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第37話 クレイドルの森ダンジョン


 週末がやってきた。


 プロメテウス城で夕食をご馳走することを条件に、転移陣の魔力供給要員としてサーシャとユーリも加え、全メンバーがギルドに集合した。


 サー少佐はすでにギルドで待機しており、その後ろに冒険者たちが控えている。


「アゾート。こいつらがメンバー募集に応じた冒険者たちだ」


「おうガキども、ランクA冒険者のバランだ。よろしくな」


 クエスト受託条件を満たすために臨時で雇いいれた高ランクの冒険者は、ゴツい感じのオッサンが三人。


 バラン(ランクA)、ノルン(ランクB)、ヨード(ランクB)だ。


「しかし女ばかりのパーティーだな」


 ノルンが口笛を吹くと、すぐにヨードがたしなめた。


「やめとけ。お前たちは見てなかったと思うが、あの『蒼バリ』を瞬殺するぐらい強いんだぞ、この娘たちは。手を出すと殺されるぞ」


「そうは見えねえけどな」


 ノルンがまともに取り合おうとしない。


「『蒼バリ』って言やあ、確かにランクAパーティー一歩手前だが、どちらかと言えば汚い手を使ったり、上手く立ち回って成果を上げているやつらだろ。まあそれでも、こんな姉ちゃんたちが簡単に倒せるとは、正直信じられねえけどな」


