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第362話 エルフの長老①

長くなったので、エピソードを2つに分けました


まずは前編です

 なぜか建国してしまったメルクリウス帝国。


 そして鬼人族の王に祭り上げられてしまった俺。


 鬼人族なんか俺の研究と何の関係もないのに、また余計なお荷物を抱え込んだ形だ。


 それに南方未開エリアでこんなことを続けていて、本当に大丈夫なんだろうか。ランドン=アスター帝国の領土ではないとは言え、一応帝国軍の影響下にある土地だ。


 そこで鬼人どもが自分たちの国に勝手にメルクリウス帝国って名前を付けてしまったが、このことで俺の国と帝国の間の外交問題になったらどうするんだよ。


 俺は心配になってヒルデ大尉に相談した。


「確かに微妙な所はあるけれど、鬼人族が勝手につけた国名だし私たち人族がダメだという権利はないの。仕方ないんじゃない?」


「それはそうかも知れないけど、名前が誤解を招くというか、外交問題にならないか心配なんです」


「それは中尉がクロム皇帝とローレシア女帝の二人にちゃんと説明すればいい話でしょ。南方未開エリアに駐留している特殊作戦部隊としては、帝国軍士官として亜人の里の担当をしているという立場さえ崩さなければ中尉はエルフの里を担当している私と同じだし、ルール的には問題ないはずよ」


「でも俺は国王に祭り上げられてるし・・・」


「今まで鬼人族の担当工作員がほとんどいなかったんだけど、それは彼らとの意志疎通が上手くできなかったからなの。スタンピードを防げるのなら、どんな形でも言うことを聞いてくれるだけマシよ」


「なるほど、帝国軍士官の立場を崩さずに国王として彼らと接するか。・・・そっ、そうだよな、別に俺が領有権を主張しているわけじゃないし、俺が担当する鬼人族が勝手に俺の名前を使って国を作ったって言い張ればなんとかなるよな」






 俺とヒルデ大尉との間では「鬼人族の統一国家メルクリウス帝国」はギリギリセーフと整理もついたし、オークとオーガも、統一国家の体制を整えるために、嬉々としてそれぞれの国に帰っていった。


 つまりドン宰相からの相談事が片付いた訳であり、俺たちはとっととエルフの里へと帰還した。


 だが今回の件はエルフの族長にちゃんと説明した方がいいとのヒルデ大尉の指示で、俺と大尉とフリュの3人で族長に説明に向かった。



「族長、ゴブリン王国の件でご報告があります」


 ヒルデ大尉がそう切り出すと、エルフの族長シグマリオンは、


「そう言えば、オーク王・ピグマンとオーガ王・ゴウキがゴブリン王国に乗り込んできたのだったな。それで結局どうなったのだ」


「実は・・・」


 そしてヒルデ大尉が事の経緯を説明する。


「まさかオークとオーガがゴブリン王国の傘下に入って一つの国になるとは・・・全く信じられん」


「ですがピグマンとゴウキはハッキリとそう宣言しました」


「わかった、ヒルデがそう言うなら間違いないな。だが鬼人族が一つに統合するとは厄介だ。場合によっては我ら妖精族と事を構えることも辞さないだろう」


「いいえ族長、その可能性は極めて低いと思います」


「どうしてだ」


「先ほど申し上げました通り、オーク王とオーガ王がゴブリン王国の傘下に入ったのは戦闘の結果であり、彼らはゴブリン王であるアーネスト中尉に絶対の服従を誓っております」


「そこが理解できないのだ。確かにアーネスト中尉はゴボス王を倒したかもしれんが、鬼人族は他種族を王に抱かない。人族のアーネスト中尉が簡単に受け入れるはずがないのだ」


「いいえ、むしろ狂喜乱舞して喜んでいました」


「そんなバカな・・・」


 しばらく黙考した族長だったが、


「・・・いろいろと腑に落ちないこともあるが、アーネスト中尉が鬼人たちの王になることは妖精族としては歓迎だ。これで鬼人族に攻め込まれる心配をしなくても良くなるからな」


