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第395話 ウンディーネ王国への進軍

 シルフィード王国国王となり、姉のシルビアを処刑したシルバールだったが、それだけでは当然怒りが収まらなかった。


 彼女の証言から、自分をマイトネラ女王と結婚させるために父王を殺し婚約者のシルフィーヌを惨殺したことが明らかになると、簒奪劇の黒幕をマイトネラと断定。ウンディーネ王国に対して宣戦を布告した。


 そしてシルフィード王国艦隊をレイモンド港から出撃させると、その4日後にはウンディーネ王国の領海に侵入して、港を包囲した。


 シルバールからは、俺たちも戦列に加わるよう要請されたが、俺たちにはウンディーネ王国と戦う正当な理由がないため、彼らの出方がハッキリするまでは中立の立場をとることをシルバールに伝えた。


 それに落胆したシルバールだったが、シルフィード艦隊と共に戦闘空母アサート・メルクリウスを展開させることを伝えると、俺たちの随行を歓迎した。





 ウンディーネ艦隊と対峙して臨戦態勢に入ったシルフィード艦隊から少し離れ、洋上に停泊する俺たちの艦に、ゆっくり近付く1隻の船があった。


 外交特使が乗船する非戦闘用の艦船だが、その船が空母に横づけされるとこちらへの乗船を求めてきた。


「ウンディーネ王国外務卿のメルヴィル侯爵がアゾート様にお会いしたいと言ってきているそうですが、いかがいたしますか」


「侯爵には色々世話になったし、俺たちは中立の立場でもある。すぐに会おう」


 俺はメルヴィル侯爵率いる特使団を丁重に迎え入れて艦内の応接室へと案内すると、メルヴィル侯爵がさっそく本題を切り出した。


「シルフィード王国は、我が国の再三の警告にも応じず領海内に大艦隊で侵入した。これは一方的な侵略行為であり、我が国としては直ちに領海から出て行くよう求めたい」


「ウンディーネ王国の主張はもっともであり、シルフィード王国は宣戦布告をする前に外交で話をすべきだと俺も思います」


「だが彼らは我々の言葉に耳を傾けてくれず事態は一触即発の状態なのだ。正直に言ってウンディーネ王国はシルフィード王国と戦争をする意思はない」


「そうは言っても、シルバール王にしてみれば一連の簒奪劇の黒幕はマイトネラ女王なわけですし、ウンディーネ王国に何らかの責任を追及するのは間違っていないと思いますが・・・」


「シルバール王とはまさにそのことを話したいのだが、アゾート君に会談の仲介を頼めないだろうか」


「そうですね・・・今のシルバールが会談に応じるとは正直思えませんが、俺は中立の立場ですしダメもとで話をしてみます」


「すまない、助かるよアゾート君」





 メルヴィル侯爵にはそのまま応接室で待っていてもらい、俺はシルバール王に話をするためマールの1番機に乗ってシルフィード艦隊の旗艦に向かった。


 俺の訪問を歓迎してくれたシルバール王だったが、用件がウンディーネ王国との会談の仲介だと分かるとすぐに断って欲しいとの一点張りだった。


 だが粘り強く説得した結果、条件付きで会談に応じてくれることになった。


 俺は空母に戻ると、シルバール王との話し合いの結果をメルヴィル侯爵に伝える。


「なんとか話し合いには応じてくれたのですが、いくつか条件がつきました」


「助かったよ、さすがアゾート君だ。それで条件とはどのようなものだ」


「マイトネラ女王が一人で会談に来ること。その際、側近も護衛も誰一人ついて来てはならない」


「それはあり得ない! そんな無茶な条件をこちらが飲めるわけがないではないか」


「俺もそう言ったのですが、シルバール王はマイトネラ女王が一人で来なければ絶対に話し合いには応じないと頑なだったので、せめて会談場所は中立の立場である俺の艦で行うこと、そしてシルバール王も一人で話し合いに来るという条件を提案しました」


