第39話 第13層の攻略
ダンジョン攻略も第10層からはさすがに厳しくなってきた。魔力の強い魔獣が多数出現し、力押しが通用しなくなったからだ。
それでも第12層まではなんとか攻略し、第13層に到着したのは2日目の午後だった。
残り時間も少なく、みんなの疲れもたまっている。弾薬は使い果たし、魔力も心許ない。
「今回はここまでだな。無理することはないし、プロメテウス城に戻ろうか。また夕食をご馳走するよ」
メンバーたちは、やれやれとほっとした様子だ。
そして13層の転移陣に向かって歩きだしたその時、後ろから俺達を呼び止める声が聞こえた。
「ちょっと待てよ、兄ちゃんたち」
振り返ると『蒼バリ』のひげ親父たちが、そこにいた。
またコイツらか。
「お前たちもここまで来るとはな。俺達は3日前からここで戦ってるんだが苦戦している。お前たちのことは正直気に入らないが、手伝ってくれないか」
蒼バリだけなら放って帰ろうかと思ったが、よく見ると他のパーティーメンバーも混ざっている。複数のパーティーでクランを結成しているようだ。
話だけでも聞いてみる。
「状況はどんな感じだ」
クランのリーダーらしき男が説明を始めた。
敵は水属性の大型龍を中心に、風属性の中型龍が5体、火属性の炎鳥が多数飛び回っている。
3日かけてようやく半数以上削ったところだが、メンバーの消耗も激しく、体勢を整えるため一旦休息を取りに戻ってきたらしい。
残り半数以下か。彼らを助けるかどうか考える。
来週に回して100%の敵と戦うのもありだが、このクランのペースで行けばもう3日もかからずにクリアーしてしまいそうだ。魔法障壁が簡単に越えられるとは思わないが、先を越されるのはあまり嬉しくない。
今だと40%程度の敵と戦えばよく、クランの手勢も見た感じ40名程度はいる。この戦力があれば今日中に攻略できるかもしれないし、無理だったとしても来週に向けた情報収集だと思えばよい。
そもそも俺は新魔法が手に入れられればよく、クエスト報酬は特にいらない。だったら一時的に共闘するのもありか。
「みんな。これからもう一戦やる力は残っているか」
セレーネとフリュオリーネ、ネオンは問題なしとの答え。
ダンたち前衛物理攻撃部隊もOKだ。
それ以外の魔法部隊は厳しそうなので、前面には出ずに後ろに控えてもらう。
「協力してもいいですが、条件があります」
「言ってみてくれ」
「古代魔法文明の祭壇の調査は、先に我々にやらせてください」
「そんなことなら構わない。そもそも調査団は連れてきていないので、俺達だけでは調査は無理だからな。俺達は魔法障壁の突破が目的だ」
調査団は来ていなかったのか。
「了解。では行きましょう」
現場では、巨大な水龍を挟んで2体の風龍がこちらに睨みをきかせ、上空を100体以上の炎鳥が旋回飛行を見せていた。
魔物から放たれる魔力が禍々しく肌に突き刺さる。
本能的にわかる。魔力は明らかに相手が上手。
こちらの魔法攻撃がどれだけ通用するか、あまり期待できない。
「ダン、カイン、少佐、オッサンたち。俺達を当てにせずに地道に削っていってくれ」
「よっしゃ、任せておけ!」
俺はセレーネ、フリュオリーネ、ネオンを呼んだ。
「属性的には、水龍はセレーネ、風龍は俺とネオン、炎鳥はフリュだが、炎鳥はともかく龍に魔法が通用するかがわからない。何か策はあるか」
「情報が足りないわ。まずは一戦交えましょう」
フリュオリーネがそう言うと、セレーネが任せてと言ってすっと前に出た。
【焼き尽くせ、無限の炎を、万物を悉く爆砕せよ】エクスプロージョン
「全員防御!」
俺の掛け声とほぼ同時に、セレーネの爆裂魔法が水龍に炸裂。強烈な閃光と爆発の衝撃波が俺達を巻き込む。
俺はネオンとフリュオリーネとで張ったバリアーに魔力を込めながら、エクスプロージョンの効果をじっくり観察する。
「水龍は無傷のようだ・・・」
多少のダメージは期待していたが、水龍の周りを覆うように水のバリアーが張られて、爆発から身を守っている。また他の魔獣も水龍の防御の恩恵を受け、爆発に巻き込まれながらも風龍、炎鳥ともに健在である。