 バランも半信半疑だ。


「実際にこの目で見てなければ、俺も信じないが」


「コイツらの強さはこの俺が保証する。お前らは名前を貸してやるだけでいいからな。この娘たちに良いところを見せようと張り切らなくてもいいぞ」




 少佐がオッサンたちをまとめてくれそうなので、俺からは簡単に説明だけしておく。


「このパーティーのリーダーのアゾートです。これからのスケジュールを発表します」


1日目朝、プロメテウスギルドにジャンプ、魔力回復

1日目午後、クレイドルギルドにジャンプ、魔力回復

1日目夕方、徹夜でのダンジョン攻略開始。

2日目夕方、プロメテウスギルドまでジャンプ、宿泊

3日目朝、ボロンブラークギルドにジャンプ、解散



「なんだ、そのスケジュールは。無茶だ」


「転移陣を使いすぎだろ。一体いくら金がかかるんだ」


 あぜんとするオッサンたちに俺は、


「俺たちは平日は学校があるので、毎週末こんな感じで少しずつクエストを進めます。転移陣の魔力は俺たちが何とかしますから心配いりません」


「お、おう・・・」


 魔力のないオッサンたちの分も含め、俺たち魔力保有者はギルドの転移陣に魔力を込めた。


「プロメテウスギルドへ」




 みんながギルドで休憩している間、俺とフリュオリーネはシティーホールの執務室で、両親から領政に関する報告を受けていた。


 プロメテウス領はサルファーが代官に任せきりにして放置していたこともあり、いろいろと問題があった。その中でも特に気になったのは以下のような点だ。



 治安の悪化

 庶民の生活が困窮し、一部が盗賊化。

 領内の村々や隊商を襲っているため、生活が脅かされている。


 食料品価格の高騰

 内戦による食料品などの売り渋りや買いだめにより物価が急騰、盗賊による略奪もそれに追い打ちをかけている。


 主産業の不振

 プロメテウス領の主産業は中継貿易と鉱業、酪農。

貿易は隣接するソルレート領による関税引き上げで売上減少。鉱業・酪農は盗賊による被害で生産減。


 軍備建て直し

 フェルーム家からの独立で騎士団を二つに分けたため、プロメテウス領には、100の銃装騎兵隊を含む200名の騎士しかいない。

 隣接するソルレート領がアウレウス派と敵対する派閥のため、軍備強化は急務。平民から歩兵を募集中。総勢1000人規模の歩兵を含むプロメテウス騎士団を来春までに整備。




「よく短期間でこれだけ問題の整理を。さすが父上たち。しかし思ったより酷い状況だ。父上はどこから手をつければいいと思いますか」


「治安維持だな。民の安全が保証されない限り、反乱が怖くてオチオチ寝てられん」


「私は食糧問題だよ。この領地は穀物を他領からの購入で賄ってるけど、売り渋りや価格高騰が続けば冬を越すだけの食料が確保できず、餓死者が出るよ」


「フリュはどう思う」


「お義父様、お義母様のおっしゃるとおり、民の生活の安定が最優先だと思います」


 俺も同感だが、具体的に何をするかだ。


「父上の言うとおり、真っ先に治安維持に手をつけましょう。こんな感じでお願いします」


・募集中の歩兵候補を当面、治安維持部隊に回す

・銃装騎兵隊を中心に騎士団を投入

・ギルドに盗賊討伐クエストを発注

・領全体に盗賊討伐を周知。報酬付きで平民も積極参加


「盗賊は徹底的に容赦なく殲滅してください。領民の目の前で、この領地では盗賊は割に会わない商売であることを徹底し、新たな盗賊を生まれにくくします。

 また、取り逃すにしても、盗賊はできるだけソルレート領の方に誘導してください。

 少佐には銃装騎兵隊の指揮を改めてお願いしました。父上の騎士団とあわせて協力して対処してください」


「わかった」


「食料品の問題は速効性のある作戦が思い付かないなあ」


「じゃあ、商業ギルドに行って話を聞いてみるかい。私が紹介してあげる」


「母上が? じゃあ、今から行ってみようか」





 商業ギルドはシティーホールのすぐ近くにあった。


 母上から商業ギルド長を紹介してもらい、領内の商業についての説明を受けた。


 中継貿易が主産業というだけあって、貿易相手の領地を代表する商人達が店を構え、領内の商人達との間で取引が活発に行われているようだ。


 ギルド長から説明を受けたあとは、穀物の取引現場を実際に見せてもらえることになった。


 街の中心から少し離れた場所に、商人たちの倉庫が建ち並ぶエリアがあった。たくさんの人夫が穀物を倉庫に運びいれている。


「昨日大きな取引が成立して、購入先の商人の倉庫から運び出された穀物を、購入者の倉庫へ移動させているんですよ」


「すごい量ですね。毎日こんな感じで穀物の運搬が行われているんですか」


「取引があれば、いつもこんな感じです。ただ価格高騰により、どの商人も穀物を抱え込んでしまっているため、最近は取引が成立することが少なくなってます」


 ギルド長が少し寂しそうにしている姿を見て、俺はある歴史を思い出していた。


 江戸時代の日本で、各藩の蔵屋敷が建ち並ぶ大坂と、米価格の安定に寄与したとされる大坂堂島の米合所だ。


 堂島では米取引の際に現物を受け渡しせずに、帳簿上だけで取引を行う帳合米取引が行われていた。秋に収穫される米の買い付け価格を事前に取引するもので、いわゆる先物取引だ。


 帳簿だけで売買を行えば、取引の度に米を輸送する手間がなくなり、期日にのみ現物の受け渡しを行うだけでよく、また、現物のやりとりも行わずに相場の変動に合わせて金銭のやり取りだけで済ませる差金決済もできるため、売買が活発になる。


 売買が活発になれば、内戦などの不安感による需給の悪化で、取引が成立しなかったり穀物価格が乱高下するのをある程度防止できる。


 プロメテウス領に江戸時代の大坂のような取引所を作ってみるのだ。


 期日に必ず現物が受け渡されるのが保証されれば、安心して帳簿売買が行えるし、アウレウス伯爵やサルファー配下の当主たちにも協力してもらって、うまく行けば、食糧問題は解決するかもしれない。