「なるほど、それならまだ・・・」


「ええ。シルバール王もその条件なら飲んでやってもいいと言ってくれました」


「わかった。ではさっそく戻って、女王陛下の意向を聞いてみることにしよう」





 話を持ち帰ったメルヴィル侯爵が、マイトネラ女王がその条件で応諾したと連絡をしてきたのは、その日の夜遅くだった。


 そして翌朝、今からそのトップ会談が行われる。


 会談場所は俺たちの空母の全通甲板の上、衆人環視の元で行われることになった。


 もちろん、マイトネラ女王の安全を確保するため、空母全体をフリュのバリアーで覆い、魔王親衛隊全員を甲板各所に配置し、刺客への対処を徹底した。


 さらにフレイヤー1番機と3番機を上空に飛ばして周囲の警戒を行い、マイトネラの護衛としてエレナとフィリアの二人を、シルバールの護衛としてゴウキ夫妻をそれぞれに付けた。


 そして甲板の中央に会談用の座席を3つ用意し、その真ん中には仲介人の俺が座り、両サイドに向かい合う形でシルバール王とマイトネラ女王が着席した。


 なお交渉の様子は、映像宝珠によりリアルタイムで各王国の側近たちの元に伝送される。




「これよりシルフィード王国とウンディーネ王国の停戦交渉を開始する。なお仲介人の俺はドワーフ王国の市民権を持つアーネスト工房親方であり、鬼人族統一国家・メルクリウス帝国皇帝とメルクリウス=シリウス教王国国王を兼任する、魔王メルクリウスである」


 俺の開会の宣言に、シルバール王とマイトネラ女王がそれぞれ応える。


「よろしく頼むよアゾート、いや魔王メルクリウス」


「あなたが予言の魔王メルクリウスだったのには驚きましたが、この場を提供いただけたことには感謝申し上げます」




 そして最初にマイトネラが口火を切った。


「シルバール様、我が国への侵略行為を即刻止めて、艦隊を帰国させてください」


「それはできない。なぜなら、姉のシルビアと共謀して我が父シルフィード王と婚約者のシルフィーヌを殺害させ、不毛な内乱で多くの国民の血を流させたお前に対して報いを受けさせねばならないからだ」


「だとしたらそれは誤解です。わらわはシルビア様の件には一切関与しておりません」


「黙れ! シルビアを尋問した時、確かにお前と共謀している趣旨のことを話しており、最後の瞬間まで僕をお前と結婚させることにこだわり続けていた」


「だからと言って、わらわがシルビア様と共謀したという証拠にはなりませんし、わらわとシルバール様が結婚するのは、古くからの盟約に基づくものです。わらわたちの結婚は、絶対に破られてはならない運命なのです!」


「そんな盟約があるから僕のシルフィーヌが殺されてしまったんだ! もう盟約なんか必要ない・・・現時点をもって両王家の盟約を破棄することとする!」


「そんな・・・それは絶対にいけません! あの盟約は簡単に破棄していいものではないのです!」


「破棄できないのはウンディーネ王家側の都合でしかない! シルフィード王家はあんな盟約がなくても何も困らないし、一方的に王子や王女を差し出すだけの関係などもうごめんだ」


「ウンディーネ側だって、王子や王女をシルフィード王家に嫁がせております。それを一方的などと」


「黙れ! とにかくあの盟約は僕の代で終わりだ」


「ちょっと待ってください! あの盟約がなければ、わらわたちウンディーネ王家は滅びてしまいます。それでもいいのですか!」


「滅びたければ滅びるがいいさ! あの盟約があろうとなかろうと、どうせ今からシルフィード艦隊がウンディーネ王国に総攻撃をかけて、ウンディーネ王家の血族を皆殺しにするんだからな。・・・そうでもしないと、父上やシルフィーヌを殺された僕の気持ちが収まらない」


