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第40話 古代からのメッセージ


 ヒントを見つけた俺は、はやる心を抑えて平常心を装い、石室の外に出た。そしてクランリーダーに、


「何かわかるかもと思ったのですが、やはり難しいですね。学校があるので今日はもう帰らないといけませんが、来週また来ます」


「学校って・・・」


 ポカンとする冒険者たちを置いて、俺達のパーティーは転移陣でジャンプした。




 深夜、4階の当主部屋にコッソリ集まったのは、俺、ネオン、マール、ダン、カイン、セレーネ、フリュオリーネの7人だ。


「あんなにあっさりと帰って来ちまって大丈夫なのか。あいつらが先に攻略するかもしれないだろ」


 ダンが心配そうに俺を見ている。


「大丈夫だ。あいつらには攻略できないよ。理由があるんだ」


「どんな理由だ」


「まず力業では攻略できないってことさ。そもそもこのクエストは、最初からランクAではなかったよな」


「そうだな。夏休みの時点ではランクBだった、その前はたぶんC。依頼内容は魔獣討伐ではなく、魔法障壁の突破方法の解明でよかったからな」


「魔獣の強さが目立ってたから忘れがちだけど。ところで第13層の魔獣を倒したパーティーは他にいたんだろ」


「ランクAの武闘派パーティーをはじめ、何組かいたはず」


「でもクリアーできていないのは、魔法障壁を突破する方法が少なくとも力ずくではないからだ」


「そうかもな。突破する方法が皆目わからないらしい」


「ちなみにあの魔法障壁は、複数の転移陣が同時に展開されたもので、それらが別々の目的地に設定されているので、そのまま通ると例えば上半身だけがどこかに転移され下半身だけここに残って死ぬ。上半身の転移先もわからない。ゴーレムで試してみたんだ」


「うげっ」


「ところで、このクエストの依頼者は王国魔法協会だ。彼らはここが古代魔法文明の遺跡となぜわかったか。たぶん彼らは一度第13層まで来ていて、あの石室を調査しているはず。魔法協会の魔導騎士なら、あの魔獣どもを突破できるからな。調査の結果、遺跡の本体はあの転移陣の向こうにあると思った」


「そして彼らは自力で謎が解けなかったから、手当たり次第にギルドへ依頼を出したと」


「そうだ。魔法協会にはない視点から、魔法障壁の突破方法を探すためだ。まとめると、協会を含め魔獣を突破した様々なパーティーの戦闘力をもってしても、魔法障壁の突破はできていない。だから戦闘力以外の何かが鍵である」


「それはわかったが、どうして彼らがクリアーできないと確信が持てるんだ」


「あの石室で俺が得たこのメモがヒントだ。1679。この数字は古代魔法文明から俺たちへのメッセージ、もっと言えばテストかな。それを今から説明する。ネオン、白と黒の石を用意してくれたか」


「大丈夫、ちゃんと持ってきたよ」


「それでは、いまから謎解きをしてみよう」





 俺は石室でメモした順番どおりに白と黒の石を並べながら説明を始めた。


「まず1679という数字は、2つの素数23と73の積になっている」


「素数って何?」


「1と自分以外に割ることのできない数字。例えば3とか7とか」


「なるほど。それで?」


「この石を23個ずつ横に並べると縦に73列できて、長方形になる。どちらも素数なのでこれ以外の組み合わせは存在しない」


「なるほど、なるほど」


 マールは返事はいいのだが、本当に分かっているのか?


「つまりこの白黒の石を23✕73の長方形になるように並べていくと、白と黒のドットでできた図形が現れるはずだ。縦横は逆でもいいので、73✕23も試す必要があるが、とりあえずやってみよう」


 壁画の白と黒の模様を23個ずつ並べ、次の23個をその下にどんどん並べていく。


 



「これは」


 そこに浮かび上がった図形は、上段には10種類の記号が、下段には地図が描かれているように見える。


「この下の図形は、アージェント王国の一部分を示す地図のように見えますね」


「本当だ。するとこの3ヶ所に記された記号は、王国内の場所を示すってことか」


「この左の場所は、エッシャー洞窟のあるあたりじゃないか。あの洞窟にある遺跡の祭壇に何かヒントが隠されているとか?」


 あの遺跡には知覚魔法を発見した祭壇以外にもう一つ、入口にある祭壇を俺はまだ調べていない。


「よし、エッシャー洞窟にはもう一度行ってみよう。他の2つはどこだ?」


「この真ん中は王都だと思う。王都に遺跡があるとすれば魔法協会か、シリウス教の大聖堂」


「遺跡とシリウス教とは関係無さそうだが、そうなのかフリュ」


「王都の大聖堂の地下に遺跡があるというのを、昔に学んだことがあるので」


「そうか。だがどちらも厳重に管理されていそうだな。俺達に見せてくれるかどうか。右側の点はどこだ?」


「フィッシャー辺境伯領のどこかだと思うけど、思い当たる場所はないわ。ここに何かあったかしら」


 フィッシャー辺境伯か。一時は亡命しようとしていた先だ。こんな形で足を踏み入れることになるとは、思いもよらなかったな。


「地図のことはわかったけど、上にある記号は何かしら」


「これは数字だよセレーネ。左から順番に1から10までを表している。2進数で表されているな」


「二進数って?」


「白と黒の石の並べ方だけで、全ての数字を表すことのできる方法だよ。例えば右手の5本の指にそれぞれ親指から1、2、4、8、16を割り当てる。親指だけ折ると1、親指と人差し指を折ると1+2で3と数える」


「じゃあ、中指と小指を折ると?」


「4+16で20だな、イテテテ。セレーネわざと変な指を曲げさせてるだろ。つまりこうすると五本の指で31まで数えられる。指を立てた状態を白、折った状態を黒とすれば石が有る限りどこまでも大きな数字を表現できることになる」


