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第363話 エルフの長老②

後編です



「そなたが知らないのは当たり前だ。我々が住んでいたのはもう500年も昔のことだし、今は何の痕跡も残っていないだろうからな」


「いや、まあ、それはそうなんですが・・・で、でももしそれが本当なら、魔王は絶対にエルフには手を出さないし、長老が魔王を憎む理由はないはず」


 俺は元々エルフやドワーフに興味があり、存在するなら是非見てみたいと思っていた。だが、


「いや、魔王メルクリウスはエメラルド王国を滅ぼすとすぐに南下を始めて我々妖精族の土地に侵攻を開始した。そして多くの同胞を失った我々は故郷を捨て、巨大な箱舟を建造して南の海へと逃げ出した」


「そんなバカな! 俺がそんなことをするはず・・・いや待て、シリウス教国の西ということは、この前までシャルタガール侯爵支配エリアだった場所も含まれるのか」


 確かに俺はアージェント王国建国後、自分の領地に隣接するそのエリアと戦争をした。だがあそこにいたのは妖精族ではなくただの人間。


 一体どういうことなんだ?


 だが長老は俺の言葉に敏感に反応し、


「なぜそなたが自分のことのように魔王を語るのだ。やはりそなたはあの時の魔王!」


「いいえ違います。ちょっと言い方を間違えただけで、俺は全くの別人です」


「本当か? ・・・まあよい。つまり魔王メルクリウスがいきなり攻め込んで来て、我々は安住の地を求めて大海をさまよった。途中大きな嵐に見舞われ多くの仲間を失ってしまったが、それでも生き残った我々はようやくこの大陸を発見し、ここを新たなフェアリーランドとして根を下ろすことになったのだ」


「でもアージェント王国の文献には、そこに妖精族が住んでいたという記録が残されていませんが」


「アージェント王国の記録のことなどワシは知らん。だがワシたちエルフやドワーフは大きな湖のほとりで暮らしていたしエメラルド王もそれは認識していた。魔王とその仲間がバカだったから、人族と我々の区別ができていなかったのではないか」


 いくら俺でも、エルフやドワーフの区別ぐらいちゃんとできるわ!


 だが大きな湖のほとりということは今のディオーネ領の辺りにエルフとドワーフが住んでいたことになる。当時あのエリアに攻め入った時、街や村がなぜか無人で不思議に思っていたのだが、今の長老の話でようやく理解できた。


 それでも長老の話にはいくつか辻褄の合わないところがある。


「さっき族長は『魔王がいきなり攻め込んできた』とおっしゃいましたが、実際には『隣国からいきなり攻め込まれたのでしかたなく応戦した』と、当時の記録には書いてあります」


「それはその記録が間違っておる。真実は『魔王が突如攻め込んで来て多くの妖精族を虐殺した』だ」


「いやいやそれは逆ですよ! 『いきなりギャンレル王が侵攻して来て領民たちを虐殺して回ったから慌てて反撃した。これは明確な国際法違反である』と、当時の記録には書いてあります」


「だからその記録が間違っていると言っておるではないか! ギャンレル王はワシに『魔王メルクリウスがいきなり攻めてきて、同胞を虐殺された上に領地まで奪われたから助けてくれ』と泣きついてきたのだ」


「ウソだあ! 長老は絶対にギャンレル王に騙されてますよ。だってあいつはメチャクチャ卑怯者で、俺たちの追撃から逃れるために、自分の領地の町や村の井戸に毒を流して飲めなくしたり、食糧庫を焼き払ったりで、領民の命なんかゴミのように思ってたやつですよ・・・と、当時の記録には書いてあります」


「いや、それをやって回ったのは魔王メルクリウスだとギャンレル王は言っておったが」


「俺がそんなことをするはずないでしょ! いや、俺じゃなくてその古の魔王ですが」


「ふむ・・・確かに言われて見れば、ギャンレル王の言い分にもおかしな所があったかもしれんな」


「そうですよ! それに『魔王メルクリウスはエルフやドワーフに会いたがっていた』と、当時の記録にしっかりと明記されています。間違いありません!」


「だったらなぜシルフィードの国は壊滅させてしまったのだ」


「それこそ絶対にしませんよっ! ・・・ていうか、シルフィードなんかいましたっけ?」


 俺はウンディーネとシルフィードに会いたくてわざわざ鉄の船まで建造しているのに、壊滅させるはずないじゃないか。


 もったいない!