 ギルド長に俺のアイディアを伝え、さっそく動き出すことにした。





「そろそろクレイドルに出発するよ。明日の夜はみんなを城に泊めたいけど、いいかな?」


「30人ぐらい平気さ、準備しておくよ。気をつけてな」


 俺とフリュオリーネは両親に別れを告げてギルドに戻った。


「さあ次のジャンプだ。クレイドルへ」





「アゾート、そろそろ起きて」


「ネオンおはよう・・・あ、そうか。クエスト中か」


 ここはシャルタガール侯爵領東部クレイドルにあるギルドの待合室だ。


 辺りを見渡すとすっかり夕方になっていた。時間だ。


「サーシャとユーリは、ここで待っててくれていいがどうする?」


「私はついて行ってもいいけれど、ユーリが嫌がるのよね。ダンジョンは服が汚れるからって」


「服なんか別に気にしてないわ。ここにいても暇だし、見てるだけでいいなら一緒に行ってさし上げてもよろしくてよ」


「なんでもいいけど、来たいなら来い。よしみんな。攻略不可能と言われている噂のダンジョンだ。気を引き締めて行くぞ!」


「「「おーーー!」」」





 ギルドとダンジョンの転移陣は系統が異なるため、直接ジャンプできない。


 俺たちは夕闇に暮れるクレイドルの森へ、足を踏み入れる。


 ランクA冒険者のバランが先頭を歩く。


「ようやく俺たちの出番だな。転移陣でここまで連れてきてくれてありがたいが、休憩ばかりで少し飽きてきたところだ。ここからはおれに任せろ」



  【魔法防御シールド】



 パーラはオッサンたちの意気込みを全く無視し、パーティー全体を覆うバリアーを展開した。


「魔獣なんかに傷一つつけさせないから、安心して私の中に入ってて下さいね、ダン様」


 パーラの頬がほのかに熱を帯びている。


「・・・パーラはいつもこんな感じなのか?」


 俺はダンに耳打ちした。


「・・・彼女のことはまだよくわからんが、妙に気に入られてる気はする。一抹の不安もあるが・・・大丈夫なのかな?」


「・・・俺にはわからん。と、とにかくがんばれ」


 一方オッサンたちは、


「何だこれは!魔獣が何かに弾かれて、俺たちに近寄れなくなってるぞ」


 活躍の場を失ったオッサンたちが焦っている。




 襲い来る魔獣たちをバリアーが弾き飛ばしながら、俺たちは特に何事もなくダンジョンまでたどり着いた。


「ふう疲れた。あとはお願いね、アネット」


 そう言ってアネットに命令するパーラの表情は、ひと仕事をやり終えた満足感で満たされていた。


 アネットはそんなパーラを見て、やれやれとため息をつく。ダメな妹の世話をするお姉さんのように見える。


 この二人の関係って一体。





 ダンジョン入り口の転移陣にパーティー登録し、俺たちはダンジョンに入っていった。


 第1層は何の変哲もない洞窟だが、中はかなり広い。ここを俺たちはフォーメーションを組んで慎重に進んでいく。


 前衛をダン、カイン、オッサンたち。


 その後ろにセレーネ、俺、ネオン。


 3列目にフリュ、ユーリ、サーシャ


 4列目にアネット、マール、パーラ


 最後列に少佐と親衛隊。親衛隊は両側面にも展開し、鉄壁の布陣だ。



「前方にスライムだ。蹴散らすぞ」


 オッサンたちがスラリと剣を抜く。


 【ファイアー】


 オッサンたちの頭上を越えて、セレーネのファイアーが火炎放射器のようにスライムたちをなぎ払った。


「さあ、行きましょう」


「お、おう・・・」




 その後も魔獣たちはことごとく、魔力に余裕のあるセレーネとフリュオリーネが瞬殺していき、俺たちはただ歩いているだけで第2層までやってきた。


「俺たちも魔力が十分戻ってきたし、二人とも交代だ。少し休んでいてくれ(やることがなくて退屈なんだよ)」


「これくらい全然平気だけど、ありがとうねアゾート」


「私たちの力が必要になったらいつでも言ってくださいね、アゾート様」


「ああ、その時は頼むよ(当分ないけど)」




 第2層も洞窟が続くが、今度は地形が複雑で見通しが悪い。そして突然岩影からコボルトが飛び出してきた。


  パーン


 親衛隊の小銃が火を吹いた。


「親衛隊、前へ!」


 少佐の命令により、側面を警護していた8名が最前列に移動して銃を構えた。


 それからは、岩影から飛び出してくる魔獣を親衛隊が片っ端から撃ち殺し、俺たちは第3層まで到達した。




