第364話 エルリンとお留守番
長老から衝撃の事実が知らされたその夜、エルフの里ではフリュの歓迎会が盛大に開かれた。
だが長老に嫌われている俺はエルリンと留守番だ。
マールとフィリアも俺と一緒に残ると言ってくれたが、折角のフリュの歓迎会だからなるべくたくさんで行った方がいいし、どうせならと転移陣室の兵士たち全員も歓迎会に出てもらうことにした。
その代わりに転移陣室の宿直をすることになった俺は、みんなが帰ってくるまでぼんやりと時を過ごす。
俺が適当な椅子に腰をかけると、エルリンが隣に椅子を持ってきてちょこんと座った。そして、
「やっとおとうさまとふたりきりになれましたわね」
そう言ってニッコリと微笑んでくれた。
かっ、かわいいっ!
エルフの里の奴らは、なんでこんなかわいいエルリンを恐がるんだ。アホか!
「本当はエルリンもフリュの歓迎会に連れていってあげたかったけど、みんなエルリンのことを恐がるから無理なんだ。本当にごめんな。でも俺もエルフの長老にメチャクチャ嫌われてるから今日はずっとエルリンと一緒にいられるよ」
「おとうさま。えるりんは、えるふの里にはまったくきょうみがございませんので、気をつかわなくてもよろしくてよ」
「エルリンは見た目は完全にエルフなのに、エルフの里には全く興味がないんだな。まあ、俺の国に連れて帰ることにしたし、あそこならエルリンのことを恐がる人は誰もいないから安心して暮らせるけど、キーファとお別れしなくちゃならないし、寂しくなるな」
「きーふぁがいなくなっても、別にさびしくはございません。おとうさまがおそばにいらっしゃっていただければ、えるりんはそれだけでいいのです」
「くーーーーっ! 本当に嬉しいことを言ってくれるじゃないかエルリンは。よしわかった、もうエルリンは嫁にやらん! ずっとディオーネ城で暮らしてくれていいんだぞ」
もう可愛すぎでしょ、エルリンは!
そしてエルリンも俺にニッコリ微笑んで、
「はい、今回はそうさせていただきます」
「・・・え、今回ってどういうこと?」
「前世ではおねえさまのけっこんしきのよるにおとうさまが亡くなられ、えるりんはせいりゃくけっこんで家をでていきました。でも今世ではどこにも嫁がず、一生おとうさまのおそばをはなれません」
「ま、まさかエルリンお前・・・」
「はい、えるりん・めるくりうすの生まれ変わりにございます。ちなみにえるりんという名前はおばあ様のえるりおーね・あーじぇんとからいただいたもので、えるふとごぶりんの混血だからではございません」
「ほっ、本物だっ! ・・・ちょっと待て、フリュはこのことを知っているのか」
「いいえ、おかあさまには内緒にしています。これはえるりんとおとうさまのふたりだけの秘密です」
「え、なんで?」
「だっておかあさまに知られたら、えるりんの計画のじゃまをされてしまいますので」
「エルリンの計画って、一体何をする気なんだ」
「えるりんはおとうさまのお嫁さんになりとう存じます。前世でもそのようにもうしあげたところ、おとうさまとけっこんしてはならないと、おかあさまからこっぴどくしかられましたの」
「懐かしいなあ・・・エルリンは小さい頃はよくそう言って俺に甘えてたもんな。でも叱らなくてもいいのになフリュのやつ。エルリンはこんなに可愛いのに」
「ほんとうですよね。でも、えるりんが本気だというのを女の勘で悟られたのだとおもいます。おかあさまって、ものすごく勘がするどいですから」
「・・・本気ってまさか、エルリンは本当に俺と結婚しようと思っていたのか?!」
「はい! 前世のえるりんはおとうさまのかっこよさと強大な魔力にぞっこんだったのです」
「ひーっ! そ、そりゃフリュに怒られるはずだよ。だって親子は結婚しちゃいけないんだからな」