「だがギャンレル王はそのシルフィードの国王だぞ」


「・・・えーっ?! ギャンレル王はどうみてもただの人間」


「だ・か・ら・魔王が我ら妖精族と人族を区別できていなかっただけで、ギャンレル王はれっきとした妖精族だ! これだから魔族は迷惑なんだよ」


「まさか、あんな薄汚い卑怯者のクソジジイが妖精族シルフィードだったとは。だが今から思えば、やたら魔力が強かったし国王から雑兵に至るまで全員魔法を使えていた。妖精族と考えた方が納得できるな」




 俺が妙に納得していると長老が、


「・・・そなたに一つ教えて欲しいのだが、魔王はなぜあちらこちらに戦争を仕掛けていた。何か理由でもあったのか」


「あの一帯はもともと、エメラルド王国に周辺諸国が従う形の帝国になっていたんですが、エメラルド王を倒したことで帝国が崩壊し、戦国時代に入ってしまったんです。それで新興国であるアージェント王国を攻め滅ぼして自分が世界の中心になろうと野心家が増えてきたため、それを返り討ちにしていたら今の広大な領土を持つまでになったのです。その野心家の筆頭がギャンレル王でした」


「なるほどのう・・・。だが今の話で一つ分かったことがある」


「何ですか?」


「そなた、魔王本人だろう」


「しまった! あ、いやいや魔王はもう死にました。そもそもアサート・メルクリウスは魔王でも魔族でもなく、古代ルシウス国が作った人造人間で人族よりも寿命が短いんですよ」


「そうか、魔王は本当に死んでしまったのか。するとそなたは魔王の生まれ変わりと言うわけだな」


「えっ?! どうしてそう思うのですか?」


「どうせ、シリウス教国の大聖女クレア・ハウスホーファに頼んで、リーインカーネイションか何かで転生したのだろう。違うか?」


「こ、この爺さん内部事情に詳しすぎる・・・はい、俺がその魔王メルクリウス本人です。・・・その節は誠に申し訳ございませんでした」


「ふん! 今さら謝られても失った同胞の命は帰って来んわ!」




 結局アサート・メルクリウス本人だとバレてしまった俺と、その俺に怒り心頭の長老。


 それを唖然とした表情で見つめる族長シグマリオンとヒルデ大尉。


 呆れ顔のフリュが、


「あなたって本当に腹芸が苦手なのですね。公爵時代もそうでしたが、魔法の研究はお得意なのに社交では苦労されていましたから」


「俺は義父殿みたいなマネができないんだよ。元々が研究者だからな」


「ですが、わたくしは今のままでもいいと存じます。お父様のようになられても困りますので」


「絶対なれねえよ! だから帝国との外交・・・というかクロム皇帝の相手をフリュと義父殿に任せているんだよ。あの皇帝が何か企んでいても俺には分からないし、ダマされるかも知れないからな。そんなことより、フリュはエルフがあの辺りに住んでいたことを知っていたのか」


「いいえ、全く存じ上げませんでした。シルフィードという言葉すら聞いたことがございませんし、妖精族の存在は古い書物でしかみたことがありません」


「だよな。知っていたら妖精族を攻め滅ぼそうなんて思いもしなかっただろうし」


 なぜ当時気がつかなかったのか二人で不思議がっていると、俺たちの会話を黙って聞いていた長老が突然椅子から立ち上がった。そして、


「まさかそなた、魔王メルクリウスの妻のフリュ・アージェントの生まれ変わりか?」


「・・・はい。アージェント王国では既に公表されていて隠す必要はございませんし、長老のおっしゃる通りでございます」


「と言うことは、そなたはワシの孫娘ということだ」


「・・・えーっ!? わ、わたくしはエルフではごさいませんし、何かの間違いでは」


「いいや間違いない。そなたはワシの反対を押し切ってアージェント侯爵家に嫁に行った娘のエルリオーネの一人娘のフリュだ」


「まさかっ! で、ですがお母様からは自分がエルフだと一言も聞いたことがございませんし、お父様も親族の誰もそのようなことを言っておりませんでした」


「それはみんなが隠していたからだ。そして、そなたが成人を迎えたらエルリオーネからその事実を教えることになっていたが、その前に病気で死んでしまったのでワシから教えるつもりでいた」