 どうやら族長は今回の件をプラスに評価してくれたらしい。


「それでそのゴブリン王国は何という名前になったのだ。上位種族のオークやオーガが加わったのだから、ゴブリン王国のままという訳にはいかんだろう」


「はい。そこは鬼人族たちも同意見で、彼らはアーネスト中尉の本名をその国名に入れました」


「本名・・・アーネストというのは偽名だったのか」


「工作員ならよくあることです。彼の本名はアゾート・メルクリウスと言って、鬼人族の国名もメルクリウス帝国になりました」


 それを聞いた族長は絶句した。


「・・・メルクリウス帝国」





 族長が突然沈黙してしまったことで、ヒルデ大尉が慌てだした。


「どうしたんですか族長。メルクリウス帝国という国名に何か問題があるのでしょうか」


 すると族長が、


「いやすまん・・・メルクリウスという名を久しぶりに聞いて少し驚いただけだ。アーネスト中尉は帝国の豪商ではなく、ひょっとして貴族なのか」


「正確に言えば、彼は帝国貴族ではなく隣国のアージェント王国の伯爵だったのです。今はメルクリウス=シリウス教王国を建国してその国王になりましたが」


「アージェント王国だと!」


「ど、どうしたのですか族長。そんなに声を荒げて」


「いやすまんヒルデ・・・また懐かしい国名を聞いて驚いただけだ。しかし、メルクリウスにアージェント王国か。うーむ・・・」


 俺は族長に尋ねる。


「ひょっとして族長はアージェント王国のことを知っているのですか」


「・・・私はフェアリーランドの生まれで外の世界に出たことがないのだが、子供の頃に長老から昔話として名前を聞いたことがある」


「そうですか」


「長老は既に引退して、エルフの里のことは息子であるこの私に任されているのだが、このことは長老の耳にも入れておいた方がいいかもしれないな。今からみんなで報告に行こう」





 長老の家は、族長の家からちょうど大樹の反対側にあり、長老は縁側で日向ぼっこをしながらのんびりと大樹を見つめていた。


「父上、少しお話があるのですがよろしいですか」


 族長が俺たち3人を連れて長老に歩み寄ると、


「おお、シグマリオンか。それにヒルデと帝国軍士官を2人も連れて、一体何の騒ぎだ」


「実はここにいる帝国軍士官について気になることがあり、父上のご判断を仰ぎたいのですが」


「ワシはもう引退しておるし、里のことは族長であるお前が判断すればよかろう」


「ですがこの話は父上でなければ判断できないと思い、是非お耳に入れたく」


「うむ・・・お前がそこまで言うのなら構わん。話してみよ」


「実は・・・」


 そして族長とヒルデ大尉の2人がオークとオーガの件を長老に説明する。最初は普通に話を聞いていた長老だったが、その国名が出たとたん顔色が変わった。


「め、メルクリウス帝国だとっ!」


 それまでの穏やかな雰囲気が一転、その顔が恐怖に引きつる。そして、


「あの魔王め・・・まだ生きていやがったのか」


「え?」





 長老の魔王という言葉に思わず声を出してしまったが、まさかエルフの里にもシリウス教のプロパガンダに惑わされているエルフがいたとは。


 宗教は本当に恐ろしい・・・。


 長老の反応に一瞬戸惑いを見せた族長だったが、さらに報告を続ける。


「実はこの青年の名はアゾート・メルクリウスといい、アージェント王国の伯爵だったそうです。その彼がゴブリン族のゴボス王、オーク族のピグマン王、オーガ族のゴウキ王を全て倒し、鬼人族を統一してしまったのです」


「アゾート・メルクリウスだとっ! ・・・よく見ればその男、エメラルド王国を滅ぼしたあの二人の魔王の片割れ、アサート・メルクリウスにそっくりではないか。貴様、あの時の魔王かっ!」


 長老が突然叫び出したかと思うと、俺のことを憎しみを込めて睨みつけた。これはプロパガンダに惑わされているのではなく、本当に俺に対して憎しみを燃やしている者の目だ。


 この長老はどうやら前世の俺を知っているみたいだし何か事情がありそうだ。俺はエルフの里の担当ではないが直接長老に聞いてみることにした。


「横から失礼します。俺はアゾート・メルクリウスと言いますが、実はアージェント王国の騎士爵家のフェルーム家の分家の生まれで、男爵位を得る時に国王からメルクリウス姓を賜ったのです」


「ほう・・・というとそなたはあの魔王メルクリウスとは別人と言うことだな。あまりにそっくりだったので魔王本人と勘違いしてしまった。許せ」


 実際は本人だが、生まれ変わって別人になっているので厳密に言えばウソではない。


「長老はひょっとして、魔王メルクリウスを直接ご覧になられたことがあるのですか」


「ある。ワシら妖精族はもともとシリウス教国の西に住んでいて、エメラルド王国が滅びゆく様をこの目で見ていたからな」


「えっ?! シリウス教国の西って俺の領地じゃん。まさかあんなところに妖精族が住んでいたなんて全然知らなかった・・・」

次回、後編


お楽しみに

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは同君連合ってヤツですね。総督を派遣しなければ。 [気になる点] フリュオリーネがトーナメントで何したかったのか明示いただきたいです。ちょっとここ数話なかなかに話が難しいですね。 後、…
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