「それはえるりんにもわかっているのですが、おとうさまの魔力にはどうしても逆らえませんでした。ほんとうはディオーネお姉様もおとうさまとけっこんしたかったのですが、それをがまんしてあーじぇんと王家からむこをもらったのです」
「全然知らなかった・・・まさかそんなことになっていたとは」
「おとうさまは勇者であるラルフ国王よりもはるかに強い魔力をおもちで、しゃこうかいでは貴ふじん方から絶大なにんきをかくとくされていました」
「え、マジで? だって俺、社交界に行ってもいつもボッチで、フリュとしかダンスを踊ったことがないんだけど・・・」
「それはおとうさまに群がろうとする貴ふじん方を、おかあさまが目ざとく見つけては蹴ちらして、おとうさまを独占していたからです」
「ウソ・・・俺ってそんなにモテていたのか。ていうか魔力が強いと女子にモテるの?」
「もちろん! おんなのこは本能てきに強い魔力にひかれますし、おとうさまのばあい何か特別な魔力をおもちで、そのおーらにあてられたおんなのこは、もうあらがうことができないのです」
「まさかそれもSubject因子の力なのか・・・」
人造人間Subjectsはルシウス国の奴らが魔力不足を補うために生み出した人造人間であり、人間と交配可能になっている。その目的を考えれば異性を引き付ける力が備わっていてもおかしくはない。
俺に8人も嫁がいるのは前アージェント国王のせいだが、みんながこの状況をすんなり受け入れてしまっているのは、この特殊な因子のせいかもしれない。
それにボロンブラーク騎士学園では、リーズを巡って男どもが血眼の争奪戦を行っているし、セレーネに対するサルファーの執着には鬼気迫るものを感じた。
確かにあの二人は美少女だが、Subject因子の影響を加味すれば説明がつく。それに学園のトップアイドルだったマールもビスマルクの血族だ。
統合思念体も言っていたが、もしかしたら俺たちはルシウス国の遠大な戦略に乗せられているのではないだろうか。だとしても娘のディオーネやエルリンまで惑わしていたとは、恐ろしい能力だ。
「それでおとうさまにお願いがあるのですが、今世なら血のつながりはございませんし、えるりんとけっこんしていただけないでしょうか」
「えっ、俺がエルリンと結婚? いやいや中身は娘のエルリンだしそんなのダメだよ」
「そうですか・・・ではおとうさまは、えるりんがどこのうまのほねともわからない殿方とけっこんしてもよろしいのですか」
「それはダメだ。馬の骨との結婚は断じて許さん」
「なら、えるりんとけっこんしてくださいませ」
「血の繋がりはなくても倫理的にまずい気がするし、フリュが絶対に許さないぞ」
「おかあさまならそうでしょうね。なにせ独占欲の強いおかたで、えるりんがおとうさまに甘えようとしても、先回りしてごじぶんが甘えておられましたから」
「そうだっけ?」
「えるりんやディオーネおねえさまが、おとうさまの寝所にしのびこんで過ちをおかさないようにと、ごじぶんが毎晩のようにおとうさまに愛されに行っておられましたから」
「毎晩って、エルリンまさか・・・」
「はい。おかあさまの声が大きいので、もちろんきこえておりました」
「ひーっ!」
「でも今世では、おかあさまも最初からおとうさまの独占をあきらめておいでなので大ちゃんすなのです。おとうさまはくれぐれも、えるりんに前世のきおくがあることをおかあさまにお教えにならないようにしてください。さもなけれはエルリンは適当なゴブリンとけっこんして、ゴブリンのすあなで一生をおえます」
「ゴブリンは絶対にダメだ! だ、黙っててやるから、ゴブリンの嫁になることだけは勘弁してくれ」
「ではおとうさまのお嫁さんにしていただけるまで、エルリンはずっとおそばにおつかえいたしますね」
「それは困る・・・。あ、そうだ、俺の弟のアルゴを紹介してやるから、そいつと結婚しろ!」
