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第394話 簒奪劇の終演

 城門を突破してからは、実にあっけなかった。


 作戦開始当初から終始、フレイヤー1番機のマールが徹底して王国軍指揮官を狙撃していたため、城門が突破された時の城内の兵士たちは統率の取れない烏合の衆だった。


 そこへ城門から流れ込んだオーガ、オーク、ホブゴブリンそしてゴーレム軍団の圧倒的なパワーを前に、王国軍は組織的な抵抗ができず、なすすべもなく瓦解していった。


 次々に降伏していく兵士たちの掃討と武装解除をピグマン夫妻たちに任せると、俺はフリュとフィリア、エレナを連れて城内に突入した。


 一刻も早くレイモンド伯爵とシルフィーヌを助け出すため、エレナのバリアーで敵兵をはね飛ばしながら手当たり次第に城内を探し回った。


 ところが城の上層部付近に駆け上がったところで、先にフレイヤーで最上階に乗り込んでいたマールとカトレアに出くわした。


「アゾートっ! 私たちでシルビア王女を倒そうとしたんだけど、転移陣で逃げられちゃった。でもレイモンド伯爵は無事保護したわ! それからシルバール王子とシルフィーヌは地下牢に捕らえられてるみたい。急いで助けに行かなくちゃ!」


「でかしたぞマール、カトレア! シルビア王女がこの城にいたのは想定外だったけど、転移陣で逃げたのなら今は彼女を追いかけるべきではない。まずは伯爵の無事を喜ぼう」




 そしてマール、カトレアと合流した俺たち6人は、今度は地下牢を目指して、階段を駆け降りていった。


 むせ返るような異臭が鼻をつく地下牢にたどり着くと、そこには多くの貴族たちが捕らえられていた。


 彼らはレイモンド伯爵家の重臣たちのようで、片っ端から彼らを解放していき、一番奥の独房の扉をこじ開けると、中にシルバール王子を発見した。


 拘束具で自由を奪われた王子が気を失ったまま床に転がされている。俺はそっと近づくと、王子の耳元に声をかけた。


「シルバール王子、大丈夫ですか!」


 俺が必死に呼びかけると王子が微かに反応を示す。


「う、うーん・・・」


「王子、助けに来ました! 俺です、アゾート・アーネストです!」


「アゾート・・・僕を助けに来てくれたのか・・・恩に着る」


「今拘束を解きますからもう少し我慢してください」





 拘束具を解かれ、独房の壁にもたれて朦朧とするシルバール王子に俺は尋ねる。


「王子、シルフィーヌが囚われている場所を知りませんか」


「シルフィーヌ・・・そうだ、シルフィーヌだっ! 早く彼女を助けてくれ!」


「もちろんです。ですがこの地下牢の中は全て探しつくしたのですが・・・」


「ここにいなかっただと! ・・・まさか、この地下にあるあの部屋じゃないだろうな」


「まだ部屋があるんですね! それはどこに」


「・・・伯爵家の者しか入れない部屋だ。頼む、アゾート君。急いでレイモンド伯爵を呼んで来てくれ!」






 マールに言ってレイモンド伯爵を連れてきてもらうと、顔色を真っ青にさせた伯爵が息を切らせて地下牢まで走ってきた。そして階段奥の隠し扉を開けると、さらに地下へ続く階段が現れた。


