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第376話 シグマリオンの裁定

 ドワーフ王は力なくうなだれていた。


 軍幹部が全て現場に出払い、謁見の間には宰相以下王国幹部が集まり、伝令が伝える戦況を聞いては落胆の色を深めていった。




 帝国軍の航空戦力によって西城門を破壊され、港湾職人たちが城下町になだれ込んでからは、もう一方的な展開だった。


 腕っぷしの強い武闘派職人が治安部隊に襲いかかると、彼らと一緒になって暴れまわる3人の帝国軍兵士とゴウキ、ピグマン以下数10体の鬼人族ども。


 市街地を荒らし回る彼らを制圧するため、王国軍にその兵力を惜しみなく投入させたものの、市民たちはなぜかイワークの味方をし、反乱の規模が見る見るうちに拡大。


 そして市街地での混戦状態でこっちが大魔法を使用できなくなったのをいいことに、鬼人族どもが笑いながら兵士たちを殺戮していった。


 さらに帝国軍の女兵士にいたっては、大声で笑いながら主力部隊のど真ん中に単身突撃して、謎の大魔法で部隊を壊滅させてしまった。


 我らドワーフ族を相手に魔法で圧倒できるなんて、本当に人族なのか疑わしいレベルだ。



 そして最後の極めつけが、ワシの自慢の空挺部隊が一瞬で全滅させられたことだ。


 人族の航空戦力に対抗するため、こちらの航空戦力を全機出撃させたのが完全に裏目に出てしまった。


 なぜか空挺部隊の弱点を見抜かれると、なんと気球の水素ガスに引火させて部隊全体を誘爆させ、王都の空に阿鼻叫喚地獄を作り出しやがった。


 どうして人族ごときにそんな芸当ができるのだ。




 王国軍がほぼ壊滅してしまった今、ワシは謁見の間に自分の家族を全員呼び寄せ、王国幹部たちともに、もしもの事態に備える。


 外ではおびただしい数の市民が王城を取り囲んで、大声でワシの退陣を要求している。


 そこに戦場から戻ってきた治安部隊司令官が、重々しい口調でこう進言した。


「国王陛下。この王城を取り囲んだ市民たちを排除する戦力は、最早我々にはありません。彼らが城内に侵入してくるのは時間の問題であり、ここに居ては命の危険にさらされます。今すぐ脱出のご準備を」


 ついに来るべき時が来たか・・・。


「わかった。だがワシはどこに逃げればいい」


「エルフの里を頼りましょう。エルフは妖精族の盟主であり、きっと我々を保護してくれるはず」


「そうだな・・・では今すぐ脱出して、シグマリオンに保護を求めることにし・・・」



 ドゴーーンッ! バギャーーッ!



「ぐわーっ! な、何事だっ!」


 突然の爆発音とともに王城が激しく揺れ動くと、ワシたちの頭上に大量の瓦礫が降り注いできた。







 俺はデモ隊のど真ん中にフレイヤーで着陸すると、イワーク親方を無理やり後部座席に乗せた。


 そして俺はマールとともに操縦席に座ると、通信の魔術具でカトレアに連絡し、誘導アイスジャベリンミサイルで王城の上部を狙うよう指示した。


 おそらくエミリーが撃ったであろうミサイルが王城上空で炸裂すると、その熱線と衝撃波で王城のバリアーが消失し、3機のフレイヤーが王城に接近。


 2番機のフリュがワームホールで謁見の間の天井に穴をこじ開けると、そこから3機のフレイヤーで謁見の間に直接乗り込んだ。


「よし! かなり強引だったが突入作戦は成功だ。イワーク親方、ここからあなたの出番です」


「わかったよ兄ちゃん。こうなったらワシはもう後には引かん」


 瓦礫の山に埋もれた謁見の間で、恐怖に顔をひきつらせたドワーフ王国幹部たちが見守る中、魔法をいつでも発射できる状態で、俺たちは次々と降り立った。


 そしてドワーフ王と俺の目が合う。


「きっ、貴様はあの時の帝国軍工作員! そうか貴様がアーネスト親方だったのか。よくもワシのドワーフ王国を・・・」


 怒りと恐怖が入り交じったドワーフ王は、だが最後にフレイヤーから降り立った2人を見て驚愕した。


「イワーク親方に・・・シグマリオンだと?! な、なぜシグマリオンがここに!」




 エルフの族長の突然の登場に全てのドワーフが呆気に取られ、その場に固まってしまった。


 その隙にフリュが部屋全体を強固なバリアーで覆いつくすと、残りの全員で王族や王国幹部たちを一網打尽に取り押さえて拘束していく。


 だがドワーフ王は、自分の家族や幹部たちが捕らえられるのをなす術なく見ているだけであり、俺はそんな彼を玉座から引きずり下ろし、床に転がした。


 そしてイワーク親方とシグマリオンが彼の前にドッカと腰を下ろすが、茫然自失のドワーフ王は同じ質問を繰り返すのみ。


「・・・シグマリオン、なぜそなたがここに」


 一つため息をついたシグマリオンは、


「ドワーフ王ギムールよ。私は帝国軍のヒルデ大尉に頼まれてイワーク親方とそなたの争いの仲裁に来たのだ。だがこれだけ多くの市民たちに退陣を要求されるとは、そなたは一体何をやったのだ」