「おとうさまのおとうとということは叔父様ということですね。うーん、ごほんにんを見てからでないとなんともいえませんわね」
よし、キーファと違って全くダメという訳ではないらしい。こうなったらクリプトン3人娘に続いてエルリンの面倒もあいつに見てもらうことにするか。
「ところでエルリン」
「なんでございますか」
「エルリンはいつ前世の記憶が戻ったんだ?」
「おとうさまがどわーふ王国に行かれてる時にとつぜん記憶がもどりました」
「そういえば突然言葉遣いが変わった日があったけど、もしかしてあの時かな」
「おそらくそうだと思います。えるりんもあの日はたいへんびっくりいたしました。とつぜん子供にもどったじぶんが、おかあさまとふたりでくらしていたのですから。そして耳がながく髪のいろが青かったのに、しょっくをうけました」
「エルリンはきれいな金髪だったからな」
「いつもおとうさまにほめられて自慢の金髪でしたのに・・・」
「でもその青い髪もとてもきれいで俺は好きだよ」
「そ、そうでございますか・・・じゃ、じゃあえるりんの青い髪をなでてくださいませ」
「ああいいぞ。こっちに来なさい」
「はい・・・」
そしてエルリンの髪をそっと撫でる。マールとは少し色が違い薄紫がかった髪色はネプチューンの遺伝を感じる。
しばらくエルリンと静かな時を過ごしていると、窓の外から月の光が差してきた。
双子月のセレーネとディオーネだ。
「あのつきは、ディオーネおねえさまと、そのおかあさまなのですよね」
「そうだよ。そう言えばエルリンは前世では確かアージェント王国の王妃になったらしいな」
「はい。ディオーネおねえさまがあーじぇんと家からむこをとられて、めるくりうす家をおつぎになられたので、えるりんはそのこうかんであーじぇんと家にとつぎました」
「そうだったな。それで幸せな人生はおくれたのか」
「ええ。とてもじゅうじつした人生でございました。ですがえるりんはおとうさまのことがわすれられず、人生のさいごまで心残りになっておりました」
「そうか。・・・でもまた会えてよかったな。本当に奇跡だよ」
「えるりんもいちかばちかのかけにでましたが、ほんとうに運がありました」
「賭けに出たって・・・おい、もしかしてエルリンもリーインカーネイションを使ったのか」
「はい。あーじぇんと王国のおうひめいれいで、シリウスきょう国のせいじょ隊を動員してやっていただきました」
「なんて無茶なことを! そんなのどこの時代のどんな場所に転生するのか全くわからないのに」
「たしかにゴブリンのすあなにてんせいした事実をしったときはそっとうしそうになりました。でも結局おとうさまがたすけだしてくれてこうしておかあさまといっしょに生活しているので、えるりんの賭けはみごとに大勝利です」
「とんでもないギャンブラーだよ!」
「ですのでその幸運をいかして、今世こそは是非ともおとうさまのお嫁さんに」
「いや、それはさすがにダメだよ。ディオーネ城にはセレーネ・・・ディオーネのお母さんもいるし、大聖女クレアだってみんないるんだぞ。そんな所で「娘のエルリンを嫁にします」なんて言って見ろ。俺は二人の太陽の抱擁で骨も残らず焼き尽くされてしまうよ」
「だからえるりんは、前世のえるりんとは全くかんけいのない「ただのえるふとごぶりんのはーふ」を演じきるのです。これもおとうさまとけっこんするため」
「な、何という執念・・・この結婚にかける情熱は、大聖女クレアを彷彿とさせるな」
「ですのでおとうさまはぜったいにえるりんのひみつをもらさないでくださいませ。さもなければごぶりんのすあなで、むざんに一生を終えてみせますから」
「秘密は守るから、それだけは絶対にやめろよ!」
次回は読者様の要望に答えて、ローレシアやボルグ准将の登場です。
お楽しみに