「どう思う、フリュ」
「水龍を倒さない限り、風龍にも魔法攻撃はあまり通じないと思った方がいいわね。使えるとすれば、物理ダメージ主体の魔法攻撃ね。例えばあなたのウォールとか」
「だな。ネオンと二人で出来るだけ接近してウォールの効果を高める。セレーネはバリアーで俺達を守ってくれ」
「「わかった!」」
水龍が作り出した水のバリアーが役目を終えて濁流に変わる。俺達はその濁流の中にいる風龍に向けて走り出す。
風龍が致死性の暴風を巻き起こすが、セレーネの張るバリアーで受け流し、俺達3人は泥の中を全力疾走する。ある程度近づいたところで、俺たちは立ち止まる。
「よし今だ、ネオン!できるだけ大量に広範囲に」
【永遠の安住地】ウォール
【永遠の安住地】ウォール
「よし全力で逃げろ!」
水龍の濁流とアルカリ金属の反応が始まった。足が抜かるんで走りにくいが、なんとか安全圏までたどり着いた。
爆発と煙に龍達が包まれていく。
「ダメージが蓄積されていくとは思うが時間がかかりそうだな。決定打には程遠いか」
次の手をどうするか考えながら自陣に戻ると、フリュオリーネのとなりにはマールが立っていた。
「マールのパルスレーザーを使うわ」
「あの水龍にか? あれでは水龍の分厚い皮膚は貫けないぞ」
「試してみたい事があるの」
そういうとフリュオリーネは魔法の詠唱を始めた。
俺はフリュオリーネとマールを護衛する。
上空から襲ってくる炎鳥はダンたちや、他のパーティーメンバーが剣で戦っている。物理攻撃は有効だが、数が多いため苦戦を強いられている。
火属性魔法は効果がないので、俺たちも剣を抜いてフリュオリーネとマールを守る。
フリュオリーネの魔法が完成した。
【固有魔法・絶対零度の監獄】
フリュオリーネの放ったその魔法は、水龍を絶対零度の氷の監獄に閉じ込め、水龍はその動きを完全に停止した。
マールもすでに魔法を撃てる状態にある。
「水龍の目を正確に狙って、撃て」
パーン
フリュオリーネの号令と同時に放たれたジャイアントパルスレーザーが、水龍の右眼球を吹き飛ばし、脳に直接ダメージを与える。
「もう一発お願い」
フリュオリーネが魔力を込めて氷の監獄を必死に維持する。
【ぱぷりか ぽぷりか ぴかるんるん ミラクルライトで きらめき ときめき チャームアップ】パルスレーザー
乾いた破裂音とともに水龍のもう片方の目も、見事に吹き飛ばされる。
フリュオリーネの魔法が解けて、水龍が動き出す。
両目から血と焼かれた脳が流れだし、水龍のその巨体が地面に崩れ落ちた。
「やったのか?」
炎鳥から放たれていた禍々しい魔力が急速に小さくなっていく。魔力供給が絶たれた。
水龍を倒したのだ。
「アゾート様たちは、風龍をお願いします。私は残りの魔力を使って炎鳥を倒します」
「了解した」
俺たち3人はこれまでの鬱憤を晴らすかのように、ファイアーを連射した。
高速のプラズマ弾を一身に浴びた2体の風龍はやがて力尽き、噴煙を撒き散らすアルカリの沼に沈んでいった。
残るは炎鳥。
フリュオリーネの方を振り返ると、彼女の上空に発生したウィンドカッターの暴風が、炎鳥を紙屑のように切り裂いていた。
魔獣討伐を終えた俺達は、さすがに魔力も体力も底をつき、地面に大の字で横たわった。きつかった。
「まさかこんな短時間で水龍を倒すなんて、なんなんだコイツらは」
「魔法の威力が凄まじい。化け物かよ」
他のパーティーのメンバーがぞろぞろと俺達の元に集まってきた。
「本当に助かったよ。俺達だけでは攻略できたかどうか」
答える元気のない俺に代わって、ダンとサーシャが対応してくれている。
「約束どおり、古代遺跡の祭壇は俺達が先に調査するからな」
「もちろんだよ。それよりも俺達のクランに加わってくれないか。分け前はもちろん多めに渡すがどうだ?」
「私たちは報酬目的でクエストをしているわけではないので、勝手にやらせて頂きます。あなた方とはスケジュールも合いませんし」