「仲裁・・・頼むシグマリオン、ワシを助けてくれ。ドワーフ王国を滅茶苦茶に破壊したイワークやそこの帝国軍を今すぐフェアリーランドから追放するのだ」


「そんなことはできん。そもそもギムールが先に手を出したと私は聞いているぞ」


「わ、ワシはドワーフ王国を帝国から守るため、敵の工作員に通じた売国奴のイワークを逮捕しようとしただけなんだ」


「とてもそうは見えないが、まずはイワーク親方の言い分を聞きたい」



 シグマリオンの求めに応じ、イワーク親方は今回の出来事を努めて冷静に説明していく。


 その間、激昂したドワーフ王が何度も反論するも、その都度シグマリオンから黙って話を聞くように諭され、そして全ての話を聞き終えたシグマリオンは、


「ギムール、要するにそなたはアーネスト中尉の新造艦を無理やり奪った上に、彼の工房を破壊してそこで働くドワーフ職人たちを死傷させ、彼の特許を全ての国民に公開した。またイワーク親方に対しても同様のことを行い、職人たちの抵抗を受けると治安部隊を投入して港で破壊の限りを尽くした」


「それは違うシグマリオン! 港を壊したのは港湾職人たちと帝国軍が引き入れた鬼人族たちで、ワシは港湾の秩序を守るために治安部隊を派遣しただけ。その後も城門を破壊したり城内の治安部隊を虐殺したり、王国に破壊の限りを尽くしたのはこいつらだ!」


「それは結果論であって、そなたが軍を出動させなければ全て起きなかったこと。私は空から一部始終を見ていたが、この王城を取り囲んでいるほとんどのドワーフたちは武器を持たないただの市民。それを治安部隊を大量投入して武力で押さえつけようとしたから職人たちが反撃に出ただけだ。確かに帝国軍と鬼人族がやりすぎだったのは認めるが、あれだけの大軍に囲まれたら全力で反撃せざるを得ないだろう」


「うぐっ・・・だが一方的にやられたのはワシの方なのに。そもそもワシがなぜアーネスト工房を潰したかと言えば、こいつが不当な方法で我が国の貴重な技術を盗み取り、それで荒稼ぎをしていたからだ」


「技術を盗み取った・・・証拠はあるのか?」


「証拠ならある! そこにいるアーネスト親方は帝国軍の工作員であり、知能の低い蛮族なのだ。そんなやつが新造艦や蒸気機関など作れるわけがない」


「なるほど、人族が高度な技術を持っているわけがないといいたいのだな。ギムールはそう言っているが、蒸気機関は本当にキミの発明ではないのかな、アーネスト中尉」


 脇で話を聞いていた俺に、シグマリオンが尋ねる。俺はその質問に正直に答える。


「俺が申請した蒸気機関などの新技術は、確かに俺が発明したものではありません」


 するとドワーフ王がニヤリと笑って、


「ほら見ろ! 人族なんかがあんな高度な技術を持っているわけがないんだ」


 だが俺は話を続ける。


「あれは俺の世界の先達たちが苦労の末に編み出した技術の数々で、俺はそれをドワーフ王国に持ち込んだに過ぎないのです。だからこれで荒稼ぎをするつもりなど毛頭ないのですが、権利を不当に侵害されて泣き寝入りする気もありません」


「嘘をつけ! あんな高度な技術を人族なんかが産み出せるはずがないだろう。でたらめだ!」


「ふーん、ならドワーフには作れるというのか」


「当たり前だ。あの技術はドワーフ王国では既に常識であり、特許にする価値すらないから特許事務所に命じて公表させたのだ」


「だったらなぜ今まで作らなかったんだ。どうして城下町では今そろばんブームが起きている。なぜ海軍の全ての艦船は今だに帆船なんだ」


「そ、それは・・・」


「蒸気機関があれば、風車のように場所を選ばず全ての機械が動力を得られ、生産力が一気に向上する。そしてそれらの動力はやがて内燃機関やジェットエンジンなど様々な形へと進化し、燃料さえあればどこまでも走り続ける自動車や、ここにあるフレイヤーのように空を自由に飛べる飛行機、宇宙空間にまで到達するロケットや深海を潜る潜水艦が登場する。文明が飛躍的に進化するんだよ」


