい集中力だな」


「えっへん。それよりなんで大尉がここにいるのよ。実家に帰ったんじゃなかったの」


「だからここがヒルデ大尉の実家で・・・」


「ここはクロム皇帝の実家でしょ。何を言ってるのよ安里先輩」


「いや、だからその・・・」


 ずっと隣にいたのに、一人だけ話についてきていないセレーネに、クロム皇帝は衝撃を受けていた。


 クロム皇帝の計略が全く効かないセレーネこそ、どうやら最強のようだ。

次回、魔法王国ソーサルーラでアルゴとの対面


お楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