「そうか残念だ。まあもし俺達の力が必要になればいつでも言ってくれ。協力は惜しまない」
「あら、ありがとうございます。その時が来ればお願い致しますわ」
ポーションを飲んでしばらく休憩し、何とか歩けるほどには回復した。
今回は本当にギリギリの戦いだった。ネオンはもとより、あのセレーネやフリュオリーネまでがまだふらついている。
「今回はフリュの作戦勝ちだな」
「どういたしまして」
「アゾート、私にもかける言葉はないのかな」
「ナイス火力」
「どうせ私は火力だけの女ですよ」
セレーネが拗ねた。火力は最高の誉め言葉だと思うのだが。
「アゾート、私は?」
ネオンか。
「お前には特に何もないな」
「なんで、がんばったのに」
「お前は俺の分身だから、お前を誉めると自画自賛になって、俺が恥ずかしい」
「なっ!」
とたん、ネオンは顔を真っ赤にした。それはネオンにとっては最高の言葉だったのだ。
魔獣を倒した先にある洞窟に入り、その最奥にある扉を開けると、例のエッシャー古代遺跡と同じ石室と祭壇があった。
祭壇のすぐ横には次の層へ続くと思われる細い通路にモヤがかかったような魔法障壁が展開されていた。
魔法障壁の近くには下半身のみの死体が異臭を放っていたので、クランのリーダーに頼んでダンジョン内に埋葬してもらった。
これでようやく祭壇の調査が始められる。
俺とマールの二人が調査する間、最低限の護衛としてネオンとセレーネ、フリュオリーネだけを残し、他の者は入り口の外で待機してもらう。
俺はマールと二人で祭壇に上半身を突っ込み、備え付けてあるレンズを目に当てて、マールにライトニングを発動するよう指示した。
「なんだこれは?」
祭壇奥の黒く塗られた壁面に投影されたコンピューターのスクリーン。そこに写し出されたのは、見たことのない3種類のマークが縦一列に並んでおり、その右側にも四角が多数並んでいる。
画面の一番下には楕円形のアイコンがあり、何となくenterボタンのような気がする。
四角をクリックすると、いろいろなマークが切り替わる。どれも見たことがないマークだ。
おそらくキーワードになっているのだろう。
このキーワードを入力すれば、魔法障壁は消えるということか。
その後祭壇を色々と調べてみたが、これ以上のヒントは見つからなかった。
「これだけじゃ、さっぱりわからん」
俺がお手上げ状態で祭壇から離れると、護衛に当たっていたネオンたちも、俺の元に集まってくる。
俺はモニターから得られた情報を彼女らに伝えた。
石室の壁面に描かれた立体画像の中にも何かヒントとなりそうなものがないか探すが、これと言ったものが見当たらない。
「ちょっと貸して」
ネオンが俺からレンズを奪い取り、周りの立体画像に目を丸くしていた。
「すごい何これ、立体に見えるよ何で?」
「私も初めて見たときはすごく驚いたの」
マールがネオンに同調して、はしゃいでいる。
興味を持ったのか、セレーネとフリュオリーネも順番に立体画像を楽しんでいる。
「アゾート様、ひとつだけ立体にならない壁画があるのですが、これは何か意味があるのですか?」
そんな壁画はなかったはず。どれのことだ?
「フリュ、どの壁画のことを言っている?」
「あの一番上です」
?
何もないが。
「あの天井と壁面を隔てるように描かれた縁取です」
縁取だと?
よく見ると、確かに天井ギリギリの位置に、石室をぐるりと一周するように縁取がされている。
ただこれはただの縁取。壁画ではない。
「白と黒の模様がランダムに並んでいて、何か意味を持っているように見えたので」
白と黒のランダムに見える一列の模様・・・、俺はこれがキーワードのヒントであることを確信した。
「ありがとうフリュ! ネオン、あの模様を紙に写しとってくれ」
俺とネオンは、正確に縁取の模様を写し取った。
「ネオン、白と黒の模様の合計はいくつだった?」
「1679」
「俺もだ」
1679。この数字、間違いない。
「多分これが謎を解く鍵だと思う。そして外の冒険者たちには攻略は不可能だ。いったんプロメテウス城に帰ろう」