「こんなところに隠し階段が・・・」


 伯爵によると、この隠し階段は伯爵家とその親族のみしか知らないとのこと。


「伯爵、この下には何が?」


「囚人に罰を与える・・・拷問部屋だ」


「!」


 俺は真っ青な表情のシルバール王子に肩を貸して立ち上がらせると、彼をキュアで治療しているフィリアも寄り添い、3人で階段をゆっくりと降りていく。


 マールはライトニングで足下を照らして、レイモンド伯爵とフリュやエレナとともに先頭を進む。








 隠し階段を降りた先の廊下をさらに進み、行き止まりの鉄の扉を開いて、中に入るマールたち4人。


 だがすぐに中から悲鳴が聞こえた。


「キャーーーッ!」


「シッ、シルフィーヌーーーーッ!」


 マールに続けてレイモンド伯爵も叫び声を上げる。


 俺は嫌な予感を感じなから、シルバール王子と共に廊下を急ぐ。


 そして部屋に入ろうとすると、ちょうど部屋から出て来たフリュが辛い表情を見せた。


「あなた・・・シルフィーヌ様はもう」


 目を伏せるフリュとエレナに、俺は彼女に最悪の事態が起きてしまったのを理解した。


「シ、シルフィーヌ・・・」


 俺を押しのけたシルバール王子は、フラフラとよろめきながら部屋の中に入っていく。そして王子の悲痛な叫びが鳴り響いた。


「シルフィーヌーーーーッ!」


 中に入ると、そこには身体中を無残に傷つけられたシルフィーヌの遺体が床に転がされていた。


 そんな彼女にすがり付いたシルバール王子とレイモンド伯爵の慟哭が、地下牢にいつまでも鳴り響いた。








 シルフィーヌを殺されたシルバール王子は、完全に人が変わってしまった。


 シルビア王女に対する激しい怒りと憎悪に燃え上がったシルバール王子は、同じく娘を殺されて復讐に燃えるレイモンド伯爵と共に、王都シルフィード奪還の烽火を上げた。


 武装解除させられていたレイモンド騎士団に進軍の準備をさせると、シルバール王子は王国内の全諸侯に対して、ともに挙兵するように呼び掛ける。


「王位正統継承者である私シルバールとともに、薄汚い簒奪女王シルビアを討て!」


 シルバールはもちろん、俺たちにも協力を求めた。


 王国軍を撃退してレイモンド城を奪還した俺たちにとても感謝し、その主戦力が鬼人族だったことも、俺が魔王メルクリウスと呼ばれていることもすべて受け入れ、王都シルフィード奪還のためにともに戦ってほしいと頭を下げられた。


「そんなに頭を下げないでくださいシルバール王子」


「いや、キミの助けがなければ我が王国はシルビアのものになっていた。だがもう一度だけ頼む! シルフィーヌの仇を討つまでは、是非力を貸して欲しい」


「わかりました。必ず王都を奪還しましょう王子」


「ありがとう・・・恩にきる」


 元々俺たちはシルバールの味方をする方針であり、最終目標もシルビア王女の排除に定めていた。その当事者である王子から支援を求められば内政干渉とはならないし、このまま何もせずにドワーフ王国に帰る気もなかった俺は、二つ返事で協力を約束した。


 一方、シルバールから挙兵要請を受けたシルフィード王国の諸侯たちは、王都に向けて進軍を開始。


 シルビア王女から戦列に加わるよう命じられても渋って挙兵しなかった諸侯たちも、レイモンド伯爵領をあっという間に奪還されて王都に逃げ去った王女の姿を見て、大義名分と戦力の両方が揃っているシルバール王子に従うのは道理であった。


 こうしてシルビア王女が自らの王位継承を公布してからちょうど2週間後、その王都をシルバール王子率いるレイモンド伯爵騎士団と諸侯連合軍に包囲されることとなった。


 その総兵力は1万騎強。


 俺たちメルクリウス帝国最精鋭部隊100余名も、ゴーレム軍団とともにその戦列に加わった。





 そして今、難攻不落を誇る城塞都市・王都シルフィードに総攻撃が開始された。


 全軍1万騎全員が魔力保有者であり、その魔法攻撃は戦いの序盤から苛烈を極めた。


 空間マナが共鳴し、大地が振動する。


 そんな魔力が荒れ狂う城門に向けて、後方部隊の俺も魔法攻撃を開始する。


 俺は時計仕掛けのうさぎを解き放ち、セレーネスペシャル弾の巨大なプラズマ塊が要塞級バリアーを炎に包んだ。


 そして俺の隣に立つヒルデ大尉も、得意のメテオ攻撃をさく裂させ、バリアーに亀裂を生じさせる。


「大尉のメテオ攻撃は、ソーサルーラ騎士団も驚きの名人芸の域に達しましたね」


「そう言う中尉のセレーネスペシャル弾も、本家を越える火力になって来たんじゃないの」


「セレーネにはさすがに及びませんが、単純な火力勝負なら他の誰にも負ける気がしませんね」


 俺たち遠隔魔法部隊が少し後方から要塞級バリアーに全火力をぶつけると、最前線に立つシルバール王子とレイモンド伯爵が騎士団とともに突撃を開始した。


「バリアーに亀裂ができた! 全騎、魔法攻撃を一点に集中させろ!」


 そして騎士たちの作った無数のマジックシールドが空間力場を噴射させて弾丸のように発射されると、城壁のバリアーが一気に粉砕された。


「全軍突撃っ!」


 シルバール王子の号令一下、フリュのゴーレム軍団を先頭に城門に殺到した1万騎が、城門も城壁も全てを粉砕し尽くして、王都への侵入を果たした。


「これで勝負ありですね、ヒルデ大尉」


「おそらくこのままシルバール王子側が勝利を納め、王位奪還を宣言することになるでしょうね。シルビア王女は諸侯からの信任もなく、誰も味方には付いてくれなかった。最初から彼女に王国の統治は無理だったのよ」