「なっ、なぜそんなことが分かる!」


「俺の世界がそういう歴史をたどったからだ」


「歴史だと・・・それだと何百年も前にそれらの発明がなされていたことになる・・・人族のクセにそんなバカなことがあるか!」


「だが事実だ。まあ、あんたがそれを信じられないのは分かるが、少なくともあの新造艦は全て俺たちの力で作り上げた俺たちの財産だ。だからドワーフ艦隊を壊滅させてでも取り返させてもらったよ」


「ワシの鋼鉄の艦隊を壊滅・・・」


 ドワーフ王国の戦力を全て失った事実を思い出してがっくりとうなだれるドワーフ王に、イワーク親方が語りかける。


「ドワーフ王・・・いや、ギムール。ワシらドワーフ族はお前が考えているほど優れているわけではない。ワシらの機械文明がまるで世界の全てを支配しているようにお前は考えているが、それは全くの勘違いであり単なる驕りだ。この世界にはワシらの手が届いていない真理が山のように存在している」


「イワーク・・・人族がワシらよりも先に世界の真理を手に入れたとでも、お前は言いたいのか」


「人族だって同じだよ。兄ちゃんの国がワシらよりも進んでいるのは事実だが、それでも世界の全てを解明できているわけではない。所詮ワシらドワーフ族も兄ちゃんたち人族も、この宇宙から見ればおよそ原始的な生き物に過ぎないんだ。それを狭い世界で優劣を競い合っても何も生み出さない」


「ワシらドワーフ族が原始的な生き物・・・」


「そうだ。だから狭い世界に閉じこもって相手をバカにするより、ある時は競い合いある時は手を取り合ってより良い世界を作り上げていく方がいいんだ」


「イワーク・・・お前」


「ギムール、お前はやりすぎたんだよ。兄ちゃんたち人族にだって権利は認められるべきだし、それを踏みにじる権利はお前にはない。そしてワシたち職人に対しても同様だ。ワシはお前の命令で殺された職人たちの無念を晴らすため、そしてこのドワーフ王国を豊かに発展させるために、お前をその玉座から引きずり下ろすことにしたのだ」


「・・・ワシは王でなくなるのか」


「ああそうだ。この城の周りを取り囲む民衆の怒りの声を聞いたか。造船業は幅広い分野の職人たちによって成り立ち、お前が送り込んだ兵士によって理不尽に殺された職人の中にはイワーク工房以外の職人もいたんだ。そしてお前はその家族や友人の全てを敵に回し、今回の件で一線を越えてしまったお前を恐れた王国市民がお前の退陣を要求するに至ったのだ」


「退陣なんか嫌だ! ワシはこのドワーフ王国の国王なのだぞ!」


「だがもう誰もお前の命令には従わないだろう。お前の暴挙は国民に広まったし、王国軍がほぼ壊滅したことで、国民を押さえつけるだけの実力部隊がお前にはもうないんだ」


「そんなことはないぞ。ワシにはまだ親衛隊が」


 往生際の悪いドワーフ王に、イワーク親方が一つため息をつくと、


「おい、兄ちゃん・・・やってくれ」


「了解しました親方。・・・カトレア、目標ドワーフ王城上空。誘導アイスジャベリンミサイル発射」


「・・・了解」


 俺は通信魔術具でカトレアに指示すると、そのおよそ一分後、ミサイルがドワーフ城の直上で爆発した。



 ドグオーーーンッ!



 エクスプロージョンがさく裂し、王城を守るバリアーが再び消失して、城の上半分が熱線と衝撃波で吹き飛んでいく。大量の瓦礫が謁見の間に降り注ぐが、フリュのバリアーがそのすべてを受け止めた。


 やがて砂埃が引いて視界が戻ると、謁見の間の天井が完全になくなっていて、綺麗な星空と双子月が顔を出していた。


 顔面蒼白になってガタガタ震えるドワーフ王。そんな彼にイワーク親方は現実を突きつける。


「ギムール、お前は絶対に敵に回してはいけないヤツにケンカを売ってしまい、そして負けたんだ。たとえお前が地の果てまで逃げようとも、さっきの武器がお前をどこまでも追いかけて行くだろう。もうあきらめてその玉座から降りて罪を償え」


「ううう。うわあああぁぁぁ・・・」


 がっくりと膝をついて床にうずくまるギムールに、シグマリオンが、


「仲裁人として今回の件を見届けた。ギムール、お前の廃位は妥当と判断し、私はイワーク親分のドワーフ国王即位をここに支持するものである」





 その後ドワーフ王国軍の武装解除が行われ、城内に流れ込んだ市民たちの手によって、ギムールとその家族、王国幹部たち全員、城の地下牢へと連行された。

次回、新ドワーフ王の即位式


お楽しみに

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