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第405話 ミッション・コンプリート

「前回とほぼ同じ状況だな」


 俺は隣のフリュに話しかける。


「ですが、こちらは前回の4人に加えてセリナ様もいらっしゃいますし、あちらにもアレクシス様が加わっております。クーデターも阻止できましたし、今回は違う展開が期待できます」


「そうだな。前回のようなバトル展開にならないことを祈るばかりだ」


 セレーネはマイトネラのことが気になって俺たちに付いてきた。本当に記憶がないのか本人に直接会って確かめたいらしい。


 一方玉座の近くに控えるアレクシスは、250年前に俺たちが事情を全て話しているため、何らかのサポートが期待できる。


 俺たちはマイトネラの前に歩み出ると、フリュが恭しく挨拶を始めた。


「マイトネラ様におかれましてはご機嫌麗しいご様子で誠に喜ばしく存じます」


「まあフリュオリーネ様、そんなに改まって一体どのようなご用件で」


「実はマイトネラ様に相談したいことがあって参上いたしました」


「わらわたちの仲です。遠慮なくお話しください」


「では僭越ながら、本日はマイトネラ様のご縁談についてお話させていただきに来ました」


「縁談・・・ですか?」


「はい。マイトネラ様には是非、わたくしの一族から婿を取っていただきたく」


「フリュオリーネ様の一族・・・」


 途端、ブラックホールのよう漆黒の瞳が大きく見開かれ、全てを深淵の底へと引きずり込みそうな恐ろしい目で俺たちを睨みつけた。


 こっ、恐ええ・・・。


 だがフリュは恐怖を感じないのか、そんなマイトネラに淡々と話を続ける。


「我がアウレウス家は、アージェント王家に連なる公爵家であり、過去に国王や女王を何人も輩出した王国最大の勢力を誇る名門でございます。そして王位継承権を持つ未婚の男子が何人か残っており、家柄も格式もマイトネラ様にふさわしいと考えております」