「しかし彼女もバカなことをしたもんですね。王位簒奪に失敗した上にシルフィーヌまで殺してしまったことで、怒りに燃えた弟にあっという間に敗れ去った。彼女は生かしてはもらえないでしょう」


「そうね・・・。さあフリュオリーネさんたち前線部隊は王都内に攻め込んでしまったし、私たち後方部隊もそろそろ王都に向かいましょう」





 王都シルフィードに攻め込んだシルバール王子率いるレイモンド騎士団は、だがそこで本格的な市街戦が行われる前に、王国軍の司令官を務める王国親衛隊長から全面降伏の意志が告げられた。


 そして、既に拘束されたシルビア王女の身柄をその隊長から引き渡されたのだ。


 実は、王都を1万騎の騎士団に包囲された段階で、今度は王都からの逃亡を図ろうとしたシルビア女王に対し、王国親衛隊長が「前線で戦う兵士たちを、また見捨てるのですか」と苦言を呈したところ、それに激怒した王女が隊長を討つよう親衛隊に命じたらしい。


 だが隊長を信奉し、シルビア王女に反感を抱いていた王国親衛隊員たちは、本来仕えるべき主君の命令に逆らい、王女を捕らえられたのだ。


 隊長はこれ以上無駄な血を流させないために、シルフィード王子の元へシルビア王女を差し出して全面降伏を宣言。一連の簒奪劇は終演を迎えた。


 その後王城に入ったシルバールは父のシルフィード国王の変わり果てた姿も発見し、これで残されたシルフィード王族がシルバールと第2王女のみとなった。


 その父の亡骸の前でシルバールは国王に即位した。






 王城の前庭では、王都奪還を果たした諸侯や騎士たち、そして王都の領民たちが見守る中、シルビア王女の即席裁判が行われた。


 その冒頭、シルビア王女に味方してレイモンド城の地下の拷問部屋でシルフィーヌを惨殺したレイモンド伯爵家の分家の男を、シルバール王子が自らの手でその首を刎ねた。


「薄汚いクズめ、地獄に落ちろ」


 男の遺体につばを吐きかけると、今度は主犯の姉シルビアを自分の前に跪かせて尋問を進める。


「姉上の罪状は全て明らかになっている。もはや死刑は免れないが、この愚かな簒奪劇を行った理由を話してもらおう」


 自らの死を前に、それでもシルビア王女はシルバール王を鋭い眼光で睨み付けると、


「あなたは本当にバカな子ね。これは簒奪ではなく、ウンディーネ王国との盟約に基づく正式な王位継承の儀式なのです。そしてわたくしは、古の盟約を守らなかった父上とあなたに罰を与えただけのこと」


「黙れ! 何が罰だ、この痴れ者がっ! 俺の愛するシルフィーヌをあんな無残に殺しやがって・・・」


「だからあなたはバカなのよ。あの女がいれば、いつまでもあなたがマイトネラ様と結婚する決断ができないから、居なくなってもらっただけよ。今からでも遅くないから、王位は妹に譲ってあなたはマイトネラ様と結婚なさい」


「貴様あっ! ・・・もうその減らず口など聞きたくもない。ようし裁判は終わりだ・・・今すぐに貴様を処刑してやる。そしてあの世でシルフィーヌに土下座して謝れ! 衛兵、さっきの剣を俺に返せ。この痴れ者も俺の手で殺してやる!」


「はっ、国王陛下・・・こちらを」


 そして再び剣を抜いたシルバールは、処刑人に四つん這いにさせられたシルビアの首にその剣を当てた。


「わたくしを殺して後悔するがいいわ、シルバール。鉄の盟約を破ったあなたの罪は重い。そしてシルフィード王国の民を道連れに、世界中の人々から永遠に恨まれ続けるといいわ。オーッホホホホ!」


 最後に呪詛の言葉を吐き捨てたシルビア王女は、たくさんの領民たちが見守る中、シルバールの一振りでその命を散らせた。


 彼女の首が地面を転々と転がり、最後に見せたその甲高い高笑いも、この世から永遠に消えさった。

次回、戦いの炎はウンディーネ王国へ


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[良い点] せめてドワーフ商人を監禁していなければ、アゾートたちの攻撃の大義名分を一つ減らし、介入も後方支援と限定的であったかもしれないですね。 [気になる点] そういえば、数話前にドワーフ商人の護衛…
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