「本当だ、何これ凄い。アゾートって頭いいね」


「さっきの祭壇にあったスクリーンに、これと同じ記号があったんだ。おそらく3つの遺跡を回ってキーワードを見つけて、あの祭壇に入力すれば魔法障壁は開く」


「スゲー。俺達が攻略不可能と言われたクエストを初めてクリアーすることになるのか」


「そうだな。俺はクエスト攻略よりも、ここまで厳重に守られた古代魔法文明のお宝がどんなものか、そっちの方に興味がある」


「しかしこんな謎をよくとけたなアゾート。偉い学者が集まってもこんなのわかりっこねえよ」


「まだ3つのキーワードを見つけた訳ではないので、解けた気になってもらっても困るが、今言った話が魔法文明から俺たちへのメッセージだと思う理由だ」


「つまり?」


「言葉が全く異なる知的生命体と会話する場合、共通する言語が必要となる。それは数学だ」


「数学って何?」


「学園で算術の授業があるだろ。計算の練習ばかりで嫌いってマールが言ってたやつ。あれを学問として体系化したもので、さっきの素数とか二進数とかを理論立てて説明するんだ」


「なるほど」


「だからだよ。この時代の人間は算術は得意でも、素数とか二進数とかは知らないから、さっきのメッセージには気がつかない。だからあそこに残った冒険者たちには攻略が不可能」


「・・・・・」


「そして、3つのキーワード。ここからは想像だが、たぶん知的能力と最低限の科学知識を持った存在を選別して遺産を与えるためのテストだ。価値が理解できない野蛮人に渡すと、破壊され永遠に失われる危険性があるから、こんなまどろっこしい方法をとっているんだと思う」



「アゾートはなぜそんなことがわかる。お前は一体何者なんだ」


「・・・・・」


「アゾートが何者かなんて、今更でしょ。新しい魔法を次々と作り出す天才魔導師でいいじゃない」


「頭がついていけなくて、つい興奮しちまった。そうだったな。アゾートは天才魔導師で、そして俺たちの仲間だ」


「それよりも、3ヶ所も回るところが増えたし、ここからは手分けして進めない?」


「そうだな。祭壇を調べるには俺とマール二人いればいいから、エッシャー洞窟には二人で行ってくる。王国の方はフリュにも来てもらいたい」


「私はそれでいいよ」


「王国は私が案内致しますわ」


「フィッシャー辺境伯領の方は、祭壇の発見に時間がかかりそうなので、残りのみんなに探索を任せてもいいか」


「おう、俺たちに任せておけ」





 次の日の午後、魔法実技の授業中に俺は倒れた。


 領地運営とダンジョン攻略の両方を同時に進めて過労ぎみだったようだ。


 俺は学園を早退し、ネオンに担がれて寮の自室に戻り、いつの間にか眠っていた。




「あ、アゾートが目を覚ました」


 マールだ。


 後ろにはダンやセレーネたちもいる。


「心配だからお見舞いに来てやったぞ」


 カインがほれっと果物を投げ渡す。


「すまんな。さすがに無茶しすぎたみたいだな」


「やりすぎだ。今週はクエストやめとけ。俺たち以外は攻略不可能なんだろ。だったら焦ることはないじゃないか」


「ダンの言うとおり。今週はクエスト禁止ね」


 セレーネがそう言うのなら、仕方がない。


「今日は私がお世話してあげるからね」


「セレン姉様なんかに世話をされたら、アゾートの調子が余計悪くなるから。火力バカは帰って」


「火力バカとは何よ、ネオン! あなたこそ生活力ゼロのクセに、あなたが帰りなさい」


「残念でしたー。もう家に帰ってますぅ」


「ネオン、表に出なさい。勝負よ!」


「じゃあその間は私がアゾートの世話をしてあげるね」


「「マールは関係ないでしょ!」」


 なんか3人でもめ始めた。


「領地運営の方は私がなるべくフォローしておきますので、安心して休んでいて下さいね」


 フリュオリーネが俺に優しく微笑んでいる。



 お見舞いということもあるのだろうが、みんなが俺に優しい。


 特に3人の美少女にチヤホヤされるこの状況は、前世の深夜アニメでよく見た、異世界ハーレム展開ではないか。


 例えるならば、一途でかわいいマールはケモ耳娘。


 高貴なオーラを放つフリュは、ハイエルフの皇女。


 メインヒロインっぽいセレーネは、見た目は吸血鬼の真祖・魔族の姫だ。



 ネオンはなんだろう。あいつは弟、妹、いや幼馴染み?


 異世界っぽさは全く足りないが、負けヒロインっぽさは十分にあるな。


 妹や幼馴染みが勝つラブコメも流行ってはいたが。


 などと失礼なことを考えていて、ふと思った。


「なあ、獣人やエルフ、魔族ってどこかにいるのかな?」


「さあ知らない」


「世界は広いから、きっとどこかにいるんじゃないか」


 みんな知らないようだ。答え方が適当だ。


「昔はアージェント王国にも居たらしいですが、かなり前に駆逐されたそうです」


「え、昔いたの?」


 エルフが存在する異世界だった。フリュは何でも知ってるな。


「絶滅したわけではないので、今も世界のどこかで暮らしていると思いますよ」


「魔族とか獣人とか冒険者っぽくていいよな。実力のある冒険者は王国なんかよりも、もっと稼げる所に行くから、そういう場所にいるかもな魔族とか。ブロマイン帝国とか? さらにその向こうとか?」


 ブロマイン帝国か、どんなところだろう。


 いつか行ってみたいな。


前半は書いてたら、なぜか推理ものみたいになってしまった。


それで後半に緩い話を入れてみました。

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