「ふわぁぁっ・・・、退屈ね」


 ユーリが大きなあくびをする。


「ユーリ、あくびなんてはしたない。退屈だったらあなたも戦いに参加なさい」


「・・・まあ仕方ないですわね。今回だけですから」



 洞窟から出た俺たちの前に広がる第3層は、だだっ広い平原だ。どういう仕組みか頭上の天井が光っており、昼間のように明るい。


 そして前方にはウォーウルフの群れが見えるが、数が200匹以上はいる。


「よし俺のエクスプロージョンで吹き飛ばしてやるか」


「草原で火属性魔法を使うのはお止めなさい。代わりに私が手伝って差し上げます。アネット、行くわよ」


 ユーリがアネットを連れて前に立った。


 アネットの展開したバリアーが俺たちパーティー全体を包み込み、その外側でユーリのウィンドカッターが猛威を振るっていた。


 俺たちに襲いかかるウォーウルフがどんどん切り刻まれて、血飛沫が舞い散り、俺たちの通りすぎた後には死骸の山が築かれていく。


「アネットのバリアーって、本当に素敵ね。これなら服が汚れなくていいわ」


 こいつやっぱり、服が汚れるのを気にしてたんじゃないのか。そもそもお前の風魔法は、服の汚れを気にしてたら使えないだろうが。


 しかし俺の出番が全くない。戦いたくてウズウズする。エクスプロージョンを気分よくぶっぱなしたい。


 隣のネオンを見ると、やはりウズウズしている。おそらく俺と同じ気持ちなんだろう。





 第4層は溶岩が流れる洞窟だ。暑い。

 

 出てくる魔獣は火属性ばかり。ここでも俺たちの出番はなかった。水属性魔法の独壇場だからだ。ダンのやつまで魔法で活躍してやがる。


「あー暑すぎる!早くここを通り抜けないと干からびちまう。アゾートたちはいいよな。あの魔獣たちと同じ火属性だから、こんな暑さなんて平気なんだろ」


「いや俺も人間だし、普通に暑いよ・・・」





 第5層はゴツゴツしただだっ広い岩場がずっと先まで続いている。


「このあたりで少し休憩しよう。今2日目の明け方だから、残り半分てとこだな」


「敵の強さによりますが、上手く行けば今日の夕方までには第7、8層まで進めそうですね」


「だが低階層でも強い魔獣が出るという話だから、これからはそう上手くは行かないだろう」


 俺とフリュオリーネの会話を聞いていたオッサンたちは、隅の方でコソコソと話し合った。


「ここまでの魔獣でも数が多すぎて、普通は対処できないんだけどな」


「どいつもこいつも魔法がスゴすぎる」


「俺たちがここにいる意味があるのか」


「だから言ったろ。お前らは名前を貸すだけでいいって」


 少佐の言っていた意味を実感するオッサンたちだった。




「ゴーレムよね、これ」


 第5層には、様々なタイプの岩石型魔獣がうごめいていた。動きは緩慢だが、パワーがあり硬くて防御力が高くとても重い。


 アネットたちのバリアーでは不安が残る。親衛隊の銃も効かない。俺達の爆裂魔法では効率が悪い。意外と攻略が難しいな。俺が悩んでいるとセレーネが話しかけてきた。


「アゾートはゴーレム魔法を使えるのよね。ゴーレム同士を戦わせたら?」


「ゴーレムの数が多すぎて、同数作り出して戦わせるには、魔力が全く足りない。それにゴーレムって魔力を使う割にはそんなに強くないし、正直使い道に困るんだよ」


「へーそうなんだ」


「だったらいよいよ俺たちの出番だな」


 オッサン達だ。


 ゴーレムには地道に物理攻撃をするのが確実だが、ここは数が多すぎて、攻略に時間がかかりそうだ。


 だが、いいことを思いついた。


「ネオン。足の関節だけを狙ってゴーレムを動けなくしよう。土魔法ウォールを使う」


「了解」


 俺たちは超高速知覚を解放し、ゴーレムの攻撃をすり抜けながら、足の関節部分に直接触れて土属性魔法ウォールを唱えた。



  【永遠の安住地】ウォール



 触れた部分の岩石がフッと消えて、同等の岩石が次の瞬間現れる。


 岩石でできたゴーレムの膝関節を材料に岩石を召還したため、結果的に、関節から先がゴーレム本体から切り離される。


 とたんにゴーレムはバランスを崩し、地面に倒れて立ち上がれなくなった。


 俺とネオンが縦横無尽に駆け回り、次々とゴーレムを倒していく中を、パーラのバリアーに守られたパーティーが悠々と先に進んでいく。

 

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