「皆殺しって・・・それではシルバール様はどうしてもわらわと結婚してくれないと」


「ああその通りだ。なぜならお前はこの僕の手で処刑してやるのだからな。覚悟しておけ!」


「嫌です! わらわのことを殺さないで・・・」




 激昂したシルバールが会談を一方的に終わらせようとしたため、俺が会談に割って入る。


「ちょっと待つんだシルバール王。そんな話し方では停戦交渉になっていない。ちゃんと条件を出して相手の譲歩を引き出すんだ!」


「・・・条件か、なら答えは簡単だ。父上とシルフィーヌの命に見合うのは、マイトネラお前の命だ。その首を今すぐ僕に差し出すのなら、艦隊を引いてやってもいいぞ」


「わ、わらわの命を・・・」


「ああそうだ。二人分の命をお前の一人分でマケてやるのだから、破格のサービスだよ」


 シルバール王がとんでもない条件を出してきたため、再び俺が割って入る。


「それはダメだシルバール王。停戦交渉の相手の命を要求してはいけない。それ以外の、例えば領土や金品などの財貨で要求した方が、今回の内乱で戦死した遺族への保証や、受けた経済的損失の補填にも使える」


「だが、コイツを殺しておかなければ根本的な問題の解決にはならない!」


「つまり結婚の話か・・・だったらマイトネラ女王、俺からの提案だがアージェント王国から婿をもらうことで妥協してくれないか。もしそれに応じてくれるなら、それ以外の問題は俺が解決して見せる」


 俺は7家融和戦略に基づきこの1年間を南方未開エリアで過ごした。


 その結果、ウンディーネ王家を保護することこそ、戦略上最も重要なミッションであることが分かった。


 だから両国の紛争を解決するために必要なコストは俺一人ではなく、ローレシアやクロム皇帝、アルト王子やエリザベート王女など、各Typeの血を引く全員で背負うべきものだ。




 そこまで考えた上での俺の提案だったが、マイトネラは首を縦に振ってはくれなかった。


「・・・せっかくのご提案ですが、わらわはシルバール様と結婚するのが夢で、それ以外の方との結婚などとても受け入れられません」


「だがシルバール王はこの通り、絶対にマイトネラ女王とは結婚しないぞ。だったらウンディーネ王家の存続のために誰か別の相手を探した方が」


「絶対に嫌です! シルバール様、どうかわらわのことを許してください。そしてわらわとの結婚を!」


「ふざけるなっ! お前の顔など二度と見たくないと言っただろ。それに僕の后は生涯シルフィーヌただ一人。・・・ああシルフィーヌ、どうして僕を置いて死んでしまったんだ・・・」


「シルバール様・・・」


 そしてそのまま二人は何も語らず時間だけが過ぎていった。




 こういった交渉は本来、事務レベルでの下交渉が合ったり、そうでなければ会合の場に側近も連れてきて色々な条件が闘わされるはずなのだ。


 だが国のトップだけで感情的に交渉を進めれば、結局こういう事態に陥ってしまう。


 会談を実現したいがゆえに、苦肉の策でこのやり方を提案してしまったがどうする・・・。


 少し離れたところでバリアーを展開しているフリュが俺に頷く。そうだな・・・会談は続けるべきだが、二人には少し頭を冷やさせよう。


「二人とも少し冷静になった方がいい。ここは一度解散して、2時間後にもう一度この場所で交渉を再開しよう。それまでに側近とよく話し合ってみてくれ」


 俺は会談の一時中断を宣言し、転移陣で二人を自陣に返すと2時間後の再開を待った。







 2時間が経過し、シルバールが先にやって来て交渉テーブルに座った。


「さっきは熱くなりすぎてしまった。せっかく仲介してくれたのに、すまなかったなアゾート。あの後レイモンド伯爵と相談して、マイトネラには多額の賠償金を要求することにしたよ」


「ああ、それがいいと思うぞシルバール王」


 そして今度はウンディーネ王国側の転移陣が作動するが、転移してきたのはマイトネラ女王ではなく、メルヴィル侯爵だった。


「なぜメルヴィル侯爵が・・・ルールを守ってもらわないと俺は仲介役を果たせないので、今すぐマイトネラ女王に来てもらうように」


 だが俺の言葉を遮ったメルヴィル侯爵が一言、




「マイトネラ女王陛下はさきほど自害なされました」

次回、事態は想定を超えて転がり続ける


お楽しみに

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