 しかしマイトネラはそんなフリュの提案に首を横に振ると、


「せっかくのフリュオリーネ様からのお申し出ですが、縁談についてはお断りさせていただきます」


「ですがマイトネラ様・・・」


 マイトネラは二つの黒い瞳を見開いて話を続ける。


「わらわにはシルバール様という心に決めた人が既におりますので、他の方との結婚は考えられません」


「ですがシルバール様にはシルフィーヌ様という国王陛下がお決めになった婚約者が・・・」


 その後もフリュが説得を続けるが、シルバール一筋のマイトネラは頑として聞き入れなかった。


 そんな二人の話し合いを黙って聞いていたセレーネは、自分の知っているマイトネラと完全に別人だとわかって落胆していた。


「安里先輩、やっぱりあの時のマイトネラは消えてしまったのね」


「そうだな・・・でも彼女にあの時の記憶はなくても中身は同じ人物だし、セレーネともすぐに心を通じ合えると思うよ」


「そうよね。あの4日間の記憶がないだけだから、また新しい思い出を作ればいいのよね」


「ああ。だがまずは彼女にシルバールを諦めてもらって、シルフィード王国との火種を摘み取ってしまわないと、話が始まらないんだけどな」


 だがヤンデレをこじらせたマイトネラは、フリュの説得にも決して首を縦に振らなかった。彼女の説得は簒奪帝シルスを倒すよりも難しい気がしてきた。


 そんなマイトネラが突然、俺とセレーネの方に顔を向けると、光を全く反射しない黒い瞳が大きく見開かれて、俺たちを凝視した。


「目からオーラが溢れだしてる・・・なんか怖いね」


「ああ、とても恐ろしい目だ・・・だが彼女の様子、ちょっとおかしくないか」





 突然何もしゃべらなくなったマイトネラを心配したフリュが、彼女に声をかける。


「マイトネラ様、どうかされたのですか? お気をしっかり・・・」


 硬直したマイトネラにフリュが何度も話しかける。そして再び動き出したマイトネラが、今度はフリュの方に向き直ると、


「フリュオリーネ様、先ほどの縁談のお話ですが、やはりお断りさせていただきます」


「マイトネラ様、ですからシルバール王子は・・・」


 さっきと同じセリフを繰り返すマイトネラだが、その表情は明らかに変化していた。憑き物が落ちたようにスッキリとした顔になり、頬が少し紅潮している。


「シルバールのことなど、もうどうでもいいのです」


「ええっ?! 今なんとおっしゃられましたか?」


「わらわは今までどうかしておりました。シルバールなど比べ物にならないほど素敵な人がいたのに、そのことを全く思い出せなかったなんて・・・」


「素敵な人。そのお方は一体・・・」


 フリュが尋ねると、マイトネラが玉座から立ち上がって俺の傍に近付き、


「魔王メルクリウス様・・・わらわは魔王様をお慕い申し上げております」


 今までずっと俺を無視していたマイトネラが、目を潤ませて俺を見つめている。


「まさかお前・・・記憶を持っているのか」


「はい! たった今思い出しました。わらわは過去のフェアリーランドで魔王様とともに簒奪帝シルスと戦ったマイトネラでございます」


「ウソだろ・・・」


 タイムリーパーの効力はその魔術具で時間塑行したものと、それに魔力を送り続けている者だけ。あの時死んでいたマイトネラには記憶が残らないはず。


 だが目の前のマイトネラは俺やセレーネと行動を共にしたあの彼女だ。


「どうして今まで忘れていたのか分かりませんが、突然あの4日間の記憶が頭に流れ込んで来たのです」


「マジかよ・・・」


 ふと見ると、玉座のすぐ近くに立っていたアレクシスがニヤリと笑い、懐に隠し持ったエクストラ・ワン・チェーンの水晶玉をチラリと見せた。


 アレクシスがマイトネラに何かの術をかけたのか。よくわからんがナイスアシストだ、アレクシス。





「あの・・・えーっと・・・これって一体」


 突然の出来事に呆然とするフリュとは対照的に、セレーネはマイトネラの両手をしっかり握ると、


「マイトネラ、あなたが突然消えてしまってすごく寂しかったのよ。また会えて本当によかった」


「セレーネ様・・・わらわもセレーネ様にお会いできてとても嬉しいです」


「ねえ安里先輩、マイトネラはヤンデレBBAだけど私たちの戦友で先輩の潜在能力を最大限に引き上げてくれる強い味方なのよ。もちろん私を一番に考えることが大前提だけど、このオバサンをもらってあげて」


 あれだけルシウス人嫌いだったセレーネが、今や完全にマイトネラを仲間として受け入れている。変われば変わるものだがマイトネラはちょっと・・・。


「観月さん、残念ながら俺はマイトネラとは結婚できないんだよ」


 そしてフリュも、


「アゾート様には既に8人も嫁がいらっしゃいますし、マイトネラ女王陛下の婿としてウンディーネ王国に行くことは絶対にありえません。ですのでアウレウス家の者をウンディーネ王国に送り込む以外方法はないのです」