「ですが、お母様の耳は普通の形をしておりました」


「幻影魔法じゃよ。アージェント侯爵家がエルフを嫁に迎え入れたことがエメラルド王に知られたら、当時エメラルド王国と敵対していた我らフェアリーランドと通じていることを疑われ、反逆のそしりを受けかねなかったからな」


「じゃあどうして結婚なんかしたのですか」


「それはそなたの父親との大恋愛の末だよ。だがそういう事情もあり、そなたの父上の兄であるアージェント侯爵がエルリオーネがエルフであることを隠すように厳命したのだ」


「ですが従兄妹のラルフはそんなこと一言も・・・」


「あやつは父親である侯爵と折り合いが悪く、次期当主を弟に決められたことに反発して家を出ていってしまった。だからそう言った重要なことは何一つ聞かされていなかったのだろう。そしてそなたの父親も、エルリオーネが死んで腑抜けとなってしまい、後を追うように病気で死んでしまい、それ以外の侯爵家本家筋はアージェント王国建国時に全員粛清された」


「・・・そうだったのですか。ですがわたくしが本当にハーフエルフだったとは」




 アージェント侯爵家の内部事情にやたら詳しすぎるこの爺さんによって、フリュが本物のハーフエルフだった事実が明らかになった。


 今から思えば、前世のフリュはいつまでも年を取らずにずっと若いままだった。当時の俺は「これが本物の美魔女か」と感心していたものだ。


 それがハーフエルフならば納得できるし、俺は知らないうちに「エルフ嫁」を娶っていたことになる。


 まさに驚愕の事実だ・・・。


「そなたはワシの孫娘フリュの生まれ変わりか・・・すまんがもっとそばに寄ってその顔を見せておくれ」


「・・・はい、承知致しましたお祖父様」


「お、お祖父様と呼んでもらえた! も、もう一度」


「はい、初めましてお祖父様。わたくしフリュ・アージェントの生まれ変わりのフリュオリーネ・アウレウス・メルクリウスと申します」


「おうそうかそうか。エルフの里にお帰り、フリュ」


 そうして全員が唖然とする中、長老とフリュは本物の家族のように和気あいあいと昔話を話し始めた。


 どうやら族長のシグマリオンはエルリオーネの弟でフリュから見れば叔父にあたり、ネルソン総大司教やボルグ准将のエルフ嫁はフリュの従姉妹にあたるらしい。そりゃ、エルフの里のエルフたちがフリュを族長の親族だと間違うはずだよ。似ていて当たり前だ。


 そしてアージェント王国に妖精族の記録が残ってなかったのは、エメラルド王国の王都を観月さんと2人で焼き尽くした上に、ラルフとセシルがエメラルド王国の高位貴族を全員粛正したためだったようだ。




 ヒルデ大尉が俺の隣に来てこっそりささやく。


「あなたたちには本当に呆れたわね。まさか中尉があの500年前に突如現れた魔王メルクリウス本人だったとは思わなかったわ。王国では周知の事実らしいのに、どうして私には黙っていたのよ」


「周知の事実と言っても、アージェント王国ではそもそもアサート・メルクリウスの存在が表の歴史から葬られていて、地方貴族や平民はその存在すら知らず、宮廷貴族も物語のヒーローとしてしか知りません」


「あんな有名人が・・・すごく意外ね」


「だからアージェント国王がこの事実を公表した時も大騒ぎしたのは王族や一部高位貴族だけで、国民の大多数は俺なんかよりも大聖女クレア・ハウスホーファの復活の方に反応したんです」


「さっき長老が言っていた人ね。さすが旧教徒の国」


「ところが帝国の人たちにとっては魔王メルクリウスって悪者で有名じゃないですか。ただでさえ「神使徒アゾート様」として新教徒にも知られ始めた俺が「古の魔王メルクリウス」だって言ったら、それこそ大騒ぎになるし、7家融和戦略の観点からもいい影響は与えないと思うんですよね」


「それもそうね・・・じゃあ私からはこのことは公言しないし、みんなにも黙っててあげる」


「気を使ってもらってすみません、ヒルデ大尉」

次回もエルフの里のエピソードです


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[良い点] もはやわたくしエルフではございませんではなくなったんですね。 [気になる点] 今までの話聞いていると、アゾートはメルクリウス公爵時代にセシルやラルフから言われるままに魔法を使い、周りの情勢…
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