 だがマイトネラはそのフリュの言葉をあっさり否定する。


「ではわらわは女王を辞めます」


「ええっ! 女王を辞めるなんて、シルバール様の時ですらおっしゃらなかったのに、どうして」


「わらわは魔王様のお傍にいられるのなら、他に何もいらないのです。王位などわらわの妹に継がせれば済むことですし、どうかわらわを魔王様のお傍に置いてくださいませ」


「えええ・・・・」




 マイトネラの懇願に言葉を失ったフリュ。そしてなぜかフィリアも不安そうな顔で、


「ご主人様、マイトネラ様はこのフィリアめと同じ匂いがします。まさかこのフィリアを森に捨てて、その代わりにマイトネラ様を8人目の嫁にするのではないでしょうか」


 そう言うと瞳孔を開いて、恨めしそうに俺を見つめるフィリア。


「フィリア顔が怖いっ! お前を捨てたりしないからその目は止めてくれ。それに俺はヤンデレなんか二人もいらないし、マイトネラはアウレウス家の誰かと、うっ!」


 するとマイトネラが俺の胸に顔をうずめると、至近距離から俺を見上げた。その大きな黒い瞳から大粒の涙がボロボロと零れ落ちた。


「うわあ、泣かないでくれマイトネラ。それから二人とも顔が怖いからもうあっちに行ってくれ」


 だが全然離れない二人に困った俺は、腹を抱えて笑っているアレクシスに助けを求めた。


「アレクシス、マイトネラを何とかしてくれ」


「シルバールの件を解決してやったのじゃから、それぐらいは我慢せい。それに陛下のそんな幸せそうな顔を見るのは250年前ぶりじゃ。久しぶりにいいものを見せてもらったわい」


「これのどこが幸せそうな顔なんだよ。メチャクチャ怖いんだけど」


「それはそなたの審美眼がおかしいのであって、ワシには陛下の儚げな美しさしか映っておらん」


「それ絶対ウソだろ」


「それに陛下を説得する難しさはそなたもよく理解しておるじゃろうし、そのままそなたの国に連れ帰ってもらってもワシらは構わんぞ」


「この国の女王なのに、居なくてもいいのかよ!」






 その後別室に移った俺たちは、アレクシスも交えて今後のことを話し合った。


 マイトネラの記憶が突然戻ったのは、タイムリーパーと同じ原理で動く、エクストラ・ワン・チェーンの魔術具の効果だった。


 過去のアレクシスがマイトネラの記憶を魔術具に保存させ、俺たちがここに来たタイミングでそれを彼女に戻したらしい。


「そなたから未来の情報を嫌というほど細かく聞かされていたから、未来を変えないようワシなりに最大限の努力をしておいてやったぞ」


「助かりましたアレクシス。今のところ、エルフの里にシルスの子孫が生まれた以外は大丈夫そうです」


「なんだと? ということはシルスのエルフ嫁を里に返してしまったのはマズかったかの。そなたが何も言っておらなんだから、彼女の安全を考えてワシが説得したのじゃ」


「・・・そうだったのか。つまりアレクシスのせいでエルフの里に影響が出て、キーファが女に」


 でもキーファの中身はディオーネだし、彼女の転生目的を考えれば女の方が良かったはず。結果として、アレクシスのファインプレーだったということか。




 それからマイトネラの結婚相手については一旦保留になったものの、彼女が俺と離れるのを嫌がったため一緒にディオーネ城につれて帰ることになった。


 義父殿に頼んでアウレウス家の候補者を探してもらうが、アルゴやうちの分家男子も候補に入れて、気に入った者と結婚してもらう。


「あなた、またアルゴさんですか」


「一族全員の中ではアイツが一番俺に似てるし、俺の身代わりとしてアイツほど適任者はいないんだよ」


「だからと言って、ご自分の弟に安易に嫁を押し付け過ぎです。クロリーネ様は結局あなたがお引き取りになりましたし、クリプトン三人娘だってどうなったかわかりません。わたくしはもう知りませんよ」


「だがあいつにはまだ決まった婚約者がいないし、マイトネラの一人や二人ぐらい大丈夫だよ」


 それにフリュには言えないが、エルリンとキーファというエルフ嫁を2人もオマケでつけてあげるのだ。


 アルゴのやつ、きっと喜ぶに違いないぞ。




 一方マイトネラの王位返上は一旦保留となり、妹夫妻を王族に復帰させて内政を任せ、改めてウンディーネ王国の体制を検討することとなった。


 またシルフィード王国との盟約は維持しつつも、メルクリウス=シリウス教王国とも同盟を結び、メルクリウス家との婚姻関係も結べるようにした。


 こうして南方未開エリアでの全ての活動を終えて、俺たちはランドン=アスター帝国への帰路についた。

次回、帝国へ戻ったアゾートを待ち受けていた意外な人物とは。


お楽しみに

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